クソ野郎参上
本日一話目です
もう今日でこの章終わらせます
「……あっ、セフィ――」
俺は廊下を歩いていると、白に少し桃色を混ぜたような髪を後頭部辺りで縛ってある後ろ姿を見て、声をかけようとするが、その人は一瞬ピクッと反応するが、足早に去っていってしまう。
「……」
俺はなんとなく、頭を掻いた。
……セフィア先輩の婚約者騒動から十日。相変わらずセフィア先輩は俺を無視し続けている。
……まあ、そのおかげと言っていいのかは分からないが、上級生(特に男子)から声をかけられるようになった。
セフィア先輩と付き合う生意気な一年から、セフィア先輩に言い寄るがフラれた下級生にランクアップ(?)したんだろう。
……魔力がないことも、気を頑張っているんだろうというモノに変わり、何でこの学校来てるんだよ、的な雰囲気が少なくなった。
少なくなり表に出なくなったが、なくなった訳ではない。いつかそういうヤツらの襲撃を受けそうで怖い今日この頃だ。
……折角気の合う人を見つけたと思ったのにな。
気を頑張っていて剣士で。……はぁ。
まあ落ち込んでいても仕方がない。こういうのは根気良くするのが一番だろう。とりあえず謝っておかないと俺の気が済まない。
「……」
俺はそんなこんなで自分の教室に着く。
ドアが開いていたのでそのまま入ると、何故か教室の空気がどんよりしていた。
「……?」
その原因は、机に突っ伏してため息を零し続けるこの人にあるんだろう。
アイリアだ。
身に纏う空気が当初とは違ってお嬢様からクラスのリーダー的な感じになってきたアイリアだが、今日は朝からテンションが低い。それが教室中に伝染しているようだった。
「……どうしたんだ?」
俺は少し気になって誰にともなく聞いてみる。
「……っ! いいところに来たわ、ルクス! お願いがあるのよ!」
するとアイリアがバッと顔を勢いよく上げ、パァ、と顔を輝かせて言った。……うおぉ、どうした?
「……何だよ」
「いいから私と話を合わせなさい! 話は後よ」
アイリアはホッと安心したような顔をする。……全く話が分からないんだが。
「……?」
俺は怪訝に思いながらも、訳が分からないのでとりあえず自分の席に着く。
「……ルクス、抱っこ」
自分の席に着いて早々、隣の席のフィナが抱っこを要求してきた。
「……よっと」
俺はいつも通りフィナの脇を抱えて自分の方に寄せるようにし、抱える。
「……ん、よし」
フィナは俺の胸に顔を埋めてキュッと抱き着いてくる。……ま、アイリアは今日急に機嫌を直してくれたし、フィナも元通りなのでよかった。何でなのかはよく分からないが。
「……はぁーっ」
しばらくすると、大きくため息をついて思わず慰めたくなるような憂鬱そうな雰囲気を纏ったアリエス教師が教室に入ってきた。
「……今日は、ある方がこの教室に来る。今日一日だけだが粗相のないようにしろよ。……はぁーっ」
アリエス教師がそのままの雰囲気で言った。そして再び大きくため息をつく。……ホントにどうした?
「……じゃあ入って――」
「失礼するよ」
おそらく「いいぞ」と続けようとしたアリエス教師の言葉を遮って、誰かが教室に入ってきた。
「……あ?」
俺は微妙な顔をして思わず声を上げる。
そいつは長身のイケメンで金髪に金色の瞳をしていて、金色の鎧に身を包み、金色の剣を腰に差していて、金色のマントを羽織っている。……鎧の所々に宝石のようなモノが付いているのを見ると、金だけが膨大にかかっているが、防御力や攻撃力、魔法が付与されていることはない装備だろう。
金持ちのボンボンか。……ウザいな、ぶん殴りてえ。
「ああ、アイリア。君を迎えに来たよ」
ボンボンはアイリアの前に行くと右手を差し出した。……気取った仕草すぎてイケメンなハズなのに女子が引いている。恐ろしいな。
「……いえ、あの……」
アイリアは作り笑いを浮かべて相対しているが、その笑顔が引き攣っているのがここからでも分かった。
「どうしたんだ? 今日は君との婚儀について正式なモノとするため、君本人を迎えに来たんだが、まさか恋人がいる訳でもないだろう? 見たところここにいるのは下々の者ばかりで顔もイマイチ、腕もどうせこの僕に敵う訳がない」
そいつはフッ、と憐れむように微笑んで教室を見渡す。……何だとこの野郎。お前みたいな気はこのクラス最弱、魔力は俺が感知出来ない超三流の癖しやがって、何嘗めた口利いてんだ。
「……待て、ルクス。手は出すな」
俺がそいつを睨み付けていると、チェイグが小声で言った。チェイグの方を見ると前を見て俺を見ていないが、机の下で握っている拳が震えているのが見えた。……お前も怒ってんじゃねえかよ。
だったらぶん殴ってやればいいと思うが、チェイグが我慢しているのには何か意味があるんだろう。ここは俺も無心になって我慢してよう。
「……失礼ですが、このクラスはライディール魔導騎士学校の新入生でもトップクラスが集うクラスです。腕が立つ者ばかりですが?」
アイリアは引き攣った作り笑いを浮かべたまま、訂正を求めた。……ああ、怒ってるな。ってかアイリアが敬語を使うって、アイリアは仮にも最高位の貴族だぞ? それ以上つったら同じ位の貴族か王族しかいないんじゃ?
「君が肩を持つまでもない。ここにいる誰よりも僕の方が強い。ああ、君は別だよ、アイリア。聖槍と魔槍に選ばれた君なら僕といい勝負が出来るだろう。なんたって僕は、あの王族親衛隊の隊長に勝ったんだから」
そいつは誇らしげに胸を張って言った。……お前がアイリアといい勝負出来る訳ないだろ。このクラスにはアイリアにも負けず劣らずの強者がいるんだぞ。それにその王族親衛隊隊長はきっと、お前に花を持たせただけだから。
「……そうですか」
……ああ、怖い。アイリアの目元が引き攣っている。お怒りだ。今にも噴火しそうな火山よりも怖いんだが。
「……ですが、その話は遠慮させていただくと父ずてに申したハズです。私には恋人がいますので」
アイリアは作り笑いをしてチラリと俺の方を見る。
「……」
いけ好かないそいつはその視線を追って俺を見る。
……え、俺? もしかしてさっきのお願いってこれのこと?