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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
53/163

瞬殺と変態

もう今やってる話を終わらせます


本日一話目

「……まさか自分から出てくるとは思ってなかったわ」


 マッチョことゲイオグの奇襲を容赦なく破壊したアイリアは、魔力と気の両方で残りを探りながら歩いていた。


「……」


 そこに自ら現れたのは、その無表情な口から繰り出される下ネタがマニアックな人気を呼ぶ“平坦な変態”ことレイスだ。


 レイスは公衆の面前で他の女子の胸を揉んだりとセクハラ行為を繰り返しているが、その体術にはアイリアも感心する部分があったりとなかなかのモノなのだ。魔法も特に悪いということもない。


 無言で対峙する二人の青髪と金髪をそよ風が揺らす。


「……っ!」


 静かに対峙する二人だったが、アイリアから動いた。


 レイスに向かって一気に駆け出す。


「……」


 レイスは突っ込んでくるアイリアから逃げようとはせず、構えもしない。


 ……嘗めてるの!?


 アイリアは嘗められてると思いギリッと歯軋りする。


「はっ!」


 レイスの懐に入ったアイリアは、気合いの声と共に右手の掌打を放つ。狙うはレイスの左脇腹。


「っ!?」


 これまで戦ってきた相手なら、防ぐか受けるかのどっちしかなかった渾身の一撃は、レイスによってあっさりとかわされてしまった。


「……っ!」


 アイリアは掌打と拳を混ぜ合わせながら、まだ懐に入ったままのレイスに連撃を行う。


 だが、そのどれも、レイスには当たらない。


「……戦気!」


 レイスの回避を垣間見たアイリアは、このままでは埒が明かないと戦気を纏って掌打を放つ。


「……戦気」


 アイリアの戦気の発動を見たレイスは僅かに目を見開いて右手のみに戦気の橙色のオーラを纏わせると、アイリアの手に触れないような距離で同じように掌打を放つ。


「なっ……!」


 アイリアは至近距離での戦気が相殺され防がれたのを見て驚愕し、思わず後ろに跳んで下がった。


 ……この娘、出来る!


 体術に目を見張るモノがあったとしてもそう手こずらないと高を括っていたのだが、予想以上にやる。


「……」


 アイリアは内心で甘く見ていた自分を恥じ、ここからは本気でやると決める。


「……闘鬼!」


 アイリアは戦気を解除して青と赤のオーラが鬩ぎ合う二つ融合を発動させる。……正直、この時点でもやはりアイリアはどこかでレイスを嘗めていた。


「……闘衝鬼」


「っ!?」


 レイスが呟くと、青と緑と赤のオーラが交じり合う三つ融合が纏われる。……アイリアは驚いているが、当然である。アイリアが戦気を全身に纏ったのに対し、レイスは必要最低限の右手だけに戦気を纏った。ここで気のコントロールの差が出ているのだ。


「……」


 アイリアは再びレイスに対する評価をし直す。気で言えば完全にレイスの方が上なのだ。


「……でも、油断はない!」


 アイリアは再び自分から突っ込むと、レイスの懐に入り込み、掌打と拳を織り交ぜながらレイスに攻撃を当てようと連続で狙う。


「……」


 闘鬼により上乗せされたアイリアの身体能力だが、闘衝鬼により上乗せされたレイスの身体能力の方が上回るのは当然で、気を使っていない時もレイスに触れることも出来なかったのだ。当然、掠りもすることなくレイスは平然と無表情に淡々とかわしていく。


「……くらいなさい」


 だが、アイリアは突然右手を大振りして、レイスに右側に避けさせる。


「……っ」


「フレイムブラスト!」


 その避けた先を向けられたアイリアの左手に、魔方陣が展開される。そこから朱色の炎がチラついたのを見たレイスは、


「……錬装気」


 両腕を交差して防御体勢を取ると、全身に水色とクリーム色の混ざり合ったオーラを纏う。


 魔方陣から朱色の炎の大砲が放たれ、レイスの身体を覆い尽くす。


「……」


「……危なかったわ」


「……」


 炎が収束されて出てきた人影を見たアイリアはさらに険しい表情になる。


「……今度はこっちの番よ」


 そう言うと、レイスはアイリアに向けて駆け出す。


「……?」


 アイリアは追う側の自分に自ら突っ込んでくるレイスの行動を怪訝に思ったが、攻撃されればそれでも勝ちなので、迎え討つように構える。


「……」


 レイスは自分の射程距離に入ると掌打を放ってくる。アイリアはそれに驚きつつも冷静にかわそうとステップを踏む。


「っ!」


 そこにレイスが避けた方向とは逆に動いていることに気付いた。


 ……フェイント!?


「……後ろは取ったわ」


「くっ!」


 驚きで生まれた隙を利用して一気にアイリアの背後を取るレイス。


 ……やられる!


 背後を取られては相手の好きにされるようなモノだ、アイリアは絶体絶命の危機を感じ反射的に目を閉じる。


「……隙あり」


 むにっ。


「ひゃっ!」


 レイスは背後から手を伸ばし、アイリアの胸を思いっきり鷲掴みにした。


「ちょっ、ちょっと! 何するのよ!」


 アイリアは驚いて暴れるが、暴れれば暴れる程レイスの指が胸に食い込んでいく。


「っ……!」


「……この授業で会った女子全員を襲うのは最初から計画していたのよ。まあ、近付けない娘もいるから全員とまではいかなかったけど、アイリア様の胸は狙っていたのよ」


 レイスは無表情のままアイリアの胸を揉みしだく。


「んっ……!」


 アイリアは声が出るのを抑えたような声を上げる。


「……可愛いわね。この胸はルクスに揉まれてるのかしら」


「揉まれてないわよ!」


 レイスが耳元で囁くと、アイリアは羞恥ではなく怒りで顔を赤くする。


「……じゃあ将来誰に揉ませるの?」


「揉ませないわよ!」


 アイリアは怒りと羞恥の入り混じった顔で暴れるが、レイスは一向に放そうとしない。


「……じゃあアイリア様はパイオツ抜きでルクスとあんなことやこんなことを……」


「しないわよ!」


 アイリアの怒りと羞恥が限界まで高められていく。


「……だからフィナちゃんやセフィア先輩に取られるのね」


「っ! だ、だから、取られるとかはないわよ!」


「……そうね」


 そう言うとあっさりアイリアから離れるレイス。


「……?」


「……鬼のアイリア様に触ったから私も捕まったわ。それじゃあ、精々苦労しなさい」


「……」


 レイスは肩越しに手を振って去っていく。


 そんなレイスを、アイリアはどこか釈然としない気持ちで見送っていた。

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