実技試験開始
「……」
俺は前日寝過ぎたせいか、三時と言ういつもより一時間早い時刻に起きてしまった。
ライディール魔導騎士学校の実技試験は九時から行われるため、飯と移動時間を考えても五時間は鍛練出来る。……まあ、そんなにやったら疲れそうだからやらないが。
今日が本番と言うこともあり、日課である素振りにちょっと加えようかと思う。
俺は昨日女将さんに許可を取っておいた裏庭に向かう。
「……」
まず基本。両手で持って中段に真っ直ぐ構える。そこから振り上げて、真っ直ぐ振り下ろす。
簡単に見えて、結構難しい動作だ。重心がズレると剣もズレる。真っ直ぐ振り下ろすには慣れと基本的身体能力が必要だ。
何気に神経を使うので、疲れていなくても汗が滲んでくる。
「……ふぅ」
俺は百回の素振りを終え、身体が暖まってきたところで一息つく。
「……よしっ」
俺は踏み込みを付けて、振り下ろす以外を行う。
袈裟斬り、逆袈裟斬り、突き、払い、片手など。
それらが段々と流れになっていき、連続して風を切る音がまだ薄暗く肌寒い早朝の静かな庭に響く。
「……っ!」
俺はさらに速度を上げていく。対峙する相手がいたら、嵐と例えてくれるだろう怒濤の連撃。
「……あっ」
俺は思わず声を漏らす。
足を絡ませ、仰向けに芝生に倒れる。
「……ちょっと油断すればすぐこれだ」
なかなか、三十分以上続かない。幼い頃親父がまだ尊敬出来る戦士だった時に鍛練を盗み見たことがあったんだが、周囲のモノを切り刻み、地面を削る速度で三時間持続させていた。
……俺だって気を使えばそれくらい出来るっての。だがまあ、親父は多分気を使ってなかったし、俺はまだ親父に勝てねえってことだよな。
親父は気も凄いが魔力も凄い。さらには基本能力も高い。俺が勝つには基本能力と気で親父を上回らないとダメだ。そのためには、鍛練は欠かさないようにしないとな。
「……よしっ。目標一時間っ」
俺は目標を決め、立ち上がって木の棒を構える。
「……」
極限まで集中を高め、雑念を捨てていく。
「……っ!」
意を決して、動き始める。
▼△▼△▼△
「……ハァハァ」
俺はなんとか一時間ぶっ続けで出来て、力尽きて倒れる。
……結局疲れちまったな。
「……あの、朝食はどうしますか?」
少女が俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。
「……後で頼む。先に汗流したい」
頑張ったせいで汗をかいてしまった。ベタベタだ。
「はい。それでは、これから作り始めておきますね」
少女は笑って言い、タタタ、と小走りで去っていった。
「……ふぅ」
俺は一息ついてから起き上がり、一旦服を取りに行ってから風呂に向かうことにした。
「……ふいー」
俺はさっぱりして、妙な息をついてしまう。朝風呂はいいよな。早朝の素振りの後はさっぱりするに限る。
「どうぞ」
昨日の昼飯とそこまで変わらないメニューだ。材料はちょっと違うけどな。
「……」
俺はあっという間に平らげる。
鍛練で腹減ったのもあって、よく入る。
「ん~。そろそろ行った方がいいな」
試験まであと二時間だ。昨日みたいに混雑したら面倒だ。
「……試験の時間ですか。それでは頑張って下さいね。合格したら是非報告下さい」
少女は笑って言う。
「ああ。……受からなくても来るぞ。不合格なら冒険者として働くつもりだったからな」
「受かって下さいね。応援してますから」
少女は少し眉を寄せる。
「……。分かった。精々頑張ってくるさ」
俺は嘆息し、苦笑して頷いた。それから宿屋、神風裂脚を後にする。
▼△▼△▼△▼△
時間ギリギリだった訳じゃないが、三十分前には受付を済ませ、昨日と同じちっちゃい教師に言われて、鍛練場に来ていた。
鍛練場とは、ライディール魔導騎士学校にあるモノで、生徒が自主的練習をする時や授業で使われる、野外の地面丸出しの場所だ。転けてもくっつかない砂があるらしい。
それは兎も角、実技試験はこの鍛練場で行われるらしい。
王宮騎士団や有名な冒険者がいたり教師も入っていたりして、順番に測定の結果で合ったヤツの弱い方から戦っていく。
勝敗は戦闘不能、もしくは参ったと言ったら。殺した時点で退学、クビになる。プロは手加減の仕方も熟知するべきってことだな。
俺は魔力なしなので、一番弱い新米騎士や新米教師と戦う。
……向こうはそれを知っているので、俺を見下さなければ痛い目にが遭わさないでおいてやるんだが。
「……多いな」
並びながら戦う二人を囲ってフィールドを作るが、結構早く来ても三列目だ。
最底辺が多くて、来た順にどんどんやらせているらしい。
最底辺の担当は、騎士になったばかりの二十くらいの若い男性騎士と、何で俺が最底辺の担当なんだよ、と思っていそうな不満顔の男性教師。
……後者とは当たりたくないな。面倒そうだ。