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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
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食い違い

 ボロボロの状態でも立ち上がる先輩を見て、野次馬の支持は相手側へと持っていかれる。


 ……俺が悪役っぽくなってきたのはどうしたらいいんだろうか。


 傷付きそれでも立ち上がる姿ってのはカッコいいもんなんだよ。


 例えそれが中にレイヴィスを着ていたとバレても。


「……ワールドブレード・フラクション!」


 ここで隙もないのに大技を放ってきた。


 まあ、一発逆転を狙うタイミングならいいんじゃない?


 ワールドブレード・フラクション。


 相手の周囲に二メートル程の各属性で出来た剣を出現させ、蹂躙する魔法だ。


 ……これは努力の成果が滲み出てるよなぁ。


 特殊な属性を除き、全ての属性を使う魔法は魔力消費が半端ない。


 それを使っても尚、大技を使わなければ充分戦える程度の魔力が残っている。


 しかも属性には個性のように得意不得意があり、全ての属性を使うためには絶え間ない努力が必要となる。


「……努力は認めるぜ」


 俺の周囲にいくつもの剣が展開されていく中、ニヤリとして呟く。


「……だが、今回は勝たせてもらう!」


 気の五つ融合を使ったまま、展開し終わった剣の群れの中を駆ける。


「正面から来るとはバカだな、いけ!」


 先輩はニヤリと笑うと、剣を一斉に飛ばしてきた。


 視界全てを色とりどりの剣が覆い尽くしてくる。


「……甘いな」


 そんな中を足を緩めずに駆け、片手で剣を振るう。


 一振りは高速にして、強大な斬撃を放つ。


 難なく全て打ち落とした。


「なっ……!?」


 驚く先輩に突っ込んでいき、そのままの勢いを保持して、峰で先輩の剣を弾き飛ばす。


「……チッ! 闘鬼拳!」


 驚いて動けないと踏んだが、意外にも青と赤が混じり合ったオーラを大きく纏う拳を放ってきた。


 これには少し驚いてしまうが、すぐに反応する。


 剣の気を解除し木の棒を足元の地面に突き立てると、俺も拳を握る。


「……ホントに権力だけが目当てかよ」


 俺は先輩が放つ拳を避けながら聞く。


「……うるせえな。そうだよ、俺の家は下級貴族だ。だからセフィアの家の地位を手に入れるんだよ!」


「……とかいってホントは惚れてたりな」


 先輩は感情が昂っているのか単調になっていく。そこに俺は茶化しを入れた。……軽い冗談だ。


「……っ!」


 ピタッと動きを止める先輩。


 辺りが一瞬静まり返ってから、再びぎこちなく拳を振るい始めた。


 ……えっ? 図星だったの? 顔赤いし、動きもぎこちない。まあセフィア先輩は美人だし強いし家柄もいいし性格もいいしで四拍子揃ってるからなぁ。惚れるのも無理ない。うんうん。


「……マジか」


「う、うるせえ!」


 俺が素で驚いて呟くと、先輩は恥ずかしいのか顔を真っ赤にして乱暴に拳を振るう。


「……てめえには関係ねえだろうが!」


 先輩は次第に口調も乱暴なモノになっていく。……どうしよう。もしかしたら幼少期バカにしたのも幼少期男子特有の好きな女子を苛める的な感じだったのかもしれない。そうだとしたら報われなさすぎる。まああれって百%嫌われるんだけどな。俺は同年代の女子がいなかったので分からないが。


 そう思うと応援したくなってきた。……だが、どうにかして腐った根性を叩き直さなければ。


「……関係ねえと思うなら、俺に決闘なんか申し込んでくるんじゃねえよ」


 俺は先輩の拳を払って僅かに体勢を崩させる。


「……セフィア先輩をモノにしたいなら、俺じゃなくてセフィア先輩に勝負挑めよ」


 体勢を立て直して再び殴りかかってくる先輩の拳を避ける。


「……男なら」


 先輩の拳を避け、払い、もう片方の拳を拳で軽く弾く。


「……自分の惚れた女ぐらい」


 無防備になった先輩を正面に、腰を低く構え左拳に気を集中させる。


「……てめえでモノにしてみろ!」


 先輩の顔面を、思いっきりぶん殴った。


「がっ……!」


 十メートル程飛んでいき、野次馬数人に止められて止まる。


「……やろうとして初めて、結果はついてくるんだよ」


 俺は最後にそう呟いて、颯爽とその場を立ち去る。


 ……やっても結果がついてこないことも多々あるので注意っと。


 そんな締まらないことは内心だけに留めておき、野次馬の間を難なく抜ける。


 ▼△▼△▼△▼△


「ま、待ってくれ」


 俺は心を落ち着けようかと早朝鍛練を行っている寮の裏の林にある草むらに来た。


 そこに、慌てた様子のセフィア先輩が駆け寄ってきた。


「……どうかしたのか?」


 俺は何かあったのかと思い、そう尋ねる。


「いや、特に何があった訳ではないが。強いて言えばルクスが上級生にも一目置かれるようになったことぐらいだな。生徒会の耳に入るだろうから、これからは少し厄介事に巻き込まれやすくなるだろうが、それ以外には特に問題ない。私がここに来たのは一言礼を言いたくてな。ありがとう、これで私の婚約者がいない状況となった」


 セフィア先輩はそう言ってはにかむと、深く頭を下げた。


「……いいって、あんなの。別に大したことじゃない」


 俺はセフィア先輩が頭を上げてから、苦笑して言った。


「……そうか。そう言ってくれると助かる」


 セフィア先輩は仄かに微笑んで言う。……笑うとホント絵になる人だよな。


 俺は不意にそう思った。これは、あの先輩が好きになるのも頷ける。


「……? どうかしたのか? 私の顔に何かついているのか?」


 セフィア先輩は俺がボーッとしていることに気付いたのか、顔を近付けて聞いてくる。……止めて欲しいな、そういう無防備な仕草は。


「……別に何でもない」


 俺は一歩下がって答えた。……見蕩れていたとか言えないしな。


「そうか? 疲れているのではないか? 気の四つ融合でもかなりの疲労を伴う。五つ融合は相当疲れると思うのだが」


 セフィア先輩は心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。……だから近いって。


「……まあ、ちょっと疲れたかもな」


 俺は頷いてまた一歩下がる。


「……あっ」


 だが、強がりは別の形で暴かれた。


 ただ後ろに下がるだけなのに、足を踏み外して後ろに倒れそうになったからだ。


 バランスを崩したら手を着くしか今は出来ない。気の五つ融合は、セフィア先輩がさっき言った通り、かなりの疲労を伴うのだ。


「危ない!」


 セフィア先輩が俺を支えようとするが、結局そのまま倒れ込んでしまった。


「「……」」


 何故セフィア先輩がバランスを崩したのかは兎も角、俺は仰向け、セフィア先輩はうつ伏せで倒れ込んだため、互いに互いの吐息がかかる距離になってしまった。


 二人共黙り込み、気まずい空気が流れる。……俺としてはセフィア先輩にどいてもらわないと動くに動けないんだが。


「……ルクス」


 上気した赤い頬。甘い吐息。近付く形の整った唇――。


 ……って、セフィア先輩は何をしようとしているのか。


 いや、分かる。何をしようとしているのかは分かる。だが何故今?


 ……それに、俺は彼氏役だし。周囲には誰の気配もないのでそこまでする必要もないだろう。


 俺はそう思い、焦る心を必死に抑えつけて、言った。


「……彼氏役にそこまでしなくてもいいんじゃ?」


 俺は掠れた声でそう言った。


「ふえっ!?」


 その瞬間、セフィアのその整った唇から、耳を疑うような可愛らしい声が聞こえた。


「……彼氏……役……?」


 セフィア先輩はバッと身を引くと、呆然としたような口調で繰り返した。


「……っ~~!」


 セフィア先輩は我に返ったように顔を首まで真っ赤にして、素早く飛び起きる。


「……私は彼氏だと思って……っ!」


 セフィア先輩は顔を真っ赤にしたまま物凄い勢いで走り去っていった。


 ……ふむ。どうやら、俺は勘違いをしていたようだ。


 確かに思い返してみると、セフィア先輩は俺に彼氏役を頼む、とは一言も言っていない。


 ……これは、謝らないといけないな。


「……はぁ」


 俺はしくじったと思い、ため息を漏らした。


 しかし、セフィア先輩に話しかけても無視され、早朝鍛練にも来ない。


 結局、一週間もセフィア先輩は口を利いてくれなかった。

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