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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
46/163

決闘開始

 昼の暖かさ空気、そして細やかなに吹く風。


 そよぐ芝。よく晴れた空からは陽光が降ってくる。


 こんないい天気には、木陰でのんびりと昼寝したい気分になる。


 頭の後ろで手を組んで寝そべり、木陰のひんやりした芝と足だけを日向に出している暖かさがあって、そこに風がそよぐと気持ちいいと思う。


 そのまま午後の授業もサボっていたくなってしまうだろう。


「……」


 そんな春の陽気の中、俺はセフィア先輩の婚約者と、実技の授業を行う演習場で対峙していた。


 ……野次馬は学年関係なくいて、クラスメイトの知った顔も見かけた。


 リーフィスやリリアナが来ていたのは正直驚いたけどな。


 アイリアは呆れたようなムッとしたような顔で腕を組んでいる。


 フィナはアイリアの横に並ぶ形でボーッと立っている。……眠いなら来なくてもいいぞ?


「……何の騒ぎだ?」


 遂に、セフィア先輩が到着した。野次馬の囲いを通り抜けて俺と対峙する婚約者との間に来た。セフィア先輩はある意味当事者なので、登場で野次馬がさらにざわついた。


「……セフィア。今ここでお前を取り返してみせる」


 相手は何やら自分ではいい顔をしていると思っているような顔でセフィア先輩を見つめて言った。……取り返すって表現がおかしくないか? 元々セフィア先輩はフリーだろ。


「……元々お前の女ではない」


 セフィア先輩は相手を見ずに答えると、俺に向いた。……あんまりいい態度とは言えないな。相手がめっちゃ俺を睨んでくる。


「……何でこんなことになった?」


「……。向こうが決闘を挑んできたから、受けただけだ。俺のセフィアだとかぬかしやがるからな。それに、どうも俺の実力を疑ってるようでムカつく」


 俺はあえて相手に聞こえる大きさで言う。……怒って動きが単調になるならいいんだけどな。


「……それなら私に勝負を挑めばいい話ではないか?」


「……俺に聞くなよ」


 もっともなことを言うセフィア先輩に呆れて返す。


「……セフィアは下がってくれないか? 今からそいつは俺に倒され惨めに散る」


 セフィア先輩の婚約者は、気迫をみなぎらせ、盾と剣を構える。


「……ルールは?」


「気絶、降参した方が負けだ。俺が勝ったらセフィアは俺と付き合い、お前は二度とセフィアに近付くな」


 さりげなく賭けを入れやがった。まあ丁度いいから受けてやるか。


「……分かった。じゃあ俺が勝ったらセフィア先輩との婚約を解消し、二度と近付くなよ」


 俺も賭けを入れつつ、腰から愛用の木の棒を抜き去る。……すると周囲からくすくす笑いが聞こえた。


「……ふっ。本当に木の棒で戦うとは、噂通りだな。そんな棒切れでどうやってモンスターを倒したんだ?」


 先輩はあからさまに嘲笑して尋ねてくる。そんな先輩の態度がさらに周囲の笑いを誘うと、俺の実力を知る数人は眉を寄せてくれる。……いやぁ、俺と同じ怒りを思ってくれて有り難いことだ。


 俺はちょっと嬉しくなって右肩を回す。


「魔力もない俺がモンスターを倒す方法なんて、気しかねえだろ」


 俺は笑ったまま告げる。まあ間違っちゃいない。元々俺の剣術だけを見ればまだまだ未熟な部分もある。それを気でカバーして戦っているのが今の俺だ。


「ふん。魔力なしの気だけでモンスターを倒すなんて絵空事だろうが。気の四つ融合を使ったってのも見間違いなんじゃねえの?」


 先輩が言葉を発する度に上級生の笑い声が起こる。……うるせえ先輩だな。


「……いいから始めようぜ」


 いい加減我慢が効かなくなりそうなので、さっさと勝負を始めることにする。


「……いいだろう。ハンデとして先手はくれてやる」


 先輩は嫌なニヤニヤ笑いを浮かべて言う。


 ……とか言って魔法で先制してくるんだろ? そんな手に引っ掛かるかよ。


「……分かった。じゃあ誰か、合図してくれ」


 俺は先輩の腹内に気付きつつも頷く。


「……私がやろう。始め!」


 いつになく険しい表情をしたセフィア先輩が名乗りを上げ、すぐさま開始の号令を放った。


「サンドストーム!」


 全く以て予想通り、先輩は開始早々に魔法を放ってきた。


 竜巻のようにその属性のモノを放つストーム系の魔法だ。


 柱のように放つピラー系と同じく地面、今は俺の足元に魔方陣が描かれる。


 ……避けても相手に突っ込む隙を与えるだけか。ここは装気で受けるか。


「……装気」


 俺は決まったと思った魔法が防がれてめっちゃ驚いている顔が見たいので、魔法が発動する直前に装気を発動させ、クリーム色のオーラを纏う。


 程なくして、魔方陣から砂の竜巻が巻き上がり、俺を包み込む。


「勝負に先手を渡すも何もないんだよ! 誰がお前相手に情けをかけるか!」


 完全に勝負が決まったと思っているらしい先輩の嘲笑が聞こえ、周囲からも歓声が上がる。


 ……ああ、そうか。俺は魔力ないから気を感知出来ないヤツには無事かどうかが分からないんだ。セフィア先輩やアイリアは俺がまだ全然ピンピンしてるってバレてるだろうな。


「……なるほど。先輩の癖に卑怯だな」


 俺は悠然と、砂の竜巻の中から歩いて出る。


「なっ……!」


 先輩や俺をバカにしている上級生は驚愕して目を見開く。……おいおい。この程度で驚かれるって、俺どんだけ嘗められてんの?


「……はぁ。気には魔法を防ぐ装気ってのがあってな。知ってる?」


 俺は完全に砂の竜巻から出ると、装気を解く。


「……チッ!」


 先輩は忌々しげに舌打ちすると、剣と盾を持つ手に力を込める。


「……じゃあ、俺がセフィア先輩を倒した理由の一つ、見せてやるよ」


 俺はそう言って木の棒の刃に当たる部分の根本に指を添える。


「龍戦闘鬼剣!」


 叫ぶと同時に指を滑らせて銀、橙、青、赤のラインで出来た刃を出現させる。


「「「なっ……!?」」」


 セフィア先輩以外のヤツは驚いて目を見開く。


 セフィア先輩は腕を組んで胸を張り、満足そうにうんうん、と頷いていた。


「……さあ、俺と相棒を侮辱したことに加え、セフィア先輩がちょっとした小細工で負けたとか嘗めたことぬかしやがった、その借りを返そうか」


 俺はニヤリ、と笑って剣を構える。

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