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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
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ルームメイト

本日二話目

「……疲れた」


 俺は疲労困憊の状態で寮の部屋へと帰ってくると、ボフッと三つあるベッドの内真ん中にある自分のベッドに倒れ込んだ。


 ……危なかった。短期決戦で決めようとしたのに結構強くて手こずった。疲れたことは隠していたが、全然余裕じゃなかった。もう一つ上じゃないと余裕で勝てないな、あれは。


「……ルクス。一緒にお風呂入る?」


 隣のベッドにちょこん、と腰掛けたフィナが聞いてくる。何故かブラウス一枚だ。


「……いや。今日はもう疲れたから、一人で今から風呂入ってもう寝る」


 無邪気で危険なフィナの発言にツッコむ気にもなれず、しかしちゃんと断っておく。


「……フィナ。気軽に男子と一緒に風呂入るなんて言っちゃダメよ」


 すっかりフィナの教育係兼ライバルとなりつつあるアイリアが言い聞かせるように言った。


「……男子じゃない。ルクスと入るの」


 フィナが妙なとこにつっかかっていた。……また言い争いが始まるのか。風呂入ろ。


 俺はむぅ、と睨み合う二人を放って風呂の方に向かう。……えーっと、私服とパンツだけ持っていけばいいんだよな。いつもタオルは脱衣所にあるし、登校している間に洗濯は完了している。


「……」


 その後は、あまりの眠たさからかよく覚えていない。ちゃんと身体と髪を洗ってから湯船に浸かった後、俺はどうなったか。きっと寝ていたんだろう。風呂って気持ちいいしな。


 寝てしまって逆上せたからか眠いからか、俺はボーッとしながらもフラフラと脱衣所で着替え、洗濯を行いつつ欠伸して部屋内まで戻る。


「全く、いつもいつもフィナはっ! ルクスの迷惑も考えなさいよ!」


「……ルクスは迷惑がってない。喜んでる」


 ……迷惑じゃねえけど喜んでもないぞ?


 俺はボーッとする頭でツッコんだ。だが声には出さない。巻き込まれる。こういうパターンで口出しすると「どっちなの?」と言って詰め寄ってくるのだ。下手に関わらない方が身のため。しかも今日の俺は疲労困憊状態だ。二人に付き合ってられる程余裕はない。


「……ルクス」


 ベッドに座った俺に、フィナが後ろからキュッと抱き着いてくる。……そう。今日の俺は疲れていて背中に当たる柔らかな膨らみなんか全然気にもしない。


「……もう寝る。一緒に寝るなら後から入ってきてくれ」


 俺はそれだけをフィナに言うと、フィナを優しく剥がすと、眠気に身を任せ、布団も被らずにベッドに倒れこんだ。


 ……。

 …………。


 俺は柔らかいベッドに身を預けると、すぐに襲いかかってきた睡魔にあっさりと、負けた。


 ▼△▼△▼△▼△


「……」


 一方、ルクスとの対戦後、未だ興奮冷めやらぬセフィア。


「あら、セフィア。大分お疲れのようね。そんなに頑張って鍛練してきたの?」


 ルクスとは違うが森の挟んで隣の寮――D棟にある二年目の住み慣れた部屋へ入ると、三つ並ぶベッドの内一番手前のベッドに腰掛ける美女がセフィアを気遣うように微笑んで言った。


 三人共女子の部屋ということもあって(それが普通なのだが)露出の多いラフな格好をしている。ブラウスのみを上に着ていて、ともすればパンツが見えブラは透けているのだが、そんな扇情的な格好をしているのだが、おそらくこの部屋の三人が同じような格好をしていても一番視線を惹き付けるのは彼女だろう。


 二年三大美女の一人であるセフィアに勝るとも劣らない端整な顔立ちと、セフィアより少し低いくらいの長身を持ち、鮮やかな朱色の髪は腰辺りまで長く瞳の朱色は澄んでいて、長い脚を組んで座る様は優雅だ。


 それもそのハズ、彼女もまた、セフィアと同じ二年三大美女の一人にして、二年女子一位の実力者であり、全校でも彼の生徒会と渡り合う程だという。


 生徒会とはその年のトップなので、上位にくい込んでいることになる。


 スフェイシア・オーガット・ディック・アーチェント。


 愛称はシアという。


 “魔導戦姫”と呼ばれ、二年一位の座を争う彼女は、その美しさと強さだけが人気の要因ではない。


 セフィアは確かに美人であり、巨乳ではあるのだが、フィナと同じ身長に揃えると負けてしまう。


 だが、スフェイシアは違った。


 今のライディール魔導騎士学校の中でトップと言われる程の圧倒的ボリュームを誇っている。それは最早巨乳を超える爆乳さえも超える圧倒的な質量、超乳と呼べるまでのボリュームを持っている。


 圧倒的なボリュームを誇っていて、しかも張りがありその存在を激しく主張せんとばかりにブラからもその上のブラウスからも溢れそうな谷間を作り出している。


 ……誇っていい大きさではあるのだが、何分大きすぎることもあってそのサイズは特注である。サイズにして計ると巨人のサイズでも合うという噂があり、本人としては若干以上にコンプレックスである。


 腕は細くしなやかで、腰はキュッと括れている。胸と同じように尻も圧倒的ボリュームを誇っていて、さらにそれが本人にとってコンプレックスでもある。


 そしてその長い脚。太腿は張りがありムチッとしている。……傍目から見てもそうは思わないのだが、脚が太く見えるのでこれも本人にとってはコンプレックスである。


 男子の中ではこの脚に膝枕されたいと思う者が多く、コンプレックスだらけだと思っている本人とは違ってかなり人気が高い。


 もう一人と、自分より強い男にしか興味はないと言ってのけたセフィアと比べて誰にでも優しいタイプの女子であり、人気は増すばかりであった。


「……」


 二人と同室のもう一人、この中では一番低いが女子にしては充分な身長を持ち、その顔立ちは無表情だが端整である。深い闇を思わせる漆黒の髪は立てば地面に着いてしまいそうな程長く、瞳も同じように黒いが興味なさそうで、セフィアの帰りにも開いている本から視線を上げて一瞥したのみだった。


 こちらはスフェイシアと違ってちゃんと制服を着ている。目を避けて伸ばされた前髪はそのままだが、本に目を落とすことで前に出てきた後ろ髪は耳にかけるようにして払われている。


 雪のように白い――というよりは青白くも見える白い肌に、華奢な四肢。身体の線は細く、胸のボリュームも二人には劣る。だが服を脱げば華奢な細い身体が数値以上に大きく見せてくれるだろう。


 二人とは一年間ずっと同室なのだが、大概本を読んでいてあまり会話に参加してこないことは分かっている。


 アンナ・リオードス・リス・リーオロス。


 “魔天の司書”と呼ばれ、二年三大美女の一人でもある。


 “司書”の呼び名の通り、ルクスは存在すら知らないのだが、ライディール魔導騎士学校の図書館の管理を、生徒で任されている。


 それは彼女がベッドに立てかけて置いている大きな本が理由だ。表紙は何やらこの世界には存在しない文字のようなモノが書かれていて、黒ずんだ色をしているゴツい本である。


 名を、グリモアという。


 グリモアとは世界中でたった一人を持ち主として選び、世界の真実が書かれているとされている魔導書だ。


 歴代のグリモア所持者がライディール魔導騎士学校の司書だったこともあり、前任からグリモアと司書の座を受け継いだ。


「……ああ。久し振りに負けた、とだけ言っておこう」


 セフィアは負けたというのにどこか晴れ晴れしい表情で言った。


「……えっ? あなたが負けたの? ちゃんと刀使った?」


 スフェイシアは本当に驚いているようで、矢継ぎ早に質問して、身を乗り出した。


「ああ。だが魔法で押されたという訳でも、小技でやられたという訳でもなく、真剣に剣を交えて負けたのだ。悔いはないよ。寧ろ、嬉しいくらいだよ。私はまだ強くなれる、ということを身を以って知ったからね」


 セフィアは爽やかな微笑みを浮かべて、真ん中にある自分のベッドに腰掛ける。


「……誰に? 男? 女?」


 ほとんどのことには興味を示さないアンナも、さすがに興味が出たようで、本に栞を挟んでから閉じるとセフィアを見据えて聞いた。


「……男、だ」


 少し恥ずかしそうに頬を赤らめて答えるセフィア。「自分より強い男としか付き合わない」宣言をしたセフィアにとって自分よりも強い男とは、特別な意味を持ってくる。


「「……っ!」」


 二人は驚いて目を見開く。


「……えっ? じゃあ何? その人と付き合ってるの? っていうか三年にも二年にも剣であなたに勝てる男子なんていないじゃん」


「……一年の男子で、剣で戦うのは……」


 目を見開いたスフェイシアが再び矢継ぎ早に聞き、アンナは思案顔で顎に手を当てて考え込むようにする。


「「……ああ、ルクス・ヴァールニア」」


 二人は二人で勝手に納得してしまう。


「っ!」


 あっさりと当てられてしまったセフィアは顔を赤くして俯いた。


「……そういえば、昼にルクス・ヴァールニアと話してたって噂が広がってたわね」


「……ルクス・ヴァールニアなら気ではセフィアより上だと思うから、勝つ可能性も高い」


 二人は思い当たる節があって、呟いた。


「……まあ、そうだな。気の四つを使えるようにしてもらったのだが、気の五つ融合で返り討ちにされてしまった。毎朝早朝の鍛練に付き合ってもらうことにしている。それと、彼氏だ」


 セフィアはいずれ話さなければならない上に、ちゃんと自分とルクスが付き合っている、という噂が立たなければならないので、正直に話した。


「……むっ。まさか刀一本の人生だと思ってたセフィアに先を越されるとは」


 スフェイシアは眉を寄せて言う。


「……セフィアに勝ち、気の限界を無視するルクス・ヴァールニア。興味が沸いてくるわ」


 アンナはフフッと知的好奇心を刺激されて笑う。


「……二人共婚約者ぐらいいるのだろう?」


 セフィアは聞く。今まで自分はいい思い出ではなかったため話さなかったが、二人も高位貴族である。婚約者くらいいそうなものだ。


「……私はいるわよ? 三人くらい。興味ないって言ったのに」


「……全部破綻させたからいないわ」


 二人はうんざりしたように言う。政略結婚とはそういうモノだ。親が勝手に決めた相手と結婚しなければならないので、子としては余計なこととしか思えない。


「……そうか。だがおそらく、こう言われているのだろう? 『卒業までに男を作れ』と」


「「……」」


 セフィアが言うと、二人はあからさまに視線を泳がせた。


 世間一般に、学生でなければ十五歳前後で結婚をする。学生ならばが在学中に相手を決め、卒業後に結婚ということになる。


 ルクスの両親は後者の代表だ。


「……言われてるけど……」


「……どいつもこいつもイマイチ」


 スフェイシアに続いてアンナがため息をついた。


 ほとんどが奇人変人で埋め尽くされている二年、女子のほとんどが生徒会長に嫁ぐことを決め、男子はぱっとしない余り物ばかり。


 三人共自分より弱い人はちょっと……。という思考を持っているので、二、三年で自分より強い男子は生徒会長と二年SSSクラスの一人ぐらいしかいない。


 となると一年だが、一年で頭角を表している男子はルクス・ヴァールニアぐらいしかおらず、知っているのはチェイグぐらいだった。


「……私も、ルクス・ヴァールニアに声をかけようかしら」


 はぁ、と嘆息しながらスフェイシアが言い、


「……私は興味が沸いてきたから声をかけるわ」


 さらりとアンナも言う。


「ええっ!? ま、待ってくれ! ルクスは私の彼氏だと言って……」


「……セフィア。一夫多妻制って、知ってる?」


 驚くセフィアに、スフェイシアは真剣な表情で言った。


「……あ、ああ。一人の男に何人もの女が嫁ぐという……。シア、まさか……!」


 セフィアは頷き、意味深な笑みを浮かべるスフェイシアに詰め寄る。


「……冗談よ。セフィアに彼氏かぁ。きっといい人なのね」


 スフェイシアは意味深な笑みを引っ込めると、微笑んで言った。


「……シア」


「……私は本気だけれど」


 セフィアがスフェイシアと友情を確かめ合っているのに水を差すようにアンナが言った。


「……止めてくれ、アンナ。それにシアも、二人に迫られたらルクスが靡いてしまうかもしれない。二人は私と違って美人だからな」


 セフィアは割りと本気で二人に言う。


「「……えっ?」」


 セフィアの言葉に、二人は驚いたような顔をする。


「?」


 セフィアはセフィアで、自分の発言に疑問など持っていないようで、不思議そうに首を傾げている。


「……えーっと、まあセフィアが疲れてるみたいだし、今日は早めに寝るわね」


「……ええ」


「……セフィア。自分に自信を持っていいからね」


「? ……あ、ああ」


 ぎこちない二人に疑問を抱きつつも、何も言わずに頷くセフィア。


 一年以上もの付き合いになる三人だが、それぞれが、自分が一番二年三大美女に相応しくないと思っている。


 セフィアは刀ばかりの人生だったため、女子としての自信がなく、女としてはあまり見られていないと思っている。しかもスフェイシアは胸も大きく柔らかそうで、アンナは肌が白くほっそりした四肢をしている。二人の方が、余程女子らしいと思っているのだ。


 スフェイシアは自分がコンプレックスだらけの身体をしていると思っている。セフィアはスラリとした体型をしていて、アンナはほっそりとしている。二人の方が、余程可愛いと思っているのだ。


 アンナは自分が図書館にほぼ籠りっきりで、やや青白い肌をしているからあまり健康的ではないと思っている。二人はスタイルもいいし肌の色もいいので自分よりも二人の方が、余程美人らしいと思っているのだ。


 三人が三人共、他二人よりも劣っていると思っているため、そこに微妙なズレが生じている。


 これはこれで、ピッタリな三人組だろう。

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