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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
42/163

大戦の英雄

 セフィア先輩はとりあえず放課後二人で鍛練でもしようかということで和解。


 フィナも不機嫌になってしまったのだが、とりあえず今日一緒に寝るということで和解。


 ……そして当面の問題をクリアしたかと思ったら。


「「「……」」」


 この状況だ。


 どの状況かと言うと、俺が黒板の前に立たされて、クラスメイト全員にジト目で見られているという状況。


 じーっと見つめてくるのに、何も言ってこない。俺が話し出すタイミングを待ってくれているんだろうが、話しづらい雰囲気だ。フィナも珍しく起きてるしな。


「……んんっ。えーっと、先日の襲撃事件で俺が使ったのは、黒気(俺命名)という。諸々の説明を省くと、全ての気の融合だ」


「「「っ!!?」」」


 随分と適当な説明になってしまったが、十分な驚きがあったようで、全員が驚愕の表情をする。


 そしてヒソヒソと近所の席で話し合っていた。


「ああ、つっても全部じゃねえよ? 俺、今ある中で王気と仙気使えないし。……王気が使えればもうちょっといけるんだが」


 残念ながら俺はただの平民なので、無理なんだが。


「……えっと、襲撃の時にモンスターを狩ってたのがそれなんでしょ? でもあんなの、どの気にもない能力じゃない?」


 ざわめく教室で、アイリアが小さく挙手して言った。……取り繕っているようだが、汗が滲んでいる。まあ気の融合は三つまで、が最近までの常識だったからな。


 ……つっても、黒気は憎しみが元だから、憎しみがないと発動出来ないんだけどな。


「……あれはまあ、黒気の能力だからな。それと狂気が混じってるから、抑えないとああやって好き勝手にモンスターを狩り始める」


「……じゃあまだ不完全ってこと?」


「まあな」


 アイリアに聞かれて頷く。……不完全どころか、道を完全に間違えているんだが。


「……」


 何かを考え込むようなアイリア。そして静まり返る教室。


「……他に、ルクスに聞きたいことがあれば今の内に聞いとけ。例えばーー出自とかな」


 アリエス教師が口を開く。それにハッと顔を上げるアイリア。


 アイリアはチラッとアリエス教師を見てから、再び挙手をした。


「……ルクスの両親の名前、教えてくれる?」


 何かを決意した表情。ざわめく教室。


 ……それくらい、別に何の躊躇いもいらない。


「……ガイス・ヴァールニアとエリス・ヴァールニアだが?」


 それを聞いて何になるのか。俺には質問の意図が全く分からなかったが、皆には意味のある質問だったんだろう。


 例え親の名前を聞いたところで、知らなければ何の意味もない質問だ。


「「「っ!?」」」


 ガクッ、またはガタンやバタン。


 兎に角、全員漏れなく椅子からずっこけて落ちた。


「……おまっ、マジでかよ!」


 椅子に手を着いて立ち上がり、座り直すシュウが言ってくる。


「? ……何をそんなに驚いてるのかは知らないけどな、どこにでもありそうな普通の名前だろ」


 大袈裟な反応を見せるクラスメイトに首を傾げて言う。


「いやいやいや! 大体、ヴァールニアの名字だって他にねえってのに!」


 シュウがおかしなことを言い始めた。きっとどこかで頭でも打ったんだろう。……可哀想に。すでにおかしいのにさらにおかしくなったら、もうどうしたらいいか分からねえよ。


「……はぁ。少し先の範囲だが、分かってないヤツがいるようだから、歴史の授業だ」


 アリエス教師が呆れたように嘆息して言った。……呆れているのは他も同じようだ。何故オリガまで。失礼なヤツだな、全く。オリガより頭いいハズだ。


「……先の世界大戦。そこでの英雄についての授業だ」


 何故急にそんな話をするのかはよく分からないが、とりあえず聞いておこう。アリエス教師の同級生が多いらしいしな。強者を聞いておくに越したことはない。


「英雄の名は、世界に知れ渡っている。私でも、諸外国に行っても声をかけられるくらいだからな。ここでは主要な英雄について話そうか。……と言っても、このバカ以外は大体知ってることだがな」


 アリエス教師は俺を黒板の前から追いやりつつ、チラッと俺を見て言った。……いやまあ、英雄ってアリエス教師ぐらいしか知らないけど。


「まず有名なのは、気紛れだがとてつもない力を誇っていた、ドラゴンの突然変異」


 ……ドラゴンつったらモンスター最強だろ? それの突然変異って、最早勝負にならないだろ。一人対軍隊でも。


「……あいつは燃費悪いとか言って働かないグータラ女だが、いざ戦闘になるとそれはもう、滅茶苦茶強かったぞ。並みの英雄とは比較にならない程にな。私でも、同世代だからよく戦ったものだが、勝率が二倍ぐらい違った。……次は勝ってやるが」


 アリエス教師は感慨深げに遠い目をして言ったが、最後にはボソッと忌々しげに呟いた。……このエリート揃いの学校でも圧倒的に強いアリエス教師でも勝てない時があるのか。


 ってか、ドラゴンの突然変異相手に勝ったことのあるアリエス教師も強すぎだろう。


「もう一人、突然変異の英雄。九尾の狐の突然変異」


 ……九尾の狐って言えば、あれは神獣だよな。ドラゴンと違って神格さえ持つ存在。


「……あいつも強かったな。この二人が喧嘩した時には、クラス総出で止めに入ったものだ。それでも怪我人が出るんだが、すぐにあいつが治して……。まあ兎も角、戦争では敵なしと謳われる」


 アリエス教師は懐かしい昔話に花を咲かせそうになり、気を取り直して締めた。


 ……凄いメンバーだろうな、そのクラス。


 英雄が三人も……。半端じゃねえ。


「……で、だ。ここからが本題だが、人間の英雄と言えばこの二人。ーーガイスとエリスだ」


 アリエス教師が言った。……はあ? いやいや、落ち着け俺。同名ではあるがそうと決まった訳じゃない。第一、母さんは兎も角あの酔いどれ親父が英雄な訳がない。


「……ほお。奇遇だな。俺の親と一緒の名前だ」


 ガクッ。


 再びずっこけて椅子から落ちるクラスメイト。……何だよ。


「……はぁ。このバカは本当にバカだな……」


 教卓を支えにずっこけていたアリエス教師が立ち上がる。……教師が生徒に向かってバカバカ連呼していいと思っているのか、全く。


「……当時のSSSクラス、ライディール魔導騎士学校でもあいつらのバカップルぶりは有名だったが、大戦で勝って生き残ったら結婚しようとか確実に死ぬようなことを言って大戦へ臨み、人類最強となった。ガイスが魔法と気の両方を手繰って剣一本で戦い、エリスはヒールのみで腕の一本程度なら瞬時に回復してしまう程の回復の使い手だ」


 ……確かに俺の親もそんな感じだが、腕一本も回復出来たっけ? 大体あの酔いどれ親父が英雄だとか信じられないし。


「今までに紹介した四人を含む私達英雄には、王直々に名前を与えられる。ガイスとエリスは互いに平民の出だったが、その功績は大きく二人は結婚するのもあって高位貴族になるまで名前が貰えたんだが」


 ……なら違うか。俺、ただの成り上がり貴族だし。


「二人はそれを断り、世界で未だなく、法律によって英雄の一族としての名前、それを他人が名乗ることは禁じられている。それが、『ヴァールニア』だ」


 嘘!?


 俺はアリエス教師の言葉に驚きを隠せなかった。だってーー


「俺打ち首かよ!?」


「「「いやいやいやいやいやいやいやいやいや」」」


 俺が言うと、クラス中全員が手を振って言った。


「……はぁ。このバカはホント、はぁ」


 アリエス教師が嘆息するが、まだし足りなかったのか、二回目の嘆息を漏らした。


「……いやだって、母さんは兎も角あの朝っぱらから酒飲んで昼間は畑耕して過ごす親父が英雄とか、そんな訳ねえ」


 俺は真顔で手を振り否定した。


「「「……いや、そんな真顔で否定されても……」」」


 皆は微妙な表情で言った。……って言われてもな。そうとしか思えない。


「……はぁ。じゃあお前の故郷についての話を聞かせてやる。あの場所はモンスターの聖域と呼ばれる程のオルガの森中枢などの危険区域。世界数ヶ所しかないそこの近くに設置されてるのは、腕利きの冒険者が多く住む村だ。それがお前の故郷になる」


 アリエス教師が、おそらく俺の親が隠していることを告げてくる。


 ……確かに、オルガの森内にある村なんて、村の外にはモンスターが闊歩してる訳だし、強いヤツがいないと成り立たない。


 あの村にいる手練れは俺よりも強いヤツばかり。親含め多めに見積もって十人ぐらいはいるだろう。もちろん黒気を使ってない状態での話だが、強いことには変わりない。


 モンスターの襲撃が日常茶飯事ではないあの村には、入ってはいけない、というようなモンスターの本能に訴えかける何かがあるんだろう。


 おそらくは、手を出してはいけない強者への畏怖や恐怖。


「……ふっ。腕利きの冒険者が多くいる、ねえ?」


 俺はその点には物申したい。


 鼻で笑い、確かな殺気をみなぎらせる。


「いない時を作る、または狙われるようじゃ、意味ねえだろうが」


 ギロリ、と殺気を放ち睨み付ける。誰を、ではない。きっと、ここにいるヤツらは関係ないのだから。


「……なるほどな。お前、十年前……」


「……」


 アリエス教師が言いかけた言葉を、目で制す。アリエス教師は口を閉じ、嘆息した。


「……仕方がない。だがお前の両親が英雄だということは分かっただろう?」


「……まあ、俺よりも強いからな」


 俺はアリエス教師の言葉に頷く。親父には剣を教えてもらった礼もあるが、いつかボコボコにしたいという気持ちを未だに募らせ続けている相手だ。


 あんな酔いどれ親父を認めたくはないが、仕方がない。強いのは確かで、俺が黒気を使わない本気でもあっさりボロ負けするくらいには強く、そしてまだ本気じゃないのは分かっている。


「……じゃあとりあえずはいいか。授業を始めるぞ。ルクス一人に時間を費やすのは無駄すぎる」


 ……どういう意味だよ。


 俺が向けたジト目には応じず、アリエス教師はさっさと授業を開始する。渋々俺は自分の席に戻っていった。

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