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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
40/163

食事

遅れました

 次回はもうちょっと早い予定です

 俺は午前の授業が終わり、昼休みを迎えた教室が昼食のため散っていくクラスメイトで賑やかになるのを見ていた。


 昼食の取り方には三つある。


 食堂、持参、料理だ。


 食堂は四つある校舎の外れにあって、千五百人以上、全員分の席がある白く四角い巨大な建物だ。四階建て。


 持参は登校中に別の場所で買ってきたり自分で作ってきたり寮の食堂にいるおばちゃんに頼んで作ってもらうか、がある。


 料理は学校から許可を貰い、ライディールから出てモンスターを狩猟した後、自分で調理して食べると言う面倒なものだ。将来料理人を目指す人がやっている。……その数は十に満たないらしいが。


 俺は常に食堂だ。飯作れないし、作ってもらうのも面倒だ。


 昼休みになったので、いつも通りチェイグ、シュウ、マッチョ(名前覚えてない)とフィナで一緒に食堂へ向かう。


 フィナは俺と手を繋ぎ、寝惚け眼を擦りながら歩いている。


「……そういやさ、二年SSSクラスのセフィア先輩って知ってるか?」


 俺はちょっと気になって聞いてみる。


「ん? 何言ってんだよ。二年三大美女の一人で、“剣聖”と呼ばれる程に剣術が優れた、歴代ライディール魔導騎士学校生の中で唯一レイヴィスを斬ることが出来る最強の剣士だ。レイヴィスを斬った最強の存在として、一年で有名になったぞ。あとはスタイル抜群の美人で魔力が少ないのに剣術は最強で、婚約者がいるのに言い寄ってきた男子に「私は自分より弱い男に興味はない」とばっさり斬って捨てたことからも、女子人気の高い先輩だな。ライディールに先輩より強い男子なんて、生徒会長と他数人、五人ぐらいしかいねえしな。まさに高嶺の花」


 シュウが説明してくれる。……マジでか。美人で強いから有名だとは思ってたが、ここまでの存在だとはな。


「……まあ、変人の多い二年ではまともな人だな」


 チェイグが苦笑しながら言った。……二年って変人ばっかなのか? それにしては親善試合の時、変なヤツはいなかったと思うが。出なかったんだろうか。


「……ルクっちはどうせ知らないだろうから教えてやるか。今のライディール魔導騎士学校の三代が何て呼ばれてるか」


 シュウがやれやれ、と言った風に首を振った。……何かイラッとくるな。


「三年の代は、現生徒会を筆頭とする超天才エリート集団だ。チェイグさんが筆記でいい点取っても入れなかった代でな。つまり、実技と筆記、両方でいい点取れるヤツが多かったって訳だ。だから文武両道の代とか呼ばれてる。ま、実技だけとかもいるんだけどな?」


 ……まあ、体術と魔法の両方でダメなチェイグが受かる訳ねえか。


「……失礼なこと考えてるだろ、ルクス」


「二年の代は、二年三大美女以外のSSSクラスメンバーが奇人変人の集まりだって聞いてる。親善試合ん時は本性隠してやってたらしいぞ」


 チェイグの非難の視線は無視して、シュウの言葉に耳を傾ける。


「……そうだよ。あんな頭おかしいヤツらと付き合える方がおかしいんだよ……!」


 シュウの言葉を聞いて、何やら封じられていたモノが思い出されたのか、チェイグは頭を抱えて唸り始めてしまった。しかもブツブツと何か呟いている。……トラウマなのか。


「……まあ、チェイグさんは去年でもう受かれたんだけど、その時仲良くなったサリスさんやらアリエス教師の計らいで合格取り消しを申し出たらしいぞ」


 サリスとアリエス教師? ってか、アリエス教師は何をやったんだろうか? あの人、生徒で遊ぶきらいがあるからな。


「で、俺達一年の代は、問題児の代って呼ばれてる」


 まだブツブツ言っているチェイグは放っておいて、シュウは話を進める。


「問題児?」


 まあ確かに俺は魔力がないが。


「魔力を持たないルクっち。神槍と魔槍に選ばれたアイリア様。二年浪人したチェイグさん。一年浪人したサリスさん。魔人のフィナっち。オーガの突然変異のオリガっち。体術がダメだけど氷の最強の使い手のリーフィスっち。毒を操る危険なリリアナっち。モンスターと融合出来る魔女のイルファっち」


 ……確かに、問題児だらけだな。


 俺はシュウに言われて改めて、SSSクラスの問題児っぷりを再認識する。……それともう一人、Gクラスのヤツも問題児だろう。


「……で、何でセフィア先輩について聞いてきたん?」


 シュウはどこかからかうように笑って聞いてきた。


「……別に。っ! ……ちょっと森林浴してたら会ったんだよ」


 俺はなんとなくと言おうとしたんだが、フィナの握力とジト目に負けた。


「……森林浴って。じいさんかよ」


「……うるせえよ。仙気と気を取り込む特訓だ。今回の件で、まだ強くならなきゃいけない理由が出来たんでな」


 理由とはもちろん、途中で出てきたあいつだ。まさか今の俺があそこまで戦うのを諦めるヤツがいるとはな。


 あいつが二、三年がいる今攻めてきても、全滅する自信がある。


 俺はカモフラージュでフィナの頭を撫でてやる。


「……なるほどな。で、あの黒いの何なんだ?」


「……午後教えるって言ってるだろ」


 シュウは上手く騙されてくれたようで、ニヤニヤしながら次の話題に入った。


 ホントは朝説明を求められたんだが、眠いから嫌だと言って午後にしてもらった。おかげで午前中はよく眠れた。


 ……とは言うものの、どこまで話したものか。


 黒気が全ての気の融合だってことは別に明かしても問題ないが、あの黒い帯の束が何なのかと聞かれたら、自動的に俺の意志に反応して動くモノだとしか答えられない。コントロールも出来るが、俺が動かすと縛られて拗ねた子供のように力が落ちる。自由にさせた方が強いし。……まあ、勝手に動くから体力の方がすぐに消費されると言う難点はあるが。


「……いつか本気でルクスと戦いたいものだな」


 マッチョが朗らかに笑って言ってくる。……あんたの本領は魔法と体術を組み合わせた戦闘技術、魔闘だろ? 今はまだ見てないが、体術と魔法が優れる男児なら魔闘を目指す。なんとなくカッコいいし。


 魔闘と戦うには装気と硬気の両方を使いつつ、攻撃にも手を回さないといけない。それが面倒だ。しかも防御力も高いし。


「……とりあえず飯食おうぜ」


 俺はいい加減腹が減ってきたので、食堂に着くなりさっさとカウンターまで行って食堂の調理担当のおばちゃんに、


「おばちゃん、いつもの五人前な」


 俺はいつも通りのメニューを注文する。


「はいよ」


 おばちゃんは朗らかに笑って頷き、俺の注文に応じて料理を盛り付けていく。


 程なくして五人前の料理が盆に載って登場する。他から見れば物凄い量だが、これが当たり前だ。


 と言ってももう慣れたもんなので、特に驚きはない。相変わらずだ、と言うような感じだ。


 セフィア先輩が来るかもしれないと、五つ椅子のあるテーブル席に座る。


「……ん」


 俺が椅子に座ると、フィナが両腕を広げるようにして俺へと伸ばしてくる。これは抱っこのポーズだ。


 俺はフィナの脇を抱えて、いつものように膝の上に乗せる。授業中とは違い、テーブルの方を向ける。


「……相変わらずの量だな」


 チェイグ達三人が、各々で自分の食べる分を盆に乗せて来た。


「まあな」


 俺はそろそろ限界かと、さっさと飯を食べ始める。


「……はむ」


 食べるのはほとんど、フィナだが。


 五人前中、俺は一から一人前半。残りは全てフィナが食べることになっている。


 フィナの小さい身体のどこに三人前半も入るのかは分からないが、魔人ってのは燃費が悪いらしい。……そうじゃなくてただフィナが大食いだと思うのは俺の気のせいだろうか? だって実技の授業以外で運動してるとこなんて襲撃ん時くらいだし、いつも寝てばっかりだし。燃費の良し悪しは関係ないんじゃないだろうか。


 それは兎も角、フィナは大食いで早食いなのでパクパクと流れるように食べ進めていく。フィナに食べさせている俺はその間食べれない。


「……やっ」


 不意に、俺がスプーンに載せて口まで運んだモノを、拒むように口を閉じ、ぷいっと右を向く。


「……好き嫌いはダメだぞ」


 俺はそれでもフィナに食べさせようとスプーンを右へ動かす。


「……嫌」


 フィナは頑固として食べようとしない。今度は左を向いた。


「……そうか。じゃあもう一緒に飯食べないからな。自分で食べるんだぞ」


 俺はわざとらしく嘆息して皿の上にスプーンを置き、フィナの脇を抱える。


「……待って。ルクスがそう言うなら食べる」


 フィナはきゅっと俺の制服の袖を握って、潤んだ瞳を向けてくる。……止めてくれ。甘くなりそうだから。


「……じゃあ食べるんだ」


 俺は再度スプーンをフィナの口元へ運んでいく。


「……」


 フィナは余程食べたくないのか、恐る恐る口を小さく開け、ぎゅっと目を瞑る。


 スプーンをフィナの口へと入れ、咥えた所でスプーンを引き抜き、ゆっくりと口をモグモグ動かすフィナに聞く。


「どうだ?」


「……やっぱり、嫌い」


 ごくん、と飲み込んでから、フィナは少し顔をしかめて言った。


 そこまでフィナが嫌うモノとは、人参である。


 根野菜でオレンジ色をした野菜で、甘さがあり茹でたりすると甘さが増していいと思う。


 フィナは基本野菜嫌いなので、ピーマン、玉葱、大根、レタスやキャベツに至るまで、なかなか好き嫌いが激しい。


 俺はフィナの好き嫌いをなくそうとこうして食べさせている訳だが、あまり治っていない。


 俺は家が農作をしてるので作る苦労と言うのが分かり、食べ物を残すのは見過ごせない。せっかく農家の人が丹精込めて作ってるってのに、それを残すとはどういう了見だ! みたいな。


「……ちゃんと食べた」


「……そうだな。いい子いい子」


 俺はよしよし、とフィナの頭を撫でて褒めてやる。フィナは気持ち良さそうに目を細めた。


「じゃ、次はスープの人参だな」


「……っ!?」


 さっきのは煮物の人参だったので、次はスープに入っている人参を食べさせるかと思って言うと、フィナは驚いて俺を見てきた。……さすがに無理か。


「……俺もそろそろ食べるか」


 腹が減ってきたので、俺も昼食にありつくことにする。


 フィナに食べさせた煮物。……上手い。さすがにいい味が出てる。


「……随分と、楽しそうだな、ルクス?」


 ガシッと頭を掴まれる。


 気付いてはいた。気付いてはいたんだが、あまり振り向きたくはない。


「……セフィア先輩……」


 俺はギリギリと頭を締め付けられながらも、ゆっくりと後ろを向いて呟く。


 俺の視線の先には、笑顔の裏に憤怒を隠した“剣聖”がいた。

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