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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
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婚約者と彼氏役

 先輩の婚約者だと言う男子を俺と男女の仲であるように見せて追い払った後、先輩は事情を俺に話してくれた。


 先輩とあいつはおよそ十年以上もの付き合い、所謂幼馴染みと言うヤツらしい。


 先輩はその頃から剣の道に走っていて、貴族の次男と言う坊っちゃんのことなど相手にもしていなかったと言う。


 なよなよしていて弱く、しかし偉そうな中身のない空っぽな人間のことなど相手にするハズもなく。


 生まれながらに魔力が少なかった先輩は、騎士家系であった家を継ぐため、ひたすら剣を極めていた。


 そいつはそんな先輩をバカにし、魔力の少ないことを落ちこぼれと呼んだ。……まあ俺と言う魔力のないヤツが現れるまでは、魔力が少ないのが落ちこぼれだったからな。


 気はあまり重要視されない。それは、気は誰にも一定に備わっているが、魔力は先天性の才能による所が大きいからだ。勿論その後の伸び次第でもあるのだが。


 気に才能はあまりないのは俺が一番よく知っているが、魔力は才能重視だと言うこともよく知っている。


 そんな中、去年になりこのライディール魔導騎士学校に入学した。


 先輩はSSSクラス、あいつはAクラスだ。


 先輩は魔力が少ないなりに剣術で相手を圧倒し、達人として知られるようになった。今では学年で五番以内、全校で二十から三十に入る実力者だ。……本人は謙遜していたが、俺なりの解釈だとこんな感じ。


 だが相手の方は入学当初でAクラス、今年になってようやくSクラス入りを果たせた所だ。


 実力では、釣り合うことがない。


 それを分かっていて、少しでも差を埋めようと頑張ったのがSクラス入りと言う結果に現れているとか。


 その頑張りを生んでいるのは、先輩曰く幼少期に原因があるらしい。


 幼少期、九歳頃だそうだ。先輩は婚約者だと言うそいつに会わせられた。


 その時、


「……何でこんな落ちこぼれと」


 と言うそいつの言葉にイラッときて、


「……私こそ、お前のような軟弱者はお断りだ!」


 と言い返してやったらしい。


 婚約者としての顔合わせはそんな感じで最悪だったが、そいつはそんな先輩の態度が気に入らなかったらしく、勝負を挑んできた。


 勿論ボッコボコのメッタメタにしてやったそうだ。


 そしてそいつを見下し言ってやったそうだ。


「……私は自分より弱い男とは結婚しない!」


 と。


 元々弱くなよなよしたような男が嫌いだった先輩の、偽らざる本心だ。


 そうした結果、滅茶苦茶強くなった先輩との婚約を狙って、頑張っているそうだ。


「まあ顔も好みではないし、性格もあれでは嫌だ。どっちにしろ結婚する気はないがな」


 と先輩は朗らかに笑う。


 ……相手が報われなさすぎだろ。少し可哀想になってきた。腐れ貴族だけど、同情するぜ。


「自己紹介が遅れたな、すまない。私は二年SSSクラス、セフィア・オルクス・ディス・オルフェウスだ。これでも公爵家だからな」


 先輩はクスッと微笑んで言った。……公爵かよ。それで下級貴族と婚約とか、いいのか?


「私には姉がいてな。強く気高く美しく、みたいな人だ。姉には他の有力公爵家の子息との結婚が約束されていて、私の結婚相手は正直どうでもいいのだ」


 姉がいるのか。だから自由に選べる、と言うか適当でもいいと。


「……だが私も一応は乙女だからな。結婚相手ぐらいは自分で選びたい。だから私の彼氏になってくれ」


「……へ?」


 俺は先輩に真剣な表情で言われて、一瞬空気が固まったような気がした。……どういう意味?


「……私があいつとの婚約を破棄するには、私より強い男と結婚して仲の良さを見せつけるしかないのだ」


 先輩は視線を落とし、切実な声音で言った。……ああ、彼氏役ってことか。俺が先輩より強いとも限らないしな。気だけのガチンコなら負ける気はしないが。


「……だから、私の彼氏になってあいつとの婚約を破棄させてくれ。あとは好きにしていい」


 先輩はギュッと俺の服の裾を掴んで言った。


 涙目で潤む澄んだ瞳が上目遣いで俺を見上げてくる。呼吸に合わせて上下する胸が揺れる。


 ……最後のは関係ねえな。


 いつかシュールヤことシュウが言っていた。


 男は女子の上目遣いに弱いーーと。


 さらに何故上目遣いに弱いかを語ってくれたが、ほとんど覚えていない。だがこうも言っていたハズだ。


 特に美人やカッコいい女子の上目遣いは破壊力があるーーと。


 ……先輩はまさにそれに当たる。俺が断れないのも無理はないと言う訳だ。


 いつも流して何言ってんだ、と思っていたシュウの理論に納得してしまった。


 こういうのをギャップ萌えと言うんだろう。


「……まあ、いいけど」


 俺は何でもない風を装いながら了承の返事を出す。


「……そうか、ありがとう。これからは毎日昼食、下校、そして早朝鍛練を一緒にしよう。そうすれば嫌でも目に入るハズだ。ではまた昼食時に、ルクス」


 先輩は嬉しそうに顔を綻ばせてバッと上体を起こして立ち上がり、歩き出す。動きに合わせてたゆんたゆんと胸が揺れていた。


「……ああ。じゃあな、セフィア先輩」


 俺は軽く手を振って去っていく先輩を見送る。


 そんなにあの婚約者との婚約を破棄したいのか、と上機嫌な先輩を見ながら思う。


 俺も今日は色々疲れたし、早めに上がるか。


 そう思って、ゆっくりと腰を上げて立ち上がった。

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