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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
38/163

気の四つ融合

 生い茂る森林の中、開けた草むらで和服美人の先輩と対峙する俺。時刻は早朝。登校前の時間帯だ。


「えっーー?」


 俺の言葉に、先輩は驚いたような顔をする。


 俺はこう言ったのだ。


「俺が気の四つ融合を教えようか?」


 と。


「……有り難い申し出だが、何故初対面の私に?」


 先輩は戸惑うように何度か瞬きをして聞いてきた。……確かに、先輩とは今さっき会ったばっかりだ。


「……いや。魔力は分からねえけど、気と剣が主流っぽいし」


「……確かに生まれつき魔力が少なく、気と剣技でこの学校に入ったのだが」


 俺の魔力感知では、感じ取れない魔力が抑えられたモノなのか、魔力が少ないか微妙なところがある。だがまあ、気より魔力を優先するヤツがほとんどの中、気が超一流なのに魔力が低いってことは、魔力が少ないってことだろう。気を抑えていないことから、魔力を抑えていることはないと思う。


「……だったら、俺の苦労がちょっとでも分かるだろうな、と思って。なら魔法を不自由なく使える他のヤツより、先輩に教えたいと思ったんだよ」


 俺は偽りない本心を打ち明ける。……クラスにいるヤツでは、オリガが一番俺に近いんだが、元々の特性が強い。努力で強くなってきたヤツを応援したくもなると言うモノだ。


「……なるほど。だが遠征の中では苦心したが上手くいかなかったぞ? 私が気の四つ融合に足る使い手ではないのかと思っていたんだが」


 先輩は眉を寄せて首を傾げた。……いや、それはない。先輩の気は四つ融合に足る。


「……ちょっとしたコツがあるんだ。それを教えてやるから、代わりにたまにでいいから俺の相手になってくれないか?」


 俺は笑って条件を出す。……早朝に鍛練するような先輩なら受けてくれるだろう。


「……なるほどな。その条件なら、こちらとしても願ったり叶ったりだ」


 先輩はフッと微笑んで言う。


「……そりゃ有り難い。で、気の中ではどれが一番得意だ?」


 俺は歩いて先輩に近付きながら聞く。実は、これが重要だったりする。


「? あまり聞かない質問だが、答えるのはそう難しくない。剣気だ」


 先輩はきょとん、と可愛らしく首を傾げるが、数秒考えるような素振りを見せると、たゆん、と豊かな胸を揺らし胸を張って答えた。


 ……それはいいな。俺の気と同じイメージでいける。


「……そりゃいい。じゃあ刀抜いて、剣気を発動させてくれ」


 草むらを足蹴にして先輩の後ろに向かっていきながら、言った。


「……分かった」


 先輩は俺の言う通りに、右手で柄を握り、ゆっくりと鞘から刃を走らせる。キイィ……ン、と言う甲高く美しい音が、早朝の静かな森林に響いた。


 先輩が中段に真っ直ぐ構えたそれは、陽光を反射して光沢ある輝きを見せる。


 片刃で、刃が反っているのが特徴。長さはリーフィスの身長ぐらいあるんじゃないだろうか。刃側が鋼色、峰側が黒色をしている。


 刀とは、最も斬ることに特化した刃物だ。


 大剣は潰す、細剣は刺す、刀は斬る。


 刀の中には鉄をもいとも簡単に斬れると言う程切れ味に定評がある。


 そして、居合いに最も適している。


 刀使いの多くは居合いを得意とするくらいには、定評がある。


「……いい剣だな」


 厳密に言えば剣ではなく刀だが、俺がいい剣となまくらを分ける基準は、輝きにある。


 ただ華やかなだけの剣の輝きと、洗練された業物の輝きは違うと思う。……まあ、アイリアの持つ神槍・グングニルは神々しいまでに輝いていて、主張が激しいくらいなんだが。


「剣ではなく刀だが、分かるのか?」


 先輩は俺と同じことを思ったのか否定しつつ、聞いてきた。


「……ああ。いい刀ってのはこう、厚みがあるからな。空っぽななまくらとは違うんだよ」


 俺はその刀を見つめつつ言い、あんまり刀って見たことないんだけどな、と苦笑して付け足した。


 だから刀じゃなく剣って言ったんだが。刀なんて指で数えられる程しか知らない。ライディールの武器屋でも売っているか微妙なところだ。


「……ふふっ。長年愛用している刀を褒められると自分のことのように嬉しいのだな。いつもは居合いが速いとか腕がいいとか、私のことを褒めるから、いい気分だ」


 先輩は本当に嬉しいのか、はにかんだ。……綺麗と表現される美人が可愛いと、可愛さが増す気がするのは、俺の気のせいじゃないだろう。


「……じゃあ、集中してくれ」


 俺はこっそり、先輩に一歩近付く。


「……分かった」


 先輩は頷いて、刀を中段に構えたまま集中していく。顔を真剣なモノへと変え、近寄りがたい雰囲気さえ漂うくらいに気がざわめいた。


「……」


 先輩の集中力を見るための第一段階。俺が後ろから忍び寄ってきても大丈夫か。


 一歩二歩と近付いていくが、この程度で集中力は乱れない。先輩の気は静かだから分かる。


 俺は遂に真後ろに立つが、それでも乱れない。さすがだな。


 ……じゃあ、第二段階、いってみよう。


 俺はスッと腕を伸ばしていく。左足を出して先輩の横に付ける。……僅かに気が乱れた。


「……集中して」


 俺は先輩の肩から顔を出すようにして耳元で囁く。……さらに気が乱れた。


 俺は伸ばした手を先輩の手に添える。


「……な、何をしている?」


 ……あー。集中力切れちゃった。


 俺は先輩の集中力が切れたので一歩下がって離れる。


 後ろにいる俺を振り向く先輩の顔はほんのり赤かった。……これじゃあダメだな。


「……集中力切らしちゃダメだろ」


「……えっ? いや、でも、だって、男子に触れられるのは初めてで、集中なんて出来ないぞ」


 先輩は俺の責めるような視線を受けて戸惑いながらさらに顔を赤くする。


「……じゃあ止めるか」


「えっ……?」


「だって男子に触れられただけで切れるような集中力じゃあ、気の四つ融合なんて出来ないし。まあ時間がかかってもいいなら出来るかもしれないが」


 俺は驚いたような顔をする先輩に言った。……俺は決してふざけている訳ではない。大真面目だ。


「……今は鍛練後で汗をかいている。それに、去年まではここで早朝から鍛練する生徒などいなかったからな。……その、下着を着けていないのだ」


 先輩は顔を赤らめて恥ずかしがる。……何で下着を着けてないんだよ!


「……じゃあ、やらなくていいか。雑念が入るようじゃ無理だし、俺が触れないと出来ないし、自力で頑張って」


 俺は表面上は平静を装ってあっさり去ろうとする。


「……ま、待ってくれ」


 立ち去ろうとする俺の袖を掴んで、先輩が引き留めてきた。


「……分かったから、やろう。私が極限まで集中していれば大丈夫だろうからな」


 先輩は頬を赤く染めて言った。……可愛い。


「……じゃあ、剣気を発動してくれ」


 俺は後ろを向いて刀を中段に構える先輩に言う。


「……っ」


 先輩はグッと刀を握る手に力を込めると、剣気の白いオーラを刃に宿す。……さすがは超一流。気の錬度はかなりのモノだし、刃のように鋭く威圧してくる。


「……集中しろ」


 俺はさっきと同じように後ろから先輩に忍び寄っていく。


「……」


 俺の吐息が耳にかかっているだろうに、集中が乱れない。スッと目を閉じて雑念を完全に消している。


 俺は先輩を後ろから抱き締めるようにして、刀を握る先輩の手に自分の手を重ねる。


「……気と気を混ぜ合わせるイメージ。これで今までやってきたと思う。だが俺は基本気に気を乗せるイメージでやって融合の感触を掴んでから、混ぜ合わせてた。違いはベースがあるかないかだ」


 俺は目を閉じて先輩の気の流れを掴みながら説明していく。


「ベースってのは結構大事なことだ。融合ってのは似たヤツ同士、相性のいい同士で行われる」


 例えば、鬼気と闘気、戦気と衝気。剣気と鬼気、何かと王気。


「だがベースに乗せていくと、その気が主流になる。戦気をベースに剣気を乗せると波動で斬ることが出来たり、剣気をベースに龍気を乗せると炎の斬撃を出したり出来る」


 通常の剣気と龍気融合では、より激しい天災とかの自然現象が関の山だろう。だが乗せることによって応用が出来る。


「……今から俺が先輩の気に接触してやってやる。だからその感覚を覚えろ」


 言って、俺の気を先輩に入れていく。


「っ……!」


 先輩は他人の気が自分に入ってくる感覚は初めて味わうのか、ビクッと身体を跳ねさせた。


 要は活気と同じことだ。相手の気に作用して発動させる。


「く、……ぅん!」


 ……ちょっと一気に入れすぎたのかもしれない。先輩が妙に艶かしい声を出していた。


 そういや、小さい頃怪我した時には母さんに活気で治してもらってたんだっけか。その時ポカポカ温かかった記憶がある。他人の気は熱で感じると言う。


「……集中して」


 俺は息がやや荒くなった先輩を落ち着けるように耳元で囁く。……逆効果だろうか?


「……ああ」


 熱っぽい息を吐きながらも集中力を維持する先輩。


 俺は先輩に入れた気で先輩の気を刺激し、鬼気発動しろやこら、と活を入れる。


 そうして先輩の気を誘導しつつ鬼気を発動させ、先輩の発動した剣気に乗せていく。


 先輩は俺に任せているのか、気も素直に乗せられた。


「……次は三つ目な」


 俺は先輩に囁きつつ、さらに闘気を発動させる。先輩はいい感じに力を抜いて身体を預けてくれる。やりやすくて助かる。


 自分と同じ感覚でやれるので、なかなかやりやすい。


 目を閉じているので見えないが、剣気だけだったのが白、赤、青のオーラが混じり合っていることだろう。


「……いよいよ四つ目だ。ここまでは順調だが、本番はこれから。俺がフォローしてやるから、気を乗せる感覚でやってみろ。自分の気くらい、自分で制御するもんだぞ」


「……ああ」


 俺が囁くと、先輩は頷く。


「……時に、頼っても、任せてもいいか?」


 少しか弱く聞こえる声で言った。……これに応えるのが男ってもんだろう。


「ああ、任せろ」


 俺は力強く答えた。それに先輩は意を決したのか、錬気を練り始める。そこに俺も介入して誘導しやすくしておく。


「っ……!」


 先輩は闘鬼剣に錬気を乗せるのに苦戦し、身体に力が込められる。


「……大丈夫だ」


 俺は優しく聞こえるようにソッと囁き、先輩の手を優しく包む。


 錬気に介入させておいた俺の気と闘鬼剣にある俺の気を引き付け、融合させる。先輩の気を引っ張って誘導していく。


「……助かる!」


 先輩は誘導されたのを感じたのかそう言って、三つ融合に錬気を乗せていく。


 溢れ出した気が不規則に瞬き、無駄な消費を生む。……まだまだ実用には程遠いが、今は四つ融合を成功させる!


 しばらく悪戦苦闘していると、不意に気が安定する。


「……あっ」


 先輩は思わず声を上げる。俺も目を開けて現状を確認する。


「……成功だな」


 俺が無事成功したことに安堵してフッと微笑んで言うと、先輩の身体から力が抜けた。それと同時に気が消えて収まる。


「っと」


 俺は手を離し腰を抱くようにして抱える。


「大丈夫か?」


「……すまない。すっかり疲労してしまってな」


 先輩は弱々しい声で苦笑して言った。気の四つ融合って結構疲れるからな。初めてやってぶっ倒れないならいい線いってると思う。


 俺は疲れている先輩を背中が下になるように体勢を変えさせてから、ソッと草むらに下ろす。


「なっ……!」


「「……あっ」」


 森林の方から声が聞こえたのでビックリしてそっちに目をやると、男子制服を着た男子生徒(当たり前か)が驚愕に目を見開いて、俺が先輩を地面に下ろそうとしている図ーーもとい俺が先輩に迫っているような図を見ていた。


 ……しまった。先輩の気四つ融合に集中しすぎて人の接近に気付かなかった。先輩は疲弊しているので仕方ないが、これは俺の失態だ。


 気の注入によりポカポカとした温かさを持ったのか赤らんだ頬。


 疲労したので荒く乱れた呼吸。


 力が抜けたので少しはだけた和服。


 それによって強調されるたわわな胸。


 倒れる先輩に覆い被さるような体勢の俺。


 ……うん、超絶ピンチ。


「……えっと、その、これはーーっ!?」


 俺が弁明しようともどっていると、先輩は俺の身体を抱き寄せた。……先輩の柔らかくそれでいて弾力があり、アイリアともフィナとも違う感触が伝わってくる。


「……すまないが、彼が去るまでじっとしていてくれ」


 俺を抱き寄せて、耳に顔を寄せて真剣な声で囁く。……さすがに恥ずかしいのか、その顔は真っ赤だ。


「……くそっ!」


 男子は仲睦まじく見えるだろう俺と先輩を見て、忌々しげに舌打ちしながら走り去っていった。


「……ふぅ」


「……先輩。離してくれ」


 さすがに俺の理性とかその他諸々がヤバいので、ホッと一息吐く先輩に言った。


「す、すまない」


 先輩は俺に言われて慌てたように手を離す。俺は名残惜しくはあったが、サッと素早く離れた。


「……さっきのヤツ、知り合いなのか?」


「……ああ。あいつは二年Sクラスのイーガル・リメレン・オーヴァースと言う。ーー私の婚約者だ」


「婚約者!?」


 先輩は何故か眉を寄せて嫌そうな顔をしながら言った。俺は思わず間の抜けた声を上げてしまう。


 ……まあ、貴族の世界では珍しくもない。アイリアだって婚約者がいたらしいしな。さっきのヤツが下級貴族ってことは、先輩もそうなんだろうか。


 下級貴族の大半は爵位を持つ高位貴族の親戚になって権力を手に入れんがために言い寄るが、高位貴族は高位貴族で下級貴族の血はいらないが、王族やさらに上の爵位を持つ貴族と親戚になって権力の巨大化を狙っている。


 だがまあ、上手くいかないことも多いので専ら下級貴族同士、高位貴族同士が多い。


「……えーっと、あんな見せつけるようなことをして良かったのか?」


 俺は戸惑って聞いてみる。……そりゃあ婚約者が別の男と人気のない森林でくんずほぐれつになっていたら怒る。


「ああ。私、あいつ嫌いなんだ」


 きっぱりと言ってくれた。


 ……あっさりしてる!


「……でも、ほら。嫉妬してくれるなんていいヤツじゃねえの?」


 貴族の政略結婚は色々と面倒だ。婚約破棄したのが俺のせいだとか言われたら、かなり巻き込まれることになる。


「……冗談は止めてくれ。あいつのあれは嫉妬などと言う微笑ましいモノではなく、ただ自分との婚約を断り続けているのに何であんな男と……! と言う怒りだろう」


 先輩は割りと本気で嫌そうな顔をした言った。……それを人は嫉妬と呼ぶんだが。


「……まあとりあえず、事情説明、してくれるか?」


 俺は草むらに寝転んだ先輩の横に座って、聞いた。

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