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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第二章
37/163

剣士の先輩

一応新章です


GW中に二話ぐらい、とりあえず明日全て一話更新します


余裕があれば二話、三話と更新したいところですね


これはとりあえず二話更新出来ます

 ……。

 …………。


 俺はぐったりと自分の机に突っ伏していた。


 ……今日もいい天気だ。いい鍛練日和だな。アリエス教師に自然物から気を取り込むコツでも聞いてみようかな。


「……ルクス」


 そのアリエス教師が俺をジト目で睨みながら俺を呼んだ。


 ……現実逃避だよ、悪かったな。


 今、俺の周囲には人で溢れている。


 何故なら、


「……勝手に一人で突っ走って満身創痍って、自業自得よ」


「……ルクス。私、頼りにならない?」


「……ルクス。あの黒いのは何だ。説明しろ」


 説教と質問を繰り返されているからだ。


 アイリアが腕を組んで俺を責めるように言った。


 フィナが上目遣いにどこか悲しそうな顔をして言った。


 アリエス教師がジト目で俺を睨みながら言った。


 ……黒気についての質問と、無断で単独行動したことへの説教だ。


「……疲れてるから後にしてくれ。今日はもう無理」


 俺は言ってフラフラと席を立つ。


「……通してくれ。ーーあっ」


 俺は周囲にいたヤツに言うが、足元が覚束ないせいで転ぶ。


 ごつん。


「……痛い」


 転んだ先にいたフィナと頭突きをし合ってしまった。


「……」


 ……ああ、もう無理だ。寝たい。


 そう思った瞬間、俺の意識は眠りへと落ちていった。


 ▼△▼△▼△▼△


 ……。

 …………。


 俺は浮上してくる意識によって目を覚ます。


 ……ん?


 俺の腕の中に小さな温もりがあった。


 柔らかく少し弾力のある二つのモノが腹辺りに当たっている。


「……」


 俺がある予想を立ててから目を開けると、予想通り、フィナがいた。


 俺の方を向いて丸くなっている。すやすやと穏やかな寝息を立て、俺の私服の裾にぎゅっと掴まっている。


 ……あれ? 俺っていつ着替えたんだ? 確か、ぶっ倒れてフィナと頭突きしてからは寝ていたハズだから、着替えさせられたのかもしれない。


 ……ってか、フィナって魔人だから寝てても力強いんだよな。服を脱いで鍛練に出るか。


 俺が起きたってことは、多分早朝鍛練の時間帯だろう。


 窓から差し込む光は弱いが、明るい。


 俺は無理にフィナの手を外そうとはせず、フィナを起こさないようにシャツを脱いでいく。


 まず右腕を折り畳んで袖口から中に入れ、右手でシャツを押さえつつ顔を入れる。身体ごとシャツから左腕を抜き、シャツを脱いだ。


「……ダメ」


 裾から顔を出すと、目を開いたフィナがムッとした顔でいた。


 ……わざわざ目を開いたと言ったのは、フィナが自分から起きるなど滅多にないことだからだ。


「……今日はずっと一緒」


 フィナは少し微笑んで、上半身裸になった俺に抱き着いてくる。


 フィナは寝ている間下着を着けないらしく、アイリアに言われても断固として着なかった。だから布一枚隔てた向こう側にフィナが全裸でいるような状況だ。さすがにまずい。


「……フィナ。離してくれないと今日は抱っこしてやらないからな」


 俺は鼓動が早くなるのを無視し、意地悪なことを言ってフィナに離れてもらおうとした。


「……むぅ。ルクスの意地悪」


 フィナは不満そうに唇を尖らせて、離れてくれる。……ふぅ。


「……じゃ、ちょっと散歩ーーじゃなくて、森林浴に行ってくるから」


 俺は今日は素振りではないことをやろうと思うので、森林浴と言った。


「……ん。早く帰ってきて」


 フィナはそう言うと、目を閉じた。すぐにすーすーと言う穏やかな寝息が聞こえてくる。


「……」


 俺はフィナに少し苦笑してから、アイリアとフィナを起こさないようにそーっと部屋を出ていく。


 抜き足差し足忍び足ってヤツだ。もう習慣になってきているので、音を立てるようなヘマはしない。


「……ふぅ」


 慎重にゆっくりドアを開け、サッと素早く部屋を出てから音を立てないように慎重にドアを閉める。


 廊下に誰もいないことは気の感知で確認済みなので、足音を立てないようにしながらも素早く寮内を駆け抜けていく。


「……っと」


 寮のドアを抜け、完全に突破したと分かると、気を緩める。……何気に毎日が隠密行動。


「……」


 俺は目を閉じて歩いていく。


 自然物の気を感じ取り、森の木々を避けながらいつも鍛練している場所へ向かうのだ。


 無意識に慎重な足取りになってしまうが、まだまだひよっこだ。仕方がない。


 これが出来ると盲目でも自然に生活出来るようになる。……まあ、人工物には気がないから、注意しなければならないが。


 俺はいつもの何倍か時間をかけて無事にそこへ到着する。


 木々が密集していなくて、開けた草むらになっている。


「……」


 俺は一度もぶつかることなく辿り着けたことに安堵しつつも、草むらに座り込む。


 自然物の気を感じ取った後は、その気の流れを掴む。


 気ってのは循環してるもんだからな。それが読めれば一歩前進だ。


 俺は目を閉じて神経を集中させる。


 ……ん?


 俺はいつもとは違い、森の中に人がいることに気付く。


 そいつは一ヶ所に留まっていて、気は超一流と言える。


 ……おそらく、気の三つ融合は出来る。手練れだ。一応相棒は持ってきているので、手合わせしてみたいところだが。鍛練の邪魔をするのもいけないしな。今日は止めておこう。


 気を練っているんだから、鍛練中だろう。


 ……ああ、相棒と木の棒をかけたんだからな? だって相棒の木の棒とか、棒棒煩いし。


「……」


 俺は向こうが俺に気付いたのかこちらへ近付いてくるのに対し、気の感知がどれくらいのものか確かめるため、地面に戦気を浸透させる。


 木々の間を抜け、草むらに一歩踏み入れた瞬間、戦気が発動するようになっている。


 やがてガサッと言う音が聞こえて、しかし草むらには入ってこない。


「……気を収めてくれないか? 入れないだろう」


 そいつが言った。凛とした声音で、女子のモノだろう。


「……ああ、悪いな。ちょっと試しただけだ」


 俺は後ろにいるそいつを振り向く。


 そこには美人がいた。


「……君は……。そうか、君が例の新入生か」


 白に少し桃色を混ぜたようなほぼ白の長髪を後頭部で縛っていて、しかしそれでも膝裏辺りまで長い。瞳も髪と同じ色をしていて、切れ長だ。顔はかなり整っていて、大人びた雰囲気と刃のような鋭い雰囲気を持ち合わせている。女子にしては長身で、俺よりちょっと低い程度。


 服装は珍しいモノで、和服と言うモノだ。着ていない状態だと羽織のようになるそれで、腰辺りで紐で結んである。左腰には刀と言う刃が反った斬るための刃物が鞘に収まり下がっている。


 和服も刀も、遥か極東の地にある代物で、珍しい。


 長身に見合うスタイルの持ち主でもある。歩を進めるごとにたゆん、とたわわな胸が揺れ、紐で縛られているためはっきりと分かる括れた腰。しなやかで長い指と手足。


 ……俺のこと新入生って言ったな。そういや、昨日の夕方に二、三年が遠征から帰ってきてたんだっけか。実質十日程になるんだろうか。他は移動時間だ。


「……俺のこと知ってるのか?」


「ん? ああ。君は色々噂されているからな。落ちこぼれだったり、剣気の形状が今までにないモノだったり、私達の遠征中にあった襲撃では一人でゲドガルドコング百体と他何体かを倒したと言う報告もある」


 先輩は微笑んで言った。……結構知られてるんだな。意外だ。


 ……それはそうと、汗をかいた美人って何かエロい気がする。


 汗が陽光に照らされ、濡れた輝きを持っている。


 まあそれはいいとして。ゲドガルドコングはつい昨日のことだ。それを知っているのは何故だろうか。一年に知り合いがいても、俺がやったとまでは分からないかもしれない。アリアス教師辺りだろうか。


「……それより、君は先輩に敬語を使わないのか?」


 ふと、聞いてきた。


「ああ。俺は例え相手が王族だろうと、敬語を使わないのがポリシーだからな」


 不遜な態度ってのが身に付いた習慣でもあるのだが。


「ふふっ。そうか、君は面白いな。親善試合では見られなかった君の実力を、剣を交えて確かめたいところだが。生憎、今は修行中だ」


 先輩は愉快そうに笑う。微笑む美人ってのは本当に絵になる。


「……修行中?」


「ああ。どこかの誰かさんが気の四つ融合まで出来ると証明してしまってな。遠征中は上位の連中が必死になって気の四つ融合をしていたよ。私は剣技を磨いていたが、四つ融合に興味はあった。聞くところによると、すでに何人かは到達したらしい」


 俺が聞き返すと、先輩は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。……俺のせいか。


「……なるほど。五つに挑戦したヤツはいるのか?」


「五つ? まさか。四つでも負担が大きいのに、五つなんて。……出来るのか?」


 俺が質問すると、先輩は仄かに笑ってそれを否定し、何でそんなこと聞くのかが分かったのか、聞いてきた。……いないのか。良かった。俺が気で追い付かれる心配はもうちょっと後らしい。


「……知ってると思うが、俺には生まれつき魔力がない」


 俺はそれには答えず言う。


「……だったら、強くなるのに常識なんて捨てるだろ。気の最終形態ってのを見つけるまで、極め続けるのが普通だ」


 だって、言ってしまえば、俺には一般人の半分の力しかないんだから。


 自分の無力さを嘆き、俺は魔力がないと言うハンデがあろうとも強くなると決め、今まで頑張ってきた。


 それには、判明している限界なんて気にしている暇なんてなかった。


 俺は黙って聞いてくれている先輩に応えるように言った。


「……君にも色々あるのだな」


 先輩は苦笑して言った。


 ……不思議と、他人事には感じない。魔力が少なく、気と剣技でここまでのしあがってきた先輩は他のヤツよりも俺の気持ちを分かってくれるようだ。


「……俺が教えようか?」


 俺はそう思った時、そう口に出していた。

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