女子陣の活躍
中途半端な時間ですが
……うるせえな。
俺は内心でホッとしつつ、無愛想にそう答えようとした。
「……むぅ。私が一番だったハズ」
どこかムスッとしたように無表情から僅かに頬を膨らませて、小柄なしかし小柄で華奢な体躯には似合わない程の大きな胸を持った美少女が俺の横に立っていた。
「……フィナ」
俺はその美少女の名前を呟きつつ、起き上がって座る。
「……悪いな、情けない姿を見せちまって」
俺は少し自嘲気味に笑ってフィナの頭を撫でる。
フィナは気持ち良かったのか「……ん」と声を漏らして目を細めた。
「……ホント、情けないわね」
冷ややかな口調で言うのは、フィナに続いて来た美少女。
「……これでも満身創痍だっつうの」
俺はずりずりと座ったまま移動し、壁に寄りかかる。
黒気を使うまでは良かったが、さすがにライディール全域はやりすぎだ。そりゃあ疲れる。
しかもその後で半端じゃない強さのヤツと対峙したんだから、そりゃあ疲れる。
「ーーははっ!」
楽しげな笑い声が聞こえ、門から高速で出ていき、モンスターへと突っ込んでいく影があった。
殴った拳は一発。だが倒した、と言うか粉砕したのは五体。
相変わらずの“怪力兵姫”っぷりだった。
しかももう充分に身体が温まっているだろうから、絶好調。
「到着、っと」
とんがり帽子とローブ。そして箒に乗っていることから、“魔女”だと分かる。
肩には黒いリスのようなヤツーーリオがいる。
「ふふっ。賑やかね」
妖しげな笑みを携える美人。
一年SSSクラスの、最強女子軍団だった。
サリスがいないのは、まあ仕方がないだろう。サリスは技巧派と呼ばれていて、鱗と鱗の間を狙うと言う芸当を見せるが、一撃必殺はあまり得意とすることではない。
敵の数を見て、このメンバーなんだろう。
「行くわよ!」
アイリアがグリフォンで空を旋回しつつ言う。先陣はオリガが切っていったが、本格的な戦いはこれからだ。
アイリアはまず空中にいるモンスターを標的にしたようで、グリフォンに乗り滑空しながら魔槍と神槍を振るい、モンスターを薙ぎ払っていく。
オリガは突っ込んでいったのに続いてモンスターを片っ端から殴り蹴飛ばしていた。
かすっただけでも抉られ、直撃すれば吹き飛ばされ、肉塊と化す。
楽しそうにニヤリと笑いながらモンスター共を薙ぎ倒すその姿、まさに鬼。
「……術式、展開」
フィナが右手を前に伸ばし、呟いた。
術式とは、今は希少種となってしまった魔人特有の力。俺も初めて見る。
フィナの周囲に幾重もの紋章が描かれていく。
魔方陣とは違う。魔方陣ってのは円形で、抽象的な文字のようなモノが書かれている。五芒星や六芒星が描かれていることが多い。
だが術式は文字のようなモノはなく、紋章だった。しかも、それぞれが違う。
術式の発動に伴い、フィナの魔力が露になる。アイリアやイルファより上。一年ではトップだろう。
突き刺さるような威圧感がある。
「……爆発術式、連鎖」
爆発術式と言う同じ紋章が、フィナの手の前からモンスターの群れへと連なっていく。
それの一番手前の紋章をフィナが指で弾くと、爆発が起こる。それに誘発された次の紋章が、最初の爆発を吸収しさらに大きくなって爆発を巻き起こす。
それが連続して起こり、最初は一体を吹き飛ばすのが精々だった爆発術式が、最後にはすうじゅったいを巻き込む大爆発に変わっていた。
……さすが。運動音痴を除けば強いんだ。逆を言えば、動かなければいい。
「……うぅ」
イルファはと言うと、青い顔をしていた。
どこか怯えているように見える。
「……うん。分かった。お願いね、リオ!」
肩に乗るリオに何か言われたのか、頷いて、何かをお願いしていた。
リオが光の粒子と化して、散っていく。
光の粒子は三ヶ所に移動していく。
対になるように側頭部に、もう一つは腰の後ろ辺りに。
そして形を作り、耳と尻尾を出現させた。獣人のような姿だ。
耳と尻尾の色はリオと同じ黒。
「……」
ニヤリ、と、怯えていたハズのイルファが笑った。
「あはっ! やっぱいいよね、これ!」
イルファは無邪気な笑みを見せる。……何だ?
「あははっ! 殺戮しちゃう? 爆発しちゃう? 殲滅しちゃう? ーーいいね、それでいこう!」
イルファは笑って、宙に浮く箒の上に腰かけるように座ったまま言った。
するとモンスターの群れの中で、一部のモンスターに魔方陣が刻まれる。
パチン、と指を鳴らすと、魔方陣が刻まれたモンスターが潰され、切り裂かれ、爆発していった。
「……」
おそらく、リオに身体を渡し、戦ってもらってるんだろう。
モンスターに刻まれていた魔方陣は三種類。それが殺戮と殲滅と爆発なんだろう。
一個につき数十体は殺った。かなりの腕前だ。
「……邪魔よ」
リーフィスが、右腕を横に一振りする。
それだけで周囲の地面は一面氷が張り、モンスターは氷付けにされる。
「ウゴッホ!」
炎を纏う赤色の毛並みのゴリラっぽい大型モンスターが、氷を踏み越えてリーフィスへと襲いかかる。仲間意識なんてないため、凍ったヤツを溶かそうとか思わないんだろう。
「……邪魔って言ったのが、聞こえなかったの?」
リーフィスが苛立たしげに目を細めて言うと、飛びかかってきた炎のゴリラは氷の塊に閉じ込められた。
「……炎ぐらい、凍らせられないとでも?」
冷ややかな笑顔を浮かべたリーフィスが言って、氷のハンマーを作り出し、砕いて完全に倒した。
完全な属性強弱無視は、圧倒的な力の差がないと出来ない。炎の弱点である水が蒸発させられたり、炎までもが凍らされたり。
まあ、それくらいの差があったってことなんだが。
「……ふふふ」
妖しげな笑みを浮かべながら、リリアナは悠然とモンスターの群れへ歩いている。
だが、襲いかかるモンスターはいない。
リリアナが群れに入っても、周囲のモンスターは退き、近付かない。警戒するように唸ってはいるが、近付かない。
それはリリアナの種族にあった。
毒蜘蛛のアラクネ。
吐く息は毒霧で、触れれば皮膚が焼けただれる。
麻痺や幻覚など、様々な効果をもたらす毒使い。
普段は日常生活に支障が出るため無害にまで抑えているが、本来は触れることは愚か、近付くことさえ憚られる毒蜘蛛。
リリアナが一歩進めばモンスターも一歩下がる。
リリアナが大きく息を吐くとモンスターも大きく下がる。
「……埒が明かないわね」
リリアナは呟くと、背中から四本の蜘蛛の腕を生やす。……さすがにレイヴィスは破れなかったのか、レイヴィスの横から出ている。
「……動きにくいけど、まあいいわ」
困ったような顔をして言ってから、プッと毒の塊を吐き出した。
「グギャア、ガッ!」
毒の塊を顔面で受けてしまったモンスターが、顔を焼かれ、体内に侵入してしまったのか、すぐに息絶えた。
毒から放たれる毒の煙によって周囲のモンスターまでが毒に侵されていく。
「……ふふっ」
リリアナは妖しげに微笑んだまま、蜘蛛の速度を利用して近付く。
モンスターは逃げようとするが、リリアナの速度は速い。あっと言う間に距離を詰められ、蜘蛛の腕で貫かれる。
しかも、リリアナの吐く毒の霧によって四肢が麻痺し動きが鈍っていく。
こうして、千前後いたモンスター共は殲滅された。