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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
34/163

禁忌

乗ったので二話更新します

 どんよりした空の下、俺は跳ぶように駆けていた。


 見張りはほとんどが殺られたが、ライディール内を走る俺は現状をほぼ全て把握していた。


 見張りを殺ったのは、岩石。壁が欠けている所を見ると、余程強い力で投げ付けられたんだろう。見張りが回避を遅らす程度には速かったハズだ。


 ライディール魔導騎士学校のある北西では、ライディールの生徒一年生が壁の外で戦い街の被害を減らそうとしている。


 一方で街の人々は真ん中よりもライディール魔導騎士学校よりに避難させている。


 北西が突破される訳にはいかなかった。


 北東からもモンスターが来ているが、そこには壁の縁に立つ一人のみである。


 アリエス教師だ。


 生徒教師が束になって戦う北西と同等の数を、一人で相手にすると言うことらしい。さすがは英雄だ。


 南東はすでに突破されている。


 数は百だが、見張りが殺られてからすぐに壁を越えて侵入してきている。


 だがその進行速度は遅い。


 それはヤツらが、人の絶望する様を見て楽しむためだ。


「……ゲスが!」


 俺は相変わらずのゲスさに歯軋りするが、今は一刻も早く南東のヤツらを殺さなければならない。


「剣気! 闘鬼! 錬気!」


 俺は木の棒を刃があるかのように指を滑らせて刃を出すと、気を使ってさらに速度を上げる。


 今、老人が一人犠牲になった。


 孫の前で手足をもぐと言う残酷さ。


 手足がもがれたことによって散る鮮血が、孫の顔に付着した。それがさらに十歳前後の少年を恐怖と絶望に歪んだ顔をさせる。


 その顔を見てそいつらは、笑みを深める。


 ……相変わらず、残酷なことをする。


 俺は次の標的にされた少年を助けたい気持ちがあったが、無理だろう。


 すでに恐怖で腰が抜けたらしい少年は逃げられず、両腕を掴まれて持ち上げられた。ここから俺が全力疾走したとして、少年は盾にされるか俺の目の前で殺されることになる。仮に戦気などで遠距離攻撃したとしても、少年を盾にするかもし当たっても、俺が到着する前に他のヤツに殺される。


 それに、俺には気になる一角があった。


 同じくそいつらに襲われている、二人。


「お母さん……!」


 俺が入学前に泊まっていた宿屋の娘だった。


 娘が涙を流しながら倒れる女性に声をかけていた。


 宿屋の女将、娘の母親である。


 仰向けに地面に倒れ、背中の服が裂けている。傷口が見えないが、おそらく爪で切り裂かれたんだろう。


 傷口からは血が止めどなく溢れていて、地面に広がっている。……出血が多い。まだ気は微量だが感じるので、生きてはいる。もうすぐ絶える命だ。


 だが、俺でも助けられる。


 助けられる人と、助けられない人。関係のある人と、無関係な人。どっちを助けるかなんて、決まっている。


「……闘鬼龍剣!」


 俺は女将が娘の目の前で死んでから襲おうとしているのか、ニヤニヤと笑って二人を囲んでいるそいつらに向け、巨大な斬撃を放った。


 俺の殺気を受けてか、後ろに大きく跳んで避けられる。……遠ざけるのが目的だから、問題ない。


「……ルクス、さん?」


 娘が呆然と、二人をそいつらから守るように着地した俺を見上げてくる。


 そいつらーーゲドガルドコングは俺を睨むが、手は出してこなかった。


 ……さっきの孫と老人然り、今の女将と娘然り。ゲドガルドコングは知っているのだ。人間が、愛する者を目の前で殺すことが一番絶望的に感じることだと。


「……活気」


 俺はとりあえずゲドガルドコングを殺気で牽制しつつ、屈んで女将の傷口に手を翳し、活気を発動する。


 活気は細胞を活性化させることで治癒をもたらすが、重傷だと助けられない場合が多い。それは、他人に活気を使う場合、相手の気に作用するからだ。


 他人の気より、自分の気の方が治りが早いと言うこともあって、活気と言うのは相手の気に作用し効果を高め、治癒していく。……しかも、例え傷を治したとしても、今のように多量出血で死に至る場合も少なくはない。


「……お母さん、助かりますよね」


 娘は震える声でそう言った。


 ……仕方ない。あれを使うか。


 俺は気の境地を使うことにした。


 この前教師の代役として気の説明をした時に言った、周囲の自然物から気を集め、自分のモノとすること。


 あれも気の境地の一種だと考える。


 まあそれも、使い方によっては違う意味をもたらす。


 例えば、心優しい者なら微量の気を広範囲に渡って収集し、自分のモノとするだろう。その微量と言うのは、俺達と同じように気を戦闘で使っても寿命が短くなったりしない範囲だ。


 前にも言ったが、気とは生命エネルギーだ。


 連日戦い通しなら寿命を縮める結果になる。


 そうならない量をかき集めるのがそれだ。


 だが、逆に言えば、殺してもいいならその何倍もの気が得られると言うこと。


 気は回復していくモノなので一概には言えないが、人一人が五十年生きるとして、一日に使える量を五十年でかけた分が、殺して奪える気だとしたら、膨大ない量になる。もちろんそれがそのまま奪える気になる訳ではないが、前者と比べると大きいのは分かると思う。


 殺した自然物または生物の気を奪っていく。これも気の境地と言える。……こんなことをしたら犯罪者に指定されること間違いなしだが。


 俺も自然物から気を取り入れる業は今現在修行中だが、この二つ以外の境地が使える。


 それは俺が、魔力を生まれ持っていなかった故の、俺に復讐と言う原動力をくれたゲドガルドコングのおかげと、皮肉にもそう言える。


「……大丈夫だ。助ける……!」


 俺は自分に言い聞かせるように言って、それを発動した。淡い黄緑色の光が弾け、まるでホタルの光のように女将の周囲を飛び散る。


 何度も言うが、気とは生命エネルギーだ。


 ……寿命十年分あれば余裕だな。


 俺の使う境地とは、俺が生きただろう先の寿命分の生命エネルギーを使い、死の淵に足をかけるどころか、死の沼に沈んでいく女将を救うこと。


 だが、寿命を使うなど禁忌に等しい。だって逆を言うなら、寿命を奪えるかもしれないんだから。


 俺の身体から淡い黄緑色の光の粒が出て、女将の傷口に向かって全てが入り込んでいく。


「……お母さん!」


 女将が呼吸を取り戻したのを確認したのか、娘は安堵の涙を流して母親に抱き着いた。……ちっ。これは体力を使うな。寿命分を取り戻すには自重するか、自然物から気を取り入れるかしかないんだが。


「……もう大丈夫だ。それよりお母さんを抱えて早く逃げろ」


「はい! ありがとうございます!」


 娘は顔を輝かせて言い、女将を背負い引き摺って避難していった。


 ゲドガルドコングは、イラついているようだった。そりゃそうだ。娯楽を邪魔されたんだからな。


「……見せてやるよ」


 俺は二人が去ったことを確認してから、立ち上がって気の刃を付けた木の棒をゲドガルドコング共に突きつける。


「……俺が初めててめえらの同胞を殺した、これをな!」


 俺はニヤリと笑い、体内から気を溢れさせる。同時に今まで抑えていた積年の怨みも殺気に乗せて放つ。


 ニヤリと笑ったのは、憎しみに支配されてしまいそうだったから。


「黒気!」


 両手で柄を握り、それを発動した。

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