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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
32/163

代役教師

最近遅れ気味ですいません

 親睦会と言う名の狩りやモンスターの襲撃、教室がカオスになると言う事態を経て、数日が立っていた。


 俺はモンスターの襲撃から、出来る限り気の感知網を張ってモンスターの襲撃に備えていた。自主的にやろうとしていたことで、さらにはアリエス教師からも言われたことだ。


 「日中はお前が警戒しろ」、とかなんとか。夜はアリエス教師の方でなんとかするらしい。


 アリエス教師はあの可憐な見かけに対し、先の大戦では数多の実績を残す英雄の一人らしく、色んな部所に顔が利くらしい。


 ライディールを囲む城壁の上、見張り台に交代制で周囲を警戒する見張りには、「昼夜問わず神経を切らすな。私の生徒が足止めしたからいいものの、ともすればライディールまで攻め込まれていたかもしれないんだぞ。ちゃんと仕事しろ」と言って警戒を促した。反論出来ない見張り達は、項垂れてそれを実行している。


 誠に残念ながら、二、三年生の遠征がある。


 襲撃のこともあるし遠征は中止、もしくは延期するべきだ、と言う意見も出たし、もちろんアリエス教師もそっち側だったんだが、


「あの数を一年生の生徒数人で撃退出来たんですよ? 一年生全員いれば尚更。それに、彼の英雄アリエス先生までいらっしゃいますから、問題ないでしょう。遠征期間中は冒険者の滞在数を増やし、王宮騎士団も少し呼びましょう。残る教師陣は戦闘準備を怠らないようにする。それでライディールが落とされることはないでしょう」


 と言ったヤツがいた。ライディール魔導騎士学校校長、アルセス・レイアルデ・ヴィ・ヴォート。眼鏡に痩躯でいつも穏やかな笑みを浮かべた好青年だそうだ。俺は実際に会ったことがない。


 ライディールの、実質二番目の権力者。一番は理事長だ。


 で、このアルセスの発言をきっかけに遠征を行っても問題ないと言う者が多数派になり、多数決で遠征が決行されることとなった。


 理事長はライディールを確実に守るために反対し

たし、アリエス教師を含む何人かの良心的な教師は断固反対したようだが、ライディールを誇りに思い、強いので問題ないと思う者が多くなって結局は押し負けた。


 こうなってしまったら割り切って警戒しよう、と良心的な教師と理事長は思い、戦力を強化している最中だ。


 実技試験の際トリを務めた騎士団長と冒険者筆頭は療養中だが、副騎士団長と冒険者筆頭その二は遠征についていくことになった。これもアルセスが、


「モンスターが不審な動きを見せているそうですし、お二方には遠征についてきてもらいましょう。生徒に万が一何かあるようではいけませんし」


 と言う発言によっての決定事項だ。


 ……アリエス教師から聞いたので偏りがあるのは否めないが、どうも怪しい。と言うか、怪しすぎる。


 遠征に戦力を強化させ、ライディールの戦力を低下させる。そこにモンスターを襲撃させ、ライディールを落とす、と言う後ろと繋がっているような気をさせる意見だ。


 ……考えすぎか? まあ、アルセスに関してはアリエス教師が警戒しまくっているらしいので、頭の隅に置いておく程度でいいだろう。


 そんな訳で、戦力を大幅に低下させつつ二、三年生の遠征が決行された。昨日のことだ。


 二学年合同で千人。担任教師二十人。その他引率の教師十五人。宿屋から募った食事係二百人。護衛の王宮騎士団五百人。護衛の冒険者有志百人。


 計千八百三十五人での遠征となる。食事係が意外と少ないのは、生徒が自主的にやるとこもあるからだ。主に教師や護衛達の分担当になる。


 俺達の実技試験をやった騎士団長と冒険者筆頭は療養中だと言ったが、何故療養中かと言うと、実技試験最後の一人、Gクラスにいる二人を倒したヤツに負わされた傷がまだ癒えていないと言う。


 魔法での治療も可能なのに、何故かまだ治っていないとか。Gクラスにいるそいつは、二人を相手に無傷で半殺しにしたと言う。


 ……強いんだな。だが、気を探ってもGクラスにそこまで強いヤツはいないし、俺が微妙に感じ取れる二流レベルの魔力が最高だ。まさか、あの二人を相手に身体能力で勝ったってのか? ……よく分からんな。


「ルクス、アイリア」


 アリエス教師が授業中、俺とアイリアの名前を呼んだ。ボーッとしてたから怒られるんだろうかと、少し身構える。


「早く来い。例の約束、覚えてるだろう?」


 例の約束ってのはあれか。寮内トイレ掃除するってヤツか。違うよな。代わりに授業をやれってヤツだよな。


 俺はアリエス教師に言われ、すやすやと俺の膝の上で眠るフィナを起こさないように退かし、黒板の方に向かう。


「アイリアが魔法、ルクスが気について基本的なことを授業しろ。復習だな」


 ……なるほどな。適材適所ってヤツか。


 俺はその言葉に納得し、内心でふむふむと頷く。


「まずはアイリアからだ」


「はい」


 アリエス教師に言われ、アイリアは黒板の右側の前に立ち、チョークを手に取った。


「ルクス、座れ」


 アリエス教師はアイリアの椅子を自分の方に飛んでこさせ、俺の椅子を俺の近くに飛ばした。


「魔法とは、魔力を元に様々な現象を引き起こすことを言います。魔力は誰しもーーすみません。間違えました。一人を除いて持つ力です」


 アイリアは黒板の中央に立ち、上の方に魔法と書いた。その下に魔力と書き、丸をする。右に例外一人と書いた。しかも途中で俺をチラッと見やがった。……喧嘩売ってんのか、お前。


「魔力には量と質があり、量とは魔法が使える回数、魔力を多く消費する魔法を使えるかなどに影響があります。質は同じ魔力の消費でどれだけの数を生み出せるかに影響があります」


 アイリアは魔力と書いた下に量、質を書いた。


「魔法には属性があり、火、水、雷、地、氷、風、木の基本となる属性の他に、光と闇の対となる属性があります」


 アイリアは黒板の右真ん中に円を描くように属性を並べて書き、その円の真ん中に対となる二つを書く。


「属性には相性があり、火は水に弱く木に強いと言うように、基本となる七つは両側の属性に強弱があります。光と闇は対ですので、防御の時に弱く攻撃の時に強くなります」


 その説明に沿って属性二つずつの間に矢印を二つ書いて一つに強、もう一つに弱と書く。


「魔法には階級があり、初級、下級、中級、上級、最上級、大規模、古代があります」


 空いてる場所に魔法の階級と書き、それぞれの階級を上から強い順に並べて書いた。


 ……魔法の基礎が解るいい授業だとは思うんだが、実際にやってみるともっと理解しやすいと思うな。


「……次。ルクス、やってみろ」


 アリエス教師はそろそろいいと見たのか、言った。


「……」


 アイリアは嘆息した。彼女なりに緊張していたのかもしれない。


「アイリア。ルクスの座っていた椅子に座っていろ」


 アリエス教師が言うので、俺は席を立った。……さて。いっちょやりますか。


「……えっと、気ってのは魔力と違い、全員が持つ力だ」


 俺はまず、アイリアへの意趣返しとしてそう言った。黒板の左上に気と大きく書く。


「気は所謂生命エネルギーってヤツだから、人類に限らず植物や動物、海や大地に至るまで、万物が持ってるんだ。持ってないのは人工物だけ」


 俺は気の下に生命エネルギーと書くと、万物に宿ると書いた。


「どっかの国の霊峰の奥には、万物の気を取り込んで自分の力にするってヤツもいるくらいだから、そりゃ結構便利なんだ。だけどまあ、気は魔法に比べて人気がない。それは、魔法の方が応用性が高いからだな。気は様々な効果をもたらすが、その見た目はオーラだからな。んで、気の分類だ」


 俺は言って、左半分に真ん中の上に気の分類と書く。


「気の分類ってのは、曖昧なんじゃないかって言うヤツもいると思う。まず、強化の気だが」


 気の分類の下に強化と書く。ここからが腕の見せ所だ。いかに分かりやすく、明確に気の説明を行うか。


「大概のヤツが、ここから使えるようにする。強化は鬼気、闘気、錬気、魔気、剣気、硬気、装気、獣気、狂気、王気……だな。鬼気は身体だと筋力を、武器だと単純な威力を上げる攻撃強化。闘気は強度や筋力を上げるとか細かいことを言わなければ、性能を上げる、全体をバランスよく上昇させる、バランス強化だ。錬気は強度を上げる。俺の使う木の棒にもかかっていて、鉄を思いっきり叩いても折れない。身体だと骨や皮膚の硬さを上げるんだな。達人になると鋼鉄のハンマーと素手でやり合える、強度強化。魔気は魔法の効果を上げる、魔法強化。剣気は最初に使ったのが剣士だったからこの名前が付いたんだ。切れ味を中心に武器性能を上昇させる、武器強化。硬気だが、これは気の壁を纏うイメージで、物理攻撃を軽減する、物理防御強化。装気は身にベールと言うか、膜を纏うイメージで、魔法からのダメージを軽減する、魔法防御強化。獣気と狂気は同じように見られるが、ちょっと違う。両方共防御より攻撃と速度を重視した強化になるが、獣気は五感が鋭くなる。狂気は、相手に対する恐れが消え、自分が傷付いても攻撃する、肉を切らせて骨を断つってヤツだな。狂気はあんまり俺も使わねえな。需要が少ないのと、精神が弱いと制御出来ないってのが不人気の理由だ。王気だが、まあこれは王族にしか使えないーーじゃないか。つい最近のことだが、王族じゃなくても王の素質を持っていれば使えるらしい。王気の効果は、気の効果を二倍に引き上げる、言わば気強化だ」


 俺はざっと説明しながら、黒板に十個の気を縦に並べて書き、横に『~~強化』などの簡単な分類を書いておく。


「残りの五個だが、気の基本的な力、強化と波動のもう一つ、波動、と言うか、遠距離と言うかの分類だな」


 俺は強化に分類した十個をまとめて線で囲う。


「戦気、衝気、破気、龍気の四つだ。戦気は波動の強化になる。弾を放ったりするこれだな」


 俺は言いながら四つの気を縦に並べて書き、空いている右手に戦気の橙色のオーラを纏わせる。


 そして、橙色の弾を上に向けて放ち、天井に当たる前に消した。


「衝気と破気の違い、微妙だって言うヤツ挙手」


 俺は戦気のオーラを消し、皆の方を向いて右手を軽く上げる。


「……まあ、ちらほらと上がったな」


 半数はいない。優秀で結構。


「下ろしていいぞ。衝気と破気の違いは、鎧を相手にした時に現れる。鎧を砕くか、鎧を砕かず身体に衝撃でダメージを与えるか。分かるか? 破気は当たったモノを破壊する。だが衝気は盾や鎧を無視して、しかも後ろの敵まで攻撃出来る。これは覚えとくと便利だぞ。まあ、使えればの話だが」


 俺は戦気に続き、その二つの気の違いを図説する。鎧を割る図と、複数の相手に攻撃する図と、鎧相手にダメージを与えている図だ。……下手くそだな。


「最後は龍気だ。これは天災とかの自然現象を模した力を使える。気の感知を疎かにしてると危ないぞ。例えば吹雪を物陰から使われたとして、咄嗟に魔法と気、どっちの防御を使う? 一番簡単なのは、硬気と装気を両方使うことだが、片方で済ませられるなら消費抑えられるからそっちの方がいいだろ?」


 俺がニヤリとして言うと、少しのざわつきが起こる。……これで少しは気に関心を持ってくれればいいんだが。


「仙気だが、これは強化なのかどうなのか、微妙だ。相手の気の流れを読み取って行動を先読みしたり、気孔と言う気を放出する穴みたいなのが見えて、それを突くことで一時的に気の量を減らさせたり出来る。ああ。あともう一つ。活気ってのがあってな? 細胞を活性化させて治癒力を上昇させるのがある」


 さりげなく活気も加えといて、黒板に書き込む。


「……なるほどな」


 アリエス教師が満足そうに頷いた。


「アイリアは理論的で、ルクスは体感的。分かりやすさで言えばルクスだが、正確さで言えばアイリア。いいコンビだ。これからも私が面倒になった時は頼むからな」


 アリエス教師が甲乙つけがたい、と言うように言って頷き、ニヤリと笑う。……サボるために俺とアイリアを使ってるのか。


 ……今日は未だ襲撃なし、か。二、三年の遠征中に来るってのは考えすぎだったか?


 そうならいいんだが。


 俺が思っていることは残念ながら、現実になる。


 だがそれは、まだ誰も知らなかった。知っていたとしたら、当事者のみだろう。

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