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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
31/163

カオス終了

 ……で、どうしようか?


 俺の話術とか言ったが、正直こんな状況を打破出来る程優れているとも思わない。


 やっぱ武力行使だな。手っ取り早く、俺が得意なヤツだし。


 だがまあ、クラスメイトだし、無闇に傷つけるのは不本意だ。やっぱ説得するか。


 ……まずはリーフィスからだな。あんまり喋ったことはないが、死者が出そうなのは彼女だ。


「……リーフィス」


 俺は珍しくキリッと真剣な表情をしてリーフィスの下へと歩く。パキパキと凍った床を転ばないように慎重に歩き、漂う冷気を無視する。


「……何? 変態」


 俺を一瞥すると、絶対零度の声音で言った。……う~ん。どうやら、俺とアイリアがヤったと言うことを怒っているらしい。


「……いいか? 噂は噂だ。俺とアイリアはそう言う関係じゃない。大体、アイリアが魔法を使ったのは感知しただろ? それと、ミャンシーの使った魔法も感知したハズだ」


 俺は言い聞かせるように言う。


 リーフィスは体術は素人よりも下と言う謎の実力だが、魔法に関してはアイリアをも凌ぐ実力者だ。そんなリーフィスが魔法を感知出来ない訳がない。


「……確かに魔法は感知したわ。アイリアの魔力のね。でも、合間にナニをしていたとも限らないでしょう?」


 ……リーフィスは意地でも意見を変えないようだった。頑固だな。魔法を感知したなら戦闘中だって分かるのに。


「……じゃあ、どうすれば信じてもらえる? 冤罪は冤罪なんでな」


「……そうね。私に忠誠を誓ってくれれば考えてあげてもいいわよ? 騎士になるんでしょう?」


 ……忠誠、ねぇ。俺なんかを直属の騎士にした所で評判が落ちる気がしないでもないんだが。


 魔力なしの評判は悪そうだからな。


「悪いな、それは出来ない。ま、俺が仕えてもいいと思うくらいの……何かになったらいいが、俺はあんまり縛られたくないしな。それに、リーフィスって確か高位貴族だろ? 俺を雇えば評判落ちねえか?」


 俺は丁重にお断りしておく。……俺の目標だと誰か直属の騎士にはなりたくないんだが。


「えっ? え、ええ……」


 リーフィスは驚いたのか歯切れ悪く頷いた。……何に驚いたんだ? 俺、別に驚かせるようなことを言った覚えはないんだが。


「? どうかしたのか?」


「……ブリューナク家って知らない? 私そこの一人娘なの。代々氷の魔法を得意とする家系で、結構有名なんだけど」


 俺が聞くと、リーフィス信じられないと言うような顔で言った。……なるほど。俺がブリューナク家ってのを知らなかったから驚いていた訳か。


「ふーん。まあ家なんて関係ないだろ。リーフィスはリーフィスだしな」


 俺なんか成り上がり貴族だけど平民と一緒になって暮らしてたってのに。


「……そう」


 リーフィスは頬を染めてそっぽを向いた。……氷ばっか使って風邪でも引いたんだろうか?


「……ん~。そうでもねえか」

 

俺はリーフィスの額に右手を当てて、自分の額には左手を当てる。熱はなさそうだ。風邪って言う訳でもないらしい。


「なっ、何するのよ!?」


 リーフィスは驚いたのか、俺の手を払った。


「……いや、顔赤いから熱でもあるもんかと思ってな。氷使ってて風邪引かねえの?」


 俺は苦笑して返す。


「……風邪は引かないわよ。氷使いが自分の氷で風邪引くなんて、そんな情けないことある訳ないでしょう。……もういいわ。私の言うことを一度聞くって約束してくれたら信じてあげる」


 リーフィスは三回も嘆息しながら言った。……何をさせられるか分かったもんじゃないが。


「……分かった。だが、俺に出来ないことはやらないからな?」


「分かってるわよ。じゃあ、お願いね?」


 リーフィスは微笑して俺に言った。


「っ!」


 それは普段の凍てつくような微笑とは違い、可愛らしく、俺は顔が熱くなるのを感じた。


「……あ、ああ。もう無闇に凍らせたりするなよ」


 俺はリーフィスから目を逸らし、やや早口で

言ってすぐに去る。……ああ、畜生。


 可愛いじゃねえかよ。


 俺はリーフィスに悟られないようにして次の標的へと向かう途中、キリッと表情を引き締めて気持ちを切り替える。


「……フィナ」


 俺は未だにゴンゴンと頭をぶつけているフィナの横、自分の席に着いてフィナに声をかける。


「……」


 フィナは俺を無視して頭をぶつけ続ける。……ここは力づくでいいよな?


 俺はそう思ってフィナを抱えて頭突きを止めさせる。


「……バカ」


 フィナが涙目で言うと、俺はつい力を緩めてしまった。その隙を突いてフィナが思いっきり机に頭突きすると、机が真っ二つに割れた。……さすが魔人。


「……フィナ、落ち着いて聞いてくれ。そんな事実はない。誓って言う」


 感心している場合ではないので、何に誓うのかは知らないが、兎に角フィナに信じてもらわなければ。


「……ホントに?」


 フィナはくるっとこっちを見上げて聞いてくる。


「……ああ。ちゃんと事情は昨日説明しただろ?」


 俺は微笑みかけて涙を指ですくい、払ってあげる。


「……じゃあ信じる。その代わり、私の言うこと一回聞いて」


「えっ? あ、ああ。それくらいならいいぞ」


 フィナが少しだけ微笑んで言ったので驚いたと言うのもあるが、リーフィスと全く同じだったこともあって驚いた。


 ……何で俺に命令したがるんだろうか? 無礼者だから敬語使わせようって魂胆だろうか? いや、別にそんなことはないだろう。俺に頼み事でもあるんだろうな。


「……アイリア」


 俺はこの状況を生み出したアイリアに声をかける。俺とアイリアが秘密裏に夜出掛けたせいもあるが、アイリアが完全否定していればこんなことにはならなかった。二人を説得したのはいいが一回だけ言うことを聞く約束をしてしまったので、このまま続けると全員にそうやって言われそうな予感があるのと、面倒になったと言うのもある。


「俺とお前は昨日、何をした?」


「っ! ルクスっ! 私とルクスは何もしてない、ハズ……」


 アイリアは俺に声をかけられてショートから立ち直るが、顔を真っ赤にしてすぐに目を逸らした。


「「「……ルクス?」」」


 それがさらに状況を悪化させた。アイリアを先に説得し、他をまとめて、と言う俺の作戦は間違っていたかもしれない。フィナは知ってるのでいいが、リーフィスはどういうことかと睨んできた。


「……そりゃ一緒に戦った仲だからな。思い出せアイリア。俺とお前が本当にしたことを!」


 同室と言う部分は伏せて、戦友みたいな位置付けにする。


「……大体、アリエス教師は知ってるだろ?」


 ハッとなるアイリアを余所に、アリエス教師をジト目で睨む。アリエス教師は肩を竦める。


「面白そうだったから放っておいたんだが、止められなくなってな。仕方がない。信用がないルクスと妄想に耽るアイリアに変わって、私が説明してやろう」


 アリエス教師は教師らしく胸を張り、堂々と言った。……いや、信用ねえって……。別に信用が地に堕ちた訳じゃないからな? 誤解されてるだけで。


「……も、妄想になんか耽ってません!」


 我に返ったらしいアイリアが顔を真っ赤にして怒鳴るが、俺もそう思う。何を想像したのかは知らないが、真面目なんじゃなくて妄想癖だと俺は思う。


「ーーって訳だ」


 アイリアを無視して話し始めたアリエス教師が話を終えた。皆はふむふむと頷いている。……納得してくれたか。


「……ではルクス。それとアイリア。……まあ夜の件については帳消しにしてやるが、ルクスは遅刻、アイリアはこの騒ぎの元凶として、罰を与える。私が命令した時は代わりに授業をしろ。一週間寮のトイレ掃除を放課後にやること。ああ、C棟だけでいいぞ。あと、二人でクラス委員をやれ」


「はあ?」


「……分かりました」


 俺は聞き返し、アイリアは少しの間を持って頷いた。


「異論は認めん」


 アリエス教師はそう言って去っていく。……マジか。面倒だな。


 ……ふぅ。勘弁して欲しいぜ。


 自分の失態なんだけどな。


 ってか、遅刻の件は事態を終息させたら不問にしてくれるんじゃなかったのか? 結局アリエス教師が収めたからダメなのか。……最初からこうする計画だったんじゃないだろうな。


 ……有り得そうだな、畜生め。

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