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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
28/163

ミャンシー討伐と説教

 月が照り輝く闇夜の中を、俺とアイリアは屋根の上を駆けて疾走していた。


「チッ! 待て!」


 俺はなかなか速く追いつけないことに舌打ちしながら、全力疾走を続ける。


「どうやって捕らえるのよ!」


 アイリアは俺に聞いてくるが、俺もそこまでは考えていない。


「知るか! 目立たないように闇系統魔法でも使えばいいだろ!」


 俺は自棄気味に言い、


「鬼気!」


 全身に赤いオーラを纏い、さらにスピードを上げる。


 ……くそっ! すばしっこいヤツめ!


 俺は追いかけながら心の中で悪態をつく。


 俺とアイリアが追っているには、ミャンシーだ。


 設置されたモノを燃やして破壊した後は、ミャンシーのいる場所まで来たんだが、視認出来る位置まで来た時にはもうすでに逃げ出していた。


 ミャンシーはどうやら、逃げに徹し、時間稼ぎをするようだ。


 設置したモノが起動するまでだろう。……先に破壊しておくか?


「おいこら! てめえあれで何しようとしてやがる!」


 俺はミャンシーとの距離を詰め、怒鳴る。


「ニンゲン、ニンゲンか。あの方の命で設置し、この街で起動させる。それが目的だよ」


 ミャンシーは掠れたような気味の悪い声で答える。


 ……やけにあっさり教えてくれるな。だがこいつは姑息だ。どんな手を打ってくるか分からないぞ。


 俺は自分にそう言い聞かせる。


「……起動条件は何だ?」


「時間と、指パッチンだよ」


 ……あっさり教えてくれるのには、自信があるからか。絶対に阻止されないと言う自信が。


 こうして追いかけていれば起動するし。


 かといって破壊しに行けば起動させられるし。


 追っていれば指パッチンを阻止するが、何か手を打つか。


「……アイリア! 思念魔法で繋げるか?」


 俺は後方にいるアイリアに声をかける。


「……分かったわ。何か考えがあるんでしょ?」


 アイリアはそう言って頷いてくれる。


 思念魔法とは片方がイメージしたことや思い描いたことが共有出来る魔法だ。


 それによって作戦を思い描く通りに伝えられたりと、重宝される。


「……コネクト・ルクス」


 キィ……ンと俺の頭に高い音が響き、説明を寄越せと思っているアイリアのイメージが伝わってくる。


「……お前の魔法で一掃するためだろうが」


 この魔法の微妙な所は、会話が出来る訳ではないと言うこと。それは念話魔法になる。……細かいよなぁ。


「……そんなこと気にしてないで、さっさとやるわよ」


 ……アイリアに念話魔法と思念魔法の違いが細かいと言うことが伝わってしまったようだ。まあいいけど。


「……はいはいっと」


 俺は適当に返事して、木の棒を抜き柄の先に指を置く。


 そのまま先まで刃があるかのように滑らせ、刃を出現させる。


「……相変わらず変な剣気よね」


 ……何故だろうか? 今のアイリアの言葉が凄く刺々しいんだが。


 何か剣気でしたっけ? いや、そんなことはない。


「……煩いなぁ。これでも小さい頃は気にしてたんだぞ」


 年下からもバカにされてたし。まあ、木の棒でぶっ叩いてやったが。


「そうなの? 成長したのね」


 アイリアはどうでもいいような素っ気ない口調だった。


「っ!」


 俺はミャンシーへの牽制に斬撃を放つ。小さく鋭いヤツだ。大振りしても当たらないだろうしな。


 ……小さく鋭いヤツでも当たらなかったが。


「仕留められるの?」


 アイリアが速い斬撃でかわされたのを見て聞いてきた。……当たるかどうかは分からない。しかし、当てる。


「いいから早く当てなさい」


 アイリアに伝わってしまったらしく、睨まれる。……いいだろ、別に。当てる気はあるんだから。


 俺はアイリアに不満を抱きつつも、思いっきりジャンプした。具体的に言うと、ミャンシーのいる五メートル程までだ。


「げっ」


 ミャンシーは同じ高さまで跳んで、剣を振りかぶっている俺に嫌な顔をした。


「くらえ!」


 俺は白く巨大な斬撃を横薙ぎに放つ。……大振りした所で上にかわされて終わりだが。


「かわされてるじゃない! もっとちゃんとしなさい!」


 タン、と軽く屋根の上に着地した俺を待っていたには、俺を追い越して走るアイリアの怒声だった。


「……仕方ないだろ。ってかアイリアも魔法使えよ」


「分かったわよ。ーーダークウィップ」


 黒い魔方陣を目の前に展開し、そこから三本の闇で出来た鞭が出てきた。


 それが自動でしなり、ミャンシーへと襲いかかる。


「ちぇっ。応戦したくなかったのに」


 ミャンシーは唇を尖らせて言うと、同じく黒い魔方陣を描き、闇で出来た鞭を五本出す。


「ったく」


 アイリアよりも二本多いのか。俺は面倒な相手だと思い、ミャンシーの使ったダークウィップ三本を切り落とす。


「げげっ」


「……いいアシストじゃない」


 呻くミャンシーと二本残った鞭に、アイリアの三本の鞭が襲いかかった。


「キャー」


 悲鳴を上げて避けていくミャンシー。悲鳴は完全に演技。危なっかしいとこが全くなかった。


 ……魔力には質がある。それが魔水晶で計れるんだが、質とは同じ魔力の消費量でどれだけのモノが展開出来るか、だ。


 具体的に言うと、さっきのダークウィップだ。


 同じ魔法でも、質が違うと本数として差が出る。そう言うことだ。


「……おいおい。仮にも学年トップがミャンシーに負けててどうするよ?」


「……煩いわね。ちょっと手加減しただけよ」


 ぷいっとそっぽを向いて言った。……本当か? まあ、魔物ってのは俺の逆だ。


 気も魔力も生まれ持ってはいるが、気は人間が見つけた。魔物は魔力を生まれながらに持ち、使い方を本能的に分かっている。魔力を使うことはあっても気を使うことはない訳だ。


 気が分からない魔物は、だから魔力しか上げられない。


 だがしかし、だからこそ魔力と気を両立してきたアイリアよりも魔力の質がいい場合があると思う。


「けけけっ。じゃあ本気出しちゃうよ?」


 ミャンシーは楽しげに笑う。……本気出す? 魔物が、自分の力をコントロールしてるってのか?


 俺は疑問を覚える。魔物ってのは基本力任せに全力で戦うもんなんだが、力をコントロールするなんて聞いたこともない。


 ミャンシーがいくら魔物では賢い部類だとしても、だ。そもそも鍛えるなんてことさえ無縁だってのに。


 ……誰かに入れ知恵された?


 それなら鍛えれば人間を出し抜けるとか言えば乗ってくれるかもしれない。


「……今は考えるのは後よ。ーーダークウィップ!」


 同じ魔法だ。しかし、出てきた鞭の本数は七本。本当に手加減していたらしい。


「ははっ。甘い甘い甘い。ーーダークウィップ」


 今度はしっかり名前を言って発動させる。出てきた鞭の本数は十本だった。


「そんな……!」


 ホントに本気だったらしいアイリアは驚愕に目を見開く。


「ちっ! 鬼剣!」


 全身だけじゃなく、刀身を赤く染める。


「へぇ、面白い気だねぇ」


「らっ!」


 俺は気合いの声と共に赤い斬撃を鞭に放ち、薙ぎ払う。


「ボーッとしてんな! そろそろ動きが活発になってきてるぞ!」


 活発になってきてるのは仕掛けられたあれだ。


「……っ! へぇ。キミはあれが感知出来るんだ? 気の感覚が研ぎ澄まされてるんだねぇ。あと数十秒かな? 生まれるまで」


 一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑い言った。


 生まれるまで。


 つまりは生物である。


 気があることからも、生物だと分かる。


 しかもこんな人の多い都市に設置する意味がありそうな生物だとすれば。


 人を喰らって成長する類いの生物だ。おそらくは魔物だろう。


 それに加え、俺とアイリアが見た一つの形状と蠢くようなゾワッとする気。


 よってーー。


「蟲か」


 俺はミャンシーを睨んで言った。


「あははっ。そうそうその通り! 蟲の卵を設置するように頼まれたんだよ! だから成長するように人間に産みつけといたんだ! 一個で数千から数万は生まれるよ! さあ、どうする?」


 ミャンシーは残虐で楽しげな笑みを浮かべて言う。


 ……これで納得が言った。


 形状は卵型だった。気の反応があるし、卵だと言うことは分かった。


 しかし。


 服を着ている理由と、ぐにょぐにょと形状を変化させている理由と、蠢いているヤツがごちゃごちゃしていて何の卵か分からなかった理由だ。


 服を着ていたのは、人間に産みつけたから。


 ぐにょぐにょと形状を変化させていたのは、外に出ようと蠢いていて、無数の蟲だったから。


 霧のように見えた中身は無数に蠢く蟲だったから。


「……あの小ささで全部が生まれたら、ここは破滅だぞ!」


 最悪、焼き払うしかなくなる。普通に暮らしていて気付く訳がない大きさだ。


「だから、ここを潰すためにやったんじゃん」


 ……こいつは頼まれただけ、か。そう言ってたが、黒幕がいると言う俺の推測に近付いているようだ。


 裏で糸引くヤツがいる事件程、厄介なモノはないんだが。


「アイリア! 時間がねえ! 殺るぞ!」


 俺はまず、ライディールを上空から眺めた図を思い浮かべる。


 そこに、俺が感知した卵の在処を示す。


「分かったわ!」


 アイリアは力強く頷くと、足を止めて両手を前に突き出した。魔法に集中するためだ。


「……夜空に降る星々、闇夜を照らす火炎」


「っ! させると思ってんの!」


 魔法の詠唱を聞いて何の魔法か分かったらしいミャンシーは、振り返ってアイリアを攻撃しようとする。


「……させると思ってんのか?」


 その目の前に、跳躍した俺が剣を振りかぶって言った。


「ちっ」


 ミャンシーは舌打ちして向きを変え、再び逃げる。


「ーー星降る夜に、火球を鉄槌を!」


 そうこうしている内に、アイリアが詠唱を終えた。


「ーーフレイムメテオ!」


 アイリアの手の前に赤い魔方陣が展開され、そこから赤い塊がライディールの中心、噴水の遥か上空へと飛んでいく。


 そして、光と共に赤い塊が弾け、炎を伴って十四の流星が散らばって降る。


 それらは、俺がアイリアに伝えた卵の位置を正確に射ていて。


「アアアアアアアアアァァァァァァァァ!!」


 計画を潰されたミャンシーが止まって絶叫する。


「……てめえの敗因はただ一つ。俺達に気付かれても余裕かましてたからだ」


 俺は止まったミャンシーの隙を見逃さない。


 屋根の上を駆けて跳躍し、ミャンシーの眼前へと迫ると、剣を一閃してミャンシーを真っ二つにした。


「かっ……!」


 ミャンシーは断末魔を上げる暇もなく、灰となって消える。


「……終わったわね」


「ああ」


 近付いてきたアイリアに言われて、笑って返す。


「何だ!?」


「今流星が落ちてきたぞ!」


「「……」」


 ……しかし、思いっきりバレてしまっていた。


 ▼△▼△▼△


 その後。


 俺とアイリアはどうにか見つからずに寮まで戻り、素早く魔法で飛び部屋に戻った。


 ーーが、ラスボスはここにいた。


「……正座」


 憮然とした表情で腕を組むフィナだ。


「……あ、あの、フィナさん? これには訳があってだな」


「そ、そうよ。落ち着いて。ね?」


「……正座」


 俺とアイリアが必死に宥めるが、収まらない。相当お怒りのようだ。


「あのー……」


「えーっと……」


 変わらぬフィナの態度に言い淀んでいると、


「……正座!」


 フィナの叱咤が飛んだ。


「「っ!」」


 普段はポヤッとしているフィナが眼を吊り上げて睨んでいる。……普段は大人しいヤツが怒ると妙な迫力があった。


「……何してたの?」


 フィナは正座する俺の手首を両方共ガシッと掴む。


「ーーっ痛い!?」


 俺はフィナに握られた手首が万力に締め付けられたかのようにギリギリ痛むのを感じて悲鳴を上げる。


「……何、してたの?」


 ググググググ……。


 スロースターターなオリガとは違い、フィナは最初っから全開だ。運動音痴じゃなければ、肉体戦でオリガといい線いけると思われるフィナに、思いっきりその万力のような握力で締め上げられたら、どうなるか分かったもんじゃない。


「……フィナさん痛いから手を離してちゃんと話すから!」


 俺の願いも空しく、どんどん力が込められていく。


「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺が絶叫すると。


 ゴキリ。


 手首の終末が訪れた。

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