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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
27/163

黒幕

黒幕側の様子です

 ここはある国内の王都の王宮内にある会議室である。


 ここでは現在、国の未来が懸かった会議が行われている。


 いや、正確にはもうすでに会議は大部分を終え、今は経過報告を待っている状況だ。


「……」


 初老のカイゼル髭を生やした男性は、落ち着かない様子で頬杖を着きながら右手では会議室の中央に設置された円卓を人差し指で一定のリズムで叩いている。


「……っ」


 またある初老の男性は、これまた落ち着かない様子で足を揺らしていた。


 会議室にいるほとんどが落ち着かない様子で何かしら気をまぎらわせるためにしていて、ピリピリすた緊張感が漂っていた。


「そう緊張せずに。経過報告を待っているだけでそんなに緊張されては、身が持ちません。まだまだ、本番はこれからですよ?」


 唯一朗らかな笑みを浮かべた見た目は二十代の青年が言う。


「……分かっておる。だが、そう理屈だけでは割り切れんのだ!」


 白髪を生やした初老の男性は円卓に拳を叩きつけて怒鳴る。相当張り詰めていて、ストレスも多いようだ。


「……まあ、そうでしょうが」


 青年は柔和な笑みを浮かべたまま思う。


 何て、人間は脆弱なのか、と。


 あの方に命令されたから仕方なく引き受けたものの、どうも人間と言うのは面倒だ。


 わざわざ他人の力を借りてまで、自ら手を出したくないと言う。


 傲慢で下らない。


 下等種族の人間の相手などやりたくもない。このまま全員殺して見せしめたいくらいなのだが。


 ーーと青年そこまで考えて、思考を停止させる。


 あの方に命じられたのはあくまでも手助けと知恵出しと囮にすることだ。


 あの方の命令を遂行するのに、雑念はいらない。


 だが、あの方は自分を理解して下さっている。


 どうしても我慢出来なくなったら、殺っても構わないだろう。


 何故なら、所詮は捨て駒なのだから、どう転んでも殺す。


 いや、殺さなければならない。


 ……今はその時ではないだろう、と青年は考え直し、自分の役目に専念する。


「……おや。途中経過が来ました」


 そこで、左耳に入れた黒い塊から声が聞こえた。


 黒い塊を青年は他の人間には通信装置だと伝えてあるが、実際には蟲である。


 青年の言葉に会議室にいる全員がビクッと肩を震わせ、一斉に青年を注視する。


「……そう身構えないで下さい。大したことではありませんから」


 青年は何故こんなにも怯えるのか、心の底では蔑みながらも柔和な笑みを返す。


「ミャンシーからの連絡です。どうやら、計画の第二段階に気付いた者がいるそうです。二人らしいと言うことです」


「……二人、らしいだと? どういう意味だ?」


 座る一人が怪訝そうな顔をして聞く。他も同じような顔をしている。


「ミャンシーは魔力は感知出来ても気はイマイチですからね。その辺は誤差があるようですが、魔力では一人、気では二人と言うことです。奇妙だと言うことで連絡したようですね」


 青年は完全に心に壁を設け、柔和な笑みを浮かべたままで言った。


「……誰だ、そいつらは? まさか計画に気付かれたのではないだろうな?」


 一人が青年に鋭い視線を向けてくる。バレたらお前のせいだとでも言うかのように。


 青年はそんな態度に吐き気さえ覚えるが、それを掻き消す程の出来事があった。


 あの方の“声”が響いたのだ。


 “声”はあの方を崇高する者にしか聞こえないため、バカで愚かなエサでしかない人間共には聞こえない。


 あの方の“声”は人間を蔑んでいた青年の心を癒し、報告を伝えてくる。


 青年は感極まるが表面上は柔和な笑みを浮かべたまま内心であの方を崇める。


「……ふふっ。それでは、その二人と言うのを、あの方の集めた計画の第一段階を阻止した者達の情報を掲示しましょう」


 青年はあの方からの“声”に思わず笑みをこぼしつつも、会議室にあるボードを触れずに引き寄せる。


 ボードに着いている箱からチョークを取り出し、計画の第一段階阻止者と書く。


 ……まあ、計画と呼ぶにはあまりにもずさんな威力偵察でしたけれどね。


 青年は内心自嘲する。


 だがまあ、威力偵察と本番の差はかなり油断を誘えるのではないかと思い、実行したのだからいいのか。


 ーーとも納得する。


「まず、ここにいる方々はよくご存じでしょうが、アイリア・ヴェースタン・ディ・ライノア。彼のガリウス・ヴェースタン・ディ・ライノアの娘に当たります」


 アイリアの名ではなく、ガリウスの名を聞いて会議室にいるほとんどが歯軋りをし、拳を握り締める。多大な恨みがあるのだった。


「……そういきり立たないで下さい。娘は父親程の実力はまだ保持しておりません。ガリウス殿が今回の件に手を出すことはないでしょう。しかし“双槍の姫騎士”と呼ばれ今期のライディール魔導騎士学校では首席の成績を修めそうですね。皆さん知っての通り、大陸に聳える霊峰、神天山と魔天山に一人で行き二つの槍を手にしたので、将来性は高く、要注意人物と言えるでしょう」


 青年は長々とアイリアの説明を行う。


 それに会議室にいる面々はブツブツと不平不満を言い合い、ガリウスへの恨みへとヒートアップしかけていた。


「そこまで、ですよ。熱くならないで下さい。我々の組織が動けば一捻りなんですから、落ち着いて」


 青年は柔和な笑みを崩さないままに言った。


 しかし、心の内では愚者の集まり程滑稽なモノはないと嘲っていた。


 青年はあの方や組織の前では仮面を取るが、他人の前では内面と外面に天と地程もの差があった。


 青年の言葉には信頼がおけるのか、面々は静まっていく。


 亜人共存派と人間主義派に分かれての大戦において、元々高位の貴族であるガリウスが公爵としての地位を獲得するまでの武勲を得た戦争であるが、戦争で数々の武勲を残したガリウスに対し、青年は一捻りだと言った。


 だとしたら、戦争に負けた我々は何なのだ、と問い質す所だが、不思議とそんな発言はない。


 何故ならば、今自分達がこうしていられるのは青年とその組織の助力があってこそ。


 自力では到底立ち直るハズもなかったこの敗戦国は、組織の助力を得てライディールのあるディルファ王国に復讐せんと動いている。


 その事実がある限り、彼らは青年に従うしかなかった。


 しかしそれも、青年の柔和な態度によって緩和され、あたかも自分達が復讐を行っているような錯覚に陥らされている。


「次に、シュールヤ・アレルハルテですね。知っている人はいないと思いますが、ガリウスの下で騎士をする父親がいるそうです。まあ、取るに足りない雑兵ですね」


 青年は続けるが、しかしあっさりと切り捨てた。


 面々も知る者はいないようで、次に進めるように目で青年に言っていた。


「ゲイオグ・ネルミトス・バーヴァですが、見た目が拳闘士なのに魔法も得意と言う、そこそこに強い者ですね。血筋は下級貴族で大戦で父親を失っていますから、血筋による判断が行えないのですが、大戦で命を落としたので取るに足りない雑兵ですね」


 そこそこと言う評価をした青年だったが、あっさりと切り捨てた。


「これは興味深い存在ですが、オリガ。彼女はオーガの突然変異です」


『っ!』


 面々は青年の言葉に驚愕し、思わず腰を浮かせた者さえいた。それ程までに突然変異と言う存在はめずらしいのだ。


 大戦時にも、突然変異はいた。


 二人だけだが、とてつもない強さを発揮し、こちらの軍を蹴散らした。恐ろしさは身を持って知っているのだ。


「突然変異とは言え、大戦時にいた竜と九尾とは桁違いに弱いオーガですからね。それでも警戒しておくことに越したことはありませんね。第一段階では彼女が最も多くの魔物を殺しています。本質が魔物だからでしょうか、殺戮の中に身を置く性質があるようですね」


 突然変異と言うだけで青年の評価は高いようだった。


「……ふん。野蛮な」


 一人が鼻を鳴らして貶すが、脅威だと認識する者の方が多いようだ。


「最後になりますが、彼は最高に面白い。組織で持ち帰って研究材料にしたいくらいにね」


 今まで柔和な笑みを浮かべていた青年だったが、そう言う青年の笑みはニヤリと狂気が宿る笑みだった。


 それを見た会議室にいる面々は背筋を駆け上がる悪寒を感じ、身震いした。


「……おっと。すみません、つい嬉しくなってしまって」


 青年はその笑みを収めると軽く一礼し、顔を上げた時にはいつもの柔和な笑みに戻っていた。


「彼はルクス・ヴァールニア」


 その名を聞いて、会議室にピリッとした殺気立った空気が張り詰める。


 中には抑えられず気や魔力を滲ませ、円卓にヒビを入れる者までいた。


 それ程までに、世界で唯一の名字、『ヴァールニア』への恨みは強い。


「はい、そこまで」


 パァン、と会議室に響き渡る大きさで柏手を打つ青年。それだけで、いきり立ち滲ませていた気や魔力が霧散する。


 気や魔力を柏手一つで吹き飛ばす。それは、殺気立つ会議室の面々にとっては、平静を失わないための一種の抑止力でもあった。


 今更なので誰も驚かないが、とてつもない強さであるのは事実だった。


 特に気を吹き飛ばすと言うのは厄介である。


 元々気は纏うタイプの力なので、それを吹き飛ばされると言うのは、通常状態に戻されると言うこと。


「彼ーールクス・ヴァールニアは素晴らしい。ですが、ただ一点、残念な点があるのです。魔力がないのですよ」


 青年の言葉に、面々は驚いていた。魔力は人間全てが持つ力である。しかし、それだけで青年の興味をそそるのか、怪訝に思う者もいた。


「魔力がないと言うのは皆さんも想像すればどんな苦労があるか分かりますか? 魔法も魔導も使えない、気のみで戦わなければならない。しかし彼は第一段階でゲドガルドコングを倒しています」


「何だと!? 気のみでゲドガルドコングを倒しただと!?」


「そんなハズがない! そんなこと出来るハズがーー」


 会議室にいる者達は口々に青年の言葉を否定するが、青年の全身から圧し潰されそうなプレッシャーと駆け上がるのではなく背筋に張り付くような悪寒を伴う殺気が全員の口をつぐませた。


「……それはあの方の言葉を否定すると見ていいのですか? 何なら見せしめに一人くらい殺しても、構わないのですよ?」


 そこに柔和な笑みはなく、ただただあの方の言葉を否定するモノへの怒りに溢れていた。


「……っ」


「……いえ、すみませんね。どうも熱くなってしまいます。皆さんにとっては信じがたいことでしょうが、事実なのです。分かってくれますよね?」


 青年に弁明しようと、一人の男性が口を開こうとするが、それに気付いた青年は先回りして事態を収拾させた。


「そして、だからこそ第二段階を阻止しようと動いている訳ですね」


 青年は柔和な笑みのまま説明を続ける。


「彼は気しか使えません。では、どうやってゲドガルドコングを倒すに至ったのか。狡猾に戦った? 否、血の滲むような鍛練の末、真っ向勝負で倒したのです。四つの気の融合を行ったと言うのですから、相当なモノでしょうね」


 青年が素直に賛嘆し、周囲がざわつく。未だ気の融合において、三つが超一流と呼ばれる域になる。しばらく時が経てば話は別だが、四つの気の融合とは、気においてのみ最先端を往く者と言うことになる。


 何せ、凄まじいまでのプレッシャーと殺気を有する青年でさえ、三つの気の融合までしか使えないのだ。


 それでも魔力がないと言うハンデは大きく、負けるなど思いもしていないが。


「しかも面白いことがあります。彼は皆さんお察しの通り、ヴァールニアと言う名を与えられた彼の息子ですが、両親とは違い憎しみが根源、行動原理にあります。十年前のアレですね」


 青年が言うアレに、面々は顔を逸らし我関せずを貫いた。


「彼はゲドガルドコングに恨みがあるようですし、第五段階辺りに数十体のゲドガルドコングでも送りますか。その反対側を他の魔物にでも襲わせれば、彼は嬉々としてゲドガルドコングを選ぶでしょう。そうすれば死んでくれます」


 高い評価をしておきながら、冷静に策を練った。策を練ると言うには些か荒い気もするが、実際にそうなるかもしれないのだから仕方がない。


「第二段階を阻止せんと動いているのは奇しくもルクスとアイリア。これはいいコンビですね。両親も喜ばれるでしょう」


 青年は半分冗談、半分本気で言った。二人の父親は所謂戦友と言うヤツだからだ。


「……さて。選ばれし姫と持たない復讐者。どうやって殺しましょうかね」


 青年は相も変わらず柔和な笑みを浮かべているが、会議室にいる者は寒気を覚える。


 計画の裏に誰がいるのか、二人はまだ知らない。

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