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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
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対カタキ

やっと第一章の序章が終了になります

 夕焼けに彩られたイデオル草原が血濡れた戦場へと姿を変えていく最中、俺は周りを捨ててゲドガルドコングと戦っていた。


 ……相変わらず、楽しんでやがる……!


 ゲドガルドコングが人間味溢れるニヤリとした笑みを終始浮かべていることに若干の苛立ちを覚えつつも、俺は隙がないか注意深く観察していた。


 俺も、笑っている。


 心のどこかにこいつを殺せる喜びはあるだろうが、ゲドガルドコングが人間の絶望を好むからだ。


 俺が笑っていれば思い通りに絶望しなくて表情を歪めてくれるかとも思ったんだが、どうもそう簡単にはいかないらしい。


 むしろ、いい相手が出来たと言う喜びさえ感じられる。


 魔物ってのは、突然変異で生まれたオリガ含め、基本戦闘狂だからな。対等に本気で戦える敵ってのは嬉しい誤算らしい。


 しかも、ゲドガルドコングのようなボスを張る魔物だと、周りに対等な魔物がいないからな。余程嬉しいんだろうか。


 ……だが、それはそれで気に食わねえ。


 俺がこいつの暇潰しになっていることが気に食わない。


 さっさとケリを付けられる相手ならとっくにしている。だが、戦闘を楽しみつつも隙を見せないゲドガルドコングは改めて強敵だと実感する。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 攻めてみようと力任せにゲドガルドコングの右手を弾き、隙が作れないか試してみる。


 だが、もちろん隙は作れない。


 右手一本など弾かれても何のその。むしろ、力任せに攻めた俺に隙が出来るくらいだ。


 ゲドガルドコングは、人間以上に体幹がいい。


 極端な話、片足で立って二本の腕ともう片方の足で戦えるくらいに。


 バランスを崩さず、だ。まあ元が猿だからいいのか?


 その上、この瞬発力だ。


 突っ込んできてただのひっかき連打かと思えば足を払ってきたり、逆立ちして蹴りだけで攻撃してきたり。


 こっちを翻弄したいのか何なのか、兎に角面倒だ。


「……あれを使うか?」


 俺があの時ゲドガルドコングを殺したヤツ。それがあれだ。だがまあ、あれがなくてもいいハズだ。向こうも無傷だが、こっちも無傷だしな。


 だが、このままじゃ埒が明かないのは確かだ。こっちから仕掛けるしかねえか。


「……まあ、殺すしかねえけどな?」


 俺は相変わらずピリピリした空気を撒き散らしている。


 俺は、ゲドガルドコングの攻撃を捌くのではなく、俺から攻めるように転じた。


 一気に突っ込まなくていい。一歩一歩、確実に距離を詰めていく。


 俺が近付ければ、ゲドガルドコングは距離を保とうと後ろに下がる。俺が攻めになっているので他からは俺が押しているように見えるだろう。


 俺はゲドガルドコングが下がっていく中で、後ろに足を着ける前に、突っ込む。


 この不意打ちは成功し、後ろに体重が乗っていたので、どうしても防御気味になるハズだ。


「戦龍鬼剣!」


 刃を橙、赤、銀の三色の縦線に変える。そして、大振り。


 ゲドガルドコング相手にはやってはいけない隙だらけな行動だが、今は完全に守りに入っているため、三色の波動と三色の激しい嵐がゲドガルドコングを襲う。


 防具も何もないので、まともにくらったハズだ。これで死んでくれればいいんだが、そう簡単にはいかねえよな。


 俺は気の感知が異様に優れている。自分で言うことじゃないが、魔力がない分気に才能がいっているんだろうと思う。


 ゲドガルドコングは皮膚が硬い。あちこちが傷付き血が出ているが、そこまでのダメージでもないだろう。


「ウゴオォオオォォォォォォ!!」


 ゲドガルドコングは怒りで顔を真っ赤して牙を剥く。


 ……そろそろ殺すか。俺は強くはなったがゲドガルドコングを雑魚と見なせるような実力には至っていないらしい。それが分かればもういいや。


「……殺そ」


 俺は飽きた玩具を捨てるかのような無感動で呟いた。もう、顔も見たくない。長年会ってなかったから通過点を確認したかったんだが、もういい。


 あれを使って塵一つ残さず殺そう。消し飛ばそう。


 俺は心から無限に溢れるドス黒い感情をそのまま剣に乗せようとしてーー。


「……まったく。酷い有り様じゃないの」


「事態は終息に向かってるようだな。結構なことだ」


 グリフォンに乗る二つの槍を持った少女と、風魔法か何かで空を飛ぶゴシックロリータな見た目幼女が到着した。


「貴方、早くそこの猿を倒して。殲滅するわよ」


「……私が出るまでもないな。ーー殺れ」


 学年トップ二強の一人、アイリアと俺達一年SSSクラスの担任、アリエス教師だった。


 ……俺はそこで、スッと頭が冷えていくのを感じた。


 ……あれは使わない。あれは、本気でヤバい時だけに使おう。


「……こんなヤツ相手に、使うもんじゃなかったよな」


 俺は笑みをこぼす。今までとは違う比較的柔らかな笑みだ。俺は今はもういないヤツに呼びかける。答えてくれる訳もなく、虚しさだけが残ったが。


「……まあだが、殺す……!」


 憎しみだけは変わらず、俺は向かってくるゲドガルドコングに剣を振るう。三色の波動と嵐を起こって牽制する。そこから俺はこっちから突っ込んで、他の気を刃にまとめる。


 つまりは、


「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 威力は変わらず斬撃になると言うこと。


 戦龍鬼剣の威力を斬撃としてまとめて一点集中させたモノだ。バラバラにくらうより、効く。


 そして案の定、腕を交差するだけに留めてしまったゲドガルドコングは、あっさりと両腕を切り落とされる。


「グギョアオォォォォォォォォォ!!」


 それがゲドガルドコングの断末魔になった。


 ゲドガルドコングは真っ二つに切り裂かれ、命が途絶える。


 ……最初っから使えば良かった? バカ言え。四つの融合は俺でも疲れるんだっての。そうそう使えるようなもんじゃねえ。


 俺は気を解除した後でプラスされる疲労感に顔をしかめる。


 残りの魔物は少なかったが、暴走気味のオリガとウォーミングアップ程度にしか身体を動かしていないアイリアが殲滅した。


 こうしてオルガの森からの急な群れ出現は事なきを得たんだが、それがまだ序章でしかないことは、俺が知るよしもなかった。

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