表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
23/163

魔物の本性

何故か乗ってたので二話目です


あともう一話更新します


三人称になります

 夕焼けがライディールを囲むイデオル草原を橙色に彩っている。


 イデオル草原の草木は何かを知らせるかのように風に揺られてざわめいている。


 イデオル草原から南、数多くの魔物が蠢くオルガの森。そこから少し離れた位置で、戦闘が行われていた。


 戦っているのは、四人の少年少女と何十もの魔物の群れ。


 ほぼ全てが大型の魔物であり、二体だけ大型ではない魔物がいる。


 ゲドガルドコングとミャンシーだ。


 ゲドガルドコングは三メートル程、ミャンシーに至っては五センチ程の大きさになっている。


 ゲドガルドコングは古来よりいる種の末裔と呼ばれており、凶暴性と人間味は他とは比べ物にならない。人間を襲い、なぶり殺してからーー場合によっては生きたまま人間を捕食する。ある一説では、人間の絶望を糧としていると言われる程に、人間を絶望させて楽しむと言う特徴がある。


 ミャンシーと言うのは、亜人の種族の一つにピクシーと言う妖精の類いがいて、さらにはフェアリーと言う正統な妖精の種族がいるが、それらと同様に大人子供関係なく小さい。しかし、ミャンシーは魔物である。小さいながらも今まで数を減らさずに生き延びてきた、ある意味では強い魔物である。背に生える昆虫のような半透明で黒い羽で飛行するが、その飛行速度は常人が目で捉えられる速度ではない。ピクシーやフェアリーと比べると速くかなり手強い。


 いる群れの中で特に秀でているのがゲドガルドコングであるが、ゲドガルドコングは今四人の内一人の少年と戦っている。


 周りにいる魔物は急所を斬られており、少年がやったのだと分かる。


 異様なのは、少年とゲドガルドコングだ。


 一人と一体は、笑っている。


 群れと仲間は違うものの共に行動していた魔物をかなり多く葬られ、しかもいずれも大型の魔物であると言うのに楽しそうに笑みを取るゲドガルドコング。


 何体もの魔物を惨殺しておきながら、待ちわびた存在が来たかのように凄惨に笑っている少年。


 魔物を何体も惨殺した少年を相手にしながら、オルガの森では高位の魔物であり凶暴性の高いゲドガルドコングを相手にしながら、笑っているのだ。


 本来命の削り合いである魔物と人間との戦闘で、一人と一体は笑いながら攻撃を交えている。


 ゲドガルドコングの鋭い両手足の爪による攻撃と、少年の木の棒に刃を付けただけのようなお世辞にも強くなさそうな剣撃。


 ゲドガルドコングの手足を使った縦横無尽の攻撃を、不格好とは言え全てさばききり、さらには反撃までもを混じらせる少年。


 笑いながらも、互いの戦闘技術のぶつかり合いだった。それもかなり高度な一騎討ちだ。


 他者を入れないような攻撃の乱舞。残る三人の少年少女は手がいっぱいだとしても、手の空いている魔物でさえ入らないーーいや、入れない戦いになっている。


 腕の一振りで地面が抉り取られ、剣の一振りで地面が切り裂かれる。


 そんな戦いに、誰が好き好んで入ると言うのか。


 下手に加わろうとすれば味方であろうが敵であろうが殺される。そんな雰囲気を感じ取ってか、魔物達は割り込まず、避けてライディールのある方へと駆ける。


 イデオル草原に人影は四人以外にない。先程までは四人と共に行動していた四人は援助を呼びにライディールへと入っていった。


「はははっ! こんな群れと戦えるなんて、最高じゃねえか!」


 楽しそうに大笑いして戦場に舞う嵐、四人の内唯一の少女である。


 その拳は突風を巻き起こし、その脚は地面を削る。


 そして何より、ゲドガルドコングと戦う少年でも気と言う強化の術を使用していると言うのに、気を使用していない。元来魔力が少ないこともあるが、魔力の使用もない。


 本来ある、生まれつき持った身体能力だけで大型の魔物と殺り合っている。


 もちろん今までに鍛練はしてきているだろうが、魔物と気も魔力もなしで、しかも大型と殺り合える者など、そうはいない。


 太古から存在すると言う最強の種族、魔人。もちろん魔人は気も魔力も使わず大型の魔物を倒せると思うが、身体の頑丈さで言えば勝っているだろう。


 少女とゴリラのような十メートルもの巨体に蛇の尻尾があるーーゴリエイクは正面から、互いに渾身の右拳をぶつけ合った。


 その結果、ゴリエイクの右腕は弾かれ、あらぬ方向へと捻れていた。


 拳は潰れ、血が滴っている。対する少女は全くの無傷。


「ははっ! いいぜ、その調子でこいよ!」


 少女は人間より尖った犬歯を見せて笑い、ゴリエイクの懐へと潜り込む。


「ウゴッホォ!」


 ゴリエイクは右腕が使い物にならなくなって驚いていたが、さすがは本能の赴くままに戦う魔物か。迎撃しなければ殺られると直感的に感じ取り、残った左腕を振るう。


「はっ! いいな、もっとヤろうぜ!」


 少女は至近距離で振られた豪腕にも恐れず、むしろ楽しげにそれを右足で蹴り上げた。


 爪先が拳の中指に当たり、ゴキッと言う嫌な音がして弾かれ、左腕も捻れて使い物にならなくなる。


「……まだ、ヤれるよなぁ!」


 少女はゴリエイクの攻撃など気にしていないようで、懐に入ったままゴリエイクの腹部へと跳ぶ。その勢いを利用して右拳を振るい、悶絶させる。


 ゴリエイクはその重い衝撃に身体をくの字に曲げ、白目を剥き、口から吐血して吹き飛んでいく。十メートル程後方にいた魔物を巻き込んでオルガの森の木にぶつかって止まり、木に叩きつけられゴリエイクに挟まれた魔物は潰れ、ゴリエイクは少女に殴られた腹部は陥没し、すでに絶命していた。


「……さあ、まだまだだ。もっとヤろうぜ!」


 少女は鬼のように殺意剥き出しで笑う。それが、本来の姿であるかのように。


 少女は新たな獲物を視界に捉え、襲いかかっていった。


 残る二人の少年は、協力して戦っていた。


 二人は他の二人のように特出した実力はないため、群れを相手にする時は相互に連携することが大事になる。もちろん全体的に見れば実力は申し分ないのだが。


 一人は騎士そのまま。剣と盾を持っていて、魔物の正面に立ち、攻撃を受けて隙を見て攻撃する盾役だ。群れを相手にする場合、盾で防ぎ弾き突き飛ばして間を取らなければ、立ち回れない。


 それでも二手からの同時攻撃であったり多数に攻撃されて手に余るようなことがあった場合。


 もう一人の見た目が拳闘士なのに魔力もそこそこに高いマッチョな少年の出番である。


 マッチョな少年は騎士の少年をカバーしつつも周りの魔物を倒していっている。


 時には魔法、時には拳、時には魔法を付与した拳。


 魔法と拳術を両立し、しかも気も魔法も体術もそこそこであるオールラウンダーだからこそ出来る多彩な攻撃。


 左手の前に魔法陣を展開し、魔物の群れに落雷の雨を降らせる。ーーサンダー・レインと言う魔法だ。


 痺れた、もしくは焦げた魔物を鬼気で強化した拳で追撃する。その追撃は魔物を絶命させるには至らないが、あと一歩と言う所まで弱らせた。


 そして、フレイム・エンチャントーー炎の付与魔法で拳に炎を宿し、弱った魔物にトドメの一撃を叩き込んでいく。


 騎士の少年も剣気の白いオーラを剣に宿してマッチョな少年の手伝いをする。


 二人は周りの魔物を一掃することに成功するが、まだ終わりではない。まだ魔物はいるのだ。


 前衛で盾役の騎士の少年が注意を引き付けたからこそマッチョな少年が自由に行動出来ていた。


 即興のコンビネーションにしては上手く連携が取れていた。


 また少女に戻ろう。


 少女は次第に残酷に、残虐になっていく。


「ははははははっ!!」


 狂ったように笑い続けながら拳を振るい、脚を蹴り上げる。


 腹部に深刻なダメージを受け、トドメを刺さなくても放っておけば死ぬ、または他の魔物に喰われて、どちらにせよ死ぬような瀕死の魔物がうつ伏せで倒れる。


 だが、少女は生かさない。


 瀕死の魔物を、逃がさない。


 少女は頭の方に跳んだかと思うと、右拳を叩きつけた。


 その圧倒的破壊力の拳はもちろんの如く頭を潰した。いや、表現的には弾け飛んだの方が正しいかもしれない。


 少女は口元に付いた返り血を舌で舐め取る。


 そして、ニヤリと人がゾッとするような笑みを浮かべた。


「……やっぱいいなぁ! 戦いってのはこうでなくちゃなんねえ! 最高だ! もっとヤらせろ!」


 少女は本当に楽しそうに笑う。


 ゾクゾクと背筋を駆け上がるこの快感がたまらない。


 少女は視界に獲物が入ると、脇目もふらず、殺戮に身を任せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ