敵への憎しみ
主人公がちょっと暴走します
俺達SSSクラスの八名は、まったりと親睦会も兼ねて狩りに出掛けたんだが、俺達が連携して倒すような強いモンスターはいねえかな、と思っていたその時。
モンスター最強種の竜の低級、土竜が出現した。噂をすればなんとやらだ。
……思い出すと連携ではなく、俺が一人で突っ走っていたような気もしないでもなかったのだが、土竜を倒した俺達の間に連携がどうのこうの言うヤツはいなくて、ハイタッチなんかしながら喜びを分かち合っていた。
オリガに破気を使えばもっと簡単に壊せたんじゃないかと聞いたら「ああ、あたしってオーガの中で育ったから気の存在を今まで知らなかったんだよ。まあ、気自体は発動出来るから後は特化させるだけだけどな」って笑って言われた。
……さすがは生まれつき持つ者。今まで強化しなくても勝てていたのかもしれないし、オーガの中で気が使われていないから仕方がないんだが。
俺達は笑って喜びを分かち合っていたんだが、そこに雰囲気をぶち壊す怒号が聞こえた。
「ウゴガアアアアアァァァァァァ!!」
オルガの森から、軽く見積もって三十もの大型モンスターが飛び出してきた。
「っ!」
その中の一体を見て、俺の中にドス黒いモノが芽生える。……あれは違う個体だ。あいつは俺が殺した。
俺はそう自分に言い聞かせて心を落ち着かせる。
ゲドガルドコング。大きさは他のヤツより小さく三メートル程だが、オルガの森にいるモンスターでも最も凶暴で、人や他のモンスターを捕食して生きている。ヒヒのような風貌で、身体能力はかなり高い。牙や爪で引き裂き喰らう。絶望した人間を見ると笑う。
「何だよ、あれ? 結構一体一体が強いじゃねえかよ! しかもこっちに向かってくるぞ!」
シュウが慌てた様子で言う。
「……丁度いい」
俺は思わず呟いて、ニヤリと笑う。
あの時誓ったんだ。俺はあれを全て滅ぼすだけじゃ済まさず、殺し尽くすってな。オルガの森にいる個体は少ないからいつ会えるか分からなかったが、こんなに早く会えるとは思ってなかったぜ。
「丁度いいってよ。ルクっちはあれとやるつもりなのか?」
シュウが少し驚いたように言う。……誤魔化すか。
「……こっち向かってきてるし、このままだとライディールが襲われるだろ? 他に人も見えないし、俺達が食い止めて援軍呼べば被害零で行けそうだから丁度いいって言ったんだよ」
即興にしては筋が通っている誤魔化し方だ。
「……そうだな。俺達もライディール魔導騎士学校のSSSクラスなんだ! 俺達だって出来ることはある。……チェイグ、指示を頼む」
自らを鼓舞するかのように宣言したシュウは、先程の戦闘でも指示を出してくれたチェイグに指示を頼んだ。
「……分かった。基本はルクスの案を使おう。オリガ、ゲイオグ、サリス、ルクス、シュウは組んでもいいから少しあれを食い止めてくれ。俺とルナとフェイナはいても接近されて危険に晒されてピンチを招くかもしれないから、援軍を呼びに行こう。アリエス教師やアイリアに声をかければいいだろう。数分で何体いける?」
「「「全滅」」」
俺、オリガ、ゲイオグは堂々とそう答えた。自信しかない。俺はこの時のために今まで鍛えてきたと言っても過言ではない。……絶対に殺す。
「……お前らはそう思っててもな、俺は無理だからな。なあゲイオグ。俺と組んでくれよ。オリガとルクっちはデタラメだからさ」
シュウが居残りにされて、ゲイオグに泣きついていた。……まあ、確かに一人で数体を足止めするのはキツいよな。まあ、俺には関係ないけど。
「……ま、覚悟を決めろよ。足の速いヤツに抜かれたらチェイグ達が死ぬんだ。どうだ?」
「嫌な覚悟の決め方だな。……でもま、やるしかねえよなっ!」
シュウは吹っ切れたかのようにニカッと笑う。……こいつ、後ろに死なせたくないヤツがいるからだろうな。足はガクガク震えてんのに、強がりやがって。
「……じゃ、チェイグ、フェイナ、ルナ。あとはよろしく。こっちはこっちで、やっとくからよ!」
俺は行進を続ける群れに、全速力で突っ込んでいく。
……あいつは俺がーー。
「ぶっ殺す!!」
俺はその言葉に込められた憎しみと恨みとは裏腹に、凄惨に笑って怒鳴った。
そのまま鬼剣を構えてゲドガルドコングへと一直線に突っ走る。はっきり言って他なんざどうでもいい。
しかし俺の狙いなんか構いもせずに一体の魔物が突っ込んできた。……邪魔くせぇ。
「……邪魔だ、消えろ!」
俺は目障りなそいつが振った腕を跳躍して避け、空を切ったその腕に着地して首へと駆けて、首を切り落とす。血飛沫が全身にかかるが、そんなことどうでもいい。今はあの野郎を殺す。ただ、それだけだ。
「ウゴオオオオォォォォォァァァァァァ!」
やっと俺に気付いたようで、ゲドガルドコングが俺に吠えて、突っ込んでくる。おまけの数体を引き連れてだが。
「……おいおい。連れねえじゃねえか。折角てめえを殺せるってのによ!」
邪魔者ばっか引き連れやがって!
俺は邪魔者を連れるゲドガルドコングに怒りを覚えながらも、首を切り落とした亡骸には目もくれず駆け出した。
また一体の魔物が俺に襲いかかってくる。……後ろからもう一体だ。目障りだな。魔物の癖に一丁前に頭使ってんじゃねえよ。ま、全然足りねえけどな。
俺は魔物の幼稚な作戦に少し虚ろを覚えて、だらりと鬼剣を構える。
「……戦鬼剣!」
木の棒にある赤い鬼気の刃の峰側半分が戦気の橙色へと変わる。
気の三融合は難易度が高いとされるが、魔力を持たないが故に人生のほとんどを気に費やした俺には、造作もないことだ。そうすることでしか俺は強くなれなかった。
「……てめえら邪魔なんだよ。まとめて、消えろ!」
両手で柄を握り、渾身の力で横薙ぎに剣を振るう。
剣から赤と橙の波動が放出され、俺に襲いかかってくる一体も後ろにいるもう一体もまとめて覆った。
「……チッ。俺もまだまだだな」
気を三つ融合させたが、どうにも吹き飛ばせない。二体は傷を負っているものの、戦闘には影響を及ぼさないレベルだ。皮膚が硬いのかは知らないが、こんなんじゃゲドガルドコングを殺せない。
「……まあ、遠距離ってのはどうにも性に合わねえ。直接首かっ切って殺してやるからな」
俺は心に渦巻くドス黒い感情をそのまま殺気にして放出し、無差別にばら撒く。