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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第一章
21/163

土竜とのバトル

ルビない土竜はどりゅうです


分かりにくくてすみません

 ドゴォ!


 地面がひび割れする程まで調子が上がってきたオリガが、この辺ではメジャーなモンスター、バイフォンと言うバイソンみたいなヤツを殴り潰した。


 大きさもバイソン並みだが、額に一つ眼があって計三つあり、風の魔法を使うが、風魔法自体を攻撃に使うことはなく、自身の突進スピードを上げるだけだ。だからそこまで強い訳じゃない。


「バイフォンって肉として売れないか?」


「売れると思いますよ。角も売れますし」


「けどま、オリガのパンチでぐちゃぐちゃだぜ? 売りもんにならねえだろ」


 俺とフェイナが話していると、文字通り潰れたバイフォンが横たわっていて、シュウが割り込んでくる。


「……まあ、金儲けは考えずにやるのがいいだろうし、今回は止めとくか」


「そうですね」


 フェイナがクスッと微笑む。……うんうん。最近休まることのない俺にとっては、安らぎと癒しを与えてくれる笑顔だ。来て良かった。


「……そろそろ俺達も戦わないか? あいつらだけだぞ、戦ってるの」


 俺は嬉々としてモンスターを狩る先頭の戦闘バカ二人を眺めて言う。強いせいもあって、他のヤツの出番が一切ない。……ああ、先頭と戦闘をかけた訳じゃないからな? 止めろよ、寒くなるから。むしろ、空しささえ感じられるからな。


「そうだな。でもよ、俺らだったら一人一体でいけるだろ? 連携するようなモンスターって少ないじゃん」


 確かに、シュウの言う通りだ。この辺のモンスターは弱い部類なので、主みたいなヤツぐらいしか連携する必要がない。


 バトルを通じて分かり合うと言うか、バトルの連携で心を通わせると言うか。親睦会を含むこの狩りにはあった方がいいんだが、そんな都合良く主が現れる訳がーー。


「……超偶然。四方に跳べ!」


 俺は偶然に半笑いし、四方に散って跳ぶように怒鳴る。


 全員反応したのはさすがSSSクラスと言った所か。


 もっとも、フェイナは俺が抱えて一緒に後ろへ跳んだんだが。


 サリスはチェイグを押して一緒に左に跳んだ。


 シュウとルナは互いに外側へ跳ぶ。


 オリガとゲイオグは前に跳ぶ


 全員が跳んだ瞬間、今まで俺達がいた地面から、竜が飛び出してきた。


「……」


 土に潜る竜か。土竜もぐらって言う動物がいるが、そんな感じなのかもしれない。まあ、動物はほとんどモンスターに食い尽くされ、残っているのは小動物などらしい。俺は動物に会ったことはないんだけどな。図鑑を持った知り合いがいて、よく見せられたもんだ。


 四本足で立つ竜のようで、前足が異様にでかく発達している。土を掘るためだろう。鱗は茶色く、所々に土が付いている。


 竜と言うよりも、蜥蜴みたいだった。翼がないからだろうか。


「……ふいーっ。サンキュ、ルクっち。にしても、よく気付いたな」


「……ま、気を感知しただけだ」


 感心するシュウに苦笑して返す。褒められても、魔力を苦労せず感知出来るお前らの方が凄い。俺は魔力が低いと感知出来ないくらい粗末だからな。


「あ、あの、ルクスさん」


「ん?」


 脇に抱えたフェイナが声をかけてきた。


「下ろしてください。恥ずかしいです」


 フェイナが恥ずかしそうに顔を赤らめるので、俺はソッと下ろす。


「……ありがとうございます、助けてくれて」


 フェイナは服装を整えながら言った。


「……いや。それより、あいつを何とかしないとな」


 俺は土竜を睨む。飛び出した土竜は俺達の前方に着地し、悠々と構えている。ブレスは竜の代名詞とも言えるが、前足での攻撃の方が危険そうなのは気のせいじゃないだろう。


 地中に逃げられると厄介だが、それは対応出来るな。いけるか。


「んじゃ、即席だけどパーティーとして、あいつを倒すっしょ!」


 シュウが軽く言って、各々が構える。


 パーティーってのは、少数で役割分担をして狩りをするグループのことを言う。基本は盾役と攻撃と魔法と回復ってとこか。


 まあ、防御、近接攻撃、遠距離攻撃、回復を揃えるのが一般的だって話だ。


 俺達即席パーティーは攻撃が多すぎるぐらいなので、分担は自ずと決まってくる。


「魔法で牽制する! 戦士は突っ込め!」


 チェイグが指示を出した。パーティー内で作戦が決まっていない場合や不足の事態が起こった場合、指示出来る司令塔がいると楽になる。チェイグはそれにピッタリ当てはまる訳だ。


 サリス、オリガ、ゲイオグ、シュウが土竜へと突っ込んでいく。


「何故ルクスは行かない?」


 チェイグが咎めるような視線を向けてくる。


「……うるせえな。俺はお前らと違って万能じゃないんだよ。準備が必要なんだ」


 俺は言って、木の棒の柄の先に手を当て、刃があるかのように滑らせる。


「剣気」


 半透明な刃が出来る。


「鬼気、鬼剣!」


 さらに全身に赤いオーラを纏い、刃を赤く染める。


「……それが噂の刃の気か」


 チェイグが感心して言った。他も全員俺に注目している。


「おい! 戦闘中だぞ!」


 突っ込んでいった前衛達まで振り向くってのは、どういう了見だ? 余裕の表れなのか、そんなに刃の気が見たかったのか。明らかに前者だよな。SSSクラスのエリートが、戦闘中に余所見とか余裕の表れだろう。


「分かってる。オリガとゲイオグは前足を破壊してくれ! 追い詰めても逃げられる可能性がある!」


 再び走り出した三人に指示を飛ばす。俺も準備が出来たので、地面を蹴って突っ込んでいく。


「魔法攻撃開始!」


 チェイグは指示しながら、ちゃっかり自分も魔法を発動させていた。


「シャインアロー!」


 光で出来た矢が魔方陣から勢いよく放たれて直線上に飛ぶ。


「アクアボール!」


 水で出来た球が魔方陣から少し放物線を描いて飛んでいく。


「ムーンブレイド!」


 三日月型の刃が土竜の頭上に出た魔方陣から、回転しながら落ちていく。


「シュウ! 前衛で盾を持ってるのはお前だけだ! 正面でブレスや攻撃を受けろ!」


 この中では唯一盾を持っているシュウを盾役に指名する。シュウは最初から分かっていたのか、正面に突っ込んでいた。盾を中心に構え、いつでも来いとばかりだ。


 竜は傲慢な所があり、よく囲まれるのを待ったりする。問答無用でかかってくる戦闘狂と、相手に猶予を与える傲慢がいる。この土竜もそうだったらしい。まだ、攻撃してこない。


「ガアアアアアァァァァァァァ!」


 魔力障壁に魔法は全て防がれるが、先手を与えた竜はやっと動き始める。


 怒っている様子じゃないんだが、「下等生物が、身の程を知れ!」って感じの咆哮だった。


 ドガッ! とゲイオグとオリガが土竜の前足を殴りつけ、しかしオリガの方が浮かせただけだった。かなり堅いようだ。オリガの拳の威力は身を持って知っているため、浮いただけで傷一つ付かない堅さには目を見張るモノがある。


 まあ、低級の竜種ではってだけだが。高位の竜になると、弾かれるまである。


「ガアアァァァ!」


 浮かされた方の左前足を振るう。オリガは横っ飛びで避けるが、地面を抉る程の威力だった。オリガがいくら頑丈とは言え、まともにくらったら無事では済まなかっただろう。


「……面倒な相手だな」


 オリガとゲイオグは全力で前足を壊そうと攻撃を叩き込むが、翼がないからなのか、重量級らしい土竜は前足を浮かせても吹っ飛ばすには至らない。人間なんかがそうだが、オリガの一撃をくらって腕ごと身体まで吹っ飛ばされることは多々ある。俺もやられたし。それはモンスターでも言える。だと言うのに、前足を浮かせるだけなんだから、さすがは竜と言った所か。


「ルクス! サリス! お前達が攻撃の主体だ! サリスは魔法なしでやれ!」


 背中からチェイグの指示が来た。前足はオリガとゲイオグが担当し、頭、ブレスなどの攻撃の防御を担当するシュウ。魔法で注意を引く後衛三人。残る俺とサリスは土竜自身にダメージを与えるための攻撃主体ってことだ。


 役割分担がしっかりしていると、大分戦闘が楽になる。


「……尻尾を殺るか」


 蜥蜴に例えた通り、やけに尻尾が細く長い。先に刃のような突起があるし、攻撃に使われ始めたら厄介だ。


「ぐおっ!」


 土竜の噛み付きを盾でガードし、しかし後ろへ下がるシュウ。


 それを俺はチャンスと見て、跳躍した。


「お、重っ!」


 鎧を着込んだシュウの肩を経由して、さらに跳ぶ。


 剣の峰を土竜の頭に引っかけ、跳んだ勢いを利用して右斜め前に跳ぶ。


 俺は土竜の首に掴まり、何とか着地する。


「……ふぅ」


 なかなか危ない賭けだった。土竜が首を振ったら落ちていた。尻尾を振られたら吹っ飛ばされていた。


「グオォ!」


 土竜は俺が頭に乗ったのが気に食わないのか、尻尾を振って落とそうと攻撃してくる。


 横薙ぎに振っているので、あまり動けないここだと避ける方法は少ない。ジャンプか滑って身体の方へ下りるか。ジャンプは着地出来るか分からないので却下。


 となると滑るしかないんだが、俺は妙案を思い付いた。


 それを実行するため、俺は右の眼前に迫る尻尾を確認して、左へ軽く跳ぶ。そうすることで直撃を受けても衝撃を吸収出来るし、直撃して右腕でがっちり掴み、吹っ飛ばされないように出来る。


「……尻尾、捕まえた」


 衝撃はあまり吸収出来なかったが、思惑通り尻尾に移ることは出来た。


「ぶった切る!」


 俺は右手で尻尾を掴み、左手の木の棒で斬りつけた。


「ガアァ!」


 土竜は怒ったように暴れる。


「うおおおぉぉぉ?」


 俺はぶら下がっているせいで尻尾を振られるままに揺れる。叩きつけられるようなことはなかったので、強化された右手の握力だけで掴まっていられた。


 俺は上下左右に振られても別に酔うようなことはなかったので、いける! と思ったら木の棒を振るって斬りつけていた。空振りすることもあったが、何発かは当てられた。


「破気!」


 俺は鬼剣のまま破気を纏わせ、鱗を破壊しながら斬りつけて、遂に。


「グオオオオオォォォォォォ!?」


 重なる尻尾への攻撃に暴れ続けていた土竜が心なしか涙目になって痛みに叫びを上げる。


「斬ったぁ!」


 俺は土竜の尻尾の先を右手に持って喜ぶ。


「……あっ」


 しかし、尻尾を斬ったのはいいが、尻尾が斬れたせいで俺は宙に投げ出されてしまった。気付いた時にはもう遅く、慌てて受け身を取るが、少し衝撃が残ってしまった。


「ヒール!」


 すかさずフェイナが回復魔法をかけてくれる。おかげで痛みはなくなった。


「……尻尾斬ったのになぁ」


 俺は起き上がって呟く。まだオリガとゲイオグの二人は前足を破壊出来ていない。魔力障壁も依然としてそこにある。サリスが鱗の隙間を細剣で刺して少しずつダメージを与えていた。……技巧派って呼ばれる訳だ。鱗と鱗の間なんて、僅かにあるだけだってのに。


「剣気! 鬼気!」


 そこでサリスが後ろ足を鱗を貫いて突き刺した。また土竜が悲鳴を上げる。


 盾役のシュウは受けるので精一杯だし、攻撃の要ってホントに俺とサリスだけなんだな。


「っ!」


 サリスは気を使えば鱗を貫けると分かったからか、五連突きをお見舞いした。痛みで片足が支えられなくなったため、土竜は転ける。


「今だ! 叩け!」


 チェイグの指示が飛び、前衛は一斉に土竜へと攻撃する。……オリガの一撃を唯一柔らかい腹にくらった時の土竜の苦悶の表情、忘れられないな。


 サリスが転けた時に両目を潰し、土竜は攻撃がイマイチ精度が足りなくなってくる。


「トドメだ!」


 オリガ、ゲイオグ、シュウの三人も攻撃出来るようになったこともあり、土竜が弱り始めた。


 そこでチェイグがトドメのタイミングを見極め、一斉に攻撃する。土竜自身が弱れば魔力障壁も弱まるため、魔力障壁を貫いて魔法も直撃する。


「……ふぅ。勝ったか」


 およそ三十分の戦闘を経て、やっと土竜が力尽きた。

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