まったりな狩り
「ルクっちが名前覚えてないって言うから、簡単に自己紹介しよっか!」
この集まりのリーダー的役目をしているシュウがテンション高く言った。
担任のアリエス教師、門にいる門番に外出許可を貰って南門から外に出る。
少し傾いた太陽の日射しは暖かく心地いい。
低い草が生え、枯れたような木が所々にある荒野が広がっている。見通しがいいので、ちらほらモンスターの影が見える。
「俺はシュールヤ・アレルハルテ。シュウって呼んでくれ。魔法はまあ、風と雷と炎が得意だな。剣も使えるから魔法戦士って訳だ」
先頭を歩くシュウが振り向いて、ニカッと笑いながら言った。
「チェイグ・オルバ・ハールトンだ。理論とかは得意だが、戦闘の方はイマイチでな。おかげで二年も浪人やっちまった。体術なんてさっぱりだが、まあ魔法側だな」
次に、チェイグが笑って自己紹介した。浪人したことを気にもかけていないような自己紹介が意外と好評なんだろう。
「ゲイオグ・ネルミトス・バーヴァだ。理論とかはさっぱりだが、魔法も体術もいける。この体格でいきなり魔法を撃てば、かなり不意打ちになるからな」
かっかっか、と低い声でマッチョが笑う。
「俺はルクス・ヴァールニアだ。魔力ねえし理論もさっぱりだが、気なら自信はあるぜ。ああ、相棒をバカにしたら許さねえからな」
俺も流れに沿って自己紹介する。一応忠告も兼ねておいた。
「あたしはオリガだ。力には自信があるぜ」
オリガは簡単に自己紹介を済ませた。まあオリガは印象に残っているだろうから、簡単でもいいんだろう。
「私はサリス・メイオナ・ジャガンだ。魔法も使えるが、細剣が主体だ。一部では技巧派と呼ばれている。一年浪人しているから、君達より先輩になるかな。ああ、チェイグは別だが」
均整の取れたスタイルと百六十程の身長を持つ美少女だ。紺色の髪は前髪を残して後ろで一つ縛られていて、首までの長さだ。可愛いと言うよりカッコいいが似合いそうな女子だ。終始穏やかな笑みを浮かべていた。
チェイグとは知り合いらしい。……そう言えば、互いにチラチラ見てやがるな。この二人、両想いなんだろうか。ちょっと気になる。
「ルナ・アイナス・ヴェイガ。ちょっと特殊な月魔法ってのが使える魔術師よ。まあウチの言葉で言うと陰陽師ってヤツなんだけどね」
橙色のショートカットに長身でスタイルのいい美少女。快活で明るく、男女関係なく話せそうな、シュウと似たようなイメージを受ける。まあ、軽い感じじゃなく、さばさばした感じだ。見た感じ運動も出来そうなんだが、どうなんだろうか。
「フェイナ・アルラートです。えっと、回復と補助が得意です。体術はかなり苦手で、攻撃魔法も光中心で少ないので、頑張ります」
ベージュ色の肩まで伸ばした髪に、花の髪飾りを付けている。伏せがちで、おどおどした印象を受ける。小柄でスタイルは均整が取れていて、気弱な印象だ。男子が守ってあげたくなる女子、みたいな。
「んじゃ、そこら辺歩き回ってモンスター倒してこうぜ。どーせ瞬殺だろうけど、一応気を付けてな」
シュウはチラッとオリガを見ながら言った。
「ま、今回のこれは親睦会ってことで、のんびりしよっか!」
やけにまったりした狩りになりそうだった。
「……」
何故か自然と男子の隣に女子が並び、二列になった。
オリガとマッチョが先頭で、次いでシュウとルナ、チェイグとサリス、俺とフェイナだ。
何故か俺の方を見てシュウとルナがニヤニヤしているのが気になるが、まあ無視しよう。
「あ、あの……」
俺の右隣を歩くフェイナが、遠慮がちに話しかけてきた。
「ん?」
「……えっと、ルクスさんは、その……」
俺がフェイナに目を向けると、しどろもどろになってしまった。
「……えっと……」
戸惑うように目を泳がせている。
「……?」
「その……フィナさんと付き合ってるんですか?」
ようやく、俺に聞きたいことを口にしたようだ。ほっと息を吐いている。
「いや別に。世話の焼ける妹みたいなもんだな」
確かに教室ではくっついてくるし、理性は危うくなるが、恋と言うより家族愛みたいな感じか?
「……そう、ですか」
フェイナは少し表情を綻ばせて頷く。
「恋人同士に見えるか?」
あれはどう見ても違うと思うんだが。
「……いえ、その、ずっと一緒にいて、仲が良さそうでしたから」
少し慌てた様子で言う。
「まあ、フィナは甘えたがりなんだよ」
俺は色々思い出して苦笑する。
「……そうですね。そうですよね。……あっ。アイリアさんは?」
少し嬉しそうな顔をしていたが、思い出したようにアイリアの名前を出した。
「……アイリアとも別に。アイリアと仲が良さそうに見えるのか? 話したことも少ないし」
「それはルクっちがアイリア様と話してたからだよな。クラスの男子共は全員高嶺の花過ぎて話しかけないって。しかも呼び捨てにするったぁ、仲が良さそうに見えるさ」
前にいるシュウが器用に後ろ向きで歩きながら答えた。
「そう言うもんか? 俺には例え王が相手でも敬語を使わないって言うポリシーがあるからな。それに、俺は田舎の出だから、アイリアのことをよく知らないってのもある」
俺は首を傾げる。俺にとっては当たり前のことだし、天才だと思うし公爵ともなれば近寄りがたいのも頷けるが、気にしない性分だ。
「……うん。ルクっちって、常々思ってたけど、やっぱ変人だよな」
シュウがうんうん頷いて言うと、話を聞いていない先頭の脳筋バカ二人以外の四人が頷いた。……いやいや。俺は変人じゃないぞ。
「……別に変人じゃねえよ」
何で他のヤツも頷いているんだか。俺が変人な訳ないだろう。敬語使わない無礼者で、魔力なくて、気だけがおかしい程に強くて、武器が木の棒で、田舎育ちで、黒い服ばっか着て、多分周りからは戦闘狂みたく思われている。
……。
…………。
そうだな。ちょっと自信なくなってきた。俺って変人なのか?
「あ、あの、怒りましたか? 怒りましたよね? ……うぅ、すみません」
フェイナがおろおろと謝った。
「別にフェイナに怒ってる訳じゃねえよ。俺はハレルーヤに怒ってるだけだ」
「シュウな」
フェイナが異様におろおろしていたので、ついついシュウを生け贄にしてしまう。何だろう、このシュウへの感情は。いい玩具を見つけた時のようなーー。
「……死ねばいいのに」
「そんなに怒ってんの!? いやいや、俺だけじゃないからな!? 他にもフェイナ除いて三人いるからな!?」
俺がボソッと呟いた言葉は無事シュウに届いたようだ。……いい反応だ。シュウはこう言う扱い決定だな。
俺は思わぬ拾い物をしたような感覚で、うんうんと心の中で頷く。