クラスメイト
ライディール魔導騎士学校に来てから早くも一ヶ月が経とうとしていた。
俺もだんだん慣れてきて、大体の日課が決まっていた。
まず、三時に起きる。そこから早朝の鍛練を、人気のない寮の裏の草むらで三時間程行う。
他のヤツらが起きるのは平均が六時らしく、俺が寮内をうろうろしていても不思議がられない。
アイリアは少し早く五時に起きるらしいが、フィナは放っておくと寝過ごしてしまうので、六時に二人の仲の良さ加減によって俺かアイリアが起こすことにしている。
寝坊に限った話ではなく、フィナは一日中ぽーっとしていて、何もない場所で転けたりするので危なっかしい。……運動音痴は関係ない、と思う。
アイリアには早朝にどこで何をしているか聞かれるが、朝風呂と散歩と答えている。特に意味はない。鍛練していることを隠す必要はないが、あれだ。俺なりの意地だ。実は努力家だとか言われたら、何か気恥ずかしい。
六時頃部屋に戻り、汗を流すために朝風呂に入る。……ここでアイリアに気付かれないようにするには、即入ること。風呂で使ったタオルは脱衣場で干してあるため、問題ない。
それから制服に着替えてから朝飯を食いに一階の食堂に向かい、適当に食った後はそのまま教室へ向かう。この辺はどこもあまり変わりない。
授業は理論が五十分、実技が一時間、実験が一時間前後とバラバラになっている。
クラスの中心人物は覚えたが、それ以外が覚えられない。
クラスの勢力図は、アイリア派の女子が多数でオリガが次いで多く、他の超エリートは単体で、親善試合でもメンバーだったサリスと言う女子のグループがあるくらいだ。
男子はチェイグとつるむヤツが多く、自己紹介の時に俺に喧嘩吹っ掛けてきた金髪野郎の少数グループ、名前を覚えているヤツがいないグループに別れる。俺はアイリアと話している時を目撃されたりフィナに甘えられたりオリガと戦闘で心を通わせたりと、男子にも女子にも恨まれ、話しかけてくるヤツはいてもグループには入れなかった。
そんな授業は午前と午後に分かれ、間に昼食タイムが入る。
解散は四時頃になる。その後の予定は基本決まっていないが、部屋に戻ってのんびりしたい。
……残念ながら、ちょこちょことついてくるフィナと、作り笑いに疲れたアイリアの言い争いでのんびり出来た試しがないが。
風呂は七時過ぎ、遅ければ九時とかになる。その後は言い争いが続くか口を聞かないかで寝る時間が決まる。……フィナに俺のベッドに入るなと二人で言い聞かせても、なかなか折れない。ついには、くっつかないと言う条件でアイリアが折れてしまった。いや、俺の問題だけどな?
まあ兎も角、迷惑って訳じゃないが、賑やかで楽しいとも言い切れない、なんとも微妙な生活を送っていた。
「ルクっち! 今日ちょっと狩り行くんだが、一緒に来ねえか?」
今日も授業を終え、寮の部屋に戻ろうかと考えている所に、声が聞こえた。
俺を気軽に呼んで、いきなり肩を組んで男子が言う。
「……悪い。誰だっけ?」
俺は短髪ツンツン頭の軽い雰囲気を持つそいつに、少し首を傾げて聞いた。確か、その誰とでも気兼ねなく話せる性格で、女子にも男子にも、どのグループにも入っていける、世渡りが上手そうなヤツだ。
「ちょっ。ショックだわ~。まだ名前覚えられてなかったか~。俺はシュールヤ・アレルハルテだ。気軽にシュウって呼んでくれ」
言う程ショックを受けてなさそうな笑顔で自己紹介する。
「……で、そのハレルーヤが何で俺を誘うんだ?」
「いやいやいや! ハレルーヤって! 今さっき自己紹介したばっかっしょ? シュウって呼んでくれよ」
今度は割りと本気でショックを受けていたようだ。
「……冗談だ。で、何で俺を誘うんだ?」
俺はからかえたことに満足して、ニヤリと笑う。
「……意外とルクっちってSな。ルクっちを誘う理由は、人数合わせだな! 男子一人足んなくて困ってんだわ!」
シュウは顔の前で両手を合わせて頼んでくる。……男女比合わすって、合コンかよ。
「……メンバーは?」
「俺とルクっちとチェイグさんと、あと最初の実技の授業でアイリア様に吹っ飛ばされたマッチョな。女子はサリっちとオリガっちとフェイナっちとルナっちな」
『っち』ばっかで全然顔が出てこない。『さん』や『様』を付けても軽く感じるのはシュウの雰囲気のせいだろう。
「……。ルクスーー」
フィナが俺に話しかけようとするが、フィナの周りにいた女子グループがズルズルと引っ張っていった。……もしかして、これは画策していたことなのか?
「……はぁ。シュウ、まだあんまり名前覚えてないっぽいルクスに『っち』付けたら余計分からなくなるだろ」
チェイグが苦笑しながら入ってきた。……有り難いんだが、何故か気に障るのはどうしてだ?
「あちゃ~。そっか、まだ顔見知り少ないもんな、ルクっち」
大袈裟に額に手を当てて言う。……おい。
「……てめえこら。バカにしてんのか」
俺はシュウの頭を左手で掴んでギリギリと握っていく。
「いてっ! 痛い痛い痛い! 痛いってルクっち!」
シュウがもがいて呻くので、仕方なく手を放す。
「……それと、ルクっちっての止めろ」
「オッケ、ルクっち! じゃあ行くってことでいい?」
「……ああ」
わざとなのか、俺の言葉を無視するシュウに、頭が痛くなる気がした俺だった。