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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
序章
17/163

連絡事項

「……」


 実技の授業が終わり、再び教室に戻ってきた。


「……それでは、実技用の服を支給する」


「遅いだろ」


 やや躊躇いがちに言ったアリエス教師に対し、俺は即時にツッコんだ。


「……んんっ。忘れていた訳ではない。予定より実技用の服が届くのが遅れていてな。私はちゃんと覚えていたぞ」


 咳払いをして誤魔化すように言う。……その頬が若干赤らんでいたのは気のせいじゃない筈だ。


「ん?」


 俺は前から回ってきたそれを見て首を傾げる。


 制服と同じようにビニールに包まれているのだが、二つだった。


 ジャージと、伸縮性がありそうなモノの二つ。


「……どこかのバカが理解してないようだから言うが、冬に着るためのジャージと、伸縮自在な素材で出来た魔法防御力と物理防御力、さらには耐寒耐熱性にも優れた一品だ。冬もそれで乗り切れないこともないが、念のためだな。あと、それは身体にピッチリなため男子の眼が嫌だと言う苦情が出たせいもある。だが、ジャージは冬のみ着用を許可する」


 アリエス教師が俺を見て話し始める。……俺がバカだってか? まあそれは置いてこう。女子から不満の声はない。事前に知ってのことだろう。


「正式名称を生徒用実技専用武装。一般にはレイヴィスと呼ばれるな。レイヴィス家が発明したモノだからだ」


 まんまな名前なんだな。レイヴィスって呼ぶことにしよう。


「色は各自事前に注文してもらった通りだ。注文をサボったバカは適当に決めておいた。感謝しろよ、ルクス・ヴァールニア」


「……実名出さないでくれよ。自覚してるから」


 バカで一応名前を伏せたのに、実名出したら意味ないじゃねえか。……もしかして、最初の自己紹介の時のことを、まだ根に持ってるのか? なんてしつこい……。


「……まあいい。この先サイズが合わなくなった場合などには私の方に申し出ろ。再注文してやる。金は取るがな」


 あまり珍しい素材で出来ている訳でもないらしい。希少だったら学年全員に支給出来ないからな。


「次回から実技の際には女子は更衣室、男子は教室で着替えてから来い。それと次の連絡だが、授業の時間割りを配っておく。基本この教室で行うが、移動教室の際には事前に教室を確認しておくこと。いいな?」


 アリエス教師の言葉にクラスのほとんどが頷く。俺とフィナとリリアナとリーフィスだけだ。


「では、最後の連絡事項だ」


 ダン、と教卓を叩いて言う。……まだ連絡あったのか。今日はこれで終わるから、早くして欲しいんだが。


「来週、親善試合が行われる」


 アリエス教師がそう言うと、何人かの生徒が喉を鳴らすのが聞こえた。


「親善試合とは、知ってるヤツも多いと思うが、各クラスの一年の最強、二年の中間、三年の最低が戦う行事だ。大体八名程だったと思うが」


 ライディール魔導騎士学校最初の行事って訳か。しかも、いきなり上のヤツらと戦えるんだが、な。


「今考えているメンバーは、アイリア、フィナ、リリアナ、オリガ、リーフィス、イルファ、ルクス、チェイグ、サリスだな。この中から厳選する予定だ」


 納得のいく人選だったのか、反対する者はいなかった。俺が入っていることにも反論はないらしい。


「……なあ。俺、辞退してもいいか?」


 俺は気乗りしないため、挙手して辞退を申し出た。


「……何故だ? お前なら喜ぶと思ったんだが。先程の授業でオリガに痛めつけられた身体が痛む訳ではないだろう? お前のことだ」


 まあ、アリエス教師の言う通りなんだが。


「だって、そんな雑魚と戦って勝った所で嬉しくないんだよ」


「「「っ!?」」」


 全員が驚いたように目を見開くが、そんなに驚くことか? いくら年上と言ったって、中間と最低じゃあアイリア達の相手になるとも思わない。


「……はぁ。お前の無礼さには呆れるばかりだが、事実、お前の言う通りだ。とは言うものの、このクラスとGクラスのみだろうが、勝てると踏んでいる」


 ため息をつき、俺の言葉を肯定するアリエス教師。……いや、教師が肯定するのはどうかと思うぞ。


「アイリアのように魔法、気共に一流で魔導まで至り、しかも使う武器が伝説級ともなれば、この学校でトップクラスの生徒だ」


「あ、ありがとうございます」


 アイリアは戸惑いつつも礼を言う。照れているようで、頬が赤い。


「フィナのように元々優れた種族であり、その中でも秀でた才能を発揮する者はこの学校でトップクラスの生徒だ」


「……」


 肝心のフィナはぽーっと虚空を見つめていた。眠いらしい。


「オリガのように稀なケースは少なく、身体能力の高い生徒はあまりいないだろう」


「……まあ、オーガだからな」


 オリガは照れたように頬を掻く。


「リリアナのように優れた虫を基礎とする亜人も数少ない」


「ふふっ」


 リリアナは妖しく笑うだけだった。


「リーフィスのように優れた氷の使い手はこの学校とは言わず、世界でも屈指の実力であり、この学校一と言える」


「……」


 当のリーフィスはつまらなそうに窓の外を眺めているだけだった。


「イルファのように優れた魔法技術を持った生徒は多いが、薬学にまで範囲を伸ばした生徒は数少ない」


「……ありがとうございます」


 イルファは照れたのか、ぺこっとお辞儀して言う。


「ルクス。お前は無礼でバカだが、気の実力だけは認めていい。体術も人間の身でオリガと渡り合い、魔力も持たない癖に騎士団長に勝ったそれは認めてやってもいい」


 ……何故か俺だけ褒められていない気がするのは気のせいか?


「……だが、それでもトップクラスであり、トップではない。二年は奇怪な能力を使うヤツが多く、三年は圧倒的に強い。劣化アイリアが多くいると思えばいい」


 ……それはやかましそうだな。一人でも面倒なのに。


「……ふぅ。まあとりあえず、お前らは片方に特化し過ぎだ。今名前を挙げたヤツ、相手が開始早々猛スピードで突っ込んできたらどうする?」


「……槍で牽制し、魔法で隙を作って魔導を発動させます」


 とアイリア。


「……爆破の術式で吹き飛ばす」


 とフィナ。


「迎え討つ!」


 とオリガ。


「毒を出して抹殺ね」


 とリリアナ。


「辺り一帯ごと凍らせるわ」


 とリーフィス。


「防御を展開して、小さい魔法を重ねながら隙を窺います」


 とイルファ。


「木の棒で全身滅多打ちにするな」


 と俺が言い、アリエス教師が深いため息をつく。


「アイリアとイルファのみ理論的だな。あとはお前らだから実現出来ると言うか……」


 言って、さらにため息を漏らす。


「まあ兎も角、俺は出ないからな」


「……分かった。他のヤツからメンバーを決定しよう。どうせ魔力ないヤツだからな。外されても不思議には思われない」


 アリエス教師は何気に酷いことを言って、諦めたように言う。


 ……どうせやるなら、三年SSSクラスの最強とやりたい。


 俺は少し憂鬱になり、内心断って正解だったな、と確信した。

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