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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
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助言

 アリエス教師から魔神と俺の出生に関わる重要なことを聞いた後。俺は静まり返った教室でぼけーっと天井を眺めていた。考えることは多いはずなのだが、頭が回らない。謂わば思考を放棄した状態だ。

 途中の魔神に関係する情報を聞いていた時は問題なかったのだが、俺の出自のことが衝撃的だった。俺のこれまでの色々なモノが根底が覆される話なのだから当然か。


 ……俺がこうなるってわかってたから、きっと親父も母さんも直接言いたくはなかったんだろうな。


 だからアリエス教師に伝えて、アリエス教師の口から又聞きさせることにしたのだと思う。


 残りの問題はなぜ魔神アルサロスが封印から解放されたとはいえ俺の命を繋ぐことに協力しているか、だ。いくら親父が強くても魔神に対して強制的に契約を結ばせるほどのことはできないはずだ。

 つまり、魔神アルサロスは自主的に契約を結んだと思われる。もちろん窮屈な封印を解いてくれるならなんでも良かった、という可能性もあるんだが。


「……い、おーい。ルクス、聞いてんのか?」


 俺がぼんやりと考え事をしていたら目の前に急に顔が現れて思わず仰け反った。


「なんだよ」


 目の前のシュウに言うと、呆れたように眉を寄せている。


「なにって、今日の授業終わったぞ?」

「あ? ……そっか」


 ぼーっとしすぎて午後の授業を受けた記憶がない。だが確かに終業の時間になっている。


「ったく。気持ちはわからないでもないんだが、しっかりしろよ」

「なんか用か?」


 聞き返した俺に、シュウは教室の入り口の方に顎を向けた。

 視線を動かすと、教室の外から顔を覗かせているシア先輩がいる。小さく手を振っていた。……なんでこの先輩、こんなに可愛らしい動きが似合うんだろうな。


「なんでシア先輩が?」

「お前、そこも覚えてないのかよ。宿泊学習が終わったら近づくって聞いてただろ? 生徒会戦挙」

「あぁ……」


 そういやそうだった。色々ありすぎてすっかり抜け落ちていた。


「ってことで、頑張ってこいよ。もうチェイグは行っちまったぞ?」

「ああ。じゃあな」

「おう。また明日な」


 シュウに別れを告げて、俺は改めてシア先輩のところに行く。


「悪い、待たせたみたいだな」

「ううん。アリエス教師から大体の話は聞いてたから。それよりホントに大丈夫? 無理しなくてもいいよ?」

「大丈夫だって。それに、会長にちょっと聞きたいことがあったからな。丁度いいしついでに聞いておくか」

「そっか。じゃあ行こっか」


 シア先輩の隣に並んで、生徒会室の方へ向かう。


「セフィア先輩とアンナ先輩は?」

「二人ならもうそれぞれの仕事を体験しに行ってるわ。……というか、なんで二人の名前を出すの?」

「えっ? あぁ、いや。なんか三人一緒にいる印象強かったから」

「ふーん? セフィアとは、朝に二人っきりで鍛錬してるみたいだけど?」


 珍しく、と言うかシア先輩に半眼で見つめられてしまった。……確かに三人一緒の印象があるのにセフィア先輩とは会う機会が多い気もしなくはない。ただ純粋に鍛錬をしているだけなんだが。


「まぁそこは戦い方が近いからな」

「私もルクスと一緒に鍛錬したかったのに。折角知り合ったのに、会う機会があんまりないんだもの」

「生徒会役員になれば必然ほぼ毎日顔合わせることにはなるんじゃないか?」

「それはそうだけど、その時もセフィアとは二人きりで鍛錬するんでしょ?」

「多分……」

「やっぱり。セフィアだけ狡い」


 シア先輩が少し頬を膨らませる。子供っぽい仕草だが、美人なのに似合うのが不思議だ。


「狡い、って言われてもな。互いに強くなるためにやってることだし」

「それ自体はいいのよ。でも、納得はできないわ」


 なんだよそれ……。


「セフィアとは鍛錬してるし、アンナとは最初の時キスしてたし。噂ではエリアーナ先輩やレクサーヌ先輩とも仲がいいらしいし。クラスの女の子とも相変わらず仲良くしてるんでしょ?」


 なんだろう、シア先輩がチクチクと俺のことを刺してくるんだが。


「あの、なんか怒ってる?」

「怒ってません。別に、私とルクスは特別親しいわけじゃないものね」


 やっぱり怒ってるんじゃん。


「えっと……できれば機嫌を直して欲しいんだが」

「別にいいでしょ。ルクスにはいっぱい仲のいい女の子がいるんだから」


 ぷい、とシア先輩はそっぽを向いてしまった。……話しながら考えてはみたが、やっぱり思い当たる節がない。シア先輩は完全に臍を曲げてしまっているわけだが、なにかした記憶はなかった。大体直前まで宿泊学習に行っていたわけで。というか昼休みの時は無事を喜んでくれていたってのに。なんなら教室に来た時は怒っていなかった。となると教室から歩いている内に機嫌を悪くしてしまったわけだが。会話を遡ると一応セフィア先輩とアンナ先輩について聞いた時から、つまり会話を始めた時点からのように思う。

 それがわかっても、なぜそれでという理由まではわからないのだが。


 シア先輩が不機嫌だと困るので、話題を変えてみるしかないか? いや、誤魔化そうとすれば余計に悪化するかもしれない。


「……悪い。シア先輩になにかした覚えがないんだが」

「うん。だって、なにもしてないんだもの」


 ? なにもしてない? どういうことだ? それなのになんで怒ることに繋がるんだ?


「ホントにわからないの?」

「ああ、まぁ……」

「答え、もう言ったわよ」

「えっ?」


 俺は驚くと、シア先輩は苦笑した。本気で怒っていたわけではないのだろう。


「最近ルクスとなにもなかったでしょ? だから、ちょっと拗ねてみたの」


 悪戯っぽい笑みを浮かべたシア先輩が明かしてくれる。


「もしかして、それもあって迎えに来てくれたのか?」

「ううん。それはさっき思いついたことよ。迎えに来たのは、ルクスが来なかったから。会長枠として役員候補の様子を見るのは当然のことだし、それに……魔神のこと、聞いたから。大丈夫かなって思って」


 魔神のこと、か。他の生徒達にはどれくらい伝えているんだろうな。


「そっか、ありがとな」

「これくらい普通のことよ。先輩としても、生徒会長になる人としても」

「そっか。そういや魔神のことってどれくらい聞いたんだ?」

「宿泊学習の時に魔神に襲われたっていうのと、魔神の力を与えられるとほとんどが巨人になって理性を失って操られてしまうこと、魔神の力に適合した生徒がいること、ルクスには魔神アルサロスが宿っていてそれはご両親が行ったこと。要約するとこんな感じね」


 流石に俺の生まれや体質にまでは触れられていないか。一番近いクラスメイトだからあそこまで語られたのだろう。他のヤツに話してはいけないとは言われていないし、俺も別に気にはしない。深い事情まで知ったヤツから勝手に可哀想と思われるのだけは勘弁だが。


「そういや、俺への視線がちょっと変わったよな」

「それはその……魔神がどんなモノか、先生方から説明があったからだと思うわ」


 シア先輩は言いづらそうにしていたが、それでも遠回しに教えてくれた。……それもそうか。魔神は途轍もない力を持った化け物。そんなヤツが俺の中にいると知れば恐れを抱くヤツもいるだろう。シア先輩は元々団体戦の時にいたから知っていたと思うが。


「あまり気にしないでね。魔神のことを知らなかった人達が、ルクスが敵になるかもしれないって不安がってるだけだと思うから」

「あー、それもあったか。まぁ別に気にしてねぇけど。種類が変わっただけだろ」


 最初は魔力のない落ちこぼれ。次は気だけならそこそこの上位。会長との戦いでちょっとは上向きになったかと思ったが。今回の帳消しって感じかね。


「ルクスって、やっぱり肝が据わっているわよね」

「じゃなきゃ魔力ないのにこんなとこ来ないっての」

「ふふっ。そうね、ルクスのそういうところ羨ましいわ」


 バカにされるとわかっていて人の多い場所に行くのは勇気のいることだ。俺はもう気にしてないが、十年前とかだったら絶対来なかった。

 シア先輩は不機嫌さなど一切なく微笑んでいる。そういえば、シア先輩は会長に勝てる余地がないことで悩んでいたんだっけな。俺も一切なにも考えていないわけではないが、そういう意味ではまだマシな方だろう。


「そうだ。これから会長のとこに顔出すのか?」

「ええ」

「なら丁度良かった。会長に聞きたいことがあったんだよな」

「そうなの? ならすぐに行きましょう。会長も最後の仕事として生徒会戦挙を行うから忙しいでしょうし」

「ああ。会長が即答してくれればすぐ終わるだろうからな」


 答えてくれる保証はないが。なんだかんだあの会長は後進育成も忘れていない。わざわざ俺の土俵で戦ったこともそうだろうが。


 というわけで、生徒会室へ到着した。相変わらずと言うか、生徒会の役員を侍らせている。エリアーナ先輩は少しそわそわした様子だったが、俺が来てどこかほっとしていたようだった。エリアーナ先輩も話を聞いて心配してくれていたんだろうか。実際魔神の話があった後に俺が来ないとなればなにかあったと考えるのが普通だろう。実際話を聞いて物凄く動揺していたわけだし。


「あっ、ルクスくん。来れたみたいで良かった」


 会長は素の人格だったのでにこにこと声をかけてくる。……俺の初対面は戦闘時の方だから違和感あるんだけどな。


「おう。生徒会の仕事とは別に聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「? うん、いいよ。通常のお仕事は他の人に任せちゃってるから、時間取れるけど」


 こてんと小首を傾げてから、快く了承してくれた。


「そうか。じゃあ単刀直入に聞くが、王気ってどうやれば会得できるんだ?」


 俺が更に強くなる方法。それは気の中でも特異な気、王気の会得である。王気の特性は他の気の効力を引き上げること。単純に混ぜる気が一つ増えるのも含めて二倍以上の強化を手にすることができるわけだ。


 会長は俺の問いを聞いて目を丸くする。その後、目を閉じて自らの頬を強く叩いた。突然の行動だが、おそらくもう一人に変わった方が説明しやすいのだろう。

 会長が目を開くと、俺にとっては見慣れた目つきの悪い顔がある。


「ようやく聞きに来やがったか、ルクス。俺はてめえがいつになったら王気のことを聞きに来るのかと思ってたんだがな」

「そりゃ悪かったな。俺に取得できるもんか迷ってたからよ」

「だろうな。大体のヤツは王気と聞くだけで取得を諦める。特殊な才能がねぇと会得できないんだってな」

「でもあんたは取得した」

「ああ。だから俺のとこに来たんだろ? まぁてめえを強くしすぎるのは癪だがコツだけは教えてやるよ。折角だ、スフェイシアも聞いてけ」

「えっ? あ、はい」


 俺にだけでなく、シア先輩にも教えてくれるようだ。次期生徒会長の最有力候補だからだろうか。


「王気の会得方法は、一言で言えば“王たる者としての自覚”を持つことだ」


 会長はあっさりと、王気の取得方法を告げた。……イマイチよくわからんのだが。


「バカなてめえにもわかるように説明してやるよ」


 余計な一言つけ加えんな。


「そもそも王気ってのは、簡単に言えば王が持つ特別な気だ。だが王気を会得した中には俺みたいに王族でないヤツもいる。これがどういうことかっつう話だ。結論から言うぞ。王気は王になる素質を持ってるヤツなら誰にでも会得できる。ただこの王ってのが定義しづらくてな。王族はもちろんのこと、人望や能力さえありゃ王になれるヤツもいる。だが逆に、王族でも会得できないヤツがいる」


 総じて王になる素質ってわけか。王族の中の違いを説明するために、最初に戻ってくる。


「わかってきたか? そこで最初に言った自覚ってのが重要になってくるわけだ。事例としては確認されてねぇが、極論言えば人望も能力もいらねぇ。妄想の中の孤独な王様になり切れば王気を会得できるってわけだ。王たる自覚を持ち、王たる信念を貫けばいい。そうすりゃ自然と王気会得への道が開けるってわけだ」


 なんとなく理屈はわかった。だが俺が王になった姿なんて想像もできない。王になったつもりになることも難しい。どうすれば俺が実現できるというのか。


「てめえの中になけりゃ、周りのヤツに聞いてみるこったな。誰かしらはヒントをくれるだろうぜ。もちろん、てめえに人望があればの話だけどな」


 人望か……。なくはない、と思いたいが。とりあえず思いつかないから周りのヤツに聞いてみることにしよう。チェイグやアリエス教師辺りはなにかしらのきっかけをくれそうだ。まずは周囲に聞いて回ってみるが。


「話はそれだけだ。お前が王気を会得して強くなれることを祈ってるぜ。あぁ、ただし庶務候補としての仕事もちゃんとやれよ?」

「わかってるっての。とりあえず、なんとなくは理解した。あと今使ってくれないか?」

「ああ、ほらよ」


 今一度集中して感知したいと思い頼むと、会長はすぐ掲げた手に金のオーラを纏わせた。


 その気の動き、発動の流れをよく覚えておく。


「……わかった。ありがとな、会長」

「おう。励めよ、劣等生」

「ありがとうございました、会長」


 話したいことは終わった。余計な一言と共に見送られて、シア先輩と生徒会室を出る。


「会長が私に聞かせたのって、私にも王気を会得できる可能性があるってことよね?」

「多分な。シア先輩はもう二年の代表みたいなもんだし、人の上に立つ才能があると思われてるんじゃないか?」

「そっか、……うん。“王たる”なんて大それたことは思いつかないけど、考えてみるわ」

「ああ、そうだな。俺もなんか考えねぇと、全然わかんないし」

「ルクスはクラスの子に聞いてみるといいわ。付き合いの短い私達よりルクスのこと知っていると思うから。ルクスなら会得できると思うから、頑張ってね」

「あぁ、シア先輩もな」


 その後はシア先輩から庶務の業務をやっている場所を聞いてから別れた。


 俺が今より強くなるには気の練度を上げるか新たな気を会得するかしかない。王気の効果は絶大なはず。王気があってようやく、あの魔神と渡り合えるようになるだろう。


 立ち止まっている時間はない。少しずつでも強くなっていかなければ。


 今は、目の前のことに集中しなきゃだけどな。

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