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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
160/163

勝ち取った者の権利

 敵のボスに遭遇して怯えるフィナを慰めた翌日。


 俺はフィナを連れてアリエス教師の泊まっていた部屋を出て、クラスメイト達が泊まっているはずの宿屋へと向かう。


「ようやく起きたか、お前達」


 少しむっとした表情で腕組みしながら立つアリエス教師に待ち伏せされていたが。


「ま、まぁこうしてフィナも落ち着いたんだし、大目に見て欲しいんだが」

「にしても、同じ部屋に泊まって仲良く手を繋いで出てくるとはな?」

「はは……」


 俺も直前で放そうとはした。だがフィナにぎゅっと強く掴まれてしまって放せなかったのだ。気恥ずかしいという理由で放したかっただけなので、とりあえずのところは妥協することにしている。


「それで、フィナ。まだ戦えそうか?」

「……ん。大丈夫」

「ならその言葉を信じることにしよう」


 アリエス教師はフィナへの確認を最小限に行う。


「さて、ルクス。お前に一つ確認したいことがある。無事をクラスメイトと喜ぶのは後にして、まずはついてきてくれ」

「ああ」


 アリエス教師に言われてついていく。途中クラスメイト達に声をかけられたのに軽く応えながら、ペインの部屋に辿り着いた。


「入るぞ」


 アリエス教師が一声かけてから扉を開け、中に入る。彼が泊まっている部屋なのだから当たり前だが、ペインがいた。治療してもらったのか怪我も見当たらない。疲労はしているようだが、大事なくて良かった。ただ予想外の人物としてアイリアもいる。


「フィナは……まぁいいか。ルクスを連れてきたのは他でもない。レーヴァテインについてだ」


 アリエス教師が切り出して、アイリアのいる理由を察する。アイリアの親父さんが、確かレーヴァテインの保持者だ。


「まず、レーヴァテインがなくなったということについては話したな? そして今も見つかっていない。――アイリア」

「はい。レーヴァテインの使用者がお父様だという話は聞いてるわね? 私からお父様に確認を取って、お父様が持っているレーヴァテインはずっとそこにあったということが確認されているわ。今もお父様の手元にあるそうよ」


 これでレーヴァテインの使用者が移ったという線は消えたか。


 フィナは途中の話を知らないはずだが、聞いているのかいないのかわからない様子で佇んでいる。


「となると、お前が言っていたペインに注ぎ込まれた魔神の力によって新たに作り出されたモノ、という線が濃厚だ。だがペインを最初に発見した者が言うには、レーヴァテインは既になかった。時刻と照らし合わせてもそう時間が空いていたわけではないが、フィナが捕らえていたという男の姿もなくなっている」

「……ん。ちょっと、逃がした」


 ちょっとどころの問題じゃないはずだが、珍しく言葉を濁していた。アイリアやペインがいるからだろうか。


「それはいい。お前達が生きているのが最優先だ。そして私が調べた限り、ペインの身体からレーヴァテインの気配は感じられなかった。そこで、お前の出番というわけだ」


 アリエス教師は俺を真っ直ぐに見つめてくる。……なるほど。仮にでも魔神を身体に宿しているわけだから、俺ならなにかわからないか、ということか。


「アリエス教師が知ってる通りそこまで上手く扱えたもんじゃないが、やれるだけやってみる」

「頼んだ」


 扱いたて、気とも感覚の違うチカラなのでまだまだ初心者。とはいえ今俺にしかできないなら、やってみる価値はある。

 フィナもようやく手を放してくれて、ペインの方に近寄った。


「手、出してくれ。レーヴァテイン握ってた方の」

「ああ」


 大人しく差し出された右手を掴み、目を閉じて神経を集中させる。俺が真術を行使する時と同じ、魔神の力を辿ってみる――。


 しばらくして、俺は目を開けペインの手を放す。


「なにかわかったか?」

「ああ。魔神の力は、ペインの中に残ってる」

「なんだと!?」

「でもそれはあの魔神の力じゃなくて、ペインの力として定着してるって言うのか? そんな感じだな」

「……俺の力として?」

「ああ。魔神に力を与えられた包帯男は、人の姿のまま真術を使えていた。ペインも同じ状態なんだと思う。だから魔神のヤツはペインがレーヴァテインを作り出したのを見て、成功だって言ったんじゃないかな」

「なるほどな。だが、そうなるとレーヴァテインが消えたのはなぜだ? レーヴァテインが魔神の力によって作り出されたのなら、ペインの中に魔神の力が残っているわけが……そうか!」


 自分で話している内にピンと来たようだ。


「ああ。ペインが得た能力、真術は多分、魔剣やらを作り出すモノなんだと思う」

「そうか。だから、役目を終えたレーヴァテインは力としてペインの中に戻った、というわけだな」

「……理屈はわかんねぇが、事情はわかった。とりあえずレーヴァテインが盗まれたってことはねぇんだな?」

「ああ。多分お前がレーヴァテインを顕現させた時のような感情、イメージで力を使えれば同じように作り出せるはずだ」

「……そうか。魔神の力が、俺に残ってるのか」

「友達を作り変えた力だから複雑だろうが……」

「そうじゃねぇよ、嘗めんな。あいつから貰った力で、あいつをぶっ倒す。最高の喜劇じゃねぇか」


 ペインはむしろやる気を漲らせて、獰猛に笑った。


「ふっ。やる気があるのはいいことだ。もしペインの力がレーヴァテインを作り出すだけでなかった場合、状況に応じて様々な魔剣などを顕現させることができたなら、臨機応変さでは群を抜く。努力は必須だがな」

「やれるだけのことはやりますよ。……眠ってるあいつらの分も、俺が」

「真術については俺が教えた方がいいよな。なら学校に戻った後でやるか」

「ああ、頼んだ」


 ペインのレーヴァテイン問題は割りとあっさり解決した。まぁ、俺の身体に魔神が宿っていて、魔神の力を扱える前提での話にはなってしまうが。


「これで当面の問題は区切りがついたな。やることは山積みだが、急いても仕方がない。宿泊学習も終わっていないからな」


 アリエス教師は笑って告げる。


「……食べ放題」


 フィナのぽつんとした呟きで思い出した。最終日は皆でぱーっと遊ぼうという話だったはずだ。その最終日は、なんだかんだあってなくなってしまっている。既に過ぎ去っていると言うべきか。


「安心しろ。街があんなことになったんだ、きちんと先送りにしている。街の様子も落ち着いてきたことだし、今日これから学年での集会を行う。そこで今回の結果発表や今後の予定について報告させてもらうから、お前達も遅れずに集合するように」

「わかりました。他のクラスメイトには私の方から伝えておきます」

「ああ、任せた」


 アイリアが言うと、アリエス教師は忽然と姿を消した。空間転移で移動時間を短縮したのだろう。


 クラスメイトと話しながら追って連絡のあった集合場所へと向かう。

 班毎に整列しているので、宿泊学習で行われていた班毎のポイント集計の結果も出したのだろう。街が破壊されて大変だったろうに、街の人達も俺達に協力してくれているらしい。今回の襲撃は、明らかに俺達を狙ってのことだったというのに。悪いのは狙われた側じゃなくて襲った側というのをきちんと理解しているのだろう。だからこそ、こうして学校が宿泊学習のために協力してもらっているのかもしれない。


 一学年の大半が整列しているのでかなりの大人数となっているが、そんな俺達の前には壇が設置されており今回同伴した教師陣が並んでいた。


 固唾を呑んで見守る俺達の前で、アリエス教師が一歩前に出る。


「宿泊学習の結果発表などの浮かれた話をする前に、まず話しておかなければならないことがある。――今回の犠牲者についてだ」


 真剣な表情で告げた一言に、場の空気が引き締まった。


「街の住民では死者十一名、負傷者は多数いたが既に大半が完治している。生徒の中には諸事情により離脱することになった者もいる。これがそのまま、今回の騒動で私達が守れなかった人数だ」


 アリエス教師の言葉に、生徒の中には俯く者もいる。悔しさを滲ませている者もいる。当たり前だ。


「これを多いと取るか少ないと取るかは兎も角、守れなかった人の数だけ悲しみや怒りがあることを心に留めておけ。お前達は騎士学校に通う生徒だ。騎士とは即ち守る者。守るべきモノを、忘れず覚えておくように。……敵の襲撃というのはいつだって突発的なモノだ。事前に予告があるはずもない。だが、お前達は迅速に対処してみせた。突如現れた巨人と戦う者、住民を救助する者、避難誘導をする者、負傷者を治療する者、混乱する生徒達をまとめて指示を出す者、そして強敵と交戦した者。やっていたことは様々だが、どれも必要なことで、どれも守るための行為だ。実戦になっても恐れず行動に移せたお前達を、私達教師は誇りに思う。お前達の行動で救われた命があり、守れた人はいる。だから後悔だけでなく、前を向いて精進することを忘れるな」


 最後の方は普段と違って優しい声音だった。落としてから上げるとは、人心掌握の術を心得ている。とでも思わなければ感激してしまいそうだった。というより一部からは啜り泣く声が聞こえてきている。


 アリエス教師の話はそれで終わりなのか、一歩下がって元の位置に戻った。代わりに隣の男性教師が前に進み出る。


「では次に、私の方から。先ほどアリエス教師からあったように、後悔ばかりではなく前を向く姿勢も必要です。今回の騒動で少なからず街に被害が出たため最終日の休息はなしにするという案も出ましたが、実施することにしました。他ならぬ街の方からの要望です。今回の宿泊学習に向けて街の方々には色々な準備をしていただいています。そういった皆で準備してきたモノを台無しにしたくないという思いからの申し出とのことです。そういう気分になれないかもしれませんが、心得ておいてください。人は感情なくして人足り得ません。悲しむ心は必要ですが、楽しむことを忘れてはいけません。楽しむこととは、平和であること。ただ守り勝つだけなら、装置を使えばいいだけの話です。人が戦うことの意味は、そこにあると私は思っています」


 丁寧な口調で淡々と話した彼が一歩下がり、その隣の教師が前に出てくる。


「つまり、お前達が頑張ったことで残ったモノ、ご褒美を存分に楽しめってこったな。宿泊学習最終日に予定してた海水浴なんかは今日この集会が終わった後と、明日もある。あと一つ補足しとくとだな、最初にお前達に発破かけるために言った上位班に食べ放題を、ってのは嘘だ。ちゃんと全員分あるから安心しろよな」


 粗野な物言いの女性教師が言って、驚きと納得が半々の感情で押し寄せてくる。後ろのフィナが「……頑張ったのに」と呟いていたが、まぁ良しとしよう。頑張らせるためのご褒美だからな。


「ただ、そのせいで頑張りすぎちまった班があって生態系が崩れかけたから、来年からは最初から食べ放題確定って言うことになった、ってのは余談だけどな」


 彼女は豪快に笑って下がり、また隣の教師が前に出てくる。順番に話をしていくようだ。

 やりすぎたのは多分後ろにいる食いしん坊さんである。


「では私から、宿泊学習の上位班を発表していきますよ。今回最も多くのポイントを稼いだのは、SSSクラスのルクス班ですね。よく頑張りました。特にフィナさんのポイント数が高かったのが結果に出ていますね」


 おっとりした女性教師が早々に発表した。……嬉しい、のか? 今の話を聞いた後だと一番食い意地の張っている班だと言われているような気がしなくもない。


「二位、SSSクラスのアイリア班。連携を密に取って全員がほとんど差のないポイント数となっている、バランスの良い班だったと思います。三位、Gクラスのゼアス班。こちらも班の全員が満遍なくポイントを稼ぎつつゼアス君が多めに稼いだ結果ですね。Gクラスでは唯一上位に食い込んでいますよ。四位、SSSクラスのチェイグ班。こちらは各自得意なことを活かして依頼をこなしていて、そういった指示を出していたチェイグ君が活躍していた印象ですよ」


 そういった形で上位十班まで発表していった。チェイグやアイリアなら間違いなく上位に食い込んでくると思っていたが、ゼアスの野郎も三位のポイント数だったらしい。聞いたところによると、あいつは人を使うことに長けているようだ。まぁ活躍しようがしまいが、俺があいつを嫌うことに変わりはないんだけどな。

 各班の講評は後々配られるようだ。


 次はまた別の教師が前に出てくる。


「宿泊学習については発表した通りだが、今回突発的な襲撃に伴いその時の行動や成果についても教師陣が評価させてもらった。有事の対応は、これまでの授業や演習で得た知識などが活かされるかどうかが如実に出る部分だ。無論教師のいないところで活躍した者もいると思うが、街の方から聞いたことも踏まえて評価させてもらうとする」


 こちらは班毎ではなく、個人での評価になるようだ。突発的なことだったろうに、よく生徒達のことを見ているのだとわかる。特にチェイグやアイリア、あとゼアスもだが、教師がなにか指示する前に動いていたというところで評価されていたようだ。チェイグはかなり照れていたが俺からしたら当然の評価だ。

 俺はペインとで一番の強敵を退けたということで評価されたが、まぁ実感がないというより油断慢心マシマシのあいつを仕留め損なったので誇る気にもなれなかった。

 ある程度回復に時間はかかると思うのだが、次からは間違いなく本気で来る。そうなった時に対処できないようではダメだ。


 そんな感じで各教師からの話や発表が終わる。


「さて、私達からは以上だ。残り一日と半分くらいだが、思う存分楽しむといい」


 アリエス教師が最後にそう締め括って、集会はお開きとなった。生徒達も解散していき俺はどうするかと思っていたところで、


「おい、ルクスー。折角だし海行かねぇか?」


 シュウに声をかけられた。


「いいけど、お前はよくすぐに切り替えられるよな」

「まぁなー。正直俺もどうしようか迷ってたんだけど、こんな時こそぱーっと遊んでみるのもアリかなって」


 確かに。こういう時シュウみたいなヤツがいると助かるよな。というのは本人には言わないとして。


「じゃあ、そうするか。別にやりたいことがあるわけじゃないしな」


 元々海水浴をするという話はあった。俺はそこまで意欲的なわけじゃないが、準備してきてやらないのもどうかと思う。明日でも良かったが、折角提案されたので乗った形だ。

 というわけで、数人の男共と一緒に水着へ着替えて海水浴をすることにした。


 最初にぱーっと遊ぼうという考えを持ったのは俺達だけでなく、他の連中も同じのようだ。俺達が砂浜に出てくる前からわかっていたが、かなりの数の生徒が来ている。


「流石に人が多いな。皆気分転換をするなら、ってことで海に来てるんだろうけど」

「よく学び、よく遊び、よく鍛える。当然のことだ」

「それにしても、わちゃわちゃしてるけどね」

「……ふん」


 ここにいるのは俺、シュウ、チェイグ、ゲイオグ、レガート、そしてペインだった。ペインはいつも吊るんでいる二人が保管されてしまった形となり手持無沙汰になっていたので、俺が誘った。色々あったが共闘した仲だし、と思ってのことだった。一番びっくりしたのは誘いに乗ったことだけどな。


「丁度六人だし、ビーチバレーでもするか。三対三に分かれてやろうぜ!」

「ってなると俺がいる方が不利になるんだけど……」

「まぁその辺もチーム回してけばいい勝負にある組み合わせが見つかるだろ」


 チェイグだけはあまり身体を動かすのが得意な方ではないため、必然彼のいるチームが不利になってしまう。とはいえ水着になってわかりやすくなったが夏休み前とは打って変わって引き締まった身体になっている。本人が思うほど足を引っ張ることはなさそうだ。むしろ頭を使えるヤツが混ざっているせいでしてやられそうな気がする。


 と、そんな感じで空いていたバレーコート? を陣取り、ボールを借りてビーチバレーに興じていた。


 最初はこんな状況なのに、という気持ちもあったのだが遊んでいる内に段々と楽しくなってきて夢中でビーチバレーをしてしまっていた。

 途中から他のクラスの男子から声をかけられたり、クラスの男子が合流したり、ゼアス達が混ざろうとしたのを断ったりして過ごしていた。……いや、流石にレガートに詫びの一つも入れない野郎を混ぜるつもりにはなれなかった。レガートもあまりいい顔はしてなかったので仕方ないことだと思う。断り方は若干子供っぽかったかもしれないが、まぁいいや。


「見ないと思ったら、こんなところにいたのね」


 男だけでわいわいと楽しんでいたところに、どこか呆れたような声が聞こえてくる。アイリアの声だ。


 振り返ると、そこにはアイリアだけでなくクラスの女子が勢揃いしていた。

 なぜだかそこだけ暑い浜辺の空気が追いやられてしまったかの如く輝いている。近くからも複数の感嘆のため息が聞こえてきた。


 それだけ彼女達に圧倒されてしまっているのだろう。


 アイリア含め、誰もが水着に着替えていた。誰もが素材のいい美少女ばかりなので、そんなヤツが水着を着て勢揃いしていれば当然目を奪われる。


「……ルクス、似合う?」


 おそらく真っ先に食べ放題へ行っていたであろうフィナもいた。白いワンピースタイプの水着だが、胸元は大きく歪んでいる。


「ああ、似合ってると思うぞ」

「……ん。良かった」


 無表情を少し綻ばせて、満足そうにしていた。水着選びには付き合わなかったので初めて目にするがよく似合っている。端的に言えば可愛らしい。


「ねぇ、ルクス。私のはどう? 水着って初めて着るんだけど」


 わざわざ俺の前に歩み出てきて、くるりと回ってみせるのはカエデだ。白いビキニで、胸を覆う布から首の後ろに伸びて支えているような形をしている。恰好を見せるのに回るのはいいんだが、カエデの場合後ろはふさふさの尻尾でほとんど見えないんだよな。ただ回ることで思い切り揺れ動いたので鼻の下を伸ばす野郎共も多かった。


「似合ってるんじゃないか? 初めてにしては割りと思い切ったよな」

「そう? 他の人達が同じような感じだったから、これでいいかなって」

「まぁ似合ってるしいいとは思う」

「そっか、良かったぁ」


 カエデもなんだかんだクラスに馴染めているようだ。

 皆思い思いの水着と髪型をしていることで、よく見かけるヤツでも違った印象がある。チェイグなんかはサリスと照れながらイチャイチャしていた。特徴的だったのはリリアナか。背中を開けておきたいから、とか言って背中側ががら空きの黒い水着を着用していた。どこか大人っぽいというか妖艶さを出している。前部分の臍辺りから真っ直ぐ上に布がないところとか。露出が一番多いわけではないのに目を惹かれるモノがある。


「ビーチバレーやってただろ? 混ぜてくれよ!」

「私はやらないけど、折角だし最初は男女に分けてやったら?」

「そうね。じゃあオリガさんと私と、あと三人は……」

「……やる」

「フィナが? まぁ不足はないわね」

「じゃあ私も。やったことないからやってみたい」

「わかったわ。あと一人、誰かいる?」

「そういうことなら私も参加しようかしら」

「ええ、お願い。これで五人揃ったわね」


 オリガ、アイリア、フィナ、カエデ、リリアナという女子の中でも最強のチームが結成されてしまった。……こんなん勝てないじゃん。


「お、おい。どうするよチェイグ! 女子チームガチなんだけど!?」

「いや、俺に聞かれてもな……。とりあえずルクス、レガート、ペイン、ゲイオグは確定として」

「無謀にも程があんだろうがよ」

「まぁシュウも入れておこうよ。純粋にレシーブ上手かったしね」

「いや相手見て言ってくれよ! 死ぬぞ俺!?」


 失礼な気もするが、事実だ。

 大体万能なアイリア。突然変異が三人。フィナも身体能力が高いのは言わずもがな。


「とりあえず前置きしておくけど、魔法とかの強化はなしでな?」

「ええ、わかっているわ。正々堂々やりましょう」


 チェイグが念のため確認していたが、アイリアがいるなら心配はないだろう。俺達がチームを決めている間、カエデ(とついでにオリガ)がビーチバレーの基本ルールについて説明を受けていた。


 というわけで早速始まったのだが。


「ふっ!」


 サーブ権を取った女子チームのアイリアが、空気を切り裂くような鋭いサーブを捻じ込んできた。単純に上手い。あいつに弱点とかあるのかと思ってしまう。


「オッケ!」


 だが理不尽ではないのでシュウが反応してみせて、綺麗にレシーブした。アイリアも強化していなければただ上手いだけの人間なので、対応はできる。

 レガートがトスを上げて、一番の巨体であるゲイオグが力強いアタックをした。男子六人でやっていた時はこの三人の組み合わせが最もバランス良く機能していたところがある。逆に言えば俺達の必勝パターンの一つなのだが。


 残念ながらリリアナによって完璧に拾われてしまった。


「オリガさん」

「おうよ!」


 向こうはアイリアがトスを上げるようだ。トスが上がったところにオリガが跳び、渾身の力でボールを叩く。彼女の力はゲイオグ以上だ。高速で飛んでくるボールには反応できそうもなかったのだが、運良く俺のいる方へ飛んできたのでなんとか拾い上げることはできた。ただ上げられただけであって方向は悪い。ただレガートが素早く落下地点に入ってくれたので、ペインへと綺麗にトスが上がった。ペインは相手の穴を突くようにボールを叩き落とすのだが、飛び込んできたリリアナに拾われてしまう。……リリアナの機動力が高すぎるんだよ。夏休みラハルさんの下にいたからか、より地力が上がっている気がする。


「カエデさん、お願い」

「うん」


 アイリアが高めにトスを上げて、カエデが跳ぶ。本人は楽しそうだが、振り被る様子を見てぞっと寒気がした。


 マズい、と思った時にはもう遅い。全力で叩かれたボールはオリガのそれとは比べ物にならないほどの速度で飛来、丁度そこにいて構えていたシュウの腹部を直撃した。と同時にボールが破裂してシュウの身体が後方へと吹き飛んでいく。余りの衝撃波に砂埃が舞い、シュウのいた周囲は地面が波打っているほどだった。


「「「……」」」


 唖然として倒れたシュウを見やる俺達。


「あ、あれ? ごめん、ボール割っちゃった。次からはもうちょっと手加減するね?」

「あぁ、うん。よろしく。あと救護、お願い」


 審判を務めるチェイグが苦笑しながら言って、観戦していた方へとシュウの治療をクラスメイトに頼む。フェイナが向かったので大丈夫だろう。


「……で、男子チーム一人減ったわけだけど、誰か入る?」


 チェイグの問いかけに、誰もが目を逸らすのだった。……だよな。


「あーっと、俺がシュウの代わりにレシーブやるわ」


 レガートは状況を見てトスを上げてくれるし、ゲイオグのパワーは攻撃に活かしたい。ペインに頼むよりは自分がやった方がまだ勝機がある。というわけで俺がレシーブをやることにした。強化はしないが気から動きの先読みはできるわけだし、多少なり有利にはなるだろう。


 というわけで先制した女子チームとの試合が再開されたのだが。


 ゲイオグという第二の犠牲者が出たことで形勢は一気に不利になっていく。


 ゲイオグのいるところにカエデのアタックが来て、直撃はしたが威力を弱めてくれていたので身体で受けて跳ね返してみせた。のだが、跳ね返ったのが相手コートだったのでオリガに打たれ、体勢を崩しながらも身体で受けたことでぶっ倒れてしまったわけだ。意地は見せてくれたが、一人減ったのが大きすぎる。

 基本的にはリリアナという機動力の高すぎるレシーバーがいるので、俺達の攻撃は点になっていない。それでも相手の間を狙ったり、フェイトをかけたり、レガートがトスするフリをしてネット際に落としたりして点数を稼いでいたが。

 遂に相手のプレッシャーによってレガートまでもが離脱してしまう。残るは俺とペインの二人だけ。絶望的な状況だ。

 なんとか粘ってはいるが、相手の点数が重なっていくだけ。敗北は確定していた。


「……なぁ、ルクス」


 そんな中ペインから声をかけられる。


「ん?」

「油断し切った魔神との戦いの方が、まだマシだな」

「ははっ、そりゃそうだ」


 なんなら、今回一番の死闘である。しかし、俺達二人は魔神との戦いという絶望的な戦力差をひっくり返した。ここで諦めるわけにはいかない。


 俺のサーブ。あまり動こうとしないフィナの範囲でありながら、少し動かないと取れない位置。緩く取れそうな感じでボールを打った。なにかを狙ってのことではない。とはいえリリアナの完璧レシーブを避けるために何回かやっている手だ。リリアナのレシーブ精度が高すぎるので、位置取りを崩すなら別の人に取らせる必要がある。

 フィナが歩いてボールの落下地点に移動する、その途中で。


 フィナがずるっと足を滑らせて、仰向けに砂の地面へ倒れ込んだ。取れなかったボールがぽてん、とコートを跳ねていく。


「「「……」」」


 久し振りに見た、フィナの転ぶ姿。呆気に取られている中で砂塗れの顔を上げる。


「……っ」


 少し涙目になっている気がしなくもない。駆け寄り、屈み込む。


「だ、大丈夫か?」


 フィナは無言で首を振った。


「……シャワー」

「あ、ああ。シャワー浴びて綺麗にしてこないとな」

「……一緒に行く」

「えっ? ……すまん、ペイン」

「はあ!?」


 フィナに頼まれてしまったので、俺がフィナを抱えてシャワーのある方へ向かうことにした。……残されたペインは、カエデ本気の一撃を受けて吹っ飛んでいったという。


 俺達が戻った時には、皆でわいわいと楽しくビーチバレーに勤しんでいた。さっきまで試合をしていた四人は休んでいたが。


「元気なことだ。だが、お前達はそれでいい」


 俺がいない間に、アリエス教師まで来ていたようだ。レースのついた黒いビキニ姿で、ベンチとパラソルを使って優雅に寛いでいる。容姿は子供だが大人びた恰好をしているのがアンバランスだな、と思うが口にしたら危ない。


「……ルクスは泳がないの?」

「ん? ああ。まぁ、泳がなくてもいいかな。さっきまで運動してたし、休憩しようかと」

「……わかった。じゃあここにいる」


 シートの上で座り込んだ俺の上に、フィナが座る。普段と違って水着なので不用意にこういうことはして欲しくないのだが、フィナだから仕方がないと言い聞かせた。


「隣、失礼するわ」


 俺の隣にリーフィスが座る。ひんやりとして空気が漂ってきて心地良かった。


「ビーチバレー、参加しなかったよな」

「ええ。改善はされてるけど、動くの苦手だもの。それも魔力を使えないとなれば尚更よ」

「折角だから、やってこればいいのに」

「あそこに混ざるよりも大事なことがあるのよ」

「そうなのか?」

「ええ」


 よくわからなかったが、多分日差しが暑くて影響が出るのだろう。氷と深く関わっているので可能性はある。


 そうしてその日と最終日、一日半もの間俺達は頑張った褒美を謳歌して、楽しく過ごしたのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


 一方。


「……」


 思わぬ敗走を強いられた魔神インフィニトルは、一週間を要して再生した母体から瞬時に身体を形成し直した。以前と変わらぬ姿で今は、跪いて頭を垂れている。


 理由は簡単。目の前に彼らのボスである、黒衣に仮面の者が立っているからだ。


「……申し訳ありません。油断を、しておりました。つきましては襲撃の失敗の原因は全て私にあります。如何なる処罰も受ける所存です」


 言い訳のしようもない。本気を出していたなら勝てていた、というのは事実ではあるが実際そうならなかった以上は言い訳でしかない。なのでこうして跪き、敬愛すべきボスの声を待っているのだった。


 ――必要ない。油断しなければ勝てていたのは当然だ。でなければ負けるはずがない。そうだろう?


「は、はい。次こそは必ずや、仕留めてみせます」


 あの場にはアリエスがいた。だがそれを差し引いても殲滅できるだけの力が、魔神インフィニトルにはあった。それでも敗走したのは力を出し切らなかった。それは信用であると同時にプレッシャーでもある。


 ――惜しい子を失くしてしまったが、想定の範囲内。彼らにぶつけた戦力は魔神以上でなければ削られてしまうと考えていい。


 アリエスの足止めを企てた時点で、ある程度殺されることも考慮されていた。本人も自覚はしていた。ただインフィニトルが他の者を皆殺しにした後なら生存の確率もあったのだが。


 ――それと、魔神ブレイディスが計画を成功させた。


「良い報せですね。彼に任せていた計画が成功すれば、我々の戦力は大きく拡大します」

「ということは、そろそろ動くってわけですか」


 インフィニトルと一緒に跪く一人、包帯男が言った。仮面が頷きを見せると、その場がどよめく。いよいよだという高揚のどよめきだ。


 ――計画は次の段階へ移行。そろそろ人の時代を、終わらせよう。


 仮面の者の言葉が全員に伝わり、その場にいた者達から雄叫びが上がる。


 水面下で動いていた敵が、表に顔を出す時が近づいていた――。

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