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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
158/163

一方その頃

 ルクスとペインが魔神インフィニトルとの戦いを繰り広げている最中のこと。


 包帯男をあっさりと戦闘不能に追いやったフィナは、それはもう厳重に捕縛した後見張るように立っていた。

 なぜ一番の強敵である魔神との戦いに臨んだルクスに加勢しなかったのかは、相手が魔神だからという理由になる。フィナが魔人として生まれた以上、魔神には敵わない。そういうモノだからだ。そういった枷から解き放たれる術はあるかもしれないが、今のフィナにはどうしようもないことだった。


 加勢に行って足手纏いになるのは本意ではない。なによりルクスがただでは死なないとわかっているからこそ、信じて他を手伝うしかなかった。


 だからフィナは捕縛した男が逃げられないようにしている。魔神によって巨人へと変化してしまった者達は、おそらく生徒達だけで充分だ。一年生とはいえ半年も学校で鍛えられた身。それも大勢いるとなれば苦戦はしない。

 それに、アイリアやカエデもいる。巨人は強いが、他にも頼りになるクラスメイトがいる以上勝てないことはないだろう。


 それに、フィナであれば魔神相手でさえなければ真術すら見破れる。ルクスほどではないが、ある程度の耐性を有していた。


「……」


 アリエス教師すら騙す認識改変の真術。そんなモノを使う相手を見張れるのは、フィナだけだ。それをちゃんと理解した上で、彼女は見張りをしていた。


 ぼーっと突っ立っているように見えても、フィナの感覚は周囲全てに及んでいる。魔力も気も、何者も近づけさせる気はない。味方なら兎も角、敵であれば当然。


 だが、フィナは敵の接近を許してしまった。


「っ……!!?」


 油断はしていなかったはずだが、なぜかそいつはフィナの視界に現れる。そいつを見た瞬間、フィナの全身に途轍もないプレッシャーが圧しかかった。息も、瞬きすらも許されない。背筋が凍りつく。


 ――こいつは、次元が違う。


 フィナはライディールにおいても屈指の強さを持っている。ともすれば大戦の英雄達の足を引っ張らない程度には、現在でも強い。実際に彼らの戦いを見て、魔神の存在を知り、それでも尚。

 目の前の黒い人物は、桁が違っていた。


 奇妙な仮面で顔を覆い、黒衣から出ているのは黒い靴と黒い手袋のみ。黒衣がゆったりしているせいで体型はわからない。だが身長は二メートル近くあった。


 フィナはかたかたという音が鳴っているのを聞く。自分が震えているからだと気づき、恐怖を感じていると理解するのに更なる時間を要した。彼女にとっては初めての感情。不安や悲哀こそあれど、ここまでの恐怖を感じたことはなかった。相手がどれほど強かろうと、強さ故になんとかなると思っている部分はあったのだが、それを遥かに上回っている。


 ――魔人か。魔人が人里にいるのを見たのは、いつ振りか。


 口が動いているかは仮面で見えないが、直接頭の中に届いているような声だった。声からすると、おそらく男。だが性別という人の区切りで計れるような相手でないことはわかった。


「……だ、れ」


 絞り出すような声で問いかける。


 ――声を出す余裕があるか。


 なんの関心もなさそうでありながら、感心したような雰囲気はあった。


 ――だが知る必要はない。今回もただの見物。インフィニトルの手腕を眺め、眷属を回収するのみ。


 なにを言っているのかフィナにはわからない。だが眷属というのが先ほど捕らえた男を指しているのはなんとなくわかった。


「……っ」


 なら自分がすべきことは、男を回収させないこと。敵わないとわかっていても手の内を明かさせるくらいは、と術式を使うべく魔力を練り出した。こうして無謀とわかっていても挑めるくらいの強さは持っている。だが今は、それが仇となった。


 ――無謀。無駄。無意味。魔力では。


 声が無色でなければ、おそらく落胆を表していただろう。フィナが体内を巡る魔力を練って術式にする前に、魔力が彼女の制御を離れて暴走し始める。


「……ぁ」


 どう操ろうとしても言うことを聞かない。魔力が乗っ取られた――否、始めから自分のモノではなかったような感覚。


 次の瞬間、フィナは暴走した魔力によって身体に影響を起こし、全身が血を噴いて倒れ伏す。


 薄れていく意識と視界の中で彼女が最後に見たのは、黒い者と包帯男が忽然と姿を消したところだった。

 だがそれ以上は意識を保つことも許されず、自らの血溜まりの中で気を失うのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


 一方、今回の宿泊学習において一番の実力者であるアリエス教師はと言えば。


「……チッ」


 敵によって足止めされていた。

 忌々しげな彼女の視線の先には、赤紫色の肌をしたやけに腕と爪の長い男が立っている。逆立った白髪と赤い瞳。どこか暴れ出した巨人と同じ雰囲気を感じるが、この男にはきちんとした理性があった。


「無駄だ、無駄無駄。お前の能力じゃ、お前が契約してる悪魔じゃ、俺のこの結界は破れねぇ」


 そう、今アリエスは結界と思しき禍々しい黒の檻に閉じ込められ、男と二人その中で戦っている。戦っているとは言っても空間を操るアリエスにとって、結界など取るに足らないモノのはずだったのだが。


「私の能力を対策して、封じ込めたわけか」


 どうやっても結界の外に抜け出すことはできていなかった。

 加えて、街全体の空間を把握していたのだが、一切わからなくなってしまっている。


 ……私を封じ込めたということは、時間稼ぎが目的か。私を封じている内に生徒達に危害を加えるつもりか。


「考え事か、余裕だなぁ!」


 男が高速で飛びかかり鋭く長い爪を振るう。が、アリエスには届かない。自身と周囲の空間を僅かに遮断することで、一切の攻撃を届かせないようにする。アリエスが誇る防御能力の一つである。なので先ほどから攻撃してきている男をガン無視して外に出ようとしていたのだが。


 ……どうにもならないか。とすると、こいつを倒して結界を解かせた方が早いな。


 なんの焦りも抱かずにそう判断すると、アリエスは全方位を回りながら攻撃してきている男へと、無造作に手を振るって鎖を放つ。だが流石に動きが速い。生徒で言えば本気のリーグぐらいの速さはあるだろうか。


「ようやく俺と戦う気になったか。そうこなくっちゃなぁ!!」

「お前と戦う? バカを言うな。私とお前では、戦いにならない」


 笑う男に対して、腕組みをしながら挑発的に告げた。


「ふざけたこと言ってんじゃねぇ――っ!!?」


 怒りを露わにして襲いかかろうとした男の身体は、ぴくりとも動かない。


「私がただ脱出だけを目指しているとでも思ったか? 脱出の糸口を探しながらこの空間内を掌握し、お前の動きを封じることなど造作もない」


 不敵な笑みを浮かべた彼女は、見た目が幼い少女であってもやはり、大戦で最も活躍した英雄の一人なのである。


「さて。お前には色々と聞きたいことがある。手短にお前達組織の情報を――」

「誰が言うかよ!! ……やっぱりてめえらは一筋縄ではいかねぇってことか。なら俺もとっておきを使うしかねぇなぁ。――真術を行使する(イクスゼート)

「なに……?」

「ヌァ・リグネレイト」


 男は魔神と同じように真術を発動すると、アリエスの中で違和感が発生する。


 ……なんだ? 掌握したはずの空間が、私の手を離れている。


「なにされたかわからねぇって顔だなぁ」


 顔を顰めた彼女に対して、男は笑う。


「時を操る能力、単純な話だろ? 結界内の空間をてめえが掌握するまでの状態に巻き戻したってわけだ」


 得意気に振舞っているが、アリエスには男の言葉が嘘であることがわかっていた。

 彼女は空間と弱体化の鎖を操るだけでなく、時を操ることもできる。でなければ彼女はどうやって自らの衰えを止めたというのか。


「見え透いた嘘はやめておけ。私の得意とする時空間操作においては無駄なことだ。今の事象は巻き戻ったんじゃない。突如として空間の掌握がなくなった。大方、時空間への干渉を無効化しているか、それとも私が掌握する前の空間に上書きしたか」

「ま、騙せるわけもねぇか。当たりだよ、過去の英雄サマ。俺が持っている力は時空間への干渉を無効化できる。つまり俺は、てめえの天敵ってわけだ」

「それが本当なら、わざわざ私が空間を掌握するのを待たずとも良かったモノを」

「てめえの驚く顔が見れただろ?」

「性格の悪いことだ」


 男の言葉を全て信じたわけではないが、実際に結界に対して時空間への干渉はできなくなっている。時間操作で結界を抜ける方法も試してみたが、できなかった。


「ってことで、てめえは俺に勝てねぇってわけだ!」


 男は勢いを取り戻して襲いかかってくる。……もし本当に時空間への干渉を阻めるなら、アリエスが誇る空間遮断による防御もあっさりと貫いてくるはずなのだが。


「……」


 アリエスはなにもせず攻撃を受ける。だが、空間遮断は正常に機能していた。男の凶器な爪は寸前のところで停止している。


「だから、てめえの能力は俺には効かねぇって言ってんだろ! ヌァ・リグネレイト!!」

「……チッ」


 寸でのところで止まった爪が当たる僅かな間に遠くへと移動して回避した。アリエスが攻撃を避けることなど滅多にないことだ。


「やっとてめえの顔から余裕が消えたなぁ」

「ふん。お前こそ、随分と悠長なモノだな。だがどうやらお前の能力は、真術を発動しないとどうにもならないらしい。しかも発動後に私が空間の距離を短縮して移動できたということは、発動した瞬間にしか私の時空間操作を打ち消せないということだ」


 ニヤニヤする男だったが、アリエスの言葉に眉を顰める。


「お前の強さは魔神に匹敵するモノではない。とすると、魔神の力を得た元人間か」

「そうだ、俺は人間だよ。……わかっちゃいたが、強くなったからこそ理解できる。てめえらはマジモンの化け物だなぁ。強さと引き換えに適性を偏らせたとはいえ、てめえは元がその強さだ。異常だよ、てめえは」

「……ほう? 随分と珍しいな。私が元々時空間以外も扱えていたことを知っているとは」


 アリエスは少なからず感心していた。

 彼女は自らの衰えを止めるために、全盛期の幼い頃の状態で自らの時間を止めている。元々時空間操作の適性はあったのだが、自分自身で停止させ続けるのは難しかった。故に時間操作に長けた悪魔を探し出し、アンナのグリモアにすら記されていない彼の悪魔を当時のアリエスはボコボコに叩きのめして脅迫し、主従契約を結ばせている。

 ただし、契約した都合上その悪魔が持っている能力に適性が偏ってしまったのだ。


 アリエスは元々有名だったのだが、殊更有名になったのは悪魔と契約した後の話だ。彼女がほぼ全ての魔法を網羅できていたということを知らない者は多い。


「俺らのボスは全てを見通している。あの方に敵う存在はいねぇ」

「ならそのボスが自ら出張ってこればいいモノを」


 男の言葉に呆れを返す。


「あの方は試してるんだよ。俺らや、てめえらをな」


 男が「あの方」と呼ぶ時に込められている感情は崇拝と呼ばれているモノだ。ただそれだけ祀り上げられておきながら直接敵であるアリエス達にちょっかいをかけてくることはない。なにが目的なのか、何者なのか、アリエスにも見当はつかなかった。


「随分と信心深いモノだな。仮にお前がここで死ぬとしても、お前を助けないには来ないと?」

「来ねぇよ、あの方は。俺の存在意義はてめえへの対策。負けた時点で用済みだ」

「随分と虚しい信仰もあったモノだ。愚かな」

「子が親を信じるのに理由なんていらねぇだろ。それと同じだ。俺はあの方に創られたんだからよ」

「……お前の口からは興味深い言葉しか出てこないな」

「当たり前だろ。てめえらは俺達のことをなにも知らねぇ。あの方に挑むことがどれだけ無謀なことかってのもなぁ」

「そこまでの存在なら、是非とも正体を明かして欲しいモノだが?」


 アリエスの言葉を受けて、男の笑みに嘲りが混じる。


「てめえはあの方を知っているはずだぜぇ? いや、てめえだけじゃねぇ。誰一人として、あの方を知らねぇヤツはいねぇ」

「なに?」

「最大のヒントだ、過去の英雄サマよぉ」


 ニタニタと笑う男の態度は気に食わないが、そんなことよりも敵の首魁の正体が大事だ。アリエスの頭ではいくつもの可能性が浮かんでは消えていっている。


 ……国王陛下。いや、違うな。もっと大きい。こいつは今、「誰一人として」と言った。この言い方からすると、国どころではない。世界単位か? だとするならどこかのバカを除いて、私達を知らぬ者はいないはずだが。ただこいつはもっと上に見ている。それが信仰心含めだと考えても、いやそうか。だからこその“信仰”。


「……まさか、お前達のボスの正体は」

「おっと? いっけねぇな。頭の回りが速いヤツ相手にベラベラ喋っちまったよ」


 なにかに勘づいた様子のアリエスを見て、しかし男の中に一切の焦りはなかった。むしろある程度察してもらうためにヒントを与えたようだ。だが一体なんのために? アリエスの思考はぐるぐると回り続ける。


「でよ、てめえ。俺から情報を聞き出すっつってたけど、てめえにそんな猶予があると思ってるのか? まさか、自分が時間を操れるからってどうとでもなるって思ってねぇよな?」

「なんだと……?」


 僅かに動揺したアリエスを追撃するように、男は言葉で揺さ振ってくる。


「てめえが理解してる通り、俺の結界はてめえの時空間操作を受けつけない。となると街の状況やどれくらいの時間が経ったのか、結界の外の様子がわかんねぇってわけだ」

「なにが言いたい」

「だからさ、例えば俺が、この結界の外側に、更に術をかけてたとしても、てめえはわからねぇんだよなぁ」


 男の笑みを見て、背筋がぞくりと凍る。男の言う通り、アリエスの能力は結界外に届いていない。彼女が結界に囚われている内になにがあっても、彼女にはわからない状態だった。そして例えばの話、結界の外側から時間の流れを遅くするように術を使用していたとしたら。これまで大した時間が経っていないはずなのに、結界の外では何時間か経っている可能性もある。


「貴様……!!」

「ははっ! 頭の回転が速いってのも考えモノだよなぁ。因みにだが、お前は認識できてなかっただろうけどよ、ここに魔神が来てるんだわ。俺とは桁違いに強い、なぁ」

「私をここで足止めしている理由はそいつか!」

「そういうことだ。俺がてめえを抑え込めば、後はガキ共だけ。喜べよ、過去の英雄サマ。てめえは魔神にすら警戒されてるってわけだ。良かったなぁ」

「貴様ら、私の生徒に手を出して無事で済むと思うなよ! 魔神諸共ここで倒してくれる!」

「負け犬の遠吠えってヤツかぁ? 気分がいいねぇ。俺もただ時間稼ぎしてたわけじゃねぇからよ。ヌァ・リグネレーラ」


 アリエスの激昂など、男にはそよ風ほども感じない。その上で真術を発動、空間操作が無効化されていなかったが、相手の周囲だけは無効化されてしまう。先ほどのモノとは違って持続的な無効化が行われていた。


「時間を無効化するだけに、スロースターターってなぁ。これでてめえの防御はないも同然。さぁ、死んでもら――っ!!?」


 男が嬉々としてアリエスに襲いかかろうとしたその時、男は驚愕して別の方向を勢いよく振り返った。


「……嘘、だろ……? 嘘だと言えよ、インフィニトル!! てめえが、てめえがなんで、敗走してやがんだ!!?」


 男にとっては想定していなかったことが起きたらしい。信じられないモノを見る目で遠くを見やっている。

 男が動揺してくれたことで、アリエスにも冷静さが戻ってきた。


 そして、考えられる可能性はただ一つ。


「……どうやら、私の優秀な生徒が貴様らの予想を上回ったようだな」


 彼女の口元に不敵な笑みが戻る。


「大方そのインフィニトルとやらが例の魔神か? 皆殺しにする前に情けなく敗走とはな。この調子なら、貴様の崇めるあの方とやらも大したことはないらしい」

「てめえ……!!」

「これで後は、私が貴様を倒せばいいだけか」

「時空間操作に適性偏った今のてめえじゃ、俺には勝てねぇんだよ!! てめえは、てめえだけは俺が殺してやらぁ!!!」


 男がアリエスに襲いかかる。だが無効化は男の周囲にしか発動していないことがわかっているので、空間を転移し続けて回避していく。


「逃げたっててめえに俺は倒せねぇ!!!」

「そうか? なら、少し話をしてやろう。私の全盛期が十歳だというのは知っているか? ライディールの学校に入った時点で、私はどう足掻いても衰えていた。そこで私は悪魔と契約して自らの身体を十歳の時のままに固定、全盛期の力を保ち続けている」

「だからなんだってんだよぉ!!」


 絶え間なく回避を続けながら、アリエスは語る。教師となった癖だろうか。


「ここで問題だ。もし私が十歳に全盛期を迎えずただただ成長し続けていたとしたら、どうなっていたと思う?」

「はぁ!? んなもん知るかよ!!」

「思考放棄は成長を止める。学ぼうとしなければ知恵はつかない。……今からそれを、見せてやる」

「なに言ってやがる! ホントのてめえは衰えてったんだろうが! そうなってねぇ自分になるってのは簡単なことじゃねぇ! そんなモノ、時空間操作じゃなくて因果律の操作じゃねぇか!!」

「なんだ、ちゃんと理解しているじゃないか。よくできたな、褒めてやろう」

「ふざけてんじゃねぇ!!!」


 男は凶暴、考えなしに見えてちゃんと思考をする。アリエスの言葉もきちんと聞いている。だからこそ、まさか本当にという考えは捨て切れない。

 なにせあの方が明確に「異常」と表現した内の一人だ。なにをしてきても不思議ではなかった。


「生徒達に見られていないのが幸いだな。大人になると服も破けてしまうから、少年少女には刺激が強すぎる」


 アリエスの身体に紋様が刻まれて光り出す。


 その後、男は一瞬で無惨な姿へと変えられていた。原型を留めていないほどぐちゃぐちゃになった男は、地面に力なく横たわっている。


「おい、アガレス。そいつは時空間に関する能力を持っている。喰っていいぞ」


 アリエスが声をかけると、虚空から現れた大きな口が男の身体を呑み込んでいく。


「……、……!」


 もう声を上げられないほどとなった男は口に呑み込まれ、咀嚼されて生涯を終えるのだった。


 その後結界は消滅し、アリエスは自室へと転移して着替えると、元の場所に戻る。


「まずは生徒の安全確保だ。……なんとかなったとはいえ、私の失態。英雄などと呼ばれ続けて驕りが出たか。愚かなのは私の方だな」


 空間把握を実行し直しながら、彼女は自らの反省点を並べて自嘲した。


 それから状況把握に努めた彼女は、事態が収束に向かっていることを確認しながら全生徒が無事かどうかを確認していくのだった。

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