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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
156/163

前哨戦

 俺がペイン達の下に駆けつけた直後。


 ペインに助けを拒まれた瞬間、彼の右手から黒混じりの紅い焔が溢れ出して、そこから黒を基調とした剣が現れ出でた。


「これはこれは。予想外でしたが、成功しましたね」


 魔神と思しき青年の言葉が聞こえる。……成功? ペインのことを言ってるのか? 傍にいる二人の巨人は……多分ペインと一緒にいたヤツらだな。ペインが成功ということは、失敗もあるってことだ。つまりなにかに失敗するとあの巨人になってしまうってことか? だが成功したというペインが持っているあの剣は確か、覚えがある。


「……魔剣・レーヴァテイン」


 アイリアが持つグングニルなどと同等の特殊な武具。その一種だ。煉獄の焔を操る剣で、特殊な武具の中でも上位に位置づけられている。

 しかしグングニルと違ってどこかに封印されている、という話はない。誰がどういう時に手にするのかは不明らしく、様々な文献を漁った俺が知る限りでは一切書かれていなかった。


「おや、知っていましたか。特殊な武具のいくつかはこのように、魔神の持つ力が形を持つことで構築されます。尤も、ここまでの魔剣が顕現するケースは稀ですがね」


 柔和な笑みを浮かべた青年は、俺の呟きに対してそう答える。……確かに、さっきまで戦っていたあいつは真術を使ってはいたものの特殊武具を持っている様子はなかった。身体に巻きつけた包帯は普通の包帯ではないようだが、とはいえグングニルのような絶大な力は持っていなさそうだ。つまり、魔神の力に適応できたとしてもそれを魔剣などに昇華できるかは本人次第というところなのか。

 魔神の力で魔剣などを量産する、みたいなことはできないのだろう。それができたら、こいつらはこんな回りくどいことをしない。量産して装備を整え、全軍を以って攻め込んでくるはずだ。


 貴重な情報だが問題はそこではなく、ペインが力を制御できるかどうかの部分だ。果たして今のこいつがこっち側なのか向こう側なのかは、俺にはわからない。魔神らしき蟲野郎は敵だが、ペインはどうなのか。


「ペイン! お前は……どっちだ?」


 俺が実際に見たわけではないのだが、魔神は相当な強さを誇っている。あの後文献で多少調べたが、俺一人では敵わない。もしヤツに反抗する意思があるなら、協力して欲しいところだ。「俺に助けられたくない」とは言っていたが、俺が助ける側の人間ということであれば敵ではないはず。……と思いたい。


「俺は――」

「ペイン!! 凄い力じゃないか! その力で一緒に、皆殺しにしよう!!!」


 ペインが答えるよりも早く、暗い紫色の巨体の一人が言った。どこか嬉々とした様子からは、元が学生だったとは思えない異常さを感じる。……魔神の力ってのは精神にも作用するのかよ。ってことは、やっぱりペインもそうなのか? だが、操られているような雰囲気はない。クソ、ペインのことをなにも知らねぇから信じていいのか悪いのか判断つかねぇな。


 だが、俺のそんな考えは杞憂だったと言っていい。


「ふざけんな! いくら強くなりたいからって、目的を履き違えてんじゃねぇよ!!」


 心から怒鳴った様子を見て、どこか安心した。ペインはまだ、道を間違えちゃいない。


「ほう? では我々に反抗すると? あなたに力を与えたのは私なのに」


 だがこれで、ペインはヤツに敵として認定されてしまった。表面上は穏やかだが、あの野郎は全身に殺意が漲っている。手を伸ばせば届きそうな距離にいるので、かなり危険だ。


「……誰がお前らなんかに手ぇ貸すかよ。こういう事態を、想定してなかったわけじゃねぇんだろ!!」


 ペインは青年へ告げると、レーヴァテインに焔を纏わせ上段から振り下ろした。焔の斬撃が青年を襲う。


「いきなり襲いかかってきますか。ですが、敵と判断したら即攻撃というのは正しい判断ですね」


 だが青年は一切傷ついていない様子で炎を掻き分けた。それを見たペインは舌打ちしながら後退する。


「なにやってんだ、ペイン!」

「俺達を強くしてくれた恩人だろ!?」


 そこに巨人となった二人が殴りかかってくる。


「お、おいっ! やめろよ!!」


 敵意を見せていたペインだが、友人二人に襲われては戦意も削がれてしまうらしい。回避しながらも攻撃する様子はなかった。だが巨人の身体能力はかなり高いようで、彼にも余裕がない。

 そこで、俺だ。

 俺は内功を発動したまま片方に肉薄すると、跳び上がって顔面を殴りつけ吹き飛ばした。


「おい、お前! そいつらは――」

「わかってる。けど躊躇してなんとかできる強さじゃねぇぞ」

「……クソッ」


 様子を窺うように動きを止めた二体と、奥にいる魔神。レーヴァテインを手にしたとはいえ、ペインと協力しても厳しいかもしれない。いや、他のクラスメイトが集結しても魔神に敵うかどうか。せめてアリエス教師が来てくれれば、状況は変わるんだが。


「助けるにしても、あの状態じゃどうにもならない。一旦大人しくさせるってことでいいよな?」

「……それ以外に選択肢がねぇんだろ」

「ああ。それに、操られてるにしてもあのまま街を襲うようなことがあれば確実に人を殺すぞ。……そうならないためにも、ここで止めないとな」

「わかってる。けど、お前の助けはいらねぇよ。さっきも俺一人でなんとかなった」

「はいはい。わかったから、ここは共闘といこうぜ」


 友人が道を誤った時、それを止めてやるのが友人の役目だ。だが俺は二人の顔と名前もあまり覚えていない。ペインがやるべきことだ。本人もそれを望んでいるだろうし。


 これまでまともに話したこともない俺達だが、今は別だ。肩を並べて巨人と対峙する。


「これはいい余興になりそうですね。お手並み拝見と参りましょう」


 あいつの態度をどこまで信用していいモノかわからないが、手出しはしてこないらしい。……あいつが本気を出せば、大勢の人達を殺せたはずだ。それをしなかったということは、なにか狙いがあったはず。とりあえずは放っておくしかない。参戦しないならこちらにとっても好都合だ。


「足引っ張るなよ、ルクス」

「当たり前だ。そっちこそ慣れない魔剣使ってへばるなよ」


 言い合って、俺達は巨人との戦闘を開始する。

 巨人の戦闘能力はまだ未知数だが、黒気を使った俺と同程度の身体能力を持っている。格闘しか見ていないが、特殊な能力も持っているかもしれない。


 巨人の拳を避けてから攻撃。こちらの方が身体能力が高いので余裕を持って対処できている。斬った時にどんな影響が出るかわからないので、打撃で弱らせるしかないのが厄介なところだった。


「くっ!」


 だから俺はなんとかなっているが、ペインはやはり苦戦しているようだ。直接斬れないので、レーヴァテインから放つ焔だけで応戦している。それでもどれだけ威力が出るか、どれだけ傷を与えるかわからないためかかなり抑えて戦っているようだ。……当たり前か。俺も知り合いの誰か、例えばチェイグが同じような状態になったとして、遠慮なくぶん殴りはするが斬ることはできない。ましてペインはレーヴァテインをさっき手に入れたばかりだ。


 とはいえ。


「……面倒だな」


 殴っているだけでは倒れたり怯んだりするだけで、倒すことができない。かなり強く殴って傷を与えてもすぐに再生してしまうようだ。このままだと俺達が消耗するだけで勝負が着かない。まだこの後に厄介なヤツとの戦いが控えてるってのに。

 俺はちらりと、一向に手を出す様子のない魔神の方を確認する。薄っぺらい柔和な笑みを浮かべて俺達の戦いを眺めている。


 ペインがレーヴァテインを扱うのにどれほど消耗するかわからないので、早々に二体の巨人を倒す必要がある。そこで俺は考え方を変え、攻撃方法を変更した。


「はぁ!!」


 跳び上がると同時に巨人の顎に拳を叩き込み、脳を揺らす。顎が例えば多少ヒビ入っても再生するが、脳震盪を起こせば意識を失わせることができるのではないか、と思ったためだ。

 効果があったのか、純粋なダメージよりも大きく巨体がグラついた。……これならいけるか? さっさと一体目を気絶させて、ペインの方にいかねぇと。レーヴァテインの焔じゃ気絶させるのは難しい。


 体勢を崩した隙を見逃さず、鳩尾に拳をめり込ませる。人体を基にしているからか人体の急所は効くらしく、苦悶の声を上げて身体をくの字に折った。そこで頭上まで跳び、渾身の踵落としで後頭部を強打する。ずずんと倒れ込む巨人。……白目を剥いて気絶してるな。やっぱり殺さずに倒すにはこういう方法がいい。

 もう一体も格闘に慣れている俺が倒した方がいいだろう、とペインが戦っている方を見る。


「流石にこの程度の相手なら簡単に無力化しますか」


 乾いた拍手が聞こえたかと思うと、魔神が俺の方を見ていた。


「では、もう少し力が注ぐとしましょう」


 魔神が右手をペインと戦っている巨人へ向けたかと思うと、ヤツの手の甲がぼこっと盛り上がり盛り上がりが蟲になって飛んだ。俺が割って入る間もなく、高速で飛んだ蟲は巨人の体内に入り込む。


「グ、オオォォォォォォォォォッッッ!!!」

「な、なんだ!?」

「てめえ、なにしやがった……?」


 咆哮で大気を震わせる巨人に戸惑うペインと、魔神を睨む俺。


「力を更に注ぎ込むと言ったでしょう? そのままの意味ですよ」


 変わらぬ笑みを浮かべた魔神の前で、巨人の身体が更に膨れ上がっていく。五メートルほどだった全長が十メートルまで高くなり、元から丸太のような太さだった手足が大木のようになっている。暗い紫色だった肌も段々と明るくなって終いには赤色に近くなっていた。


「だ、ダイン……!?」

「無駄ですよ。元々自我などないような状態でしたからね。私の力に呑まれてしまっています」

「てめえ……!!」

「ペイン、待て――!!」


 いけしゃあしゃあと抜かす魔神にペインが憤るが、今警戒すべきはそっちじゃない。だが俺が制止するよりも早く、赤の巨人はペインに対して拳を振るっていた。


「がっ!?」


 魔神を注視していたせいで反応が遅れたペインは巨人の拳を諸に受けてしまい、高速で吹き飛んでいく。近くの家屋に突っ込んだのだがそのまま複数軒建物を貫通していった。突然のことで頭は追いついていないが、明らかに深いダメージを負っているのが見えた。ペインも多少なら回復が使えるはずだが、意識を保っているかも怪しい。深手を負ったまま放置するわけにもいかないが。


 俺がペインに声をかけるよりも早く、巨人は俺の背後に回っていた。俺は振り返る間もなく上から叩きつけられた拳によって地面と一緒に下に沈む。


「ぐぅ……!!」


 なんとか両腕を上げて受け止めたが、踏ん張っている足が震えている。先ほどまでとは比較にならないほどの力だ。だが黒気を併用するにはまだ集中する必要がある。戦闘中には発動できない。

 問題は、俺が全身の力を使っているのに対して相手が腕一本の力しか使っていないことだ。


 突然上からの力が弱まったかと思うと拳が引かれて、次の瞬間にはもう片方の豪腕が横薙ぎに振るわれる。


「クソッ!」


 なんとか防御は間に合ったが、踏ん張ることはできずに足が地から離れてしまう。勢いよく吹き飛ばされて家屋に激突しそうになったが、無理矢理身体を捻って屋根の上を擦るに留まった。だが迫ってくる気配を感じてすぐに屋根を足場に跳び上がる。


 直後、巨人の拳でその家屋どころか周囲の家屋ごと粉々になった。……化け物め。


 巨人は俺を確実に狙っているらしく、吹き飛ばされた勢いを利用しながら家屋の屋根を飛び移っていく俺を追ってきている。残念ながら速さは向こうの方が上だ。かと言って黒気との併用を発動できるだけの時間はない。いっそのこと派手に吹っ飛ばされて時間を作るというのも手だが、それでも攻撃の手を緩めなかった場合やペインを狙われた場合を想定すると選択肢にはできない。


 そうこうしている内に追い詰められ、俺は街を覆う壁まで着いてしまった。壁を足場にしたところに巨人が肉薄してくる。咄嗟に上へ跳んだ瞬間、轟音と共に外壁の一角が崩れ去った。


 だが巨人はすぐに上の俺に向かって手を伸ばしていて、捕まってしまう。


 掴まれただけで怪力によって骨が悲鳴を上げたが、思い切りぶん投げられたことで完全にへし折れてしまった。体勢を立て直すこともできず別の壁まで一直線に激突、肺が潰れたかと思うような衝撃を受けて、崩れた壁と共に地面に落下した。


「……クソったれ」


 活気で回復するまでの間、俺には憎まれ口を叩くことしかできない。活気がなければそこで意識を失っていただろうが、幸いなことにまだ戦える。身体が動くようになってから起き上がると、悠々とした様子で巨人が歩いてきているのが見えた。……有利故の余裕か、それとも魔神の指示か。どっちにしろムカつくな。


「だったらてめえのその余裕、ぶっ壊してやるだけだ」


 俺は有り難いことに待ってくれている巨人を倒すため、内功と黒気の併用を準備する。できれば魔神との戦いまで取っておきたかったが、出し惜しみして死んだんじゃ意味がない。


 だが俺と巨人が対峙している中、突如として黒混じりの焔が噴き上がり巨人を包み込んだ。


 はっとしているところへ、ざりざりという足音が聞こえてくる。そちらを見なくても気の感知でわかってはいたが、視線を向けた。

 そこには傷だらけではあったが怪我を治療したらしいペインが立っている。しかも、赤を基調として黒のラインが入った全身甲冑を身につけた状態で。


「……ペイン」


 しかも躊躇なく焔で巨人を焼いている。巨人は暴れて焔を消そうとしているが、一向に消える様子がない。……あれがレーヴァテインの持つ焔の効果の一つ、消えない焔か。

 全身甲冑は武器錬装――通称武装と呼ばれるモノだろう。窮地に追い込まれた結果、使い手を守るためにレーヴァテインが補助したとか、開花したとか、そういった感じだろうか。なんにせよ心強い。


「おい、ルクス」


 そんなことを考えていると、ペインが俺を呼んだ。


「そいつは取っとけよ。これはあくまでも前哨戦だろうが。……俺が足止めをしてる間に、あいつを気絶させてくれ。俺の力じゃ、燃やすか斬るかしかできねぇからな」


 ペインから俺と協力するように話を進めるとは、意外だったので目を丸くしてしまう。


「……なんだよ、その顔。ふざけてないでさっさとしろよ。そう余裕はねぇんだからな」

「悪い。わかってる、任せたぞ」

「当たり前だ」


 睨まれてしまったので表情を引き締めると、焔に焼かれ苦しむ巨人へと肉薄した。黒気との併用はせずに内功のみだ。燃えて継続的にダメージが入っている状態なら多少なり動きは鈍くなるはず。無論、ペインもそれを狙っているのだろう。


 俺の接近に気づいた巨人は消えない焔に焼かれながらも迎撃態勢を取った。ただし先ほどまでの強さは発揮できていない。動きも俺より少し速いくらいにまで抑えられていた。


 気の流れを読み取って相手の動きを予測する。仙気の応用だ。格の差が開きすぎていると通用しないが、少し上であれば充分力の差を覆すことができる。

 レーヴァテインの焔は燃やす対象を選べるという。ここは友人を助けたいであろうペインを信じて躊躇なく攻撃するとしよう。


 巨人の振り下ろした右拳を避けて更に接近する。体格差が大きくなったので近づけば近づくほど相手は拳を振りにくくなる。空いた左手で横薙ぎに払われるのを屈んで逃れると、今度は右脚を振り上げてきた。多少弱っているとはいえその威力は建物を吹き飛ばして余りある。間近で巻き起こる突風に顔を顰めながらも飛ばされないように踏ん張って難を逃れた。……ここだ。


 絶大な身体能力を得た代わりに理性を失った巨人は、格闘技も体術もない。故に蹴り一つ取っても動作だけを見れば隙だらけだった。


 俺は素早く巨人の真下に滑り込み、体勢を低くして残った左脚へ足払いをかける。巨体故に重いが、蹴りをした時の重心の置き方がしっかりしていないため蹴りの威力さえあれば足払いをかけることができる。足払いにしては強い蹴りによって巨人の身体が宙を舞った。だがこのままでは俺が巨体の下敷きにされてしまう。

 そこへ新たな焔が飛んで巨体を僅かにズラし、俺は余計な傷を負わずに済んだ。ずずんと仰向けに倒れる巨人に対して、起き上がる前にさっさと決着してしまおうと考え足の間から頭へと跳んだ。


「大人しく寝とけ!!」


 俺は上から顔面に向けて拳を叩きつけ、後頭部を地面にめり込ませる。強化のせいでタフさも上がっているだろうが、負担の少ないように腕にだけ鬼気の赤いオーラを纏わせていた。黒気との併用はまだまだ改良の余地があるが、黒気でない単体の気とであれば一時的に使用することもできる。内功での戦闘時に外功を併用することも、できなくはなかった。ただ黒気のように気を混ぜる場合が難しいというだけ。

 その甲斐あって巨人は白目を剥いて気絶する。


 これで、残るはあの魔神か。巨人になったヤツを人間に戻す方法も聞き出したいところだが、そう簡単にいく相手かどうか。


「流石ですね。かなりの力を注いだというのに、あっさり倒してしまうとは」


 いつの間にか近づいていた魔神が、変わらぬ笑みを浮かべて言ってくる。……皮肉か? 危うく死ぬとこだったんだぞ。


「後はてめえだけだな。てめえを倒せば二人や他のヤツを化け物にしてる力が消えて、元に戻るんだろ?」


 ペインはレーヴァテインの切っ先を青年へ向けて好戦的に告げた。


いいえ(・・・)


 だが魔神は柔和な笑みを浮かべたままに、否定する。


「なんだと……?」

「彼らは私という魔神が定義した“新たな人類”。元の姿なんてモノはありません」

「なに言ってやがる……!!」

「あなた方にわかりやすく言いますと、魔神というのは今も存在している神の一種です。尤も神は三種しか存在していませんが。その神が新たな人として彼らに力を与え、魔神の力を得た人類として世界に情報を書き込んだのです。新たな人類に、魔神の力を注ぎ込まれた人間という情報はありません。こう言えば伝わりますかね?」


 憤るペインの様子も意に介さず説明する。……つまりこの巨人達が人間に魔神の力を注いだからこうなったという現象を無視して、元からこういう生き物だったという風に定義したってことか? 言っている意味はなんとなくわかったが、本当にそんなことができるのかという疑問は残る。


「ふざけんな! 二人を元に戻せ!!」

「こうなってしまっては私でもどうすることもできません」

「てめえ……!! てめえがやっておいて、なにふざけたこと抜かしやがる!!」


 怒鳴るペインだったが、魔神に効果があるようには思えない。


「――ただの人間風情が、煩いですね」


 柔和な笑みは変わらないのに、声だけは底冷えするほど凍てついていた。あまりの変わりように激昂していたペインも口を止める。


「あの御方に言われて丁寧な口調を心がけてはいますが……。やはり物腰が低く見られてしまうせいか、あなたのように弁えない人間が多い。実に、腹立たしい」


 自らを神と名乗るようなヤツだ。亜人とは違って、人の上に在る存在だと思っているのかもしれない。俺が知る魔神は、俺の中にいるというアルサロスのみ。魔神が人をどう思っているかなんて知ったこっちゃなかった。


「ここであなた方を殺す予定はありませんでしたが、生かす理由もありません。一つ、身の程を教えてあげましょうか」


 魔神が右腕を掲げると、ぼこぼこと波打って無数の蟲が出現する。……気の流れから見るに、体内の蟲が出てきたんじゃなくて産まれてるって感じか。無数の蟲で身体が構築されてるってんなら、怪我を負わせることもできないか。


「ペイン。消耗してるだろうが手ぇ貸してくれ」


 異常までの強さを持つ魔神と戦うのに、一人では心許ない。俺は全身甲冑を纏うペインに近づく。


「当たり前だ。これまで好き勝手やってくれた礼に、ぶっ倒してやる」


 ペインがレーヴァテインを構え、俺は木の棒に刃の気を纏わせた。


「かかってきなさい。少し、遊んであげましょう」


 自分が負けるとは一切思っていない様子の魔神が言って、俺とペインはほぼ同時に突っ込んだ――。

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