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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
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接触現場

 宿泊学習も五日目に差しかかった。


 俺達だけじゃなく、全体的にこの街に慣れてきた雰囲気がある。

 それは街側もそうだった。


 街でも活躍が目に留まりやすいヤツは有名になっている。あと見た目がいいヤツとかな。見た目がいいとどうしても目立つから、注目されやすい。「あの可愛い娘誰なんだろう」みたいな感じで。


 特に生徒会長とまではいかないものの学生にしては異常な強さを誇っているSSSクラス上位のヤツらは早々に有名になっていった。


 街で見かけることは少ないものの既に冒険者として活躍している人ですら苦戦するような難易度の依頼を淡々とこなしていくフィナ。通りかかった人達の間ではちっちゃくて可愛い程度の評価だが、冒険者界隈では途轍もない強さを誇るとして話題になっているようだ。同じような理由でカエデも話題になっているが、フィナはカエデと違って特に身体的特異性がない。魔人はあまり人間と違わない見た目なので、一体何者なんだという不思議が噂を増長させているのかもしれなかった。

 あまり戦闘しているところを見かけないというのも好奇心を煽るのだろう。……そういえば最初に会った時、魔人であることを好ましく思っていなかったような気がする。種族で忌避されていたのかもしれないし、なにかあったのかもしれない。


 こうしてよく考えてみると、俺は皆のことを詳しくは知らないんだな。


 カエデの過去は知っているが、他のヤツのことはなにも知らない。まぁ周りが強いから自分のことしか考えられないくらい余裕がなかったというのもあるだろうが。


 ともあれ。


 反対に俺とかの場合は嫌な意味で有名になってしまった。あの妙な男のせいだ。

 大戦が誇る唯一無二の英雄の血を引く、魔力のない出来損ない。


 周りからひそひそ言われているのが聞こえてしまうと、慣れていても心に来る。気にしても持っていないモノは持っていないのだから仕方がないと言い聞かせるぐらいしか対策がない。

 周囲からの多大な期待を裏切っておいてなにも気にせずいられるほど神経が図太くはないのだった。


 もちろん、俺が望んで裏切ったわけではないのだが。


 その点アイリアは上手くやっている。周囲の期待は大きいが、本人の努力も凄まじい。


 ひょんなことから同室になってしまったが、偶に悩んでいる姿を見かけていた。ただ教室などでは一切その様子が見えないため、周囲に応えられる自分であろうと努力を重ねているのだとわかる。

 全てを持って生まれた彼女に思うところがないわけではないが、あれはあれで大変そうだとも思うので羨ましくはなかった。


 俺は一応、魔力がないからという理由で弱くても責められないからな。甘んじる気はないとはいえ。


 今は皆のことよりも人間主義と思われる集団の方を問題視すべきだろう。

 皆とは宿泊学習が終わればゆっくり話せるわけだし。


 アリエス教師に話したことで、少なくとも牢獄に囚われた連中はキツい監視の中にある。特に異質なアリエス教師にも正体が見えないあいつは個別の牢屋に入れられていた。少なからず相手の思惑からは外れていると思っているが、どうだろうか。一つ気になっているのは、あいつが俺に正体を見られていると知ってもなんら動揺していなかったことだ。隠し通すつもりだったら俺にバレた時点で多少焦りはするだろう。それがなかったということは、俺がアリエス教師に言って牢屋を分けられるところまで掌の上なんじゃないかとも思えてくる。


 ……クソ。よくわからん騒動のこともそうだが、薄気味悪いな。なにが狙いなのか、なにに繋がっていくのかが全然わからない。もしかしたら意味なんてないのかもしれない。


 考えても無駄なことはわかっている。ここ最近ずっと自分に言い聞かせているが、考えないのは難しかった。


 一応俺の中でも街を回って依頼をこなしている最中に怪しい物事がないか気にしてはいた。


 そんな時のことである。


「ん……?」


 街全体に気の感知を使い続けて、街に妙な気配を持ったヤツがいないか、牢獄にいる連中が動いていないかをずっと探っていたのだが。

 ふと気になることがあった。


 今回同じ班になった唯一の男子、ペインが学生以外のヤツと裏路地で接触しているのを感じ取ったのだ。


『……あいつには気をつけて』


 フィナからの忠告が頭の中で蘇ってくる。……まさかな。


 別にペインが街の人と接しているだけなら、怪しむ必要はない。ペインの他にもうちのクラスメイトがいるようだ。今回も一緒に依頼をこなしているらしいので、ただの依頼という線も考えられる。


 懸念なら、それでいい。


 一応どこにいても強化した獣気で五感を強めれば優れた聴覚で聞き取ることもできるかもしれないが、遠すぎると聞こえすぎて逆に不便なこともある。ある程度近づいてみるか。


「……」


 クラスメイトを疑いたくはない。だが現状の薄気味悪さが少しでも軽減されるなら、調べてみるべきだ。


 気配を消し、ペイン達のいる裏路地に近づく。魔力を持たない俺が気を感知されないようにすれば、下手に物音を立てない限り気取られないはず。


 人目がないことを確認して二十メートルは離れた家屋の壁に背を預けて適当な紙を広げた。急に接近したのがバレるとマズいかもしれないが、こうしてある程度の距離で止まって獣気を発動すればなんとかこっそり盗み聞きはできると思う。

 気を使っている時はオーラを纏ってしまうので、通りから一歩入ったところで壁に凭れている。そうすれば通りから見えない方の耳に獣気を纏っても外からはバレない。念のためだが、どこに敵の目があるかわからないからな。


 通りから見えない方の左耳に獣気を纏って聴覚を強化し、耳を澄ませる。


 雑音も多く拾ってしまうが、集中して聞き分けていくことでようやく聞こえてきた。


「――計画は以上だ」


 だが、丁度話し終わったタイミングだったらしい。知らない男の声がそう言うのが聞こえた。


「合図を確認したらすぐに行動を開始しろ。いいか、忘れるなよ。牢獄の連中が騒ぎを起こすのが合図だ」


 やはりと言うか、今囚われている連中の仲間のようだ。そいつとペイン達が話しているということはつまり……疑惑が確信に変わった瞬間ということになる。


「……」


 だが問題はここで取り押さえるか、それとも泳がせるかである。まだ情報を聞けるかもしれないので待つが。


「そんなに何回も言われなくたってやるさ。そうしないと、どうせ命はないんだろ?」

「よく立場を理解しているな。お前達が学園の者達に情報を流さないか監視する意味を含めてのモノだ」

「けどこれがあれば……圧倒的な強さを手に入れられるんですよね?」

「ああ、もちろんだとも。そのために与えられたモノだ。――いざという時、力を心から強く欲した時に呼応して強さが手に入るようになっている」


 なんの話だ? なにかのアイテムを与えられて、それがあれば監視と強さが両立される? そんな怪しげなモノのためにあいつらは協力してるって言うのか? いや、それだったら命はないという話はしないはず。望む望まずの判断がつかないな。


「それは効果を発揮するまで魔力も気も一切発しない。“孵化”した時にはもうお前達は今までのお前達とは違う」

「……っ。これさえあれば、あいつらを見返せる……!」


 ペインの友達は力が手に入ると知って嬉しそうだ。……今の様子からすると、なにか心の隙を突かれて唆されたって感じか? 本当に力を与える気があるのかすら怪しい。冷静な判断ができる頭なら、連中の企みに加担することはないはずだ。利用されるだけ利用されて、切り捨てられるのがオチである。


「本当にこれがあれば強くなれるんだろうな? 俺達は成功例を見てないんだ」

「当たり前だ。あのお方に間違いなどあるわけがない」

「……そうか」


 今のところペインが一番冷静に話を進めている気がする。だがなんらかの計画に加担しているのは間違いない。冷静そうだからと言ってまともだとは思わない方がいいだろう。


「さて、無駄話はこれで終いだ。あまり長くお前達と話していると怪しまれてしまうからな。お前達も精々、合図があるまでは下手な行動をするなよ」

「わかってますよ」

「ならいいがな」


 もう別れてしまうようだ。……どうする? すぐに取り押さえるか? いや、下手な行動を起こして三人が即死……なんてことになったら取り返しがつかない。そうならないためにも、今は様子を見るしかないか。

 せめて相手の顔くらいは覚えておきたいな。


 俺は解散する三人と一人がそれぞれどの方向に歩いているか気で覚えておく。大事なのは一人、敵側の男の方だ。


 俺は何気ないフリをして街の通りに出ると、人混みに紛れて同じように通りに出て平然と歩いている男をさり気なく確認した。


 ……一応戦える人っぽいな。気と魔力はそれなりだ。両立して戦えるくらいには鍛えてそうではある。見た目は四十代くらい。口髭を蓄えた男性だ。行商人らしき恰好はしているが、確実に商人の風格じゃない。気におかしいところはなさそうだ。こいつもあの三人と同じようになんらかの力を与えられているのか、それとも違うのか。どこまで安定しているかという度合いにもよるので確かなことは言えないな。


 あまりじろじろ見ていると、向こうが俺のことを知っている可能性が高いのでバレてしまうかもしれない。姿を確認したら視線を外してから意識を向けないようにする。例え俺の存在に気づかれても、ただ擦れ違っただけと思ってくるはず。


 流石にこのままどこへ行ってなにをするのかまで探るのは危険か? 気の実力から考えて今の俺なら勝てるとは思う。だが今投獄されている包帯男の特殊な能力も含め、ヤツらがなにか妙な力を持っていないとも限らない。

 それに、ここで手を出せばアリエス教師には確実に怒られる。街の人達を危険に晒すことにもなりかねない。


 ……悔しいが、今は手を出さないでおくか。


 ここで見逃すことがどう転ぶかはわからないが、ヤツらの行動開始の合図がわかっただけでも収穫としよう。とりあえず得られた情報はアリエス教師に報告するとしよう。


 とりあえず、色々探っていることがバレないようにここからは普通に依頼をこなしていくか。


 ◇◆◇◆◇◆


 その日の夜。

 俺はまたアリエス教師のところに行って、今日あったことを報告していた。


「……なるほどな」


 話を聞いたアリエス教師は、険しい表情をしている。生徒の中に敵と通じている者がいると知ったからか、それともなにか怪しげな力を得ようとしているからか。


「アリエス教師は、ペイン達のことを知らなかったのか?」

「どういう意味だ?」


 ふと気になって聞いてみると、聞き返されてしまった。

 一応知らなかった、若しくは生徒を信じたかったと考えてはいるのだがアリエス教師ほどの人なら事前に知っていてもおかしくはない。


「いや、フィナからペインには気をつけろって言われたから。なにかあったのかと思ってな」

「なら、お前は聞く相手を間違えているな」


 だが回答はあっさりしたモノだった。まぁ、確かにその通りだ。


「それもそうだな。じゃあ、フィナに聞くことにするか。……ただこれだけは教えてくれ。知ってはいるのか?」


 把握すらしていないことなのか、そうでないのか。どうしても聞いておきたかった。


「……私はお前達の担任教師だ。プライベートなら兎も角、学園が管轄している範疇であればほぼ全て把握している」


 回りくどい言い方だったが、知っているのは間違いないようだ。


「そっか。ありがとな」


 これ以上彼女から話を聞き出すのは難しそうなので、話したいことも終わったし踵を返そうとする。


「一つだけ言っておく」


 だがアリエス教師の方から声をかけられて、動きを止める。


「この先なにがあっても……万が一誰かが死んだとしても、お前の責任ではない。急いて行動しなかったお前の判断は正しい」


 アリエス教師は真剣な表情で真っ直ぐに俺を見つめていた。……例えどうなっても、か。俺が気負いすぎないように気を遣ってくれてるのか。


「ああ、ありがとう」


 実際にどうかは、そうなった時にしかわからない。もちろん最悪の事態を避けるべくこうして行動しているわけだが。


 礼だけは言って、俺はフィナに会いに行くため部屋を出た。


 フィナは部屋でゴロゴロしていたが、流石に他のヤツの目もあるところでは話しづらい。場所を移して宿の裏手にあるベンチへと向かった。


「……話ってなに」

「前にフィナが言ってただろ? ペインには気をつけろって」

「……」

「そのことについて、聞きたいんだ」

「…………そう」


 フィナはなぜかがっかりした様子を見せてから、真剣な様子でじっと見つめてくる。


「フィナはなんであいつには気をつけなきゃいけないって思ったんだ?」

「……それは簡単。実際に、知ってるから」

「知ってる? なにを?」


 俺にはこれまでペイン達を怪しむ理由なんてなかった。フィナが知っていて、俺が知らないこと。たくさんあるとは思うがクラスメイトのことだったらわからない。それも普段あまり親しくしていないヤツなら尚更だ。


「……ルクスが、会長と戦った後のこと。ルクスが意識を失った後に、カタストロフドラゴンが来た」

「ああ、大体は聞いてる。……俺の魔神のことも」

「……ん。その魔神が出てくる前、ルクスは重傷を負ってた」

「ん? まぁ会長との戦いで結構やられてたとは思うが」

「……そうじゃない。意識のないルクスを、攻撃したヤツがいた」

「カタストロフドラゴンじゃなくて?」

「……そう。観客席から、三つの魔法がルクスを貫いた」


 そう告げるフィナの声は少しだけ震えていた。ぎゅっと服の裾を掴んでいる。……俺の意識がない内に、そんなことがあったのか。だからフィナはあれ以降必要以上に俺についてこようとしてたのか。

 そしてここでその話をする、ということは。


「その魔法を撃ったのが、ペイン達だって言うのか?」

「……ん」


 尋ねると頷いた。……そうか。


「……明らかにルクスを殺そうとしてた。でも動きは止められてた」

「アリエス教師に、か」


 フィナはこくんと頷く。

 アリエス教師はさっき生徒達のことは、学園の管轄であればほぼ全て把握していると言った。それにはこのことも含まれるはずだ。ということは、アリエス教師は敵の尻尾を掴むために三人を泳がせているってことか。あるいは、三人が過ちに気づいて手を切ってくれることを願ってか。


「……だから、気をつけて」

「わかった。話してくれてありがとな、フィナ」

「……いい。大したことじゃないから」


 だが重要な情報だ。俺の知らない内に、ペイン達は表立って俺を殺そうとしてきた。意識がなかったので実感は湧かないが、フィナがこんな性質の悪い嘘を吐くとは思えない。


 とすると、三人は俺を狙ってくる可能性もあるのか? それならそれで、話が早い。別のヤツが襲われる心配もなくなる。

 今後も街での動きには注意しつつ、いざという時のために迷わないよう心の準備をしておくしかないか。

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