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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
151/163

宿泊学習開始

間違って別作品に投稿しておりました。申し訳ありません。

 宿泊学習に向かう道中、二日目の早朝。


 俺は武器である木の棒を手にテントから少し離れた場所で鍛錬していた。

 今俺がやるべきことは、身体を鍛え、気の練度を上げ、剣術を洗練させることだ。宿泊学習中にはセフィア先輩と会うことはできないが、これまでに習ったことを反復して上達を目指す。


 努力を隠したいわけじゃないが、それでも誰かに見られるのはあまり好きじゃない。なんか見せない方がカッコいい気がするという子供っぽい感覚もあるが。

 なので、誰かが近づいてきたら激しい鍛錬をやめて動かずに気の鍛錬に取り組むことにしている。


「……」


 気の感知でわかっていたが、茂みを蹴って現れたのはペインだった。近づいてきたのでなにか用がある可能性もある。もう少し前から俺の姿は見えていただろうからな。

 瞑目をやめて現れた彼に顔を向けた。だが彼はなにも言わず俺を見つめて突っ立っている。


「なにか用か? 朝食の時間にはまだ早いだろ?」


 仕方なく、俺から話しかけた。


「……いや、なんでもない」


 しかし、ペインはそう言うと踵を返して立ち去っていく。……全然わかんねぇな。ペインも俺に思うところがあるのはわかるし、それくらいは態度に出てる。だとしてもなにを考えているのかはわからないし、今みたいに言ってくれない。

 ペインが完全に立ち去った後で、俺はやや乱暴に頭を掻いた。


「はぁ……モヤモヤして面倒だな」


 少し前の俺なら、相手のことを考えず向こう見ずに突っ込んでいっただろう。まぁ今もあんまり成長してないと言われるかもしれないが、それくらいは考えるようになった。この学校に来てから色々あったからな。最近ではアイリアと初めて会った時のことをよく茶化されるくらいだし。俺としても今思い返せばアホだったと思う。


 兎に角、ペインがなにも言い出す様子がなければ俺にはどうすることもできない。わざわざ聞き出す必要もないだろう。……まぁ、同じ班の仲間なんだから多少打ち解けて欲しいところはあるが。そういうのって俺とペインの心持ちによっても変わってくるし、イマイチ進展しなさそうでもある。

 班内コミュニケーションの点数とかないといいんだけどな。連携や協力という項目はありそうなので点数は下がってしまいそうだ。評価云々は置いても居心地が悪いのでなんとかしたい気持ちはある。今のままなら、ペインの都合って感じだけどな。


「雑念は排除。今は鍛錬に集中しなきゃな」


 あまり本人の前で考えることでもないが、鍛錬の時間は鍛錬に当てたい。他人のことを気にする時間があるほど余裕はないのだ。

 上を見れば果たしなく遠く、時間を考えれば足りなさすぎてキリがない。


 ――なにより俺は、敵の最強を知っている。


 ライディールを襲った魔物の大群に対処した、あの時。俺だけが目にした敵らしき男。あいつは多分、親父よりも強い(・・・・・・・)。当時の俺は今よりもずっと弱かったとはいえ、今思い返しても敵う気がしなかった。そして実際親父の本気の一端を身体で味わったことで、どれくらいの差があるかなんとなくわかっている。

 多分親父が死力を尽くしても、あいつには敵わない。親父の強さの一端は理解できたが、あいつは底が知れなかった。


「……」


 もちろん、親父やラハルさんが協力して戦えば勝機はあるだろう。だが、俺が敵ならあの人達を同時に相手するわけがない。

 だからこそ誰かが同じくらい、いやそれ以上に強くならなきゃいけない。それは俺でなくともいいが、俺が誰かに言えばきっと、あいつはすぐにでも攻め込んでくる。対策を練られる前に潰す可能性が高い。


 だから迂闊なことは言えない。なにが狙いかは知らないが、慎重にならざるを得ない。


 いつかは誰かに言わなきゃいけないんだろうし、敵がいつ動いてくるかもわからない。……ああ、クソ。考えることが多すぎる。そういうの苦手なんだよ。


 また雑念が湧いてきてしまったので追い払いつつ、俺は鍛錬に集中するのだった。


 ◇◆◇◆◇◆


 二日目以降の道中は安定していた。

 食糧調達に関しては俺達のクラスが優位だったが、他のクラスも別に呆けていたわけではない。


 各自工夫を凝らして過ごしていたので、他のクラスの工夫も取り入れていった結果大きな問題は起こらずに昼頃には街へ辿り着くことができた。


 街の名前はエヴァロン。街の中央にある巨大な噴水とそれを取り囲む美しい庭園が見所の街だ。ライディールと比べても遜色がないほど大きく、街を囲む巨大な壁には砲門が覗いていた。壁付近は牧場や農場となっており、中央周辺が都市のような整備された街並みになっている。

 この広い街の中で、俺達は色々な依頼をこなしていかなければならないのだ。


 宿泊する宿屋に荷物を置いて、宿屋の前に整列する。


「よし、全員集まったな?」


 アリエス教師がSSSクラスの全員が漏れなく集合していることを確認する。点呼は既に済ませていた。


「今日から一週間、このエヴァロンの街でお前達は人助けや手伝いを行ってもらう。一応騎士学校という名前だが、冒険者だろうが騎士だろうがなにになってもいい。そして、それらの職業に就いた場合今回のような地道な仕事を多く実行する。今回の宿泊学習の狙いは、そういった地道な依頼をこなすことに慣れることも含まれている。因みにだが、この街の依頼には秘密裏にポイントが設定されている。班毎に合計したポイントが高かった上位十班には、高級料理食べ放題を学校が奢ることになっている」

「「「っ!!?」」」


 ここに来ての新情報だった。


「お前達は単純だからな。こういう褒美があった方がやる気になるだろう?」


 にやりと告げたアリエス教師の言う通りだった。明らかにクラスメイト達の顔色が変わった。


「では行ってこい。あと全体の半分以下の成績だった班は個別で補習を行う。言っておくが他の班の妨害は禁止だ」


 アリエス教師が最後に告げた言葉なんか半分も聞かずに、大半が走り出した。ほぼ同時に集合している他のクラスも走り出していたので、同じことが告げられたのだろうと思う。

 気持ちはわかるがもうちょっと落ち着けよと思わないでもない俺は走り出さなかったが、服を引っ張られて振り向いた。


 口端から涎を垂らしたフィナがやけにキラキラした目で俺を見上げている。


「……ごはん。食べ放題」


 フィナにとってはかなり魅力的に見えたようだ。まず俺に申し出たので、いきなり走り出した他のヤツよりは冷静と言うべきか。いや、むしろ話し合って計画を練って確実に狙いたいということなのか。


「わかったわかった。まぁ貰えないよりは貰えた方がいいだろうしな。とりあえず上位を目指してみよう。初日だからどういう風にやればいいのかわかんないし、各自街を回りながら依頼を受けてくってことで」


 俺は宥めるようにフィナの頭を撫でつつ、他の四人に対して言った。

 二日目以降は傾向が見えて効率のいい方法がわかるかもしれないが、初日は様子見で見かけ次第依頼をこなしていくのがいいだろう。


 冒険者が普段やっている依頼と同じような依頼を街中に設置しているはずだ。討伐、運搬、手伝い、収集などなど。各々が適任だと思う依頼を中心に進めていくのがいいだろう。


「とりあえず得意分野を活かせそうな依頼を探し回りつつやっていけばいいのね?」

「多分な」


 リリアナの言葉に頷く。女子四人は突き抜けた分野があるので適した依頼を見つけられれば強いはずだ。


 ということで、俺達六人は分かれて依頼を探すことにした。

 一応人に慣れていないカエデは不都合があるかと思って見ていたが、特に気にしていないようだったので俺も自分ができる依頼を探しに走り出した。内功を使い走る速度を上げつつ内功の持続時間を上げる練習を行っていく。結局のところ、こういう地道な鍛錬を重ねるのが強くなるためには必要なのだ。


 まずは、他の人が選ばなさそうな依頼で、俺ができるモノを探す。

 同級生達は一斉に街へと向かっていったので、俺は逆に都市を囲む牧場や農場の方に目をつけた。こっちの方にはあまり人が行かなかった。実際、そういうところの手伝いをする知識を持っている者は少ないのだろう。肉を捌くことですらできない人は多かった。


 牧場のある方で道に沿って走り、気の感知で見つけた人の方へ向かう。流石に気だけで困っているかどうかを判断することはできないので、実際に近づいて目で様子を確認しなければならない。

 牧場で仕事をしているらしい男性が、きょろきょろと不安そうに辺りを見回していた。近くには多くの牛がいる。


「なにか困り事でもあるのか?」


 俺はアタリを引けたかと思い、声をかけた。


「あ、ああ。牧場の牛が三頭逃げてしまってね」

「それなら俺が探してくるよ。あんたはここの牛達を見ててくれ」

「いいのかい? あ、でも君は学生だろう? これは今さっき起こったことで、別に依頼というわけじゃ……」


 どうやら用意された依頼ではなかったようだ。だが、声をかけておいてじゃあやっぱやめたというのは流石に申し訳ない。


「別にいい。もしお返しをしてくれるなら、なにか依頼があった時俺に融通してくれればな」

「ああ、約束するよ。ありがとう」


 とりあえず牛を探し出すのが優先だ。というか動物にも気はあるので既に捕捉している。

 俺は素早く駆け出し、一頭目の牛に近づいていく。


「ほら、こんなとこで草食ってないでついてこい」


 ぽんぽんと牛の頭を撫でて注意を引き、ついてこさせる。それを三回繰り返して牛三頭を見つけ出し、男性のところに連れていった。大人しく賢い牛だったので、あっさりと終わってくれた。


「おぉ! ありがとう、助かったよ」

「いいんだよ。依頼じゃなくたって困ってる人を助けなかったら、信頼だって置けないしな」

「ホントに助かったよ。これを依頼としてもらうか、なにか他に依頼があったら君に依頼することにしよう」

「それは助かる。じゃあ、今度は気をつけてな」

「ああ、ありがとう学生さん」


 依頼ではなかったので班の皆には申し訳ないが、巡り巡って依頼に繋がることを祈っておこう。


 その後も俺は牧場と農場を中心に依頼をこなしていった。畑を耕す作業や草取りといった依頼から、肉の解体作業まで。冒険者が行うにしても地味な依頼ばかりだったが、こういう人があまりやらなさそうな依頼をやっていくことでポイントを稼ぐことができると思っている。まさかこんなところで田舎暮らしの知識が役に立つとは思わなかったな。


 有り難かったのは、夕食の時間になって丁度作業が終わったので料理をご馳走になれたことだ。新鮮な食材で作られた料理はとても美味しかったので、フィナがいたら喜んだだろうなと思う。

 農作業のところで、早朝に来てくれればまた手伝いの依頼ができるという情報を貰うことができたので、早朝に起きて手伝うことを約束しておいた。


 夕食後は都市の方へ足を向ける。思えばエヴァロンの街に着いた時は真っ直ぐ宿屋に向かっていたので、ゆっくり街を見て回ってはいなかったな。気の感知で班員がどこにいるかはわかっているので、ちょっと様子を見に行ってみるか。

 まずは一番の不安であるカエデのところに行ってみよう。人間が好きなわけではないので、問題を起こしていないか不安だった。


 気を辿っていくと、喫茶店に辿り着いた。どうやら店の手伝いをしているようだ。というか結構盛況だな。外にまで並んでいる人がいる。


「あれ? ルクス?」


 俺が外から眺めていたら、窓が開いて喫茶店の制服らしい衣装に身を包んだカエデが顔を出した。


「様子を見に来たんだが、問題ないか?」

「うん、今のところはね」


 カエデに気負った様子は見て取れない。無理もしていないようだ。


「カエデちゃん、その子ももしかして学生?」

「うん、同じ班だよ」

「じゃあ丁度良かった! 人手が足りないから、厨房手伝って!」

「えっ? ああ、いいけど」


 接客となると難しそうだったが、別に料理ができないわけではない。厨房の手伝いなら俺でもできるだろう。


「じゃあ早速中に入って!」


 俺は客を掻き分けて出てきた女性の店員に腕を引っ張られて、店内へ連れていかれた。そのまま厨房まで連れられ、余っていたエプロンと三角巾巾を押しつけられ手を洗わされる。


「料理できる?」

「まぁ、多少なら」

「じゃあよろしく!」


 適当だった。まぁそれだけ忙しいんだろう。というか突発的に厨房を雇うなんて無理がある。どういう風に動けばいいかわからない。


「君! こっちに来てくれ! 俺の言う通りに食材を切り分けてくれる!?」


 と思ったら早速男性の店員に呼ばれた。とりあえず取り出してきたであろう大量の食材が傍に置いてある。

 その男性からなにをどんな風に切ればいいのか告げられた。……いや、一回じゃ全部覚えられんが。まぁわからなくなったら聞き直せばいいか。


 とりあえず、内功を使った状態なので通常の人より何倍も速く動くことができる。その点を活かしつつ、慣れるまでは商品として出すために綺麗に切り分けることを重視して作業した。それでも早めに終わったので、所々覚えていなかった部分を尋ねつつ終わらせる。


「全部終わったんだが、どこに持っていけばいい?」

「えっ? もう? ……ホントだ」


 男性は驚いていたが、ぱっと見問題ないと判断したのかそれぞれの食材をどこにいる誰に持っていけばいいかを教えてくれた。

 持っていった後は更に食材を取ってきて切り分ける作業を続けるように言われる。


 ピークが終わるまでそんな作業をぶっ続けで行っていたが、あまり疲労感はなかった。体力がついた証拠だろう。折角なので、空いた席の片づけを行いつつカエデの仕事振りを確認する。


 まぁ、まず見た目がいいので店員として人気が出るのはわかる。配膳も他の人が二本の手を使っているのに比べて尻尾があるので一度に運べる個数が多い。毛が入らないように全ての尻尾を同じ高さに固定しているのは流石としか言いようがなかった。

 加えて軽やかにホールを歩き回るので、まるで踊っているかのようですらある。神々しい見た目も相俟って、彼女を見に来る人がいるのもなんとなくわかった。


 その上で、誰にも一切触れていない。必要以上に近づいていない。楽しそうに接客しているように見えても、その実徹底的に一定の距離を保っていた。ついついふさふさの尻尾に触りそうになった人は避けているし、気安く肩を叩かれそうになっても離れている。

 ……随分と神経を使ってそうだな。後であんまり無理はしないように言っておくか。


 とりあえず、その後は特に問題なく進めることができた。夜九時前になってようやくこれ以上は手伝ってもらわなくても大丈夫ということになり、解放される。


「いやぁ、カエデちゃんのおかげで大盛況だったよ」

「ルクス君も、手が回らない時に厨房手伝ってくれてありがとう」


 女性と男性の店員それぞれに見送られる形で、俺とカエデは正面入り口から外へ出ていた。


「ううん。依頼探してただけだから、気にしないで」

「まぁ、貢献できたなら良かった」


 店の手伝いという依頼はあるらしいので、二人共その依頼を完遂したことにしてくれるらしい。予想以上の反響があったためポイントを上乗せするように頼んでくれるとの事だった。


「気が向いたら、またいつでも手伝いに来てね」


 店員に見送られて喫茶店を離れ、次にどこへ行くかカエデとも相談しようと思っていたその時だった。


「化け物めっ!!」


 目の下に濃い隈を作った男が突如として現れ、そんなことを大声で叫ぶ。男の目は真っ直ぐにカエデを見据えていた。

 あまりにも大声で叫んでいたので、通りにいた大勢の人が何事かと男とこちらを見ている。


「その尻尾、覚えてるぞ!! お前、九尾の狐の突然変異だろう!! 突然変異だかなんだか知らないが、魔物には変わりない! 魔物を街に入れるなんて冗談じゃない!! 今すぐ街を出ていけ、この化け物め!!」


 糾弾するかのように、男は叫んでいた。……なんだこいつ。だが、良くない空気だ。ここでカエデが手を出せば、やっぱり魔物は野蛮だのなんだのと言われてしまう。ここは俺がボコボコにするべきか、と思って腰に提げた木の棒に手をかけるが、その必要がないとわかった。


「……うちの助っ人従業員に、なんてこと言いやがるーっ!!!」


 店前で男の言葉を聞いていた女性店員が思いっきり走り込み、綺麗な飛び蹴りを男の顔面に食らわせたからだ。


「ぶっ!!」


 ノーガードで受けた男は仰向けに倒れ、鼻血を噴く。


「突然変異だとかそんな下らないことでしかカエデちゃんを測れないヤツが、好き勝手言わないでよ!!」


 ずびし、と人差し指を男に突きつけて言うのだが。


「いや、もう気絶してるけど」


 男は打ち所が悪かったのかあっさりと気絶してしまって、聞こえていない様子だ。


「あっ……。と、なんかつい身体が動いちゃった……。ごめんねカエデちゃん、こんなヤツばっかりじゃないから、気にしないで!」

「あ、うん」

「じゃあ今度こそまたね!」


 女性店員は、少し恥ずかしそうにしながらも店の方に戻っていく。

 まだ野次馬はいたが、騒動が収まったと見て段々と少なくなっていた。


「人間も、悪いヤツばっかじゃないだろ?」


 俺はカエデに対して笑いかける。カエデがぶちギレて大事になるかもしれないと思っていたが、彼女が耐えてくれたおかげで大体丸く収まった。


「……うん、そうだね」


 そう言って頷くカエデの表情は、少しだけ優しい気がした。


「俺はこれから班の他のヤツのところに行くけど、カエデはどうする?」

「んー……一緒に行っていい?」

「ああ」


 さっきのこともあるし、彼女を一人で歩かせるのは心配だ。彼女が精神的に傷つくこともそうだが、やりすぎてしまわないかという方向の心配が大きい。なにせ、カエデは父親以外の弱い人を知らない。尻尾の一撃でぐちゃぐちゃに潰れるほど人間が弱いことを知らないかもしれないのだ。その辺の手加減は大丈夫だと思うが、一応な。


 ……それに、さっきのヤツ。


 俺はカエデと並んで歩きつつ、気絶している男をちらりと見やる。


 男の腰についた紋章。あれは俺達が今いるディルファ王国には存在しない紋章のアクセサリーだ。どこのモノか正確には覚えていないが、確かかつての大戦で敗北した国のモノだったはず。人間主義の国が掲げる紋章だったため、多種族共存を掲げるディルファ王国では見かけないのが当たり前。

 敗戦後に生き延びていたのなら、自分達が負ける要因になった大戦の英雄達に恨みを持つのは当然だ。


 だが、なんだろうな。タイミングを見計らったかのような登場だった。

 当たり前だが、今回のことは宿泊学習とは一切関係ない出来事だろう。となると、なんだか裏でなにかが動いているような気がしてならなかった。


 気のせいだと思いたいし、今回の宿泊学習にはアリエス教師もついてきている。彼女がいれば大抵のことはなんとかなるだろう。

 それでも警戒するに越したことはない。頭の片隅にでも入れておくか。


 それから、第二の不安要素であるフィナのいるところへ向かった。が、不安は杞憂に終わる。フィナは手伝いなどをこなさず、学生が何人かで協力して倒すような魔物の討伐を複数請け負ってがんがん取り組んでいたからだ。

 どうやら依頼を受けたら飛んで即座に倒し、倒した証として素材の一部を持って飛んで戻ってくる、をずっと繰り返していたらしい。あのフィナが夕飯も食べずに、である。


 一緒に他のヤツのところへ行くか聞いたら、キリのいいところまでやってから夕食をいっぱい食べて宿屋に帰るとのことだった。あのフィナが、と驚くことを繰り返してばかりだったが、まぁそれだけ高級料理食べ放題が欲しいのだろう。

 とりあえずまだ初日なのだからあんまり無理はしないようにと言い聞かせておいた。


 次に向かったリーフィスは避暑を行ってポイントを稼ぎまくっているようだ。彼女ならいくらでも涼ませることができるため、涼しい冷気を放つだけでいいらしい。

 リリアナは糸を紡ぐ手伝いをしているようだ。蜘蛛だからか糸の扱いが上手く、手の本数も増やせるのでかなり喜ばれているようだ。


 ペインはよくつるんでいるヤツらと魔物の討伐をこなしていたようだ。他の二人もバラバラの班になっていたが、同じクラスなので問題ない。因みに討伐依頼は複数人で行うとポイントが均等に割り振られるらしい。まぁ考えれば当然の話だよな。

 ただし、フィナのように強い者は一人で強い魔物を討伐してポイントをごっそり稼ぐといいということのようだ。あまりそういう戦略を練るのは苦手なんじゃないかと思っていたんだが。これが食べ放題の力か……。


 兎に角、俺達の班は初日としてはかなり順調だと思う。


 夜就寝前になってから、宿屋で合流してどんな依頼があったかなどを照らし合わせた。

 その後、慣れない長旅、依頼の疲れは知らず知らずの内に溜まっていたらしく、各部屋に分かれてあっさりと眠りに着くのだった。

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