実技の授業
「……」
俺もフィナに釣られて寝てしまっていた。
たまにある、意識はあるのに身体が動かない状態だ。
「……起きろ」
ドゴォ! と俺の額に何かが命中し、思わず海老反りになって後ろの机に頭を乗せる。
「……いてぇ」
額がヒリヒリする。しかも、何かよく分からないが白い粉がかかった。
「……授業の終わりだ。実技で基本的な身体能力を見る。実技を受けていないヤツもいるからな」
どうやら、黒板に文字を書くためのチョークと言う極東の島国から来たモノを投げられたらしい。……そのせいで白い粉がかかったのか。
……次の授業が実技だから、起こされたって訳か。
「……フィナも起きろ。実技だってよ」
「……」
フィナはまだ寝惚けているようで、ボーッとしていた。
「移動だって」
クラスのほとんどが移動し始めていたから、間違いない。
「……ん」
フィナは頷いて、俺から下りて出口に歩いていく。……ボーッとしたままなんだが、大丈夫だろうか?
俺は少し不安に思いつつ、チェイグと適当に雑談しながら移動した。
▼△▼△▼△▼△
「……まず、軽い手合わせを行う。ルクス・ヴァールニアとベルイド・イルベス・ヨーガッドはいい。見たからな」
鍛練場に移動してクラス全員を集めてアリエス教師が言った。
俺はいいのか。もう一人は金髪野郎だな。名前は印象がなかったから覚えてないが。
「やってもいいのか?」
「……まあ、ベルイドに相手がいるならな」
「いるからいいぞ」
金髪野郎がそう言って、連れらしき三人のもとへ歩く。いつものメンバーみたいな仲の良さだ。
「んじゃ、俺も相手を……」
チェイグとやるのもいいんだが、やっぱ騎士団長か冒険者筆頭を倒した体術のいいヤツとやりたい。
「ルクスっつったか? あたしとやろうぜ」
丁度いいタイミングで、オリガから声をかけられた。
「おっ。そっちから誘ってくれるとは、手間が省けたな。俺もお前と手合わせしてみたかったんだ」
「それは奇遇だな」
お互い、同じことを考えていたらしい。意外と気が合うな。
「気はなし。魔法もなし。武器もなし。己の身体能力のみで手合わせすること」
ガチンコバトルって訳か。……いや、明らかに俺の方が不利だよな? オーガって力の強い種族だぜ? それの突然変異とか、物凄い身体能力持ってるんだろ? 同条件で戦うにはハンデ大きくないか?
「……んじゃ、やるか」
「ああ!」
オリガは頷いて、グッと全身に力を込める。
「……」
俺も全身に力を込めて構える。
「「……」」
空気がピリピリしてきて、周りは少し離れて黙っている。
……軽い手合わせって言う話じゃなかったか?
「……いくぜ」
「……ああ、来い」
オリガが言うのに答える。
「っーーはぁ!」
オリガは俺の方に跳んで、右拳を振る。
「くっ!」
予想以上に速く、俺は両手を交差してガードするが、数メートル下がった。……しかも、腕が少し痺れている。
「……なるほど」
通常でこれなら、騎士団長か冒険者筆頭のどっちかを倒すのは容易だろう。
「あたしはスロースターターだから、まだまだウォーミングアップだぜ」
これでもまだなのかよ。気を使って本気でやっても分からないな。
「……なら、俺も全力でぶつかるしかねえよな!」
俺は一気に突っ込んで、オリガに右拳を振るう。
「ああ、来い!」
オリガも右拳を振るい、互いの拳がぶつかり合う。
「ぐっ!」
オリガは拳を振り抜き、俺は弾かれた。
「っ!」
俺は足の爪先に力を込め、全身を使って全力で左拳を放つ。
「くっ!」
オリガは左腕でガードするが、数メートル下がった。……お返しは出来たってとこだな。
俺が押せたのは、全体重を乗っけて、しかも両手で比べると力の強い利き手で殴ったからだ。右手じゃあこうはいかないかもしれない。
「……やるな。もっとイクぜ!」
「ああ!」
俺とオリガの殴り合いは白熱していき、踏み留まってのインファイトに変わる。
かわし防ぎ殴りぶつかりの近距離戦闘が行われ、両者一歩も譲らないーーと言うのは自分ひいき過ぎるか。
周りから見れば、完全に俺の方が押されている。オーガの突然変異と人間だと言うことを考えれば互角以上に戦えているんだが、どうもクリーンヒットしない。上手くいなし受け流されているようだ。
対する俺はクリーンヒットがたまにあり、着実にダメージを重ねていた。俺が負けるのは時間の問題だろう。
「っ!?」
だんだんと負けると思っていたその時。
オリガの右拳を左腕でガードした俺だが、身体が宙を舞った。
「がっ!」
そのまま重力に従って地面に叩きつけられる。きちんとガードした筈だ。
「……やっと調子出てきた。もっとヤろうぜ」
オリガは笑っていた。……戦闘狂の類いだったか。まあオーガだしな。脳筋なのは仕方がないと思っていたんだが。
「……しゃーねえ。現時点のみ、敵に設定するしかねえな」
殺す気でかからないと、すぐにノックアウトだ。
「……まだまだ、ヤれるよなぁ!」
オリガは俺が立ち上がってすぐ、突っ込んでくる。
「……当たり前だ」
俺もそれに応えるべく、拳を構えた。