表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
143/163

英雄の中でも最強

 これまでにエキシビションマッチは三戦行われていた。どれも生徒会の敗北で終わっている。当然と言えば当然なんだが、自分達があれだけ苦しめられた生徒会の人達があっさり倒されていくのを見ると、まだまだ上がいるのだと思い知らされる。それは戦っている生徒会の面々も同じだろう。


『それでは第四試合を始めたいと思います! 生徒会から挑むのは副会長を務める“全知全能の女神”ことイリエラさん!! 魔法の使い手としては学校一との呼び声も高い彼女ですが、果たして今回の相手に通用するのか!?』


 第四試合目に出てくる相手を考えれば、誰だろうと関係ないのだが。おそらく今回の五人で最も凶暴且つ容赦のない相手だ。……そんなこと言ったらどやされそうだが。


『対するは大戦中暴虐の限りを尽くした最強の魔物、ドラゴンの突然変異!! その圧倒的な力で数々の敵を屠った最強の中の最強!! ラハルさんです!!』


 その登場には、歓声と言うよりどよめきが上がった。ラハルさんは強いと同時に恐れられている。元が魔物だから、いつ裏切るかわからない立ち位置というのが理由の一つのようだ。本人に全くその気がなくても勘繰られてしまうのは仕方のないこと、と思えるならいいのだろうが。

 俺が「なぜ山奥で暮らしているのか?」と尋ねたら、彼女はこう答えた。


「“敵”がいないからだ」


 冗談じゃなく、真剣な顔をしていたのを覚えている。


「あたしら……特にあたしとコノハなんかはそうだが、あたしらは“力”なんだよ。“敵”がいる時はいい。ぶつける先、使う先があるからな。だが使う先がなくなったただの“力”をどう思う? ……なんつうのは簡単な話、今度は自分達に向くんじゃねぇかって不安になる。昔からそのきらいはあったしよ、今更悩むことでもねぇ。わざわざ面倒なとこに突っ込む必要もねぇし、こうして平和に暮らしてるってわけだ」


 その時、案外物事をよく見て考えてるんだなぁと思ったものだ。


『勝負開始ッ!!』

「《七壁七技(セブンス・アクター)》」


 開始の合図と同時にイリエラ先輩がアイリアを苦しめた技を発動する。

 常時展開する七属性の障壁と、自在に発動できる七属性の攻撃。攻防一体、しかもあの時より改良されているらしく、魔力の練り上げが段違いだった。


「へぇ? 面白ぇことすんな」


 ラハルさんは和服姿で腕組みをしたままニヤリと笑う。相変わらず腰の刀は抜かない。


「いきます……ッ!!」


 イリエラ先輩が手で合図すると、ラハルさんへと七つの技全てが襲いかかった。七属性なのでエリアーナ先輩の舞踊とも似ているが、こちらはそれぞれの属性に効果と意味合いがきちんと付与されており、形状を指定されている。攻撃対象に向けてより強い効果を発揮するはずだ。


 結局、ラハルさんはなにもしなかった。イリエラ先輩の技に呑まれて姿が見えなくなる。常人では到底命が持たない攻撃だが。


「やるじゃねぇか。正直、嘗めてたぜ」


 攻撃が収まり徐々に収束していく中、ラハルさんの声が聞こえた。完全に収まると五体満足、どころか一切の手傷を負っていないラハルさんの姿が見える。


「……これでもドラゴンの魔力障壁すら破れませんか」

「当然だろ。あたしの魔力障壁はそれこそあいつらぐらい、せめて後輩のあいつぐらい強くねぇとな」


 ドラゴンが持つ魔力障壁は魔力による攻撃の一切を弾く。とはいえ障壁なのであまりに強い攻撃をされうと砕かれることがあり、その強度は個体の強さに左右される。

 入学前に俺とアイリアが遭遇したのもドラゴンの一種だが、あれは当時のアイリアでも簡単に倒せるほどの弱さだった。しかしラハルさんはどのドラゴンの突然変異なのか、は定かではないが並み大抵のドラゴンでは相手にならないほどの強さを持っているのは事実だ。しかも戦い方を学んでいるのだから、その強さたるやどのドラゴンでも勝てないのではないかとすら思ってしまう。


「さて。んじゃ次はあたしが攻撃する番だな」


 ラハルさんは右腕をぐるぐると回すと、握り拳を作ってニッと笑う。そしてゆっくりと駆け出した。ゆっくりというのはラハルさん基準での話なので、他人から見たら充分速い。


「《天火刀一》!!」


 イリエラ先輩は防御を固めつつ、併用してラハルさんを攻撃している。だがラハルさんの魔力障壁がさきほどの一斉攻撃で破れなかったことからもわかる通り、魔力障壁によって完全に防がれてしまっていた。


 ラハルさんはイリエラ先輩まであと五メートルまで来たところで足を止め、拳を大きく引いて構える。イリエラ先輩は攻撃の手を止めて防御に専念するが、


「あれは悪手だな」


 防げないと悟った俺は呟いて、周囲を見渡す。……ラハルさんはおそらく、全力で攻撃するだろう。当然のことながら人間にそれが耐えられるはずもない。バトルフィールドを覆っている結界も砕け散るだろう。場合によっては動いた方がいいか、とも思ったのだがその必要はなさそうだ。


「その行動は外れだ!!」


 ラハルさんが拳を振るう。


 それと同時、若しくはそれよりも速くに動き出した者達がいた。

 まず理事長がフェニックスとなってイリエラ先輩の背後に当たる場所へ降り立ち、コノハさんと母さんが結界を強化し、アリエス教師が闘技場全体に空間固定の魔法を発動させた。


 その上で、突き出された拳は全てを破壊する。


 本当にただ拳を振るっただけなのか? という疑問が浮かぶほどの轟音が響き、結界が跡形もなく粉砕される。闘技場どころか街全体が大地震に襲われたかのように震動し、拳によって起こされた風圧に吹き飛ばされそうになる。地面は大きく抉れイリエラ先輩はその中でぺたりと座り込んでいた。その周囲を紅蓮の炎が舞っていたので、おそらく防御が全て砕かれた上で理事長が守ったのだろう。後ろにいた観客が無事なのもそのおかげだ。


「おう、ご苦労」


 ラハルさんはそう言って仲間達を労うと、手を振って踵を返した。……あれは戻ったらどやされるな。


「……はぁ。全く」


 理事長があからさまにため息を吐いているのが見えた。魔法でバトルフィールドと結界を修復していく。司会にアイコンタクトを送って呆然としているイリエラ先輩を連れていった。


『し、勝者はラハルさんです! 圧倒的なパワーを見せつけてくれました!』


 司会の人も唖然としていたようで言葉に詰まりながらも試合終了の宣言をした。確かに母さん、アリエス教師の時と違ってコノハさん、ラハルさんはかなり観ている人達に畏怖を与えるようなことが多いような気がする。ラハルさんも傍若無人に振舞うことがあるだけでよく考えている人だということはわかっているので、おそらくではあるが二人共わざとそう思うように仕向けている。

 敵わない、敵対したくない。そう思わせてつかず離れずの関係を保とうというアピールをしているのだろう。


 生徒達の中にも言葉を失っている者が多いようだ。まぁ最強の生徒会メンバー達が次々と、それもあっさり敗れていけば世界の広さを知って愕然とするだろうからな。


『さて、気を取り直して最終戦へいきましょう!! 三年SSSクラス、生徒会会長! 潜在能力は全てにおいて歴代最高値!! 魔法の先にある魔導、全ての気を融合させた黒気!! それらを統合した黒魔導という新たな境地に初めて至った神童!! リーグ君の登場ですッ!!!』


 流石は学校最強の会長。紹介も随分と仰々しかった。

 会長はベンチでイリエラ先輩に平手打ちをしてもらって、試合開始前から人格を切り替えている。本気中の本気ということだろう。


『大戦の英雄と言えばこの人! 人の身にして人ならざる領域に足を踏み入れ、どんな強敵にも臆することなく、数々の武勇伝を打ち立てた生ける伝説!! また彼の戦っている姿を目にすることができるとは、私思ってもいませんでした!! ガイス・ヴァールニア、その人ですッ!!!』


 ただの酒飲み親父の癖に、やたらと司会の人が熱を入れていた。全体が湧き上がっているような気がする。少しだけ仏頂面になって、抱えているフィナの頭に顎を乗せてしまった。

 ……そんな騒がれるような感じじゃないんだけどなぁ。


 親父がなんか凄い英雄扱いされているのは別にいい。ただ実感が湧かないし、そんなに騒ぐようなことかとどうしても思ってしまう。まぁ英雄の息子の悲しい性だと思っておくか。


 俺と同じ黒髪に白髪が斑に混じっているような髪色で、愛剣を肩に載せていた。人前に出るからか恰好はきちんとしたモノだった。


『新旧の天才生徒が激突する、注目の一戦!! 果たしてどんな戦いが繰り広げられるのか!? エキシビジョンマッチ最終戦、開始です!!!』


 わぁ、と大きな歓声が上がる。注目の一戦という表現は正しい。俺もなんだかんだ親父が戦っているところをあまり見たことがないからだ。手合わせはしてもらっていたが、正直相手にならなかった。黒気を使った上での話だ。まぁ親父を倒すためにはまず村のヤツから、とか思って他のヤツとばかり戦っていたから、入学当初でも戦えば記憶よりはいい勝負ができるとは思うのだが。

 会長がどれほど強くなったかも気になるので、是非集中して観戦したい。


「――黒魔導」


 開始早々、会長が全力を出した。純黒の輝くオーラが全身を覆う。……少なくとも気の方にムラは見て取れない。しっかりと制御できるように仕上げてきてるな。

 更に会長は身体能力を強化する魔法を使っていく。俺の時よりも多くの魔法を使っている。正直どれほど強化されるか上限が見えないほどだ。やがて強化が終わったのか、会長は静かに拳を構えた。


「へぇ? 凄ぇな。黒気はあいつしか使えなかったはずだが、会得して更にその上を行くかよ。……ああ、なるほどな。魔法に作用する魔気を接合部にしてんのか。なるほどなるほど。――じゃあ、こういうこったな」


 親父はニヤリと笑ってぶつぶつ呟いたかと思うと、同じように純黒のオーラを纏う。流石の会長も目を丸くしていた。


「……一目見て会得するかよ。流石は英雄様ですね」

「なに、年季の違いってヤツだ。三年ってことは十七か十八ってところだろ? それでそこまでできるんなら当時の俺より強いんじゃねぇか? いいね、若いヤツが強くなってるってのはさ」

「おじさんみたいなことを言うんですねっ……!」

「そりゃおじさんだからな」


 会長が一足で親父の懐にまで到達して拳を突き出す。俺が内功と黒気を同時使用した時ほどではないと思いたいが、明らかに黒気だけではどう足掻いても敵わない速度だった。だが、親父は剣の腹で受け止めている。

 会長は笑みを深めると、更に速度を上げて縦横無尽に動き回り攻撃を加えていくが、親父はその全てを剣だけで受け止めていた。しかも微動だにしていない。黒魔導を使っている者同士、として考えれば当然かもしれないが、まだ親父は魔法を使っていない。


「おう、速ぇな」

「魔法を使ってないのによく言いますね」


 会長は絶えず攻撃を重ねていくが、親父は最小限の動きのみで防いでいる。元々の身体能力の差は体格差が激しいので当然ある。強化されればその分地力が高い方が有利になるのは当然だ。とはいえ会長は体格差を補って余りあるほどの魔法潜在能力を有している。


「フィジカル・ブースト、っと」


 親父が一つ魔法を使った。たったそれだけでも、会長が動きを上回られて親父の剣の腹が会長の腹部を殴打した。


「ぐっ、くそっ……!」


 呻きながらも戦気を後ろに噴射して空中で踏み留まると攻撃を再開した。会長は更に魔法を重ね、魔法による攻撃すら使用し始める。俺と戦った時の肉弾戦のみとは打って変わっている。会長としても親父を格上と見ているのだろう。

 だが親父は悠々と受け止めている。所々で対処が難しくなったら魔法を使い強化するというスタンスを取っていた。


 会長の方が攻めあぐねているが、親父の方が優位に立っているとわかるほどだ。配信ではそれこそ会長が複数人いるような錯覚を見ている可能性もあるが、とはいえ親父は揺るがない。

 まるで会長に上には上がいることを知らしめようとしているかのようだ。


「そろそろ勝負決めるとするかっ!」


 間隙を縫って親父が剣で会長を大きく弾き飛ばす。超強化しているはずの会長があっさりと体勢を崩していた。


「これが全力だ。耐えてみせろよ若人ッ!!」


 親父が両手で剣の柄を握り、大上段に振り被る。俺も実際に受けたことはないが、見たことはある。親父が自分のために創ったと言われる剣技。その初期の型。


「――覇斬」


 渾身の力で振り下ろされた刃から、巨大な斬撃が放たれる。斬撃が天を衝くほどの高さを持ちながらバトルフィールドを割り進んでいった。速度、破壊力共に人間業とは思えない。先程ラハルさんがやった拳よりも強力だ。


 だが、会長は足に地を着けると回避が間に合わないと見てか、それとも親父の声に呼応してか全力で受け止めに行く。それでも速度はほとんど変わらず、押されながら魔法を追加しているがどうにもなっていない。


「あ、ああ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 だが会長は持てる魔力と気を全て振り絞って親父の斬撃を止めようとする。会長にしては珍しく雄叫びを上げて斬撃を止めようとした。


「……やるじゃねぇか。こりゃ、俺が引退した後も安泰だな」


 斬撃は止まり、効果を終えて消滅する。会長はバトルフィールドの壁にめり込んでいたが、見事斬撃を受け止めてみせたのだ。ただ、直後会長は倒れ込む。気絶していたのか気が緩んだのかは定かではないが、生徒最強の意地を見せた。


 一拍置いて、親父の強さと会長の健闘に会場を震わす大歓声が湧き上がる。司会も見事な戦いぶりに熱を入れて試合終了を宣言、エキシビジョンマッチの終了を口にした。


 配信が終了しても尚、親父はバトルフィールドに佇んでいる。興奮が落ち着きを見せ始めてそのことに疑問を抱き始めたところで、親父が拡声魔法を使って会場全体に声を届けた。


「あー、あー。聞こえてるな? 一応学校から受けたエキシビジョンマッチの依頼はこれで終了、ってことなんだが。ここには将来有望なヤツらが集まってる。ってことで、有志で俺に挑んでみないか?」


 ニヤリと笑った親父の提案に、観客がざわつき始める。


「ルールとかはいい。全力で俺に挑んでこい。多人数で連携しても、単独でも構わねぇ。俺にこれからの可能性を見せてくれ」


 親父はそう告げるが、生徒達は顔を見合わせるばかりで動かない。学校最強にして更に大きく成長した会長をあっさりと倒すくらいだ。戦いにもならないのではないか、と思って尻込みしている者が多いのかもしれない。


 俺はと言えば。

 予想していた通りの展開に笑みを深め、湧き立つ興奮のままに腰を浮かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ