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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
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生徒会VS大戦の英雄

間が空いてしまって申し訳ありません。更新を少しずつ再開していきます。

 夏休み明け早々に、突然の一大イベントが開催される。


 それが現最強の生徒会と、歴代最強とされる大戦の英雄達との試合だ。


 突然とは言ったが元々予定されていたモノではある。一大イベントとしては年間予定表の中にはなかったモノだというだけで。


「今回のは世界に配信してるんだよな?」


 俺は隣のチェイグに問いかける。彼は真剣な表情で会場上部に投影された四角い枠を見上げながら頷いた。枠の中にはバトルフィールドであるなんの変哲もない剥き出しの地面が映し出されている。これと同じような形で様々な角度からバトルフィールドを映し出しており、それらを統合、場面毎に切り替えながら配信するらしい。凄い技術だ。


「ああ。かつて起こった大戦の英雄達が約十年振りに集う……ともなれば大々的に配信したくもなるさ。英雄への憧れを強めて士気を上げたり、英雄が健在だと示すことで抑止力にもなったり、まぁ色々と理由はあるだろうけど」

「ふぅん……。まぁ実際、俺も親父の全力戦闘は見たことないしな。確かにいい機会だ」

「そういや、お前英雄筆頭の息子だったな」

「忘れてたのかよ」


 いやまぁ、俺も「英雄の息子です!」と言われたって実感湧かないから別にいいんだが。強いのは知ってるけど昼間から酒飲んで母さんに窘められてる様子を見てきた俺としては、なんかこう、自分の父親のことなのに他人のように感じてしまう。


「はは、悪い悪い。普段のルクスを見てると、戦闘に関しては強い方なのにあんまりそういう感じがしなくてな」


 チェイグは悪びれず笑っている。俺も親の威光に縋って平伏せとかカッコ悪いことはしたくないので、これくらいで丁度いい。


「ルクス的に、今回注目の戦いはどれだ?」

「そういうの、ちゃんとメモにまとめてるお前の方がよくわかるんじゃないか?」

「……正直英雄方の動きが目で追えなくて、文献とか人伝のちょっと脚色されてそうな凄さしかわからなくて正確な実力がな」


 チェイグは困ったように笑っていた。確かに基本的には文献は英雄の凄さ、強さを知らしめるモノだからな。ある程度脚色はあると思った方がいい、のだが。


「俺が夏休みの間関わった人達は、全力を引き出せてはいなかったけどそれでも雲の上の強さだった。そんな人達の強さを直に味わって、直に見たヤツらが全てを理解できるとは到底思えないんだよな。だから多分、脚色しようにもそれ以上が思い浮かばないんじゃねぇかな、とは思う」

「それって……」


 俺にしては珍しく、だったかもしれないが苦笑しての発言だった。チェイグが俺の言いたいことを察したのか質問をしようとしてきて、ビーッと開始の合図が鳴る。どうやら始まるらしい。集中して観たいからか質問は途切れて消える。そもそもこれから直に観れるわけだし、答えを自分の目で確かめればいい。目で追えなかったら俺が補足すれば済む話だからな。


『只今より、ライディール魔導騎士学校の三年SSSクラス代表とかつて世界大戦にて活躍した英雄達とのエキシビションマッチを開催します!!』


 宣言の直後、会場全体に歓声が轟いた。


『ライディール魔導騎士学校の三年SSSクラスと言えば! 未来の国を担う優秀な人材! 取り分け現クラスはクラス対抗団体戦で三年連続優勝!! つまり一年生にして優勝を果たした類を見ない傑物!! 特に生徒会長のリーグ君の強さは別格とも言えるでしょう!!!』


 観ている人達の興奮を煽るためか、それとも司会を務める男性自体が興奮しているのか、テンション高く紹介している。


『そんな彼らが挑戦するのは、かつて世界を分かち行われた世界大戦、そこで亜人共存側の英雄として活躍した者達ッ! 今回参加するのはいずれもここライディール魔導騎士学校を卒業した、謂わばOBの方々! 果たしてかつての英雄達は新鋭達とどんな戦いを見せてくれるのか!! 非常に楽しみであります!!』


 司会の人も、おそらく生徒会の五人が一人でも勝てるとは思っていないだろう。だが英雄達がどれほど強いのか、そしてどれほど優秀な生徒達がいるのか、それらを見せるつもりなのだ。

 かつて敵陣をほぼ蹂躙に近い状態で壊滅させた圧倒的実力を誇る英雄達。せめてそんな彼らを戦えるというところを見せてくれればいい。そんなところだろうか。


『では早速参りましょう! 初戦、生徒会庶務“熱炎の舞姫”こと、エリアーナ・ウォン・デ・ラフェイン!! 舞踊と武闘に優れたラフェイン家のお嬢様は如何なる戦いを見せてくれるのか!!?』


 大々的に紹介されていたがエリアーナ先輩の歩みは堂々としていた。流石はお嬢様、大舞台には慣れているのだろう。

 じっと見ていたら先輩と目が合った、ような気がした。華やかな笑顔を見せて小さく手を振ってくれる。俺にか? というのは自信がなかったので手は振り返さなかったが。俺の二列前の男子が「俺じゃね!?」と騒ぎ出していたが隣のヤツにツッコまれていたのでそいつではないのだろうが。


『対するはエリス・ヴァールニア!! 彼の大戦ではその魔法で多くの味方を癒し、多くの敵を屠り大戦で多大な貢献をしてくれました!』


 初戦で現れたのは母さんだった。今回は三勝で終了というルールがないからだろう。

 俺が見慣れた田舎の質素な衣服ではなく、白を基調とした装束姿だった。愛用の杖まで持ち出している。全力で挑みますよ、というのをわかりやすく提示した形だ。観客席から感嘆の声が漏れたのは俺といういい歳をした子供がいるにしては美人だからだろうか。俺も肌年齢の時を止める魔法でも使っているのではないかと疑っているくらいだ。大戦があったのは俺が産まれる前だったからか今だと胸部が少しキツそうである。……恥ずかしいんだかなんだか、複雑な心境だな。


『それでは注目の初戦、試合開始ッ!!』


 司会の人は両者がバトルフィールドで対峙したのを認めると早速合図をした。期待を冷まさないためだろう。


 開始と同時に母さんは動かない。いつもと同じ嫋やかな微笑みを浮かべて待っていた。エリアーナ先輩のことを知っているかどうかはわからないが、全力を受け止める気なのだろう。

 エリアーナ先輩も普段と同じだ。今回は珍しく、だろうが挑戦者の気分で挑んでいると思う。だから気負いはないだろう。接する機会はあったが意気込みなどは聞いていない。戦いの様子を見れば大体わかるからな。ただ一言「楽しみにしてる」とだけ伝えていた。「ええ、楽しみにしてて」といい笑顔で応えてくれたので大丈夫だろう。ともあれ、いつものように舞い始める。おそらく今は配信の画面いっぱいにエリアーナ先輩の舞が映し出されていることだろう。


「ラフェイン式舞踊・第壱番、炎舞踊」


 舞い踊るエリアーナ先輩の周囲に炎の奔流が現れる。だがまだ仕かけない。そのまま弐番、参番、と増やしていき、


「第拾番、龍舞踊」


 最後の舞まで辿り着く。炎、水、風、地、木、氷、雷、光、闇の九つがのたうち回る中を神々しく輝く龍がうねる。

 以前よりも動きにキレが増しており、魔力量も上がっている。地力の強化を重視していたのだろう。


「……いきます!」

「ええ、いらっしゃい」


 それを見ても母さんの表情は変わらない。というか俺も一緒に暮らしていて母さんの笑顔が消えたところをあまり見たことがなかった。それこそ十年前のあの時ぐらいか。


 エリアーナ先輩の舞が加速し、激しさを増す。その動作の中で手足に巻かれたレイヴィスから垂れ下がる同じ性質の布が、伸縮と硬化の魔法によって鈍器と化し瞬時に母さんを殴打せんと迫った。相変わらず初見殺しというか、避けにくい攻撃だ。


 だが母さんはそれを、なんの気なしに屈んで避けた。


 舞に応じて絶え間なく襲う布を最小限の動きで、かわしている。淀みと迷いが一切ない動作だ。画面を見ている人達も観客達も、エリアーナ先輩の華麗で鮮烈な舞に見蕩れていたと思うが、母さんがあっさりと回避していることに息を呑んで驚いている。

 とはいえ、俺としてはこうなるかもしれないとは思っていた。なにしろ、母さんは気と魔力の感知に優れている。本人曰くそうならなければ相手の身体のことを真に理解して治療できないのだとか。まぁそんな理由で母さんは感知に優れていた。気の感知で身体の動きを察知し、魔力の感知でいつどのタイミングでどんな魔法を使うのか察知する。エリアーナ先輩の変則的な攻撃に対してはそれで完封できるということだ。あの伸縮速度だから察知しても避けられないことの方が多そうだけどな。その点、母さんは魔法を使う時の魔力の流れすら読み取っている、らしい。俺は魔力の感知の方が苦手なので話に聞いた限りだと、ということになるが。


「ッ……!」


 舞に付随した布による攻撃が呆気なく見破られて、エリアーナ先輩が炎や龍といった舞踊による奔流すら差し向ける。武術を扱えるとはいえ母さんは魔法主体だ。襲いかかるはずだったそれらは、掌を上に向けた右手を口の前に持ってきてふーっと優しく息を吹きかけると奔流が押されるように左右へ分かれていく。吐息に魔力を込めたのだろうが、それだけで舞踊をあっさりと封じている。

 エリアーナ先輩は更に布による攻撃を加えるが、周囲があらゆる属性の攻撃によって囲まれているにも関わらず攻撃が見えているかのようにするりとかわした。


 エリアーナ先輩の放つ属性も当然のことながら全て魔力で出来ている。あれほどの魔力の渦の中にいれば離れた場所にいる先輩の魔力の流れが感知しにくくなる――そう本人も考えていたところはあるのだろうが。ただ母さんの感知はその上を行く。


 先輩は少し悔しそうな顔をしていたが、やがて笑顔になった。敵わない相手と見て悔しさを覚えはしたが、まだまだ上があると見て嬉しくなったのだろう。俺にはわからない領域になるが、母さんのことだから魔力の制御についてエリアーナ先輩がわかるようにしていたはずだ。更に強くなるヒントを与えるために。


 エリアーナ先輩は汗を散らすが、同じように動き続けているはずの母さんは汗一つ掻いていない。そろそろ先輩が息切れし始めるか、という頃合いで母さんが攻めに転じた。と言っても一瞬のことだった。


 母さんが伸びてきた布を回避しながらそっと指でなぞるように触れる。詠唱も魔方陣も一切ないが強力な魔法が発動し、伸縮魔法を解除して長さを戻すまでの僅かな間に指先から青白い雷電が轟いた。瞬く間にエリアーナ先輩の全身に炸裂した雷電によって、先輩の舞が中断され少し黒焦げになった状態で倒れ伏す。

 勝負は一瞬で決まった。


 倒れたエリアーナ先輩が立ち上がることはなく、一拍置いて歓声が会場を震わせる。司会も興奮したように終了を宣言し母さんを称える。


「……いや、悪いんだけどやってることの次元が高すぎて俺の物差しじゃ測れないんだが」


 チェイグは半笑いでボヤいていた。他も同じような顔をしている。


「まぁ、母さんも割りと強かったからな。エリアーナ先輩の舞を避けるには気で身体の動きを察知して、魔力で魔法の発動を察知しなきゃならない。それができるだけの能力は持ち合わせてたってことだ」

「それだけじゃないわ。ルクスのお母様が使った最後の魔法、あれって威力と速度から考えて多分ソニックボルトよね? 結構高度な魔法だったと思うけど……」


 俺の言葉をアイリアが補足する。後ろに座っている彼女に頷き、


「ああ。親父曰く、だから信憑性は下がるけど母さんが詠唱も魔方陣もなしで発動できない魔法はほとんどないらしいな」


 一般には伝わっていない禁呪だとか、特殊な契約がないと発動できない魔法だとか以外なら大抵は使えるらしい。


「魔法で攻撃もできて」

「治療も得意ですし」

「武術を修めてるし?」

「当然家事も得意」

「「「……はぁ」」」


 数人がなぜかため息を吐いていた。……なんだ、妙に息が合ってるな。


「……強敵」


 最後にぽつりとフィナが呟いていた。


「敵って、別に戦うわけじゃないんだから」


 俺は苦笑するが、フィナはちらりとこちらを見上げただけで小さく嘆息していた。……なぜだ。


 気を取り直してバトルフィールドの方に目をやると、母さんがエリアーナ先輩を治療し終えたところだった。目を覚ましたエリアーナ先輩に母さんがなにか声をかけると、先輩が顔を真っ赤にして焦っているようだった。一瞬こちらを見てきた気がするが、気のせいだろうか。

 母さんは先輩の手を取って立ち上がらせると、俺の方を見てにこにこと手を振ってきた。手を振り返すのはなんだか気恥ずかしかったので、軽く手を挙げるだけに留めておく。


 あと四戦、どれも密度の濃い戦いになりそうだな。

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