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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
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クラスメイトの話

※本日二話目

 俺はカエデに、クラスメイトの話をした。


 神槍と魔槍、二つのグングニルに選ばれた稀有な才能を持つ少女のこと。

 小柄だが類い稀な身体能力と魔力を有し、種族特有の術式という固有能力を使う魔人の少女のこと。

 神獣の一角である氷の竜ブリューナクと契約し氷においては右に出る者がいない少女のこと。

 元はオーガであるがカエデと同じ突然変異で途轍もない身体能力を持つ少女のこと。

 アラクネの突然変異で毒を操りまた身体能力も高い少女のこと。

 魔法に長けた魔女で使い魔と融合なんかもできてしまう少女のこと。

 入学試験に落ちたから年上ではあるが気さくで頼りになる友人のこと。

 感情は表に出さないが妙なところで意地を張る少女のこと。

 お調子者でクラスのムードメーカーな友人のこと。

 筋肉の塊のようで実際肉弾戦も強い男のこと。

 心優しく怪我人が出たら真っ先に飛び出して治療してくれる少女のこと。


 他にも俺がよく知っているクラスメイトのことを話す。あとは教師や先輩か。


 コノハさんの同期で大人なのにちみっこいアリエス教師。

 アリエス教師達の一個下で炎の神獣フェニックスの契約している理事長。

 刀を得意として気が合う先輩に、眼鏡をかけてグリモアという特異な魔導書を操る先輩に、魔法という点では現在学園最強と名高い先輩。

 牛の獣人で超絶パワーを有する先輩に、舞踊を嗜みそれを戦闘に活かす先輩。

 エリアーナ先輩を除く生徒会役員。

 そして紛れもない現生徒の最強、生徒会長。


 あの学園に来てから、俺はたくさんの人達と出会ってきた。その出会いが、カエデの興味を引ければと思う。


「ふ、ふぅん? そんな人達がいるんだ」


 そわそわ。ぴくぴく。ふりふり。

 わかりやすいなぁ、と苦笑するしかない。口だけ素っ気なくはあるんだが。


「凄く強い人も教えてくれたけど、ルクスは大体どのくらいの位置なの?」


 ふと気になったのか聞いてくる。……俺がどのくらいか、か。会長といい勝負をしたから二番! ともいや俺魔力ないし最下位じゃね? とも言いづらい。というか流石にそこまでは思ってないが。

 一応会長といい勝負をした、風に見せはしたんだが。あれは言ってしまえば無理矢理だった。あの戦いの序盤の方で実際には力尽きていた。無理矢理互角に持っていったんだ。しかも会長はあの時俺の土俵で戦ってくれていた。魔法で一方的に嬲り殺せるだろうに、俺と殴り合ってくれた。だから俺はあそこまで戦えたんだと思う。

 では生徒会の他の人達に勝てるかどうかだが。正直魔法でごり押されたら勝てない可能性は高いし、俺が見ていない手札もあるだろう。俺より二年先に生まれたというだけで、俺の二年分以上のモノを持っているはずだから。二年の先輩で考えやすいのはセフィア先輩くらいか。あの人とならいい勝負をして、勝てる可能性もある。だがシア先輩とアンナ先輩は、先手を取って倒せなければ圧倒される可能性がある。

 じゃあクラスメイトは? アイリアは今強くなっている最中だから不明瞭だ。フィナは本気がわからないからどうなるか。リーフィス……いや厳しいだろう。オリガはまぁ、頑張ればいい勝負になるか。


 とそんな感じに考えていって、結論としては。


「……全体的に見れば上の中、くらいか?」


 二年SSクラスの代表者には勝てた。代表に選ばれていないとはいえ強い先輩もいるだろうし、考えてみると俺の周りにいるヤツらは俺に勝てる可能性が高いヤツらばっかりだ。

 でも二年の二番目に高いクラスの代表者に勝ったなら、中間くらいというのは謙遜しすぎな気もする。勝負には相性があるとはいえ、誇っていい戦績のはずだ。


「曖昧ね」

「そりゃまぁ、実際に戦ってないヤツらもいるしな。けどそれなりに強いヤツにも勝てたし、そこそこなんじゃねぇかとは思ってる」


 客観的に見て、大体それくらいだと考えている。過大評価も過小評価もしていないつもりだが、果たして周囲からの評価はどれほどなのだろうかと思う。会長といい勝負をしたから強いんじゃ、という意見も出てきたら嬉しいが、まぁ実力順で考えればそこまでトップクラスでない自覚はある。


「そうなんだ。突然変異も二人いるのね」

「ああ。今は確かドラゴンの突然変異のところで俺と同じように修行してるし、もっと強くなるんじゃねぇか?」

「ドラゴンの……ってお母さんと互角だったっていう?」

「ああ。うちのクラスはアリエス教師の伝手を使いまくって各自修行に出てるからな。休み明け、見違えるように強くなってそうだ」


 俺もそれに負けないようにしなければ。まずは内功の会得だ。


「そっか」


 呟いたカエデは、少し羨ましそうにぽつりと零す。


「……会ってみたいな」


 思わずカエデを見ると、天を仰いでいる。少しだけ、寂しそうでもあるか。


「じゃあ来てみるか?」

「えっ? ……あっ」


 興味を引くなら、行ってみればいい。まぁアリエス教師に言えば俺が勝手に連れていっても問題児だしなとため息を吐かれるだけで済むかもしれない。

 俺の言葉にカエデはきょとんとして、それから口元を手で覆い赤面する。どうやら無意識に出た言葉だったようだ。


「別にいいんじゃないか、ここにいても娯楽とかあんまりなさそうだしな。もちろん、人間が多いから嫌だっていうのもわかるけど」


 こんな人里離れた場所でずっと母親と二人で暮らしてきた、となると結構精神的に参りそうな気もするが、人間に父親が殺されたとなればむしろ人のいる場所に近づきたくないと思って当然だ。だがコノハさんも知っている通り、人間の全てがそういうヤツではない。まだ若いんだから広い世界を見て欲しい、なんて年寄り臭いだろうか。


「……ううん、いい」


 しかしカエデは首を振った。


「お母さんを一人にはしておけないし。それに、やっぱり人がいっぱいいるところは嫌かな」


 そう言って少し悲しそうに微笑んだ。……まぁ、それなら仕方がないか。


「行きたいなら行ってみればいいですよ、カエデ」


 ただそう思った俺とは別に声がしたかと思うと、コノハさんがすぐそこに立っていた。……いつから聞いてたんだ? 気の感知には引っかかってないぞ。


「お、お母さん?」


 戸惑う娘に、コノハさんはゆっくりと語り出す。


「私も、あの人達のいるライディール魔導学園に通うことで色々なことを学びました。人と接することで抱く温かさも、そこで知りました。……あの人達の出会いがなければ彼と出会うこともなく、あなたが生まれることはなかったでしょう。後悔は色々とありますが、彼と出会いカエデが生まれてくれたことは、かけがえのない大切なことです。あの人達と過ごした日々があって、本当に良かったと思っています」

「……お母さん」


 学園で楽しく同期と過ごし、化け物じみた強さで忌避されてもパーティを拒まなかったのは、そのおかげなのかもしれない。その結果夫となる人物と出会い、カエデが生まれた。旦那さんが殺されたことに後悔はあれど、その幸せは否定しないのだろう。


「だから、これまではあなたを外に出ないようにと押し留めてきましたが、外の世界を知るのもいいと思っています」


 コノハさんはそう言ってちらりと俺を見てきた。


「もしカエデがライディール魔導学園に通いたいと思うなら、アリエスにかけ合ってみます。外の世界を知って私のように居心地の良さを感じるか、それともやっぱり人間とは相容れないと思うか、それはわかりませんが」


 穏やかに微笑んで彼女は話す。……どうやら、俺に修行を受けさせる名目で外のことを教えてカエデを連れ出させることが、コノハさんの思惑だったようだ。ということはこうなることも想定済みだったんだろうか。いやはや、敵わないな。


「で、でも……」


 だがカエデは迷っているようだ。


「今すぐに決めろとは言いませんよ。あなたが行きたいと思うかどうかですから。ルクス君、カエデに外のことをもっと教えてあげてくださいね」

「あ、ああ」

「手のかかる娘ですが、よろしくお願いしますね」


 頷いた俺にふふ、と微笑んでからコノハさんは去っていく。


「……九尾の狐って、もしかしてなんでも見通せるの?」

「……いや、あれが母親なんじゃないか? うちの母さんも、俺のことはなんでも見通してくるし」


 実力という点では親父に劣るはずなのに、立場が親父より上だし。


「そうなんだ……」

「ああ。さて、そろそろ修行を開始するか。他の話は、休憩中にでもな」

「あ、うん」


 俺は縁側から立ち上がって伸びをする。カエデに外のことを教えて興味を持ってもらうのも俺のやるべきことなのかもしれないが、俺の中の最優先は内功の修行だからな。


 というわけで内功を発動したまま戦えるようになるために修行を再開する。


「あ、そういやなんで気を排出する必要があるんだ? 吸収っていう手段があるならそれだけでいいじゃないか」


 すっかり忘れていた疑問をカエデに尋ねる。


「やってみればわかるわ」


 答えは教えてくれなかった。多分デメリットがあるんだろうなとは思っているんだが。まぁ、直接教えてくれないなら仕方がない。

 覚悟を決めて、気を大きく吸収してみる。


「っ……!?」


 ずき、と全身に激痛が走って身体のあちこちから血が噴き出した。予想以上の痛みにばったりと倒れてしまう。


「ほら、言ったでしょ」

「……言ってねぇよ」


 教えてくれなかったからやったんだろうが。

 カエデにツッコみつつ活気で回復に努める。


「今みたいに気を過剰に吸収してしまうと、身体の方が持たなくなって怪我をするの。身体を鍛えれば吸収できる許容量も増えるけど、古い気を残し続けても身体に害が及ぶ。吸収できる量には許容量があるから、どうしても排出する必要が出てきちゃうみたいね」

「そう、だったのか」

「……思ってたけど、その気知らない」

「ん? ああ、活気か。うちの親はなんか新しい気を種類分けすることが多いから、作ったみたいだ」

「ふぅん? それ、私にも教えて。見たところ自然治癒力を活性化させて治す類いだし、便利そう。こっちは内功教えてあげるんだからいいでしょ?」

「ああ、まぁいいけど」


 活気に興味があるらしい。内功の修行で疲れた後に教えることになった。まぁ教えてもらってばかりじゃ申し訳ないってのもあるし、それくらいはしていいだろう。母さんもあんまり他人に教えるなとは言ってなかったし。

 大体、活気の始まりは魔力のない俺が自分で多少回復できるようにっていう理由だからな。俺と同じように魔力が少なくて、というヤツも知りたいだろうし広めてやる分にはいいだろう。……まぁ、そうなってくると魔力も多いヤツはどっちも使えて狡いってことになるんだが。まぁそこは気一辺倒で頑張って追いつかれないようにするしかないな。


 それから俺はカエデに教えてもらいながら修行に打ち込んだのだが。


「ダメ! また内功が解けてる。もっと集中して!」

「何度言ったらわかるの? 吸収の許容量はもうわかってるでしょ。吸収しすぎないで、そのまま維持!」


 などと叱咤されまくった。……呑み込みが早かったのは気をよく扱っているからだが、天才じゃないんだよ。そんな一日かそこらで会得できたら苦労しない。

 しかも発動した状態で戦うことが目標だからか急に攻撃してくる。内功の発動に集中していたら直撃するので、身体も痛い。まぁ内功で身体能力が活性化してるからそんなに怪我はしないんだが。


 カエデの指導は割りとスパルタであることが判明したのだった。

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