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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
136/163

外への関心

筆が乗れば五千字程度の話が一週間で四話書けるということがわかりました。まぁ、全部禁気なんですけど。

しかし来週も同じくらい書けるかはわからないので、本日は二話までを更新します。他の作品も進めないといけませんしね。


※本日一話目

「内功、教えてあげる」


 親子でじっくり話をしたらしく、普段の調子を取り戻したらしいカエデは木の棒を振るって鍛錬していた俺の下へ来てそう言った。……良かった、話はついたみたいだな。


「ああ、頼む」


 俺は笑って頷いた。

 当然、下心がないとは言わない。だが下らないことで悩んでしまっているのを見ると、なにかしてやりたくはなる。悪いのは襲撃者共で、カエデではない。それだけはわかって欲しかった。


「……ちゃんとお母さんと話ができたから、ありがと」


 少し前の自分と比べると、という自覚があるのか頬を染めて礼を言ってくる。本当につんつんしていた様子とは全然違うな、と思って苦笑してしまう。


「なに笑ってるの。言っとくけど、話がついたからと言ってあなたが内功を会得することで死地に飛び込む可能性は否定できないんだからね」

「わかってるよ」


 ジト目を向けられてしまい、苦笑が深くなる。


「けど俺は、内功が会得できなくても戦いに行く。だから内功を覚えるのは、俺が戦いから生きて戻ってこれる可能性を高めるためだ」


 狡い言い方だろうか。教えたら無茶をして死んでしまうと思っていたところに、教えなかったら戦いに行って死んでしまうと告げる。


「……それ、狡くない?」


 カエデもそう思ったようだ。少し拗ねたような表情をしている。


「まぁ、俺はどっちにしても戦うからな。そういう言い方になるのは仕方がない」

「そう。まぁいいわ。人間にしては気が扱えるみたいだし、多分会得できると思うよ」

「そうか、ありがとな」


 カエデの申し出は非常に有り難い。俺が強くなるためということもあり、遠慮せず頼み込むことにする。他のヤツらも強くなっているだろうに俺がなにも得られないんじゃ、置いていかれる。そうでなくとも俺は魔力がないということで落ちこぼれ認定されることがあるので、才能あるヤツらと同等の実力を見せつけなければならない。


「いいから始めましょ。ちゃんと教えはするけど、会得させる気はないから」

「酷いな。まぁ、教えてくれるって言うなら有り難く頼らせてもらう」


 概要だけは説明してやるから会得できるモノなら会得してみろ、と言わんばかりの“教え”になりそうだ。俺の頭の悪さでなんとかなればいいんだが。


「まず、お母さんが教えた気の排出孔、気孔を閉じる方法は練習方法としては間違ってないけど、最終的な会得方法としては間違ってるの」


 もう本題に入るようだ。しっかり聞いて、覚えておくようにしよう。


「どういう意味だ?」


 しかし早速意味がわからない。詳しく教えてもらう他ないのだが。


「えっと……内功の基本的な部分は、体内を巡る気の速度を上げて身体能力を強化するっていうところにあるの。だから、それは間違ってない」


 ふむ。


「でも気孔を閉じるだけだと身体に害を及ぼすから、失敗する。気の巡りを早くするにはいい方法だと思うけど、それだけじゃ持続時間が少なすぎるの。どう頑張っても、死の直前まで行く以外に時間を延ばす方法がない」


 それは確かにな。その問題を解決できないから、コノハさんは会得してないんだと言ってたんだろうが。


「それなりに気の感知はできるみたいだし、今からやってあげるから答えを探してね」


 カエデはそう言うと意識を集中させる。すぐに彼女の身に纏う空気が変わった。実際、全身が光る白煙を噴くようになっている。見た感じ通常の気を纏った姿とそう変わらないようにも見えるが、感知をすればわかる。カエデの体内で目まぐるしく気が流動していた。俺が気孔を閉じた時よりも早い。しかもその上で白く光るオーラを纏っているように見えるのは、気孔を塞いでいないからだ。

 つまり彼女は気孔を塞がず自分の意思で気を高速で巡らせ、その上で気をある程度排出しないままにしているのだ。


 それだけじゃない。よく視ないとわからないがこれは……気を身体で吸収してるのか? 排出している気とは別に身体へと吸い込まれていく気がある。それも何周かした古い気だ。排出しているだけではダメなのか、どうやって吸収しているのか、気になることはたくさんあ――


「近いっ!!」


 ごす、と鼻っ面を殴られて後ろによろめく。どうやら気の感知に夢中になっていて無意識に近寄っていたみたいだ。鼻を押さえてカエデを見ると、顔を赤くして目を吊り上げていた。


「……悪い、夢中になってた」

「べ、別に近づくことはいいんだけど、心の準備が……」


 まぁ確かに急に近づいてこられたらびっくりするよな。だから急に殴らないで欲しいんだが、って思ってしまうのは近づいた側だからだろうか。


「わかった。じゃあ、手を握っていいか?」


 心の準備が必要だそうなので、今度はちゃんと事前に告げることにした。


「へぁっ!?」


 なぜか奇妙な声を上げて顔を真っ赤にしてしまった。……なんか間違えたか?」


「俺の気を流し込みながらやってもらった方がわかりやすいだろ?」

「……えっ、ああ、そうよね。そういうことよね」


 なぜか胸を撫で下ろしている。まぁ、いいならいいか。


 改めて近づき、差し出された手を握る。肉刺などの一切ないすべすべした白くて綺麗な手だ。俺のごつごつした手とはまた違う。努力する必要がなかったからこういう手になるんだろうか。


「じゃあ、始めるな」

「うん」


 俺は神経を集中させるために目を閉じて、繋いでいる手から気を流し込む。


「んぅっ……」


 妙に艶かしい声が聞こえてきたが、そこに気を取られてはならない。集中しなければならない。


 程なくして流し込んでいる気も一緒に、高速で回り始める。自分の気だから感知しやすいとはいえ、目まぐるしく巡っているせいで捕捉し切れなくなってしまいそうだ。だが高速で回す方法についても当たりをつけられた。やがて自分の気がカエデの身体に吸収させていったのを感知する。古い方から順に吸収されていっている。それとは別に外へ排出される気もあったが、古くなって外に出ようとする気を出さずに回すことも必要だ。


「……なるほどなぁ」


 俺は呟いて目を開き手を放す。


「わかった?」

「まぁ、大体は。けどそれをやりながら戦うってなると難しいよな」

「そうね。だから自然と内功を維持できるようになるまでやるのよ。私はもうずっと使ってきてるから、寝てても発動できるけど」


 ちょっと得意気である。


「内功をしながら戦えるようになって、ようやく会得ってところか。じゃあ今日は発動するところまでだな」


 言って、カエデから少し離れて瞑目し集中した。


 まずは気を早く巡らせる。体内の気の循環を早めるのが一番最初だ。これができるようにならなければ、話にならない。幸い気の量にはそれなりの自信があるので、駄々漏れでもいいから早くしてみる。力は湧いてくるが気の消費量が半端ないので疲労が早い。

 次に気を排出させないように制御する。外へ出ようとする気も強制的に体内を循環させる。体外の気を操れるのに、体内の気を操れないということはない。もちろん、生物として正常な動きを阻害するので多少の無茶はあるが、逆流させようとさえしなければ多少は融通が利く。

 そうなると古い気を出さないことによる身体への影響が発生してしまう。そこで気を吸収していく。吸収と言うと少し難しいが、気を身体能力に変換しているのだ。これによって古い気の消費と更なる身体能力の強化を両立しているらしい。……これを思いつくってのは凄いな。俺じゃ一生かかっても無理だったろうに。

 最後に吸収とは別に気孔から古い気を排出する。そういや吸収っていう抜け道があるのにわざわざ排出する意味を聞いてなかったな。これは外孔とは違って纏って強化しているわけではない。ただ排出した気が可視化されているだけだ。……内功と外孔を組み合わせる場合、こうやって排出した気を纏うようにすればいいんだろうか? いや、今はまだ考えなくていい。今は目の前の内功の会得だ。


「……」


 その状態を維持しつつ目を開く。問題なく発動できている、と思ったが目の前のカエデが拳を振るってきて俺に当たる直前で止めた瞬間、集中が乱れて解除されてしまった。


「……うん、いい調子。初めてなのにやるじゃない」

「そりゃどうも」


 じゃあいきなり殴りかかるなよ、と思わないでもない。褒めるんだか試すんだかどっちかにして欲しい。


「気の感知に優れてると飲み込みが早くていいのね。お父さんが会得する時は、すっごく苦労した覚えがあるもの。当時子供だったから、拙い説明だったとはいえね」

「まぁそれはな。じゃあ今日からは素振りも内功を発動しながらにして、いやでも仙気と気の総量とかを上げる修行もあるから……いや、そうか。体内でずっと気を高速循環させ続ければ気も消費できて総量が上がる修行にもなるか?」

「……修行、好きなんだ」


 ついつい独り言を漏らす俺に、呆れたような苦笑を向けてきた。


「好き、って言われるとなんか違う気もするんだけどな」


 俺も苦笑してしまう。これはどっちかと言うと使命感というか、負い目というか、焦燥感みたいなモノだろうか。

 そういえば、俺が弱音を吐いたのはそれこそ両親か、コノハさんとカエデぐらいなんだよな。だからか、こうして普段なら頭の中で考えていることも口に出してしまうのは。気負うモノがないから気が楽なんだな。


「……なんつうか、普段は弱いっていう自覚を隠してるからな、努力してるところとかをあんまり見せてこなかったんだ。気取らなくていいからついな。修行するのはあれだ、手を抜くと俺なんかはすぐ追い抜かれちまうからな」


 周りは天才ばっかりで、気だけで一番レベルの高いSSSクラスに食い込んで代表にも入り込んだ。だからこそ、俺は努力を怠ってはならない。なにせアドバンテージが低いのだ。才能あるヤツらはきっと、この夏休みの間に大きく伸びてくる。俺が色々やり遂げなければ、次の代表だって怪しいところだろう。


「そうなの? 人間にしては強い方じゃないかと思ってるんだけど」

「今のところはな。けど、気は努力すれば伸びるし、俺には魔力がない。気だけで見ても無駄が多いんだ。だから、才能があるヤツには追いつかれる。カエデだって、内功なしで考えても多分俺より強いだろ?」

「それはまぁ、私は九尾の狐だし」


 半分だけど、と彼女は曖昧に頷く。周りに比較対象がいないからだろう。ただ母親のコノハさんが最強に近いので、彼女と渡り合えるなら強いということになるだろう。


「だから俺は負けないように努力するんだよ。まぁ、もう一個理由があるっちゃあるんだが、そっちは内緒な」


 落ちこぼれが頑張っている姿を見せることで希望を与える、なんて真似は口に出すと恥ずかしい。なにより言わない方が伝える時にいいと思う。

 あとカッコつけたい。


「ふぅん。そんなに強い人がいるんだ」


 興味なさげに言ってくるが、側頭部の耳がぴこぴこと動いていた。……気になるんだろうか?


「カエデはあんまり外出ないだろうし、うちのクラスにどんなヤツがいるかとか話してやろうか?」

「えっ、いいの!? ……じゃなくて、まぁ聞いてあげてもいいけど?」


 一度食いついてから取り繕っても遅いと思うんだが。そう思うとなんだか笑ってしまう。


「なに笑ってるの」

「いや、わかりやすいなって」

「っ! ……別に、そういうんじゃないし」


 カエデは耳まで真っ赤になってそっぽを向いてしまった。触れたことのない話を聞きたいという好奇心はあるようだ。


「じゃあ俺の内功の修行がてら、話してみるか。自然体で発動できるようになればいいんだしな」

「まぁ、そうね」


 俺の提案に、素っ気なく言って場所を移し家の縁側に腰かけた。


 澄ましているようだったが耳と尻尾がそわそわしているのか忙しなく動いていて、楽しみにしているのが丸わかりだった。

 そんな後ろ姿を苦笑して眺めながら、さてどんな話をしてやるかと考える。


 まずはとりあえず、俺の才能溢れたクラスメイト達の話からしようか。

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