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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第四章
129/163

夏休み前日

※本日二話目

「明日から夏休みが始まる」


 朝のHRがアリエス教師のそんな一言から始まると、教室の空気が引き締まった。普通は「休みだヒャッホーッ」となる場面だが、俺達は強化訓練を行うことが決定している。


「以前参加不参加の紙を配ったが、嬉しいことに全員参加する。なので当初はみっちり鍛え上げてやろうかと思ったが、やめだ。死にそうになるくらいに鍛え上げてやる」


 にやりと不敵に笑うアリエス教師に、何人か悪寒が走ったようだった。


「明日からもちゃんと学校に来るようにな。日程は配布してあるが、朝から夕方までの間だ。キツい訓練にはなるだろうが、なぜお前達がここに来たのか、原点を常に掲げろ。やり遂げてやるという意思を持って挑め」


 真剣な顔で発破をかける姿は、本当に教師のようだ。教師なんだけど。


「で、次に。私が面倒を見ない問題児共。なんとか連絡が取れてな、一応話はつけておいた」


 おぉ、やっとか。俺は誰が担当してくれるんだろうな。


「アイリアとフィナは、この話をした時にも断った通り父親のところにでも言っておけ。それが聖装、そして術式をより理解するのに必要なはずだ。お前達の父親は私達とは異なるが、彼の大戦を生き残ってきた猛者だ。特にフィナの父親は、ガイスに並び立つ存在と言っていい」


 アリエス教師は自分が取り合っていない二人に対して告げる。……へぇ。親父の本気は俺もまだ引き出せてないが、フィナの父親は相当に強く、アリエス教師も知っている人物らしい。この場合は俺が知らなさすぎるんだろうか。

 当の本人は、ちょこんと俺の膝の上に座っている。


「次にオリガとリリアナ。オーガとアラクネの突然変異ということで、お前達二人にはドラゴンの突然変異、ラハルのところへ行ってもらう」


 その名前が呼ばれて、教室がどよめいた。俺もその一人だ。マジかよ羨ましい。最強の魔物と言われるドラゴンの突然変異。未だかつて類を見ない最強の生物と称された存在だ。俺でも聞いたことがあるくらいに凄い。


「あいつの居場所は霊峰カネル。凶悪な魔物共が犇く危険地帯だ。あそこは魔素の濃度が濃すぎて私の転移も麓までしか使えない。自力で登れ」


 霊峰カネルか。アリエス教師の言う通り、俺が黒気全開で戦い続けないと死ぬような場所だ。あんなところに住んでるのか。


「リーフィス。お前は正直私でも良かったのだが、折角だ。専門的につけることにした」

「理事長ですか」

「ああ、そうだ。お前の修行相手はお前と同じ最強種の魔物と契約したネアニ、ここの理事長だな。明日理事長室に顔を出すように」


 ここは妥当、というか予想はついていた。リーフィスは身体が冷たくなってしまったが、理事長も身体を炎に変えることができるという。同じような力、同じような契約方法なのかもしれない。


「次にイルファだが、お前の特異さは正直どうすれば伸びるのかよくわからん。だから理解できそうなヤツに任せることにした。それが三年SSSクラス担任、セドフだ。事象の解明を前提とするなら腕は確かだ。生徒会長が今あんなに強いのも、あいつありきと言っていい。初対面だろうが、まぁ気にするな。友達が少ないヤツなんだ」


 会長に別人格を形成するという選択肢を与えた人か。確かにイルファはリオという相棒のリスみたいな生物と融合することで特殊な魔法を使う。名前がなく「~~しちゃう?」という文言だけで起動する魔法なんて聞いたことがなかった。一応対策用に色々と文献を漁っている俺でもな。

 まずはその力を解明するところから始めないと、修行のしようもないということなんだろう。

 本人もクラス対抗団体戦で負けたことが響いているのか、真剣な顔をしていた。


「最後にルクス。お前は九尾の狐の突然変異、コノハのところに行ってもらう。あいつはあんまり人と関わりたくないらしくてな、今場所を告げることはできん」

「突然変異……気の修行じゃないのか?」

「いや、その認識で合っている。まぁ行けばわかる」


 読み通りというか、気の修行でいいらしい。というか俺にそれ以外の修行はできないだろう。


「今日の終業式が終わったら、きちんと修行へ行けるように準備しておけよ。ルクスはHRの後私と来い」


 アリエス教師はそう締めて、この話題を終わりにする。……夏休みの課題は修行に専念できるように、事前に配られたモノは終わらせている。俺にしてはよくやった方だ。俺にしては、って自分で言ってて悲しくなるな。今日配られたモノもあったので、今日の内にある程度終わらせておくとするか。ホント、珍しく計画的だな。


 そしてHR後にアリエス教師と二人で廊下を歩く。


「コノハがいるのは仙獣山。許可ある者以外は立ち入ることのできない聖域だ。一応お前は知り合いの頼みだからと許可してもらっているが、このことは口外するなよ」


 周囲に人がいないタイミングでアリエス教師は言った。


「人嫌いなのか」

「そんなところだ。詳しくは、聞けるなら本人に聞け。私の口から話すわけにもいかん。ただお前はずけずけと他人の問題に踏み込んでいくからな」

「……そんな印象なのかよ」

「日頃の行いを省みることだな」


 いやまぁ、他人の事情に首突っ込むことはないわけじゃないけど。セフィア先輩の時とか、王子襲来の時とかな。

 そのままアリエス教師と話していると、


「アリエス先生!」


 後ろから呼び止める声が聞こえた。振り返ると、そこには同じクラスのフェイナがいた。肩で息をしている。走って追いかけてきたのだろう。


「どうかしたか?」

「あ、あのっ、一つお願いがあるんですけど……」


 振り返ったアリエス教師に聞かれて、答えながらちらりと俺を見てくる。


「こいつがいると話しにくいことなら、外させるが?」

「あ、いえ、大丈夫、です」


 視線の意味を察して声をかけたが、フェイナは首を横に振った。そして何度か深く息を吸って呼吸を整えると、意を決したようにアリエス教師を見つめた。


「わ、私にも専門的な人を紹介して欲しいんです!」


 強い意志の込められた言葉だった。


「……団体戦の時、もっと腕が良ければ怪我したままでいることなかったんだと思います」


 フェイナは少し顔を伏せていた。

 確かに今回、相手の策もあって何人も傷だらけになった。フェイナとしても回復担当として感じるところがあったのだろう。


「それで、もっと長所を伸ばすために訓練がしたいと?」

「はい。アリエス先生がちゃんと私達のことを見た上で判断しているのは承知の上です。でも今回のことで、一番頑張らないといけないのは私だと思うんです」


 そんなことはない、と口で言うのは簡単だが。確かに完治できず痛ましい姿を晒したヤツは多かった。そんな中で無力さを一番感じていたのは彼女なのかもしれない。


「……お前の覚悟はわかった。ダメ元で、私の知り合いに連絡は取ってやる。そう遠くないから明日出立すれば日が暮れる前には着けるだろう。どうせ、息子が帰ってこなくて暇しているだろうからな」


 とアリエス教師は意味ありげに俺の方を見てきた。……ああ、なるほど。頼む人がわかったぞ。


「じゃあフェイナは強くなるなぁ。俺も負けないように頑張らないと」


 慰めることはしなかったが、一緒に頑張ろうくらいはいいだろう。俺が笑って言うと、許可されたことに安心したのかほっとしたような笑みを浮かべていた。


 そして終業式が始まり、終わる。……いやだって真面目な話しかしないんだもん。カタストロフ・ドラゴンが襲来したから、気を引き締めて過ごせだの。そんなわかり切ったことを言われてもなぁ?


 ということで出発の準備及び課題に取りかかるため、俺は寮の部屋に戻ってきていた。

 ただし、なぜかフィナがずっと俺の膝の上にいる。


「なぁ、フィナ」

「……なに」

「課題やりにくいから、退いてくれないか?」

「……や」


 声をかけても一切退こうとしない。膝の上に座り俺に抱き着く体勢で、ずっといるのだ。


「フィナ」

「……ん」


 諭すように呼んでもきゅっとしがみついたまま首を横に振るだけだった。


「まだ、俺が魔法で撃たれたことを気にしてるのか?」

「……っ」


 俺が心当たりを尋ねてみると、ぴくっと身体が反応した。わかりやすい。


「あれならもう大丈夫だって言っただろ? 犯人はアリエス教師達が探してるし、俺も覚えてないことだからかそんなに気にしてないしな」

「……」

「だからフィナも気にしなくていい。な?」


 できるだけ優しく柔らかな白髪を撫でてやる。


「……信用ならない」

「それは俺か? それともアリエス教師か?」

「……ん。ルクス以外の全部」


 フィナは首を横に振って答えてくれた。……全部、か。余程ショックだったのか。


「そっか」

「……ん。誰かわかんないから、疑うしかない。ルクスはいっぱい頑張ってたのに。いっぱい傷ついてたのに。そこを攻撃するのは、許さない」


 許せないと言わないところが彼女の怒りを示しているようだ。


「フィナはそんな風に思ってくれてたんだな」

「……だって、ルクスのことちゃんと見てる」

「そっか。ありがとな、フィナ。でもあんまり怒っちゃダメだ」

「……なんで」

「怒りってのはな、周りが見えづらくなるんだ。視野が狭くなると、普段気づけるようなことにも気づかなくなって、もっと重大な取り返しのつかないミスを犯すんだ。だから、怒りは持ち続けない方がいい」


 昔、親父に言われた言葉だ。当時の俺は魔物絶対殺すみたいな空気すら纏ってたからな。


「……でも」

「それにな、フィナ。アリエス教師がただ手を打っただけに留めると思うか?」

「……?」

「あの人は俺達が思ってるより優秀だ。あれから何週間も経っていて、尻尾が掴めてないわけがないんだよ」

「……ほんとに?」

「ああ。そして多分、この夏休みの間に泳がせる気なんじゃないか? 知ってるわけじゃないけど、いくらテストやらに追われてたからといって追跡を後回しにした可能性は低いと思うんだよ」

「……」


 なにせ様々で身勝手な猛者達のサポートに回っていたくらいだ。正攻法よりも搦め手の方が得意な印象がある。


「それに、もうそういうことがないために強くなるんだろ?」

「……ん」

「だったら気にするな。今度裏でなんかしてたヤツらに出会う時があれば、全滅させてやろうぜ」

「……ん。頑張る」


 フィナは少し調子が戻ってきたようで、声に張りが戻ってきていた。


「……あ。でも明日からルクスと離れ離れ。や」


 しかし明日からそれぞれ修行に出てしまうからか、ぎゅぅと抱き着いてきた。打って変わって子供のような様子に苦笑する。

 そこへフィナの脇を抱えて引き寄せた人物がいた。


「フィナ。やっぱり私には相談しなかったわね」

「……アイリア」

「今日は罰としてこちょこちょ洗いの刑よ」

「……っ。それはダメ。ルクス助けて」

「罰なんだからダメよ」


 フィナは俺の膝の上から引っぺがされてアイリアに抱えられ浴室の方へ消えていく。


「……悩みがあるなら相談しなさい。私達、友達でしょ」

「……ん」


 少し小声ではあったが、俺にもしっかりと聞こえてきた。

 アイリアもフィナの様子が気にはなっていたようなので、これで良かったのだろう。二人はなんだかんだ仲がいいので、仲直り(?)したなら良かった。


 二人が風呂へ行っている間に俺は課題に取り組む。

 その後くってりとした様子で戻ってきたフィナと気が晴れた様子のアイリアと入れ違いで風呂に入る。


 そして数日前から準備していた着替えやらなんやらを詰め込んだ大きめのバッグを確認した。忘れ物がないようにしなければ。


 明日はいよいよ、九尾の狐の突然変異だというコノハさんのところへ行く。楽しみで仕方がない。俺はまだ強くなれるはずだ。周囲に火を点けるには、俺がずっと走っていなければならない。


 皆も強くなろうとしている。才能がないからって、負けていられないな。

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