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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
125/163

詰めのテスト勉強

続けていた週一更新ですが、『禁気』はストックが切れたために来週は難しいと思います。

年末年始は休暇にならない……かも。


あとついでにメリークリスマスです。

 期末テストを目前に控えた土曜日。


 俺は入寮許可証を貰った上で三年生の寮前に来た。エリアーナ先輩が根回ししてくれていたようですんなり貰えたが、正直女子部屋に入ることになるので入ったとしても難しい気がする。

 と思っていたら合流した私服姿のエリアーナ先輩から陰でシーツを被せられた。どうやら透過の魔法をかけてあるらしく、先輩から見えなくなったようだ。


 普通なら透明化して寮に侵入するなど犯罪だが、今回はエリアーナ先輩の方で寮長には騒ぎを避けるための処置と説得してある。俺が声や物音を立てずに移動できればバレなくて済むということだ。

 後は気を感知されないようにすることか。こちらは油断さえしなければ会長にだって感知されないので問題ない。


「行くわよ」


 エリアーナ先輩の固い声に従って、そろそろと寮内を歩いていく。彼女の後ろについていけば基本誰ともぶつかることはない。後ろから来る人を警戒していれば大丈夫だとは思うが。

 しかしこうして同級生と擦れ違って挨拶されるところを見ると、本当に慕われているのだとわかる。俺は睨まれることが多いからなぁ。生徒会が務まるのか急に不安になってきた。


 地面につくほど長いシーツが踏まれないようにとか、神経を使う時間だった。


 ようやく寮の部屋に着いたらしく、エリアーナ先輩が一つの部屋の前で立ち止まり鍵を開け扉を開く。自然な動作に見えるよう素早く中に入った。扉が閉まったことを確認してから、シーツを下ろす。


「……ふぅ。なんとかバレなかったわね」


 エリアーナ先輩も緊張していたらしく、部屋に着いてほっとしたように笑っていた。


「さぁ上がって。一応事前に飲み物とか食事は買ってきてあるから。一日中勉強できるわよ」

「助かる」


 ホントに。

 俺は至せり尽くせりなことに感謝しつつ、持ってきた昨日わからなかった部分をメモしておいた紙を取り出す。俺の持ち物はこれだけだ。エリアーナ先輩が持っていた一年生の時の教科書と今俺達が使っている教科書は同じモノで、ペンも借りればいい。紙も用意してくれる。なにからなにまで申し訳ないが、今の状況を考えれば身軽な方がバレにくいからだろう。


 しかしエリアーナ先輩の部屋は二人部屋だ。……相部屋の人がいるんじゃないかと思うんだが。終日出かけてるとかだろうか。許可取ってなくて困ることがなければいいか。


「もう一人には許可取ってるから大丈夫よ。昼頃には帰ってくるでしょうけど、気にしなくていいわ」


 俺が部屋に二つベッドがあることを見ていたからか、先輩が言った。どうやら話はつけてあるらしい。

 しかし女子二人の部屋なのか甘い匂いがするように思う。俺達三人の部屋は……どうだろう。なんか毎日いるせいで慣れてしまったのかわからないな。


「ほら、ぼーっとしてないで勉強するわよ」


 エリアーナ先輩が言って、椅子に座るよう促してくる。既に勉強道具は揃えてあった。

 俺はここに来た目的を果たすために紙が手前に置いてある勉強する側らしき椅子に座る。向かいにエリーアナ先輩が座った。


「これが昨日の放課後以降にやったヤツのわかんなかったとこだ」

「ありがと。……数が減ってきてるわね。やった範囲は広がってきてるでしょうけど数が減ってるならわからない箇所そのものが少なくなってきてる証拠ね。この調子であと二日、頑張りましょう」


 用紙に目を通した先輩が微笑んだ。俺としてはあまり実感できていないが、先輩がそう言うならそうなのだろう。


「わからないことがあったらその場で聞いていいわよ」

「おう。エリアーナ先輩は勉強しなくていいのか?」

「合間にちゃんと勉強してるわ。そもそも試験なんて、日頃からちゃんと授業を聞いていればある程度点数は取れるモノよ」

「……そうか」


 日頃からちゃんと授業を受けていないからこうなるのよ、と注意されてしまった気分だ。まぁその通りなのだが。普段居眠りしていればこうなるのも当然か。テスト明けからはちゃんと授業受けようかな。


 雑談は程々に、勉強に集中する。

 エリアーナ先輩から出題される問題にも即答できることが増えていた。それだけでなく問題集を解くスピードも上がっているような気がする。以前より問題で詰まることがなくなったからだろうか。とはいえ答え合わせをして正答率を確かめて間違えたところは復習しなければならない。

 時間は有限だがやることはいっぱいだ。勉強なんていくらやったって終わりが見えないのだから、テストまでにやれることはやっておかなければ。


 そうして勉強を始めてから三時間ほど経ち、


「そろそろお昼だし、休憩にしましょうか」


 エリアーナ先輩の一言で俺は手を止め大きく伸びをする。

 勉強道具一式を一旦退けて、買ってきたという飲み物と食べ物を机に乗せた。奢ってもらって悪いが、そこは先輩後輩ということで甘えてしまおう。先々週で使いすぎたということもあるが。


 昼食は数種類のパンとデザートだ。曰く勉強には甘いモノがつきモノだとか。デザートを食べている時の先輩の表情から察するに、多分ただ先輩が食べたかっただけだろう。

 そうして昼食を終えたところで、がちゃりと扉の鍵が開けられた。思わずそちらを見ると、続いて扉が開かれルームメイトだろう人が姿を見せる。


「ただいま~。あっ、も~やってるんだね~」


 にこにこと柔和な笑みを浮かべて入ってきては、なにかの袋を掲げていた。俺の姿を見ても驚かずにいるところを見ると、本当に話はつけていたらしい。

 しかしその入ってきた人物に、俺は驚いてしまう。


「レクサーヌ先輩……?」


 間違いない。あの圧倒的なボリューム――ではなくクリーム色の長髪に垂れ目、加えて薄茶色の角と耳が特徴的だ。

 三年SSクラス最強の、牛人族レクサーヌ先輩その人である。


 俺が知る限り相部屋は同じクラスの人になる。それに学年は関係なさそうなのだが。


 しかしそれよりも誰よりも目立つ暴力的なまでのボリュームが目についてしまう。少しの動きでも揺れる。フィナが成長しても、シア先輩よりも大きいのだから。試合では見たがこうして間近で見ているとまた凄い。


「こら、どこ見てるの」


 とか思っていたらエリアーナ先輩に右耳を引っ張られてしまった。邪なことは考えないようにしなければならないか。


「いや、その、なんで二人が同室なのかなと思って」


 言い訳が通じたわけではないだろうが、エリアーナ先輩が手を離してくれる。……あー痛かった。ちょっと耳が熱くなってる気がする。


「それは最初が同じAクラスだったからよ。それから上がっていって、クラスが変わっただけ」

「そうだね~。でも私はSSクラス止まりだったから~」

「それもレクサーヌが代表になりたいからでしょ。後はあれ、私と戦いたいとか」

「うん~。でもエリちゃんとは結局戦えなかったんだよね~」


 言い合う二人はとても仲が良さそうだ。まさかこの二人にそんな接点があるとは思わなかった。


「はい~、お昼~、ってもう食べちゃったの~?」


 机まで近づいて持っている袋を掲げるが、そこで机の上にあるゴミを見つけたようだ。


「昼食は私が買うからいいって言わなかったっけ?」

「あれ~そうだっけ~?」

「そうよ。全く、買ってきたのは自分で食べてもいいわよ」

「わかった~。あ、そういえばエリちゃん。副会長が一時から生徒会室に来るように伝えてって~」

「え? 今日はなにもなかったはずだけど」

「急用なんじゃないの~? 制服で来てねって言ってたよ~」

「……そう」


 レクサーヌ先輩によると、エリアーナ先輩はこれから急用らしい。先輩も逡巡するように俺を見ていた。


「俺なら戻ってくるまで自主勉強してるけど?」

「ルクス君は私の方で見とくから大丈夫だよ~」


 俺が言ってレクサーヌ先輩も続いたことにより、先輩は決意したようだ。


「わかったわ。じゃあレクサーヌ、あとお願い。できるだけすぐ戻ってくるから」

「うん~。いってらっしゃい~」


 エリアーナ先輩は学校へ向かうために制服を手に取り今着ている服に手をかけ着替えようとして――俺と目が合い頬を染める。


「……脱衣所で着替えてくるわ」


 服へかけた手を離して制服を持ち脱衣所の方へ歩いていった。

 そして代わりにレクサーヌ先輩が俺の向かいに座る。大きな膨らみが机の上に乗っかり、両手で頬杖を着いてくる。……これはテスト勉強というより如何に精神集中をするかの特訓では?

 と冗談混じりに思ってしまうが。


 当の本人はそんなことなど思いもしていないかのようににこにことこちらを眺めていた。


「じゃあエリちゃんの代わりにお姉さんが勉強見てあげるからね~」


 ……いやまぁ、確かに二つ年下なんだろうけど。

 なぜか年齢差よりも年下扱いというか、子供扱いされているような気分になる。


「私はこれから出かけるけど、サボっちゃダメよ」

「わかってるよ。サボる余裕ないし」

「なら良し」


 制服姿に着替えたエリアーナ先輩が脱衣所から出てきて言った。こちらもこちらで仕方のない年下扱いだ。まぁ正直試合では兎も角勉強で大変お世話になっているので仕方がないとも言える。

 先輩は俺の意思確認をしてから颯爽と部屋から出ていった。先輩のことはいいので、俺は俺のことに集中しなければ。成果が一応上がっていると見て問題ないが、依然油断を許さぬ状況だ。気を引き締めてかからねば。


「じゃあ再会するか」

「うん~。わからないところがあったら遠慮なく聞いてね~」


 にこにこと変わらぬ笑顔を向けてくるレクサーヌ先輩とは初対面なのでどんな人なのかイマイチわかっていないが、教えてくれるというなら大人しく従っておこう。

 できるだけ机に乗った膨らみに意識を向けないようにしつつ、臨時講師レクサーヌ先輩との勉強を開始した。……入学当初フィナの胸元に視線が集まってた理由がわかるってもんだな。


 確かにこれは、勉強から意識が外れそうになる。だが負けるわけにはいかない。俺には勉強をして赤点を取らないという目標があるのだ。煩悩退散。


 などと考えている時点で勉強に集中できていないのは明白だが、意識して意識から外さなければ集中が全くできなかった。……とか言ってる時点で全く集中できてない、っていうループに嵌まるわけなんだが。

 そんなことを考えずにただただ勉強し始めていると、自然と気にならなくなっていく。勉強なんてクソ食らえと思っていたが、最近は勉強漬けの日々を送っているせいか苦にならなくなってきた。


 よく言われていることなのかもしれないが、嫌だ嫌だと思って勉強していたら嫌いにしかならないということなのだろう。


 あと一つ。

 レクサーヌ先輩は牛人族だ。広義で言うと獣人族という獣の特徴を持った種族なのだが、獣人族は身体能力が高い代わりに魔力があまり伸びない。そして偏見とも言える俺のイメージだが、近接が得意なヤツはあまり頭を使うのが得意ではない。

 ……これはうちのクラスのオリガやマッチョの印象が強いからだろうか。後はセフィア先輩もどうやら赤点の常連らしいところもあるみたいだし。


 という言い訳を並べたが、要はレクサーヌ先輩の頭の良さに敬服した、というだけの話だ。


 エリアーナ先輩は教え慣れているような雰囲気さえあったが、レクサーヌ先輩はおそらく要領がいい。

 こういうやり方をすれば勉強していける、一週間に満たない僅かな時間でもある程度点数を取れるようになる、という道を示すことができるのがエリアーナ先輩だが。

 レクサーヌ先輩はここが「わからない」と言ったら「これはこうやって考えるんだよ~」と問題に対する考え方をぽやぽやとした表現で教えてくれる。人に教えること自体には慣れていないが、感覚で教えられるような人らしい。


 おかげでエリアーナ先輩が戻ってくる夕方六時までの間の勉強については滞りなく行えた。

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