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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
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目覚め

お久し振りです。


今日の夜にも一話更新します(忘れてなければ)。

 カタストロフ・ドラゴンを結果的に撃破したアリエス達は、一旦冷静になってから状況を整理した。


 結論としては、魔神アルサロスについては大々的に公表せず、この場にいる者だけの秘密にする。

 そして、魔神アルサロスのことは当分の間ルクス本人にも伝えない。


 ルクスが記憶として持っているかどうかも定かでないため、しばらくは様子を見ようという結論だった。


 またネアニとアリエスは今回の襲撃を受けて、少なくとも自分達と同等程度の実力を持つくらいには生徒達の育成を行う必要があると考えていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……ん?」


 意識が浮上して、瞼を薄く開ける。……見覚えのある天井だ。たぶん、寮の俺の部屋だろう。


「いつっ……」


 薄暗いこと以外になにか情報はないかと身体を起こし、全身が軋む痛みに顔を顰めた。自分の身体を見下ろしてみると、身体のあちこちに包帯が巻かれている。


「ああ、そうか」


 俺は確か会長と戦って――戦って、その後はどうしたんだったか。


「……んぅ。あっ、目が覚めたのね」


 記憶探ってもある一点から途切れてしまっている。……会長吹っ飛ばしたところまでは覚えてるんだが。記憶が途切れたってことは、俺は負けたんだろうか。あれで会長倒したとも思えないしな。


「アイリア」


 隣のベッドに腰かけた金髪の少女の名前を呼んだ。少しうとうとしているからか、いつものような凛とした雰囲気はない。


「良かったわ。皆心配していたのよ」

「そりゃ悪かったな。で、勝負はどうなったんだ?」


 眠そうに目を擦りながら言われてしまった。確かに今回は少し無茶しすぎたからな。

 意識が段々覚醒してきてわかったが、俺にかけられた布団の中に別の気があった――フィナだ。流石に包帯だらけに身体の上に乗っかるのは気が引けたのか、俺の横で丸くなって寝ている。


「……そこからなのね」

「?」


 ぼそりと呟いた言葉の意味が、俺にはわからない。


「なんでもないわ。会長との勝負でしょう? ルクスの負けよ」

「……そうか」


 簡潔な一言だった。


「随分あっさりしてるわね。もっと悔しがるかと思ってたわ」


 そりゃわかってた結果だからな。

 と言うわけにもいかず、


「会長は強いからな。まぁ、単に年季の違いだろ」


 身長差はあっても相手は二年多く生きている。二年分鍛練時間の差があると考えれば、負けたことにも納得がつく。自分を納得されられる。

 ……決してそれは、才能の差じゃない。

 そんなことを考えていたからだろうか。


「……凄いわね、ルクスは。会長相手にそう言えるなんて。私なら才能の――」

「アイリア」

「っ」


 自嘲気味にそんなことを言う彼女を制止する声が、少し強くなってしまった。驚いた顔でこちらを見てくるアイリアと目を合わせて、いや睨みつけてだったかもしれない。


「才能だとかそんなもんで勝ち負けが決まってたまるかよ。そんなんじゃ……」


 そのまま勢いで本音まで口走りそうになって、口を噤む。少しの沈黙が下りた後、俺はなんでもないと首を横に振った。


 才能で勝負の結果が決まるなら。

 生まれた瞬間から全ての人間の順位づけが済んでいるのなら。

 ――生まれた瞬間から魔力を持っていなかった俺は、一生負け続ける運命になる。


 ……そんなのはごめんだ。努力すれば最強にも至れるのだと、諦めなければ才能を超えた実力を手にできるのだと、思いたい。ホントにそんなモノはないのかもしれない。だが、そんなんじゃ落ちこぼれが報われない。俺が証明したい。俺ができなくても、誰かに希望を託したい。

 才能がないからとかそんな理由で俯いているヤツをぶん殴りたい。

 努力して努力し続けて、やるだけのことをやってから諦めを口にしろ。俺が、気しか使えないお前らよりスタートラインが下がった俺が悪足掻きしてるんだ。俺より才能あるお前らが現状に妥協していることを、俺は許さない。


 だから俺はこの気持ちを隠し続けて、笑って言い続けてやるのだ。


『俺にだってできたんだから、お前らができないとは言わせねぇよ?』


 と。


「……気に障るようなことを言ったなら、謝るわ」


 黙ってしまった俺を見てか、アイリアがそう言った。


「いや、いい」


 俺も感情に流されてしまったところがあった。それに、アイリアだって悪気があって言ったわけではない。


「ああ、それと」


 アイリアが不意に声を上げた。空気が悪くなったことを察して話題を変えようとしてくれているのだろう。


「今回の校内団体戦、優勝賞品がなにかと言う話はしていたかしら」

「えっ? あー……そういや聞いてなかったな」


 強いヤツに勝って落ちこぼれ達を奮起させることばかり考えていた気がする。もちろん途中で一年Gクラスのゼアスに煽られたり会長に挑発されたりはしていたのだが。


「やっぱり。賞品のために参加したがる人もいるくらいなのに」


 苦笑しながら、改めて説明してくれる。


「この校内団体戦は、もちろん国のお偉い方が訪問されることもあって将来のために顔を売り出すことも目的とされるけど。それ以上に賞品が豪華なのよ」

「そうなのか?」

「ええ。なにせ、ディルファ王国国王陛下が直々に望みを聞き入れてくれるのだもの」

「マジでか!」

「ええ。と言ってもあまりに飛び過ぎた要求は却下されるし、クラス全体で一つという制限は設けられているけれど……基本的になんでもいいわ。国王陛下が可能な範囲で、ね」


 そうは言うが、一国王のできることは意外と広い。例えばクラスの鍛練のために国の領地をくれと言っても叶えられるかもしれない。大量の賞金でもいいだろう。金があれば金でできることがほぼ全て可能になる。


「ってことは、三年SSSクラスもなんか要求をしたってのか」


 俺がもし優勝したら、なんて考えるのは現実逃避かもしれないが、気を扱う最強の剣士に会いたいとかそんなもんかもしれない。だからこそ、あれほどの人がなにを欲しがるのか気になるところではある。


「そうなるわ。――実を言うと決着がついてから色々あったから、あれから一日経った後に表彰式が行われたのだけど」


 俺は少なくとも一日寝ていたことになるな。

 色々あったという部分も気にはなるが、後で説明してくれるのだろう。


「会長は国王陛下に望む商品として、『過去最強と呼ばれた者達との団体戦』を挙げたのよ」


 アイリアは笑って告げた。笑みからは楽しみだという感情が伝わってくる。……過去最強っつったら、思い当たる節は一つしかなかった。

 俺も、アイリアと同じ気持ちだと思う。


「親父達か……っ!」


 思わず口元が緩んでしまう。俺が出会ってきた中で、屈指の好カードだ。


「ええ。あなたのお父様、お母様。九尾の狐の突然変異に、ドラゴンの突然変異。アリエス教師もその中に入るわね」


 きっと表彰式でそれを聞いていたアリエス教師も笑っていただろう。多分だが、「ほう。私達と戦いたいのか」とか言っていたと思う。


「国王陛下もできるだけ声はかけてくださるそうだから、実際に行われたら見物よね」

「ああ」

「でも今すぐに、というわけではないの。もうすぐ夏休みだから、そこで英気を養いつつさらに力を高めて、生徒会の代替わり前――夏休みが終わって二学期が始まったら戦うことになるわ」


 まさにエキシビジョンマッチと言うべきか。

 気が早いものだが、今から楽しみだ。


「まぁでもまだ二ヶ月ぐらい先の話よ。それに、夏休み前にもまだやることがあるわ」

「そうだっけ。まぁいいや、早く観たいものだな」

「ええ、そうね……。楽しみにできるようになるといいわね」


 ? 妙な言い回しだった。アイリアが遠い目をしながら俺を見ている。……なんだってそんな可哀想なモノを見る目をしてるんだか。


「兎も角、あなたにしないといけない話はここからよ」


 アイリアが表情を引き締め、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。……表彰式が遅れたっていう原因の話か。俺にも関係があるのだろうか。


 それからアイリアは、俺が気絶した後になにが起こったのかを説明してくれた。

 なんでも、あの災厄の化身と呼ばれるドラゴンの一種――カタストロフ・ドラゴンが襲来したという。とんでもない話だった。一学校に来ていい存在じゃないだろう、あんなん。……そう口にしたらアイリアは複雑そうな顔をしていたが。

 あれが一体いるだけで一軍隊、いや一国が滅んで余りあると言われるほどだ。それが死者ゼロで済んだのは、それを討伐したらしいアリエス教師と理事長のおかげだろう。……らしいというのは、なぜか妙に歯切れが悪かったからだ。


 なんだかアイリスの様子が変だな。決勝戦後の話になるとなにかおかしい。


「なあ、アイリア」

「なに?」

「なんか隠し事してないか?」

「え」


 固まった。「え」て。わかりやすすぎないか。隠し事苦手だろう。


「……なにもないわ、気のせいよ」

「嘘つけ」

「……ナニモナニワ、キノセイヨ」

「…………」


 ジト目でアイリアを見つめるも、すぐに視線を逸らされてしまう。……なにかを隠してるのは間違いないんだがな。


「ま、いっか」


 俺が言って別の方向を見やるとあからさまにほっと息を吐いていた。……良くも悪くも正直者だな、アイリアは。


「あっ、そうだ」


 一つ聞き忘れていたことがあって、アイリアの方を向く。


「俺、どれくらい寝てたんだ?」


 肝心なことを忘れていた。


「四日よ」


 アイリアはすっと答えてくれた。……四日か。身体が鈍っていそうだな。


「よし、ちょっと出てくる」

「この時間に寮から出るのは校則違反よ」

「堅いこと言うなよ。四日も眠ってたんなら、身体動かさないと鈍っちまうだろ?」

「それはそうだけど、特例は認めないわよ」

「嫌だと言ったら?」

「力ずくでも止めるわ――と言いたいところだけど」


 アイリアもやる気になったのかと思いきや、ふと俺の布団の方――フィナのいる場所に目を向けた。


「……フィナ、ずっとルクスについていたのよ。それこそ片時も離れないくらいに。授業にも出ないでずっと、ね。カタストロフ・ドラゴン襲来の前にあなたが魔法で撃たれたことを気にしているのよ。ルクスが眠っている間に襲撃があるんじゃないかって疑っているんでしょうね。でもおかげでこうしてあなたは目が覚めたわけだし」


 だから、


「フィナが起きるまでは傍にいてあげてくれないかしら」


 ということらしい。……くそ。それは狡いだろ。


「……わかったよ。鍛練は明日からだな」

「ええ、そうして」


 アイリアは微笑んで言い、俺がベッドに横たわったのを確認してから自分も横になった。


 あまり眠気はないが、そう言われてしまっては仕方がない。大人しく眠るとしよう。


 俺は目を閉じると仙気の練習でもしようかと気の感知をしながら、いつの間にか眠りに落ちていった。

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