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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
117/163

その身に宿るモノ

※本日二話目

 窮地のルクスの代わりに、ルクスではない誰かが彼の身体を動かしていた。


「あー……めんどくせェことになってンなァ、おい」


 がりがりと頭を掻きながら、心底めんどくさそうにしている。その肌は浅黒く、黒と白に混じり合った髪は白一色に染まっていた。


 ルクスとは異なる姿になったそいつを見て、アリエスが驚きの声を上げる。


「おい、お前。何者かは知らんが、なぜ魔力を持っている?」


 他の者全てが感じ取っていた、あるはずのない魔力について尋ねた。


「あァ? そんなもん決まってるじゃねェか。オレが――」

「ガアアアアァァァァァァァァ!!」


 彼が答えようとした瞬間、カタストロフ・ドラゴンが余所見をしている隙に凝縮したブレスを再度放った。


「うっせェな」


 鬱陶しそうにそれを眺めると、彼は右手をブレスに向けて突き出した。アリエスのように魔法を使うでもなく、ブレスが彼の掌を直撃する。本来ならその手ごと身体を穿つはずなのだが、まるで彼の身体自体がアリエスの出現させた渦であるかのように、ブレスを吸い込んでいった。


「「「っ!?」」」


 驚愕する面々を無視して、彼はカタストロフ・ドラゴンに目を向ける。それだけで、災厄の化身が半歩後退した。


「大した魔力じゃねェが、まァ足しにはなるか」


 にやりと笑みを浮かべて告げる。と、ここでネアニがふとあることに気づいた。


「なんだ? 魔力が吸われている……?」


 彼女の言う通り、目を凝らすと微かに各々の身体から粒子が彼の元へと流れている。


「あァ、わりィ。これはまァ、なんだ。体質っつーか、特性っつーか……。生物的にそうなってるもんだからなァ」


 それぞれが自らの身体から流れ出る粒子を見て驚く中、彼は本当に困っているように頭を掻いた。


「生物的に……?」


 ネアニがなにか引っかかったように思案顔になる。


「仕方ねェもんだと思ってくれ。吸わねェようにできるようなもんじゃねェんだからよォ」


 笑いながら一歩、また一歩とカタストロフ・ドラゴンに近づいていく。


 ――彼の通った周辺の虚無が塞がれている。


「てめえでぶっ壊した世界だ。てめえの魔力で修正させてもらうぜ?」


 彼がそう言うと、カタストロフ・ドラゴンから流れ出している粒子が一層強まった。


 空間が裂けて虚無になった部分が徐々に元の形へと戻っていく。


「グ、ガァ……」


 魔力を吸われ続けるドラゴンの魔力障壁が明滅し、消えかける。


「羽トカゲの分際でオレを殺そうとした罰だ。その魔力を以って償いやがれ」


 彼が歩み寄って魔力障壁に触れると、一瞬にして消滅した。根こそぎ魔力を奪われたカタストロフ・ドラゴンが地に膝を着ける。


 災厄の化身がまるで赤子扱いだった。


「おいおい。いくら若い個体だったとしてもこんなもんなのかよ。久し振りに表出てきたってのに期待外れもいいとこだなァ」

「グ、ガアアアァァァァ!!」


 カタストロフ・ドラゴンは最後の力を振り絞って咆哮と共にブレスを放つ。至近距離からの一撃は直撃したのだが、


「わざわざてめえから魔力を明け渡してくれるなんざ、お優しいこって」


 彼にとってはシャワーを浴びるようなモノだった。


「ほら、もっと抵抗しねェと死ぬぞ?」


 彼は全く恐れずカタストロフ・ドラゴンの硬い鱗に覆われた鼻先を掴む。その手に粒子が次々と流れ込んでいった。


「ガ、アアアァァァァァァ!!」


 それはカタストロフ・ドラゴンにとって二度目の死の恐怖。なりふり構わず、頭を振って手を払うと翼をばさばさと羽ばたかせて飛翔し、あろうことか背を向けて逃げ出した。


「はっ。まァ所詮は羽が生えただけのトカゲってわけか」


 彼は鼻で笑うと哀れなドラゴンの背に向けて右手を伸ばす。すっと目を細めて静かに呟いた。


真術を行使する(イクスゼート)


 この世界で最も忌み嫌われた力が発現する。


「ディ・アルクーレ」


 突き出した右手の前に小さな黒い球体が現れ、そのまま指で押し潰した。するとカタストロフ・ドラゴンの頭上の空に黒い光がちかっと一瞬見える。次の瞬間には頭上から一筋の黒い雷がその哀れな姿を貫いた。


「ガアアアァァァァァァ!!」


 最期の断末魔が響いたかと思うと、その身体全てが粒子へと変換される。粒子は当然の如く彼の身体へと流れ込んでいった。


「ふーっ」


 彼は大きく息を吐くと振り返る。


「……お前、今殺した生物を魔力に変換したのか?」


 目を見開いて驚くアリエスが問う。


「だったらどうしたってンだ?」

「……そんな芸当ができるヤツがまともな生物とは思えん」

「そうかよ。だがそんなん、てめえもまともな人間じゃねェだろ? 人のこと言えンのかよ」

「……。確かにな。だがお前とルクスのように別々の個体が無理矢理一体化したような歪さは持ち合わせがない」

「言えてら」


 彼はおどけて肩を竦めた。


「疑問は尽きないな。いくつか質問させろ」

「いいぜ。オレは寛大だからな」


 カタストロフ・ドラゴンを圧倒してみせた存在に対し、アリエスは一歩も退いた様子がない。


「お前、なんだ?」

「それについてはオレが答えるよりもそこの焼き鳥女がいいなァ」


 アリエスの質問に対し、彼は険しい表情をしたネアニに話を振った。


「……心でも読めるのか。あくまで推測に過ぎないが」

「それでもいい。話せ」


 渋る彼女を遮ってアリエスが促した。


「わかった。特徴は二つ。存在するだけで魔力を吸収する。魔法とも異なる聞いたこともない力の行使。なによりも一つ目の特徴がわかりやすいな。存在するだけで魔力を吸収する逸話なんて一つしかない」


 ネアニの言葉に彼が口端を吊り上げて笑った。


「――魔神アルサロス。太古の昔に実在したという災厄の神。と言っても逸話では封印されたとのことだったがな」


 ネアニは切れ長の瞳を鋭く細めて彼を見据える。


「こりゃ驚いた。まさか現代にオレの正体を当てられるヤツがいるとはな。随分勤勉なこって」


 おどけた口調で言うも、笑っているのは彼一人である。


「おい。封印されたならなぜ今そこにいる」

「ンなもん、解いたヤツがいるからだろ?」


 ネアニに問うたアリエスに答えたのは、他ならぬ彼だ。


「誰が好き好んで魔神の封印を解きたがる」

「世の中にはそういう物好きもいるってわけだ。って冗談は置いといて、ンなもん少し考えればわかンだろ? オレが、こいつの身体で顕現してンだからよォ」


 アリエスは眉を顰めると、アルサロスらしき彼は親指で自らの胸を指した。


「……まさか、ガイスとエリスが?」

「なんだ、あいつらの知り合いだったのかよ。なら話は(はえ)ェ。本人に直接聞けよ」

「……あの二人が悪戯に封印を解いたとは思えん。ならなぜだ? ――そうせざるを得ない事情があった?」

「だからァ、知りてェンなら本人に聞けっつってンだろ」


 顎に手を当てて考え込み、ぶつぶつと呟くアリエスに呆れて告げる。


「ああ、そうさせてもらう。それで二つ目の質問だが、お前はルクスのなんだ?」

「運命共同体ってことだなァ。だがオレはあくまでこいつを死なせないようにするって条件かけられてっからな。今回もそれで表出てきたってことだ」

「あくまで主体はルクスということか」

「ああ。その辺はてめえらと似たようなもんだろ」


 ネアニ、リーフィス、そしてアリエスの順に視線を送った。


「なるほどな。で、お前はなにを目的としている?」

「それを言う必要はねェ」


 笑みを引っ込めて低い声で牽制する。それ以上は詮索するなという意思表示だった。


「……まぁいい。今のところは害を成さない。この認識でいいか?」

「ああ。今んとこオレはこいつの生命維持装置みたいなもんだからなァ」


 くくっ、と笑ってアルサロスは言った。


「最後に一つ。ルクスに魔力がないのは、お前が宿っているせいか?」

「そりゃあれだ――ごほっ」


 アルサロスがアリエスの質問に答えようとした時、唐突に彼が咳き込んだ。その拍子に口から赤い血が飛び散る。


「あ、ぐ……くそったれ……! ごほっ、ごほっ! あっ、つぅ……!」


 困惑する皆を他所に、アルサロスは苦しげに胸を押さえて膝を突いた。その間にも吐血して冷や汗を掻いている。


わりィが時間切れみたいだな……。後は任せた。オレもあんま表に出てきたくはねェからな、こいつのこと頼んだ」


 青白い顔で精一杯笑う彼の姿は、先程の異常な強さを誇る姿とは打って変わって弱々しいものだった。


「……あァ、くそったれなくそ共め。覚えとけよ、いつか必ず……っ」


 アルサロスは天を見上げてそれだけを呟くと力なくうつ伏せに倒れ込んだ。


 どうやら意識を失ったらしく、浅黒く染まっていた肌が元の色に戻り、白髪も黒と白が混じった髪色に戻る。


「「「……」」」


 唐突な登場に、唐突な退場。呆気に取られて倒れ伏せるルクスを眺めていた。


 カタストロフ・ドラゴンの乱入に加え、魔神アルサロスの顕現。

 校内団体戦はいくつもの謎を残しながら、こうして幕を閉じた。

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