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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
116/163

魔力の痕跡

大変遅くなり申し訳ありません。

新年明けて最初の更新になりますね。あけましておめでとうございます(遅い)。


更新速度は相変わらずですが、今年も拙作にお付き合いいただければ幸いです。


※本日一話目。

「ガアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!」


 対峙早々、カタストロフ・ドラゴンが動いた。アリエスと“紅蓮の魔王”こと理事長のネアニ・イルフォンス・ディ・フェニックス・ロードの二人に向けて咆哮する。


「チッ。耳障りな鳴き声だ」


 ネアニは顔を顰めつつ疾走してカタストロフ・ドラゴンの前に仁王立ちすると、瞬時に何十発と拳を叩き込んだ。普通なら今の攻撃で消し炭になっていてもおかしくないのだが、相手は眉一つ動かさずにいる。

 魔力障壁が堅牢すぎてダメージが通っていないのだ。どうしてもネアニではドラゴンとの相性が悪い。魔法を得意とするわけではないが、彼女はリーフィスと同じ――いや、それ以上の存在だからだった。


「……ガアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!」


 攻撃されているのだが、ネアニを迎撃しようとせず再び咆哮した。


「煩い蜥蜴だ」


 ネアニは全く動じずに笑って見せる。


「わけがわからなさそうな顔をしているな。確かにお前の咆哮には魔力を打ち消す力がある。だがそれはあくまで下位の存在に対してだ。上位の存在には効かないんだよ」


 伝わっているのかわからない説明をしつつ、ドラゴンの周囲に紅蓮の渦をいくつも作り出す。


 言葉は通じないだろうが、とりあえずバカにされていることは伝わったのだろう。ようやくネアニに対して迎撃を始める。黒い魔方陣が幾重にも描かれネアニの命を狙った。


「私を無視してもらっては困る」


 だがそれら全ては少し前と同じように上下から圧がかかってへし折れる。魔方陣をへし折るなどという芸当ができるのは、世界広しと言えど五人もいないだろう。

 魔方陣を砕かれ苛立たしげに唸る黒いドラゴンの全身を目がけて、ネアニの設置した渦からトゲが伸びた。それでも魔力障壁を突破することはなく弾かれてしまうが。


「随分と手がいっぱいそうだな」


 ネアニは構うことなく追撃を与える。カタストロフ・ドラゴンの巨大な全身を覆うほどの火柱を巻き起こした。脅威の存在が紅蓮の炎に包まれるもすぐに炎の中から黒い槍が飛んできて、ネアニの腹部を貫く。常人なら出血して当然だが、身体すら炎と化している彼女には効果がなく僅かに火の粉が散っただけだった。


 埒が明かないと見てか、ネアニは一旦アリエスのいる位置にまで戻る。


「どうだ? 貫けそうか?」

「いや、わからんな。普通に殴れば障壁は無視できるが、今の私にはそれができない」

「“紅蓮の魔王”ともあろう者が障壁突破を諦めるとはな」

「諦めるわけではないが、面倒だ」

「確かに私達二人では時間がかかりそうだ」


 ネアニとアリエスは両者共に魔力を使って戦うタイプだ。どうしても魔力障壁をなんとかしなければダメージを与えることすらできない。


 元直情的で身体を炎に昇華させた(・・・・・・・・・・)結果肉体を失ったに近いネアニと、空間や重力など特殊な魔法を駆使するアリエスだ。アリエスの同級生達――ごりっごりのごり押しが可能な者達なら力押しするだけで突破口は開けるのだが、そういうクラスメイトをフォローする側に回っていた彼女にはあまり向いていない。


「……疲れるが、正面から打ち破るしかないか」


 アリエスは二人でできる策があまりないことを考慮し、力押しを口にした。


「そうだな、他にいい手はなさそうだ。お前の力で押し潰せたりすればいいんだが」

「そう簡単にはいかないな。さっきからずっと四方八方から仕かけているが、押し退けられている」

「……そんなことをしていたのか。道理でヤツが動かないと思ったら」

「気づかなかったのか? やはり鈍ったようだな、ネアニ」


 魔法ばかり使ってきていたのは、どうやらそういう理由だったらしい。


 ……魔力感知は鈍ってないんだが、相変わらずこの人も化け物だな。


 そもそも身体からして人の域を出ている自分のことを棚上げして、ネアニはそんなことを思っていた。彼女はアリエス達の一つ年下として、三年になるまでクラス対抗戦で優勝できなかったのだ。学生時代、今の生徒達よりも化け物じみた連中が一クラスに集まった光景を知っているからこそ敬意を表している。


「とりあえず死なないお前が前に出て攻撃する。私がその援護をする。これで破るしかないだろう」


 そんなネアニの心情は知らず、アリエスがざっくりとした策を告げる。策と言えるほど立派なモノではないが、これが一番現実的だと判断したのだ。


「わかった」


 ネアニもその案に賛同し、一つ頷いた。


「さてと。じゃあ全力でやってやるかっ」


 彼女はそのまま肌から紅蓮の火の粉を散らしてドラゴンに肉薄する。接近して即座に突き出した拳は障壁に阻まれた。


「はああぁ!」


 気合いの声と共に紅蓮の焔がカタストロフ・ドラゴンの障壁を包み込むように放たれる。しかし敵は微動だにしていなかった。


「……まぁ、一点集中で貫けるかどうかだろうな」


 全体的にダメージを与えたところで削れる魔力は微々たるモノだ。魔力量としてはネアニもカタストロフ・ドラゴンに匹敵するほどではあるが、攻撃し続けて魔力が切れるまで待つ戦法では、それこそ七日七晩戦う羽目になってしまう。


「ふっ!」


 ネアニは右手に紅蓮の渦を作り出して障壁を殴りつける。余波でバトルフィールドの地面が焼け焦げるも、障壁にはヒビも入らなかった。


「おい、手加減しているのか? 周りへの被害なら気にするな、私がなんとかする。だからさっさと破れ」


 そんな彼女の背中に、アリエスが声をかけた。ネアニからは見えないが、アリエスの表情に若干余裕がなかった。カタストロフ・ドラゴンは今も彼女の拘束を振り解こうと抵抗しているのだ。


「簡単に言ってくれるな」


 ネアニは苦笑しつつその身に宿る膨大な魔力を放出する。魔力は紅蓮の炎となってバトルフィールドを覆い尽くした。


「……」


 そこでようやく、カタストロフ・ドラゴンがネアニを見据える。邪魔な雑魚から、敵としてネアニを見たのだ。その意味を理解して、ネアニは口端を吊り上げて笑った。


「やっと私を見たか。お前程度に雑魚扱いされたままじゃ、こいつ(・・・)がやる気にならないんでな」


 ネアニの膨大な魔力がさらに膨れ上がっていく。魔力は紅蓮の炎となって可視化され、ネアニの腕が炎に変化する。鳥のような紅蓮の翼が生え、両脚の膝から下が炎に変わった。足は人のそれではなく鳥類のように鉤爪を持った足となっている。


 その姿になにかを感じたのか、カタストロフ・ドラゴンはわざわざ身体の向きをネアニの正面に向けた。


「ちっ。いよいよ本気でお前を敵と見たようだな。周りに被害が出ない内にさっさとやるぞ」

「わかってる」


 アリエスの言葉に頷くと、ネアニは熱風を巻き起こして竜へと突撃した。轟音が鳴り響き、ネアニの拳と魔力障壁がぶつかる。闘技場全体を揺らすほどの一撃が、カタストロフ・ドラゴンの巨体を一メートル程度後退させていた。

 その事実に敵が低く唸る。苛立った様子で黒い魔方陣を無数に展開し、ネアニを狙った。


「お前は援護しなくてもいいのだったな」


 アリエスはぼやくと展開された無数の魔方陣を無視してカタストロフ・ドラゴンの左右に巨大な魔方陣を描いた。魔方陣から黒い雷が魔力障壁に向けて放たれる。みしみしと魔力障壁が軋み始めた。


「っ……らぁ!」


 高速移動をしながら紅蓮の拳打を四方八方から叩き込むネアニ。拳大の炎が何十個とカタストロフ・ドラゴンの魔力障壁にぶつかったとしか思えないほどの速度だ。


「……ゥ」


 自身の魔力障壁が徐々に削られてきていることを察したドラゴンが、忌々しげに小さく唸る。


 相対するは二匹の虫ケラ。

 敵として定めたとはいえ、格下の相手にこうも手こずってはプライドに障る。


 魔力量こそ匹敵するが、一発一発が軽く飛び回るだけのハエは放っておけばいい。

 だが問題は機会を虎視眈々と狙う小賢しいクモの方だった。


 どちらから仕留めた方が楽かは明白だ。


 爬虫類に似た特徴を持つ瞳孔が縦に開いた目が小さな身体を捉える。今も身体を地面に押さえつけている妙な力も苛立ちを高めていた。


 その程度の拘束、いつでも解けるのだと自らの強靭さを示すように、カタストロフ・ドラゴンは大きく仰け反った。


「チッ。避けろ、ネアニ!」

「わかってる!」


 敵がなにをしようとしているのか察したアリエスが忠告すると、ネアニは決して前方には回らないようにしながら攻撃を加えていく。狙いはアリエスだが、念のためだった。


 ドラゴンの代名詞と言えばブレスを挙げる者もいるが、それは災厄の化身であっても同様である。カタストロフ・ドラゴンがなぜ災厄と呼ばれるのか。高い膂力、膨大な魔力など様々な理由はあれど、代名詞たるブレスこそが、災厄を体現していると言ってもいい。


 カタストロフ・ドラゴンは仰け反りながら口内に眩い光を集束させていく。ネアニはアリエスの邪魔にならないよう、一旦距離を取る。


「――ガアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!


 咆哮と共に仰け反った首を前方に向けて伸ばし、大きく口を開いて集束した光を放つ。

 直径五メートルほどの光は瞬く間にアリエスに迫った。びき、となにかが裂けるような音が微かに聞こえる。


「相手が悪かったな、蜥蜴」


 アリエスは真剣な眼差しでブレスを見据え、両手を胸の前に構える。大小様々な魔方陣を展開し、両手の間に小さな黒い渦を形成した。

 ブレスが渦に直撃する。その衝撃にアリエスの長い黒髪が舞った。

 巨大なブレスを幅三十センチ程度の小さな渦で受け止めると、渦が少しずつブレスを吸い込み始めた。その間も、びきびきと嫌な音がいくつも聞こえるようになっていく。


 音のした方を見ると、ブレスからなにもない虚空に向かって亀裂が入っていた。


 これが災厄の象徴たる所以。


 一切の防御、モノを無視してそこにある空間ごと破壊する。いくらネアニといえど、炎と化した身体が削られれば一時離脱は免れない。直撃を受ければ再生を始める部分すら消滅し、それこそ死に至る。


「……チッ」


 それを本来破壊されるはずの魔法(・・)で受けようというのだから、アリエスの異常さは際立っていた。

 いつも余裕な表情を崩さない彼女でも流石に苦戦しているのか、その額には汗が浮かんでいた。


 しかしカタストロフ・ドラゴンがブレスを吐き終わると、黒い渦にその全てが吸い込まれていく。


「ふぅ……」


 舞っていた髪が落ち着き、汗ばんだ額に前髪が張りつく。それを鬱陶しそうに払いながら、不敵に笑った。


「どうだ? 自慢のブレスが防がれた気分は」


 警戒するようにアリエスを見据えるドラゴンに問いかけた。言葉は通じずとも虚仮にされていることは理解できるのか、苛立ちを咆哮に乗せて発する。


「……全く。派手にやってくれたな。後で誰が修復すると思っている」


 カタストロフ・ドラゴンがブレスを放った場所からアリエスの眼前まで、虚空にいくつもの亀裂が走っていた。それら亀裂の中央には、ブレスの通った跡――なにもないただただ黒い空間がある。

 この世界という空間が消滅した時に訪れる虚無だ。そこには天も地も、上下左右もない。生死もなく、入ってきたモノ全てを虚無に還す。

 虚無の上に世界という空間が出来ている、とは一部の間で認知された見解だった。

 今我々が生きている空間を創ったのが誰か、というのは最大の謎とされている。


「その仕返しと言ってはなんだが――」


 アリエスが右手の人差し指を立て、下に向ける。するとカタストロフ・ドラゴンの頭上に大きな黒い渦が出現した。先程アリエスが創った小さな渦と同様のものだ。


「ッ――」


 なにかを察知したのか、カタストロフ・ドラゴンはすぐさま上を向いてブレスを放つ。ブレスは渦から降ってきた全く同じモノとぶつかり合い、相殺された。


「勘のいいヤツだ。そのまま貫かれてくれればいいものを」


 そう上手くはいかないか、アリエスは内心で呟く。カタストロフ・ドラゴンの最高の矛と最強の盾、ブレスと魔力障壁どちらが強いかと言われば、十中八九ブレスに軍配が上がる。だからこそ敵の攻撃を利用する価値が高まるのだが。


「……はぁ」


 距離を取って見ていたネアニはため息をついた。ヒトの身体を持たなくても良くなったあの日、彼女はアリエスに言われていた。


『随分と化け物じみてきたな』


 畏怖などはなく、人であることを捨てたことに対する皮肉として告げられた言葉だった。

 それを聞いたネアニはこう思っていた。


「ヒトの形を保ったまま化け物じみた力を持ってるあんたの方が化け物だよ」


 と。

 力を得るために人を捨てたネアニだからこそ、思うのだ。


 “化け物”には“化け物”なりの姿があるのだと。


 だからこそ人の姿を保ったまま化け物並みの力を持つ彼らが異常に思えてしまう。

 特に人間でありながらそんな異常なクラスで最強と言われていたガイスに至っては、人間詐欺ではないかと疑うほどだった。


 それは兎も角。

 味方ではとても心強いことだった。ネアニ一人では、戦場を移すぐらいしか選択肢はなかっただろう。戦場を移さずともなんとかできる、そう判断できるアリエスの全力戦闘は彼女ですら未だ

「グルルルゥ」見たことはなかったが。


 ドラゴンは苛立たしげに唸る。逃げ惑う虫ケラ共を眺めるまでは良かったが、それ以降はこうして戦闘(・・)を続けている。非常に不愉快だった。一方的に虐殺を行う。それができるだけの力を持っていて、今まではそうやってこれていた。

 しかし。

 一度ならず二度までも、すぐには殺せぬ相手に遭遇するとは思ってもみなかった。


「グガアアアァァァア!!」


 募りに募った苛立ちと、自分をここに向かわせたヤツへの腹立たしさを放出するように吼える。


 ――ここで、カタストロフ・ドラゴンは生まれて初めて工夫を行った。


 先程と同様のブレスを、ただ放つのではなく噛み砕くようにして無数の球としてばら撒いたのだ。

 しかも球を自らの魔力で包み込み、今まで放つ過程で無駄に消費していた威力を閉じ込める。なにかに触れた途端閉じ込めた威力を放出させるようなものとなっていた。

 即興にしては上等、今まで通りでは通用しないという考えが生んだ咄嗟の技だった。


 そして、個々人を狙われるより、現状では広範囲無差別攻撃こそがアリエス達にとって嫌なことであった。

 雨のように降り注ぐ球一つ一つが簡単に即死させられるような威力を持っていれば尚更だ。


「ネアニ!」

「ああ!」


 アリエスが呼びかけるよりも早く、ネアニは紅蓮の炎を無数の球に向かって放つ。どんな威力を持っているかわからない以上、飛び始めに処理してしまった方が早い。

 球は炎に包まれると球状に広がり、空間を破壊して虚無を創った。


 ……生徒を残したのは失敗だったな。


 無論彼らの意思を尊重してのことだったが、巻き込まれる危険性がある。守り切る自信がないわけではないが、万が一を考えておくべきだったか。

 今更ながらに後悔しつつも、ネアニが漏らした球の処理を行っていく。


「……」


 その中で、カタストロフ・ドラゴンは静かに観察していた。自ら放った球やネアニの炎がブレスで創った亀裂に触れた瞬間消失したのを。亀裂に触れたモノは消滅する。今もネアニが亀裂に触れないよう注意を払っているのが確認できた。

 そして二人は自分達には当たらない、周囲へ被害を出さないように行動をしている。


 ならば、とカタストロフ・ドラゴンは三度口に光を集束させ始めた。アリエスとネアニが警戒して身構える中、ブレスを上向きに放つ。しかもただ一直線に放つのではなく、無数の細い光線として分裂させた。

 無数の光線はカタストロフ・ドラゴンの十メートルほど頭上で周囲に広がりながら落下していく。威力は分散されているとはいえ、空間を裂くほどの破壊力を持っており、直撃を避けたアリエスの周囲を虚無の空間が檻のように出来上がっていた。


「チッ」


 当たらないと踏んで生徒側に飛んだ分を確実に処理していたが、おそらく狙いはそちらではない。


「私の動きを封じに来たか」


 ドラゴンという生物は基本人間に対して慢心する。だからこそつけ入る隙があるのだが。


 一度敗北を味わってなお生かされた眼前のカタストロフ・ドラゴンは違った。


「ガアアアアァァァァァ!!」


 咆哮と共にブレスをアリエスに向かって放つ。器用に虚無の間を抜けさせた。アリエスが黒い渦を出現させて対処している間にブレスを中断し、ネアニに向かって分裂するブレスを放つ。

 そうして二人の行動を制限しながら、ブレスを球のように降らせた。


「次から次へと、面倒なヤツだ」


 内心焦りつつも呟くと、無数の黒い渦を幕のように出現させて吸引用と射出用で吸引した傍から別の球とぶつけて相殺していく。


 ネアニも炎で次々と着弾させていくが、檻のように張り巡らされた虚無のせいで上手く炎が行き届かず闘技場の壁などに被害が出始めていた。


「おいネアニ。隙間に炎を通せ。それくらいできるだろう」

「大雑把なのは知ってるだろ!」

「全く……」


 呆れながら、生徒達に当たる可能性がある球を排除しようと視線を巡らせ――一瞬だけ、カタストロフ・ドラゴンから目を離してしまった。

 その隙を待っていたのか、ドラゴンが即座にブレスを放つ。空間を裂くブレスを細く凝縮してアリエスのいる方へと。


「……っ!」


 だがアリエスにはわかっていた。角度からして、自分を狙ったものではないと。なら誰を狙っているのか。


「……え」


 アリエスの後方には、倒れたルクスとその傍に寄り添うフィナがいた。

 アリエスが対処を行うよりも早く、凝縮されたブレスが二人へと迫る。呆然とそれを眺めるフィナではなく、倒れて動かないルクスに向けて放たれていた。


 瀕死の彼にブレスが直撃すれば即死――焦燥感に駆られるも、彼を助けようと動く間もなくブレスが迫る。


 しかし、


「――は」


 意識を失っているはずのルクスから声が漏れた。途端、倒れた身体を覆うように黒い半透明のドームのようなモノが出現し、その範囲からフィナもブレスさえも弾かれる。


「ははははは!」


 声は笑い声となって闘技場に響き渡った。


 その声は確かにルクスのモノではあったが、なにか別の者が笑っているような違和感があった。


 ルクスの身体が宙に浮き、ドームのようなモノが黒い半透明の球体であることがわかる。


 力なく浮遊する彼の身体が浅黒く染まり、黒と白の混じり合った父親譲りの髪色が白一色に変化した。


「はははっ。……あーぁ。まさかオレが出てくる羽目になるとは思わなかったなァ」


 高笑いをやめると、球体が消滅する。軽やかに着地すると、白く染まった前髪を掻き上げて口端を吊り上げる。


 その身体からは、やや異質ではあったが確かに――魔力(・・)が感じられた。

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