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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
115/163

降り立った災厄

夏期休暇があってもあまり更新できずすみません。


週一は守りたいところですね、頑張ります。

 くすんだ漆黒の鱗を持ち、全身を赤い筋が覆っている。どこか禍々しい姿を見て、リーグが「カタストロフ・ドラゴン」であると察した。


「ガアアアアアァァァァァァァァ!!」


 災厄の化身とも呼ばれるそいつが咆哮するとライディール全体が震える。カタストロフ・ドラゴンの持つ強大すぎる魔力と恐怖を煽る咆哮に、両耳を押さえて蹲る生徒が続出していた。


「くそっ、伏せろっ!」


 翼を羽ばたくのをやめたドラゴンを見て理事長が叫んだが、その声に反応できた者は少ない。


 カタストロフ・ドラゴンは重力に従って遥か上空から下降してきた。その途中にある理事長の張った結界を身に纏う魔力障壁で相殺し、バトルフィールドへと降り立つ。ずずん……と巨躯が着地した衝撃で闘技場が揺れた。

 ルクスを運んでいたチェイグとルナが体勢を崩し、気絶したルクスの身体が地面へ投げ出される。


「……ルクス」


 誰もがカタストロフ・ドラゴンに目を奪われる中で、ルクスを心配したフィナがベンチから駆け出した。


 フィナが彼の下に駆け寄る直前で、どこからか魔法が放たれる。


「……え?」


 フィナの目には、ルクスの腹部から氷の棘と光の矢、炎の剣が生えているように見えた。地面に魔方陣が描かれているので、下から攻撃したような形だ。

 彼女の頬に温かい液体がかかり、ルクスの腹部には血が滲んでいた。


「……誰」


 フィナは身体の奥から沸々と激情が沸き上がるのを感じていた。身体が熱されて制御できないような、そんな衝動がある。


 ……誰かなんて、どうでもいい。


 大半がカタストロフ・ドラゴンに意識を向けているこの絶妙なタイミングで攻撃してきたことは引っかかったが、犯人探しをする時間と心の余裕がない。


 フィナは静かに右手を真上に伸ばした。術式特有の紋章を一つ、また一つと上に向かうほど大きくなるように展開していく。


「やめろ、フィナ!」


 その術式がどんなモノなのかを見抜いたアリエス教師が叫ぶものの、フィナの耳には届いていない。


「……殲滅術式」


 掌の前に展開されている一番小さな紋章から白い光が射出される。光は紋章を一つ通過する毎に大きくなっていき、全ての紋章を通る頃には眩い光で闘技場全体を照らしていた。カタストロフ・ドラゴンすら上空を仰ぐ。

 フィナが掲げた右手を勢いよく振り下ろすと昇っていた光が弾けて幾筋にも分かれる。無数の光弾となって闘技場全体に降り注いだ。しかもただ無造作に、雨のように降り注いでいるわけではない。自動的に指定した範囲内のモノを捕捉しその数だけ光弾を降らせるという術式だった。

 混乱し、カタストロフ・ドラゴンが生んだ着地の衝撃や威圧感で動けなくなっている者が多いこの場ではほぼ確実に直撃させられる。


 今回フィナが指定した殲滅対象は、闘技場内にある生物。つまりはルクスもその対象に入るのだが、それはフィナ自ら拳を振るって防いでいた。


 もちろん、殲滅と名にある通り一発一発が人を殺せる威力を持っている。並みの鎧、防壁なら簡単に貫くだろう。

 実際、防御しようとした者が怪我を負った。カタストロフ・ドラゴンは備わった魔力障壁で防げていたが。


「この、問題児筆頭が!」


 光弾を防がず貫かれるに任せていた理事長が舌打ちしながら、紅蓮の炎を闘技場全体に灯す。すると闘技場にいる人々の怪我が瞬時に治っていった。


「将来有望な娘がいるようでなによりだ」


 混乱の最中平然と髭を撫でる国王がフィールドに立つフィナを見下ろして呟く。


「とんだじゃじゃ馬だがな」


 国王の護衛でも理事長だったが、フィナの術式については対処していない。国王自らが対応していた。


「……私も出る。騎士団長、国王は任せた」

「無論だ」


 理事長は災厄の化身に自ら対処すべく行動を始める。騎士団長に国王の護衛を任せフィールドに向かって飛び降りた。落下中に紅い炎の翼を生やし、フィールドに悠々と下り立つ。


「全く。お前のクラスは問題児ばかりだな?」

「ふん」


 既にフィールドでカタストロフ・ドラゴンを睨んでいたアリエスと合流し、横に並ぶ。


 理事長はふぅ、と大きくため息をついてから息を吸う。隣のアリエスは両耳を人差し指で塞いだ。


「聞け、諸君!」


 魔法で拡声した大声で、闘技場全体に声を響かせる。度重なる混乱の末、まだ現状の理解ができていない者も多い中で理事長たる自分がやることは決まっていた。


「このドラゴンは私達で対処する! 生徒諸君、並びに来賓の方々は避難しろ!」


 指示というよりは命令に近かったが、それでもここにいて邪魔になってしまう者達を動かすには充分だった。

 皆我先にと闘技場から逃げ出していく。中には避難を指示する者もいた。


「私“達”、か。どさくさに紛れて私も戦力に数えたな? まさかお前が助力を請うなんて、人は成長するものだ」


 アリエスがからかうように笑う。


「そういう小さな“先輩”こそ、わざわざ自分から出てくるなんて珍しいこともあるものだな」

「……小さい言うな。黒蜥蜴の前にお前からやろうか?」

「上等だ、と言いたいところだが先にあいつをなんとかしないとな。生徒に危険が及ぶ」


 言っている傍から、カタストロフ・ドラゴンは黒い魔方陣を展開し逃げる生徒に狙いをつけていた。


「余所見とはいい度胸だな」


 アリエスが言って魔方陣に上下から圧をかけ、ばきんとへし折る。


「全くだ。私を目の前にして無視とはな!」


 髪を紅い炎へと変えた理事長がくすんだ黒いドラゴンへと肉薄し、その腹部を横から蹴りつける。炎が爆ぜるも障壁に守られているその身体を傷つけることはできなかった。

 ぎろりとドラゴンの紅い瞳が彼女を捉える。いくつもの黒い魔方陣が取り囲むように展開された。しかし理事長は紅い炎へと姿を変えてアリエスの隣まで戻りそれらを回避する。


「面倒だな、流石は災厄の化身とまで言われるだけのことはある」

「ヒビも入らないとはショックだな。少し鈍ったか」

「理事長なんてやっていれば自然と鈍っているものだ。戦闘の勘まで忘れてなければいいがな?」

「そこまで落ちぶれちゃいない」


 軽口を叩き合いながらも、目の前にいる強敵を油断なく見据えている。相手も彼女達を簡単に叩き潰せる相手ではないと踏んだのか、一対の瞳でじっと見つめていた。


「……」


 そうこうしている内に、観客席にいた大半の避難が完了していた。アリエスはそれを横目で確認しながら、自分の意思で残った数名の生徒達を見て苦笑する。


「全く、バカ共が」


 加勢しようなどと考えている者はいないが、この戦いを見届けたいと思っている者が残っているようだ。


 三年SSSクラスの生徒会役員五名。三年SSクラスのレクサーヌ。二年SSSクラスの三大美女。一年SSSクラスのフィナ、リーフィア、アイリア、オリガ、フェイナの五名と気絶したルクス。


 生徒は以上だった。


「わかってると思うが、手出し無用だぞ」


 理事長が釘を刺す。暗に見届ける許可を出していた。


「さてアリエス。災厄の化身、どう対処する?」

「力任せに捻じ伏せるのが一番だろう。お前があの魔力障壁を突破すればいいだけのことだ」

「ふっ。簡単に言ってくれる」


 理事長が全身から紅蓮の焔を噴き出して拳を構える。


「援護は任せたぞ、先輩」

「ふん。ヘマするなよ、後輩」


 ゴスロリドレスの幼女と紅蓮を纏う美女が並び立ち、災厄の化身と対峙する。


 闘技場には二人の身体から圧倒的な――ブリューナクが顕現した時のような魔力の圧がかかっていた。

 カタストロフ・ドラゴンも敵と定めた二人を排除すべく、その身に宿る魔力を高めていく。


 今まさに、化け物同士の戦いが始まろうとしていた。

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