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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
114/163

決着と襲来

遅れました。


お盆付近に夏期休暇があるので、そこで別作品もいくつか更新できるはずです。

週一更新すらままならない状態ですが、お付き合いいただけると幸いです。

 学園最強の男、生徒会長リーグ・ヘルフェウス・フォン・リンデクラウ。

 クラス対抗戦、三連覇に王手をかけた決勝大将戦の相手は、魔力のない落ちこぼれのルクスであった。


 誰もが、稀代の天才リーグとルクスでは勝負にならないと思っていた。


 それが今やどうだろう。


「頑張れ」

「負けるな」


 そんな声援が四方八方から飛び交い、両者を応援して勝負の行方を見守っている。


 ……くそっ。


 二度だったか。ルクスの気が尽きたことは感知していた。しかし彼はその度に復活し、不敵に笑って挑んできた。


 結果が今のリーグである。


 ルクス渾身の一撃を受けたリーグは、瓦礫の中で動けずにいた。黒気で強化しているはずの魔法でさえ、完治させるのに時間がかかるダメージだった。今追撃されれば敗北もあり得ただろう。


 ……こっちはもう気が尽きちまった。


 黒気の発動が解除され、なんとか新たに魔法を唱えて回復と強化を行う。


 こうして真っ向から殴り合える相手に出会えたのは、何年振りだっただろうか。


『無理。勝てないし、棄権するわ』


 一年の時、決勝の大将戦直前で相手クラスの大将が言った。


 二年の時、敗北したクラスの大将が挑んできたが、すぐに倒してしまった。


 ……強くなると決めた。人類の限界を目指すと宣言した。


 だが強者と戦わなければ、ルクスの言った通り自分の弱さを見つけなければ、強くなることなどできはしない。

 努力を続けても、元々実力差があった場合には差が開いたのかどうかさえわからなくなってくる。


 ……ここまで追い詰められたのは、初めてだ。


 成長途中で敗北するのは仕方がない。次の勝利を目指すだけだ。しかし勝ってばかりになってから、ある程度形になってからは負け知らずと言っても良かった。

 しかも黒気を発動させたこうして公の場で王気を使ったのも初めてだった――のに。


「……ぐっ、あぁ」


 回復し切らない身体に鞭打って、瓦礫の中から這い出た。


 ルクスの勝利に対する執念は凄まじいものだ。ではリーグをここまで突き動かすのはなにか。


 ……まだてめえが、倒れてねぇだろうが!


 フィールドの中央で構えているルクスがいるからだ。


 その身から発せられる気迫が、その身に纏っている禍々しい黒気が、まだ戦えるぞと伝えてくる。


 ……落ちこぼれのてめえがまだ戦えると言ってんだ。人類の可能性を目指す俺が、先に倒れるわけにはいかねぇだろ。


 皮肉なことに、ルクスの思惑であった「諦めて胡座掻いてるヤツらに火をつける」ことは、リーグにも影響を与えていた。


 ……まだ強くなるだろうな。


 二つ年上の先輩として、有望な後輩が現れたことを少し嬉しく思う。

 他者に影響を与える者。それも、“王”の素質だ。


 限界を超えているはずなのに、まだ倒れる気がしない。肌にひしひしと伝わってくる威圧感が油断することを許さなかった。


「まだだ、俺はまだやれる!」


 動かないルクスに対し、リーグは吼えた。


「かかってこないなら、こっちからいくぞ!」


 黒気が消えた状態で戦うのは厳しいが、相手がこれだけ頑張っているのだ。自分が早々に負けを認めるわけにはいかなかった。


 ルクスに向かって突っ込み、拳を叩き込む――直前で、止めた。


「……そこを退け、てめえら!」


 生徒会書記、エリアーナがリーグとルクスの間に立って両腕を広げていた。他の役員達はリーグの身体を押さえるように、手を添えていた。


「嫌よ」

「はあ!?」


 退かないエリアーナに、苛立ちすら覚える。なぜこのタイミングで、まだ俺達は戦っているのに。


「会長。彼はもう、意識がありません」


 イリエラが諭すように告げる。


「なにを言って――」


 怒鳴る直前で、ようやく気がついた。ルクスが全く動いていないということに。


 これだけ目の前で騒いでいるのに、いつものような軽口一つさえない。


「……てめえは」


 ルクスになにか告げようとして、やめる。


 彼は構えた姿勢のまま意識を失っていた。黒い瞳に光がないことを認め、リーグは静かに拳を下ろす。気が抜けて疲労感が襲い、ふらりとよろめいて後ろにいたイリエラに抱き止められた。


 ルクスが黒気を発動させたまま、対峙していたリーグに気絶したことを悟らせないほどの気迫を持っていた。そのことに畏怖を感じながら、今は身体を預ける。


 レフェリーがルクスの顔を覗き込み、本当に気絶してくることを確認した。


「勝者、三年SSSクラス! 三勝二敗により――」


 息を呑む観客達の中心で、


「三年SSSクラスの勝利! 優勝は、三年SSSクラス!!」


 大きく決着を宣言した。


 大歓声が沸き起こる中、遂にルクスの黒気が消え身体がふらりと傾く。


「あっ、っと」


 エリアーナが逸早く気づいて抱き止め、ほっと息を吐く。気も尽きて疲労も相当なものだと思うが、息はあった。


「ルクス君!」


 一年SSSクラスの回復担当、フェイナが心配そうにベンチから駆けてくる。


「とりあえず怪我だけ治して。疲労は魔法じゃどうしようもないけど、数日安静にしてれば大丈夫だと思うから」


 エリアーナはフェイナにそう告げて、ルクスの身体を優しく地面に下ろした。


「は、はいっ」


 自分のやるべきことを認識したフェイナは返事をすると、急いで治療に取りかかった。


 フェイナに遅れてチェイグとルナのスタッフ二人が担架を持ってやってくる。なぜかアリエス教師自身が魔法で運ばないのかというと、


「……チッ、面倒なことになりそうだ」


 空を険しい表情で睨み上げていた。アリエス教師と同様に空を見上げている者は少ない。大半の者がルクスと会長のいるバトルフィールドに目を向けていた。


 アリエス教師がそう呟いた次の瞬間、闘技場を覆い尽くすほどの巨大な黒い影が上空を通り過ぎる。


 一体なにが通り過ぎたのか。怪訝に思った人々は空を見上げた。


 ばさっ。


 雄々しい翼を広げると、バトルフィールドを超えて観客席にまで影が伸びる。蜥蜴のような体躯に蝙蝠の翼が生えた強大な魔物――ドラゴンが悠々と滞空し、紅の瞳で闘技場を静かに見下ろしていた。


 くすんだ漆黒の鱗を持ち、全身隈なく赤い筋に覆われている。


 ドラゴンの中でもその特徴的な姿を見上げて、リーグは目を見開いた。


「……カタストロフ・ドラゴン……っ」


 災厄の化身が、ライディールに襲来する。

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