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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
112/163

クラス対抗団体戦、最終戦開始

またギリギリ間に合わなかった……


いずれかの作品で一話ずつ、微妙に毎日更新中です

 傷つきながらも自力でベンチまで戻ってきたアイリアに代わり、俺が重い腰を上げる。


「あとは頼んだわよ」


 疲弊した様子だったがそれでも気丈に、アイリアが俺を激励した。


「任せろ」


 俺はいつも通り笑って応えると、ゆっくりとバトルフィールドへと歩いていく。

 向こう側からも一見学園最強には見えないような小柄な少年が姿を現していた。


 クラス対抗団体戦、最後の試合。参加選手二人の登場に会場が沸く。

 一年SSSクラス対三年SSSクラスの試合は、これまで二勝二敗となっていた。そして、五戦目のこれから行われる大将戦にて、勝敗が決する。


 百七十センチほどの俺よりかなり小さく、体格に恵まれているとは言い難い。ただ、シア先輩との試合を直接見てはいないが才能に恵まれていることは知っている。

 百五十センチ程度しかない小さな身体にどれほどの力が秘められているのかは、実際に見たヤツにしかわからないだろう。


 “天才”リーグ・ヘルフェウス・フォン・リンデクラウ。何代目かは忘れたが、現生徒会会長。シンプルにそう二つ名をつけるしかないほど、圧倒的なまでの才能を有している。彼の大戦の英雄達も、潜在能力という点では彼には及ばないとまでの評価も得ており、その辺りはアリエス教師や理事長も納得しているらしい。まだ未完成なので現状では英雄達には及ばないとのことだが、既に学生の域を超えた実力を示していた。


 彼の戦い方に関しては事前にチェイグから聞かされていた。


 だからおどおどしながらベンチから出てきても、見かけに騙されて油断なんてしない。

 少し特殊だが俺含め全ての対戦相手が有利な点は、会長が本気になる前に必ず一撃与えることができることだ。

 おどおどしていても天才は天才だ。そこを乗り越えるところで今大会ではシア先輩以外全員が脱落している。

 シア先輩は本気後も戦ったが、敗北してしまった。


 ふと聞き覚えのある声が耳に入り、立ち止まって後方を振り返る。クラスの面々が集って応援してくれているのが見えた。そしてその中に、今まで傷つき倒れていった仲間達の姿もある。全員峠は越えて意識も戻ったようだ。まだ包帯を巻いている者もいるが、きっと完治していない癖に駆けつけてくれたのだろう。

 俺の視線に気づいたサリスが軽く手を挙げて応じてくれたが、その声を聞き取って物凄く嬉しそうな顔をしていたのはベンチにいるチェイグだ。今日も試合開始の直前まで傍についていたからな。


 さらに見渡せば、痛々しい包帯姿のシア先輩も見つけられた。セフィア先輩とアンナ先輩に挟まれてこちらに軽く手を振っている。

 ……どうやら、やはりこの試合負けるわけにはいかないらしい。


 俺は不敵な笑みを浮かべてそれらの視線に応えてから、会長の方に向き直って中央まで進んだ。


 ようやく両者が中央で対峙する。

 彼我の距離は十二メートルほどだ。レフェリーは中央に立っているが、試合開始と同時に端へ退避することだろう。


「これより三年SSSクラス対一年SSSクラスの大将戦を始める!」


 最後だからか今までとは違う号令と共に右手を挙げる。


「勝負開始!」


 右手が振り下ろされる合図があってから、俺がまず動いた。


「……黒気」


 初っ端から全力全開、ドス黒いオーラを全身に纏い、黒い帯の束のようなモノをいくつも出現させる。会長がなにか行動する前に肉薄し、左拳に黒気を集中させて思い切りボディブローを叩き込んだ。


 会長の小柄な体躯がくの字に折れ、ベンチの頭上にある壁へと吹き飛んでいく。理事長の張った障壁をぶち破り、その姿が瓦礫の中に消える。


『おおっと、ルクス君がリーグ君をいきなり殴り飛ばしたぁ! おそらく会長のあれに対する策でしょうが、これは勝負が決着してしまったか!?』


 アイリアの時はすっかり耳に入ってこなかったが、実際に戦う時になっても周りの声が冷静に聞こえている。実況の先輩のテンション高い声もちゃんと届いてきた。


 さて、これで決まってくれれば御の字だが、まぁそう簡単にはいかないよな。


 全く衰えない気を感知して、相手の出方を窺うために黒気を解く。


「……はっ! 流石に俺の対処法は知ってるかよ」


 同じ声だが全く異なる口調で言って、瓦礫の中から会長が姿を見せた。

 先程までのおどおどした様子が嘘だったかのように鋭い目つきをしている。口元にはニヤリとした笑みを浮かべていて、まるで人が変わったようだ。


「当たり前だろ。あんたに勝つには、最初の一撃で決めるのが一番簡単だからな」


 俺は応えつつ、ここから先は実際に見たこともないため油断なく構える。


「いいじゃねぇか、嫌いじゃねぇよ」


 相変わらず笑ったまま言って、瓦礫で傷ついた額から血を拭って髪につけ前髪を上げた。続いて右手を、人差し指を立てて挙げる。


「殺せ」


 会長がそう呟くと、会場から怒涛の殺せコールが響き始めた。なんとも物騒なことだが、こっち(・・・)の会長はこれをやると気分が乗るのだとか。


「やっぱこれがねぇとなぁ」


 満足そうに笑いながら、軽くヒールをかけて傷を癒す。……思い切り殴った直撃を、ただのヒールで完治させられちゃあこっちの立場がないな。

 ふざけた魔力の質を面倒に思いながら、これから始まる真っ向勝負に備えて気を高めていく。


「それじゃあ、始めるとしようか!」


 会長は言うと通常の状態で正面から突っ込んできた。それなりの速度だが気もなにも使っていない状態なので、黒気を発動させて素早く背後に移動し、思い切り殴り飛ばしてやる。

 再び壁に突っ込んでいくが、手応えとしては微妙なところだ。


「あー、なるほどな。が食らってこんな感じか。ヒール。ったく、最強の気使いとか評されるだけはあんな」


 会長は納得したように言いながら瓦礫の中から出てきて砂埃を払う。


「気で上回られたのは初めての気分だぜ」

「俺だって気でこんなに並ばれてるのは久し振りだな」


 俺は黒気を纏ったまま、黒気を形成している気の割合を調整していく。……魔気は黒気の総合力を上げるために覚えたが、削って身体能力強化に回した方がいいな。発動直後の黒気は俺の使える全ての気をバランス良く融合させた状態だ。もう少し火力よりに変えていかないとジリ貧になってしまう。


「剣魔狂獣装錬硬闘鬼、っとこんなことか」


 いきなり九つの気の融合をやってのけた。会長は九色のオーラを全身に纏っている。……くそっ、これだから天才は嫌なんだ。この短期間で、しかも自力でここまで到達してのけるとかアホかっての。


「さぁて、こっから本番だぜ、一年」


 会長は自分が負けるなんて一切考えていなさそうな笑みを浮かべて言う。


「ああ。悪いがこの試合、意地でも勝たせてもらう」


 俺は言い返して、拳を構えた。


 ここまで繋いできてくれた皆のたとか、勝ちたい理由はいくらでもある。

 しかしそれ以外にも、俺がこいつに勝つことには大きな意義がある。


 そのためにも、俺があんたに負けるわけにはいかないんだよ。

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