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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
110/163

七壁七技

大変長らくお待たせしました

約一年半振りの投稿になりますかね


近況報告や今後の予定などを活動報告に記載しています

 モクモクと砂煙が上がり、イリエラ先輩の姿を隠している。自然の風によって徐々に払われているため、もうすぐ勝負の行方がわかるだろう。

 誰もが煙の中にいるはずの二人がどうなったのかを注視している。

 アリーナの傾斜がある階段状の観客席にいる者達の中には、身を乗り出して息を呑んでいる者までいた。


「ウインドスライス」


 凛とした声が聞こえた後、風の刃が中心から砂煙を切り裂いた。その直後、二つの槍を携えた少女が後ろ向きに砂煙から飛びだしてきた。アイリアだ。傷だらけではあるが、どうやら無事らしい。

 しかしその表情は険しいモノだった。視線が砂煙の中心を向いている。


 まだ、勝負はついていないようだ。


 砂煙がウインドスライスに切り裂かれると、イリエラ先輩が悠然と佇んでいた。

 あれだけの、疑似神魔槍の力を受けたというのに、イリエラ先輩は傷一つついていない。寸前で展開した五枚の防護壁は、確かに貫いたはずなのだが……。


 そんな俺の疑問に答えるように、イリエラ先輩は長い金髪を払って言う。


「《七壁七技セブンス・アクター》」


 砂がついた眼鏡を外し、フッと息を吹きかけて砂を払ってから、さらに続けた。


「私が昨日編み出した、新たな切り札よ」


 再び眼鏡をかけて、油断なく構えるアイリアを見据える。


「常時展開する七つの障壁と、火、水、雷、地、氷、風、木、七つの属性の攻撃手段を用意したの」


 これでもまだ戦うというのかしら、とイリエラ先輩がアイリアに尋ねた。しかしアイリアは答える必要などないとばかりに槍の柄をギュッと握り、先輩を鋭く見据える。イリエラ先輩ははぁとため息をついて、


「それなら仕方ないわ。全力を以って潰してあげる」


 右手を前に突き出した。そして静かに、七つの攻撃手段の内一つを解放する。


「《天火刀一てんかとういつ》」


 イリエラ先輩の手の前に虹色の魔方陣が描かれ、アイリアの足元に炎色の線が五メートルほど引かれる。アイリアが線の上から素早く退避すると、次の瞬間にはその線から炎の刃が突き出した。刃幅五メートルの刃だ。一撃一撃を避けることは容易いが、炎色の線は回避するアイリアを追うように地面に走り、次々に刃が突き出された。

 軽快なステップで避け続けるが、徐々に彼女も追い詰められていく。それに、一度に一本しか使えないとは限らない。


「っ!」


 そして俺の予想通り、アイリアのいる場所から球状に線が引かれた。十字に重なっている箇所もあり、ステップでは避けられない。

 彼女もそれを悟ったのだろう。神槍をあら方向にぶん投げ、そちらに転移した。しかし槍を目安にイリエラ先輩が炎色の線を設置していて、再び回避を強いられる。


 その後もアイリアはイリエラ先輩の猛攻をかわすだけで精いっぱいのようだった。防戦一方というヤツだ。俺が考えても仕方のないことだが、この状況を覆す一手はないものか。


「……チェイグ」

「……まぁ、手がないことはない、と思う」


 名前を呼んだだけで俺がなにを言いたいか察したらしい。流石チェイグおばあちゃん。博識なだけではなく、察しもいいとは。


「俺にはどうも、アイリアがこのまま押し切られそうにしか見えないんだが」

「まぁ、アイリア様の他に例がないことだからな。普通、武装は両立しない。ここまではいいか?」


 俺が正直に告げると、チェイグは真面目な顔で説明を始めてくれた。

 俺は武器錬装についてさえ知らなかったが、わかったと頷く。


「色々理論づけされてはいるが、要は違う武器が融合することなんてあり得ないってことだ。普通に考えればわかることだが、様々な検証の結果がこれだ。どうしても拒絶反応が出て、上手く武装できなくなる」


 ま、そもそも二つの武器に選ばれる存在っていうのがイレギュラーだけどな。チェイグはそう言って苦笑した。


「けどアイリア様のあれは、二つ共グングニルだ。属性は聖と魔、対となってはいるが元々は一本の槍という伝承が多い。もしかしたらあの二つは、この世で唯一武装の融合ができる武器なのかもしれないんだ」


 俺より二つ年上の彼は、そう締め括る。


「だが、アイリアならその可能性も考えてるかもしれないな」

「そうだな。ただ、もし失敗したらってことを考えるとやる隙がないんだよ」


 俺の言葉に頷くチェイグだったが、防戦一方という現状を打破しない限りその機会は訪れないと言う。

 それには俺も同意見だが、ここがあいつの腕の見せどころというところだな。


「結局、今は見てるしかできないか」

「信じて見守るのも仲間の役目だぞ」


 俺が前傾姿勢になって言うと、アリエス教師から咎められた。……わかってるっての。大体アイリアは優勝するために、俺に繋ごうと頑張ってるんだ。俺が信じないでどうするんだよ。


 俺達が話している間にも、アイリアは必死の形相で戦っている。

 俺達がここでする相談はなにもない。こうして見守るのが俺達にできる最善だろう。


 イリエラ先輩の《天下刀一》は地面だけに設定できるモノではないらしく、空中にも炎色の線を引いていた。そのせいでアイリアは余計に防戦一方となっている。回避に専念しなければ炎の刃に貫かれて試合終了、となってしまう。


「なかなかしぶといわね。《《貪木二金たんぼくじきん》」


 ついに七つの内のもう一つが発動する。

 《天下刀一》をかわしていたアイリアの目の前に金色の木が生えた。慌てて距離を取った彼女の前で、木は十メートルほどまで育つ。そこで成長し切ったようだが、葉がなかった。金色をしているため輝いているというのに、どこか枯れ木を思わせる。その枝の先は丸く膨らんでいて、鋭い牙を生やした口がついていた。膨らんだ部分の大きさは大体三十センチほどだろうか。人の頭が丸呑みできそうな大きさだ。

 木としてはそこそこの大きさだが、平らなフィールド上に生えていると存在感があった。


「神戟槍・閃!」


 アイリアは様子見のためか、神槍を横薙ぎに振るって白い斬撃を放つ。それは木を切り倒すかと思われたが、無数の枝についた口が一斉にそちらを向いた。なにが起こるのかと思えば、口を大きく開いて斬撃に牙を立てる。バキッと噛み砕くとすぐに次の一口に移り、瞬く間に平らげてしまった。


「「「……」」」


 それには会場中の誰もが唖然とするしかない。しかも余程美味かったのか、満足そうにゲップまでしてやがった。

 加えてアイリアの一撃を食べたその木は、一回り程度大きくなる。


 ……魔力を喰らって成長する木か。


 実際に魔物ではいた気がするものの、それを魔法で再現するとなれば話は別だ。どれほどの難易度なのか、考えたくもない。


 アイリアの険しい表情がさらに険しくなる。多少なりとも魔法に精通した彼女だからこそ、どうやったらあんな技が作れるのか見当がついたのだろう。


「魔力を喰らって成長する木、というだけの技だけど」


 イリエラ先輩は察したと思ったのか技の正体を明かし、


「貪欲に設計しすぎて相手の魔力だけ喰らうわけではないのよ。だから、こんなこともできる」


 木の下に赤い魔方陣を描いて特大の火柱を放った。

 普通木なら炎で焼かれるはずだが、魔力なら属性関係なく食べてしまうらしい。火柱の中で枝についた口を忙しなく動かし、魔力を喰らっていく。イリエラ先輩の魔力もたぶん上質だと思うので、喜んで魔法が収まるまで食べていた。

 十一、二メートルくらいだった木が三十メートルほどにまで成長していく。そのせいでアイリアのいる場所まで枝が届く大きさになってしまい、彼女を喰らおうと枝を伸ばしてきた。避け様に槍で枝を切り取るが、イリエラ先輩が放った水の玉を喰らって栄養を補充したのか切れた先から新たな口が生えてきた。

 ……どこが枯れ木だよ。魔力さえあればというか、イリエラ先輩さえいれば永久に再生し続けるじゃねぇか。


 まぁ魔力を与えすぎれば自分も危ないだろうが。その辺りを考えて、自分も現在地からは最も遠い場所に生やしている。


「……神戟槍・操」


 アイリアは神槍を放ると、右手で操作しイリエラ先輩を直接狙った。しかし先輩は飛んでくる槍を避けようともせず、七属性の不可視の壁で槍を防ぐ。続けて防がれた手元に戻し、魔槍を器用に乗せてイリエラ先輩の頭上へ持ってくると、魔槍を落とした。


「痛っ」


 コツン、と頭に落ちてきた槍の柄をまともに受けてしまう先輩だったが、もちろんダメージがあるわけではない。アイリアがなにをしたいのか全くわからなかった。槍はイリエラ先輩のすぐ足下に落ちる。


 しかし、会場の大半が頭に? を浮かべているであろうこの状況下で、当人は不敵に笑っていた。


 イリエラ先輩はズレた眼鏡を指で押し上げつつ、虚仮にされたと思ったのかアイリアを睨みつける。


「神戟槍・転」


 アイリアは不敵な笑みを浮かべたまま、神槍の能力を発動させた。


 すると、イリエラ先輩の姿がその場から消える。おそらく階段式になった観客席の上の方にいる人や、一番高い場所にいる王と理事長達どこにいったのか見えるだろう。俺も遅れて気を追って居場所を突き止めた。


「ああああぁぁぁぁぁぁ!」


 俺がそちらを向くとほぼ同時にイリエラ先輩の悲鳴が上がり、皆が彼女の位置を把握する。

 それらの視線の先には、イリエラ先輩が背後から自らの作った木に噛みつかれている絵があった。俺でも感知できるほどに魔力が減っている。噛み千切られてないのはひとえに防護壁のおかげだろう。ただそれも噛みつきによって弱体化したせいか、肌に牙が刺さっていた。


「グングニル」


 アイリアはそんなイリエラ先輩の向かいに位置取り、イリエラ先輩をそこまで転移させたらしい二つの槍を手元に呼び戻す。

 そのままそっと目を閉じると、集中し魔力を高めていく。

 おそらく、神魔装に挑戦するのだろう。


「っ――! か、解除!」


 彼女の魔力の高まりを感知したらからか、イリエラ先輩が我に返って《貪木二金》を解除した。ただその全身からは止めどなく血が流れていて、肉体派ではない彼女にはかなりの重傷だろう。血もかなり多く流してしまっている。


「なぁ、チェイグ。今アイリアはなにをしたんだ?」


 俺は神槍でイリエラ先輩を転移させたということしかわからず、別段驚いた様子のない解説のチェイグさんに話を聞いてみることにした。


「神槍を使ってイリエラ先輩を転移させた。それはわかってるだろうからいいとして、どうやって神槍を届かせたか、ってことだよな?」


 チェイグの言葉に頷いてみせると、彼はいつものように説明してくれる。


「まずアイリア様は神槍をぶつけて、防護壁が破れないことを確認した。で、その次の魔槍落としは悪ふざけとかじゃなくて、魔槍がイリエラ先輩に当たるかどうかを確かめてたんだ。魔槍の能力は全てを貫くこと。物理的な盾とか、魔力さえもだ。Gクラスの問題児が持ってる剣と違うのは、気が貫けないってことだな。ただあっちはあっちで属性を纏えなかったり気で強化できなかったりするから欠点も多いんだけど」


 チェイグが名前を覚えていないということはないと思うので、意図的に名前を口にしなかったのだろう。やはりあいつに対しては思うところがあるようだ。


「それは兎も角、魔槍が投げ槍じゃないからああやって落として、防護壁を無視できるか試したってわけだ。ここはちょっと自信ないんだが、アイリア様が笑ったのは先輩の注意を落ちた魔槍に向けさせないためじゃないかな。アイリア様は落とした魔槍を神槍で押してイリエラ先輩に触れさせ、魔槍ごと木の前に転移させたってところだと思う。神戟槍・転っていうのは触れてるモノと共に転移する技じゃないかな。魔槍で防護壁を無視しながら魔槍越しにイリエラ先輩に触れた、っていうのがカラクリだな」


 チェイグが状況を説明してくれて、ようやく理解できた。……笑ったのは意図的じゃなくて、純粋にしてやったり、みたいな感じじゃないかと思うんだが、まぁいいや。


 イリエラ先輩はフラフラになりながらも自身に回復魔法をかけ、傷を癒す。流石の輩でも魔力がガクンと下がっていた。かなりの魔力を持っていかれたのだろう。それだけ強力な技だったのか。そして裏を返せば、並みの魔法使いであれば直接齧られただけで魔力切れを起こしてしまうということだ。

 ……天才というのはつくづく、恐ろしい。


「まさか自分の技にやられるなんて、ね!」


 反省を口にしながら、魔力を高めている最中のアイリアへ向けて全方位に魔法陣を展開して七属性の剣を射出する。


「――神魔装・グングニル!!」


 直前で放ったアイリアの呼び声に、彼の槍は応えたのだろうか。

 今度はアイリアが砂煙の中に埋もれていった。

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