一年SSSクラス
俺は合格を神風裂脚の二人に伝え、街で何着か服と下着を買い、合格祝いだと言う豪勢な夕飯を食べ、風呂に入ってのんびりし、すぐに寝た。
翌朝は三時から日課である素振りをこなし、風呂で汗を流してから朝食を取り、六時に支給された制服を着る。
「カッコいいですね」
「似合ってるわよ」
二人が俺の制服姿を見て褒めてくれる。……まあ悪い気はしない。それに、黒だから俺にも似合う筈だ。
「……じゃ、またいつか来るな」
「その時までに料理の腕を上げて、ちゃんと出せるようにします」
「ああ。食べに来るから、頑張れよ」
「はい!」
二人には寮で生活することを伝えてある。今まで世話になったし、少し寂しい気もする。
「また来てね」
二人に見送られ、バッグを背負って神風裂脚を出る。
……さあ、ここからが本番だ。
▼△▼△▼△▼△
「……」
眠い。超眠い。もう寝る。
部屋に行ったらアイリアも“神童”ももう来ていたみたいで、荷物はあったがいなかった。
と言うことで現在絶賛入学式中だが、何やら話が多くて眠い。
理事長やら副理事長やら生徒会長やら。……もうどうでもいい。寝てたい。
「……すー」
どこからか寝息が聞こえてきた。どうやら、俺以外にも俺と同じことを考えていたヤツがいるようだ。……俺も寝よう。
「……」
……あー。もうすぐ寝れる。意識が遠くなって、声が小さくなっていく。
「……」
………………。
「それでは、入学式を終わります」
終わるのかよ! 結局、全然寝れなかったじゃねえかよ! 何で俺は眠気と戦ってたんだ! もっと早くに睡魔に降参していれば、ちゃんと寝れたのに……!
「生徒は各教室へと向かい、担任の指示に従って下さい」
そんな声が聞こえ、生徒は一斉に動き出す。俺はその流れに沿って移動し、SSSクラスの教室を探す。
「……う~ん」
一年のSSSクラスは第一校舎の四階だ。
ライディール魔導騎士学校の校舎は主に四つ。それぞれの三、四階に生徒の暮らす教室が五つずつあり、下は教師の部屋か実験室などとなっている。第一が一年、第二が二年、第三が三年、第四は色々な教室だ。
GからCが三階、BからSSSが四階だ。
「……」
SSSに入る。すると、二つが一緒になった机が三つ、縦に並んでいて、横が九になっている。机の上には名前の書かれたプレートが置いてあり、そこに座るようだ。
一番後ろの窓側から四つが空いている。
かなり広い。机三つと壁と、間には人が二人通れるくらいの広さがあり、前は開けていて、大きな黒板が設置されている。
俺の席は、現時点では一番後ろの真ん中の左側。つまり、前から八番目、左から三番目の位置だ。
俺はそこの席に座る。
隣のヤツはもう座っていて、目を見張る程の美少女だった。肩で切り揃えられた真っ白な髪に綺麗な紅い瞳。顔立ちは幼いがかなり整っていて、しかし無表情だ。肌は白く透き通っていて、耳が尖っていることから亜人だと分かる。かなり小柄で胸の高さに机があるぐらいだ。……その胸はかなり大きい。大人でもこんなに大きい人はいないんじゃないかってくらいに大きい。普通に座っているのに机に当たって形が変形しているくらいだ。栄養が全てその胸に回っているとしか思えない程大きい。
机にあるプレートに書かれているのはフィナの文字。……まさか、こいつが“神童”と呼ばれている最強?
「……えっと、俺はルクス・ヴァールニアって言うんだが、フィナでいいんだよな? 隣の席だな。これからよろしく」
学校では最初の自己紹介とどれくらい周りに声をかけられるかが今後の学校生活を左右する。だから、とりあえず声をかけてみた。
「……」
フィナは少し目を見開いて、驚いていた。
「ん?」
俺の顔に驚いたのか? いや、俺の顔はそんなにおかしくない筈。普通だと思いたい。
「……ん。ルクス、よろしく」
やがて無表情に戻り、口数少なく言った。
「ああ。“神童”って呼ばれてるらしいな。よく分かんなくて悪いんだが、凄いんだろ?」
めげずに話しかける。同室なんだし、もうちょっと話したい。
「……勝手に呼んでるだけ。他と違うだけだから」
少し照れたのか、そっぽを向いて答える。
「そうなのか? じゃあ、俺とそんなに変わらないな」
俺は笑って言う。魔力がないってのは、人類史上初の違いだろうけどな。
「……」
驚いたように、また目を見開いてこっちを見る。
「ん? まあ、誰も同じヤツなんていないし、気にすることじゃないんじゃないか?」
「……ルクス・ヴァールニア。覚えた」
フィナは身を乗り出して俺の名前を見ると、少し表情を緩めて言った。……胸が凄い揺れてヤバい。
しばらくして全員席に着き、見た目は幼いアリエス教師が入ってきた。
「……私が一年SSSクラスの担任をするアリエス・ルーゼリア・ヴィル・ラライファ・ウィーズだ。名前を知っている者も多いだろうが、私は高位貴族出身だ。ウィーズは陛下に貰ったのも知っていると思う。……それと、私のことをチビ、可愛い、ぺったんこ、またはそれらに類する言葉を言った時、罰を与える。例えばーー」
そこで一旦区切り、アリエス教師は右手を教卓の上に置き、中指でトン、と軽く叩く。
「「「っ!?」」」
「こんな風にな」
叩いた瞬間、教卓が粉砕し、粉になった。……気も魔力も使っていない。地力でこれかよ。
「……アリエス教師」
だが俺は挙手し、聞きたいことがあった。
「……何だ?」
俺が挙したので注目が集まる。
「要するにアリエス教師は、背が低くて顔が子供っぽくて胸が小さいことを気にしてるってことだよな?」
「「「っ!?」」」
敬語使ってないプラスアリエス教師を怒らせるようなことを言う。これをした俺に驚いて目を見張るクラスメイト。
「……」
誰もが殺される! と思っていた。
「……新しい教卓を持ってこい。ワンサイズ小さいのをな」
しかし、アリエス教師の口から出た言葉は意外なモノだった。
「顔が隠れるからか?」
「いいから行け!」
怒鳴って魔力と気を放出する。……マジで怒ってるよな。もうしないとこう。次はなさそうだ。
「……」
教室を出る俺を、尊敬と呆れが混ざったような顔で見送るクラスメイト達だった。
▼△▼△▼△▼△
「……」
どうやら俺が戻るまで待ってくれたらしく、雑談していた。
ドゴォ!
「「「……」」」
俺が持ってきた教卓を置くと、腹を殴られて、後ろの壁に叩きつけられた。……見逃してくれたんじゃなかったのか。
「……誰も許すとは言ってないぞ」
アリエス教師は憮然として言った。
「……次は、命がないと思え」
「……うっす」
本気の目で釘を刺され、素直に従おうと思った。
「……では、自己紹介を始める。適当にここからな。名前、種族、得意なことは言え。あとは一言と好きな食べ物とか、その辺は自分で考えろ」
アリエス教師の種族は言わなければならないと言う言葉に一部がざわつく。亜人は能力が高いので上位のクラスに多い。フィナも亜人だし、あまり正体を明かしたくないヤツだっているだろう。
アリエス教師は適当に廊下側の一番右前のヤツを指差した。
そうして、あまり乗り気ではない自己紹介が始まった。