フィナの強さ
どうも、お久し振りです
もう六月も終わりが近づいていますね……
月一更新と言っておいて更新してない作品があと二つ……
ああ、寝る時間ってどこにあるんでしょうか(笑)
まあ「まだ時間あるし、大丈夫だろ」と先送りにしてたせいなんで、自業自得ですが(笑)
という訳で、フィナちゃんが活躍する話です
フィールドに向かうフィナに、一言声をかけてやる。
「勝ってこいよ、フィナ」
「……ん」
俺の声にわざわざ立ち止まり、振り返って頷くフィナ。
相手は生徒会書記、シェリカ先輩だ。羽根ペンで魔方陣を描くこともできる超一流の魔法使い。
対するフィナは、“神童"と呼ばれる天才。魔人という強い種族でありながら、術式という才能ある魔人だけが使える力を持つ。
シェリカ先輩は典型的な魔法使い故に近接が苦手だ。フィナも身体能力が高いが運動音痴で近接が苦手だ。つまりこの勝負、遠距離での撃ち合いになると予想がつく。
実況の紹介もそれを仄めかすモノだったし、俺もそう思った。
「始め!」
レフェリーが試合開始を合図する。その瞬間から、シェリカ先輩が動き始めた。手に持った筆で流麗に、素早く魔方陣を描いていく。
「……ん」
しかし対するフィナは術式を展開することはしない。描かれる魔方陣をチラリと見ただけで動かない。
「? まあいいです。何のつもりかは知りませんが、圧倒するだけですので」
シェリカ先輩は何もしないフィナを不思議に思ったらしい。しかし気に留めず、魔方陣描き続ける。さらには口でも魔法を唱え、自身の周囲に無数の魔方陣を展開する。
フィナそれでも動かない。……いや、あれは――集中してるのか?
「……覚悟して下さい」
シェリカ先輩が魔法を一斉に放つ。術式を使っての回避を予想してか、フィナの足元には魔方陣を展開しなかった。
「……それは、そっち」
フィナは静かに呟く。体勢を低く構え、グッと拳を握る。まるで放たれた魔法に突っ込んでいくかのような構えだ。
「……加速術式」
フィナからシェリカ先輩までに等間隔で連なる術式。
「……んっ」
グッと力を込めて、跳躍した――加速術式に向けて。
「っ……!」
シェリカ先輩は目の前で起こった事柄を、認識できなかった。視認できはしたし、おそらくフィナが何をやったかは分かる。だが、それをやってのけたという現実を拒みたかった。
フィナは、一っ跳びでシェリカ先輩の懐に潜り込んだ。自身の展開した加速術式に向かって跳び、そのまま次の加速術式に。その結果、加速を重ねながら跳躍したことになった。そして、一気にシェリカ先輩まで辿り着いたのだった。
「……爆裂術式」
静かにフィナが呟いた。振りかぶった右拳に幾何学模様の術式が展開される。赤と灰色が混ざったような色の術式だった。
ドガアァン!
フィナの拳に展開された術式がシェリカ先輩の身体に触れる。その瞬間、轟音と共に熱気と視界を焼く光が起こった。本来なら理事長が張った結界に阻まれるハズだった。しかしそれらはベンチにいる俺達まで届いた。それは偏に一撃で、理事長の結界を叩き割ったからに他ならない。
「「「っ……!?」」」
理事長の結界がたった一発の拳で破壊された。それは驚くべきことだったが、一番驚いていたのは結界を張った張本人だろう。
「……」
フィナは静かに佇んでいた。その様はいつもの幼い雰囲が感じられず、魔人に相応しい佇まいだった。……俺は魔人がどういうヤツなのか、知らないんだけどな。最強の種族と言われても納得できる。
フィナの放った一撃は、フィールドを縦に割り、結界を吹き飛ばした。直撃を受けたシェリカ先輩は相手側のベンチまで吹っ飛んでいて、気絶しているらしい。どっちにしろ場外だろう。
「……し、勝者、一年SSSクラス!」
呆然としていたレフェリーが、我に返って勝者を告げる。
フィナは爆発した歓声の中、ゆっくりと味方のベンチに向かって歩を進める。
いつもここらでオチとばかりに転ぶのだが、その気配すらない。
威風堂々と歓声に中を歩むフィナは、俺の知るフィナとは少し違って見えた。
『さすがは私のフィナたん! 圧倒的なポテンシャルを見せつけてくれました!』
誰がお前のだよ、とツッコみたかったが、とりあえずスルーする。今はフィナの勝利を喜ぼう。
「……」
フィナは悠々と俺達がいるベンチまで来てしまった。……「しまった」っていう言い方もおかしい気がするが、実況もおそらくそう思ったんだろう。怪訝そうな顔をしていた。
もしかして、こっちのフィナが本当の姿で、実は運動音痴っていう設定だったのか? そう思う程に堂々とした振る舞いだった。
実は運動音痴ではなく、ただ魔人という畏怖される種族だから、印象を緩和させるための演技なのではないか。そんな懸念を抱くには充分だった。
「……っ」
いつもの幼い雰囲気とは違ったフィナに驚いていると、フィナの身体が前に傾いた。
自分の足に、躓いたのだ。
「……う」
うつ伏せに転んだフィナは、やっぱり手を着くこともなく倒れた。しかし折角カッコ良く決まっていたこともあって、フィナの涙も決壊寸前だった。うるうると瞳を潤ませて、泣きそうな顔をするフィナ。可愛いが、可哀想だ。
「……ルクスっ」
しー……ん、と静まり返った会場の雰囲気に耐え切れなくなったフィナは、起き上がって素早く俺の胸に飛び込んでくる。ぎゅうっと抱き着いてきて、胸元に顔を埋める。
「……よしよし」
そんなフィナを、俺は優しく撫でてやる。
『……やっっっっっっっぱり、フィナたんはフィナたんです! ナイスズッコケ!』
実況がハァハァと息を荒くし鼻を膨らませて言った。……止めろ、フィナに追い打ちをかけるなよ。まったく、困ったもんだ。フィナは頑張ったってのに、よしよし。
「よく頑張ったな、フィナ」
「……ん」
俺ができるだけ優しい声音で囁くと、フィナも小さく頷いた。
背中に突き刺さる視線が痛い。
しかし、何はともあれ一勝二敗。次に繋がった。
「……それじゃあ、行ってくるわ」
フィナの頑張りというか強さを目の当たりにして、やる気満々のアイリアが、ベンチからフィールドに向かって歩いていく。
その手には、神槍と魔槍。アイリアが“双槍の姫騎士"と呼ばれる所以の武器二つ。
つまり、両方の武装を展開できなかったアイリアが、本当の本気を見せる気でいるということだ。
「ああ、行ってこい。俺に繋いでくれ」
俺は、悠然と歩くアイリアの背中に、そう声をかけた。
アイリアはチラッと俺を振り返っただけだったが、その瞳には自信と覚悟が宿っていた。
アンナ先輩との超絶な魔法の撃ち合いを見せているハズだが、そんな瞳をしている。慢心するようなヤツではない。つまり、勝算があるということだ。
実質の一年SSSクラス最強は、頼もしい限りだった。