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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
105/163

ブリューナク

 決勝戦、第二試合目。“氷の女王”リーフィスVS“二色拳聖”こと生徒会会計のニエナ先輩。


 氷を操るリーフィスと波動と爆撃を得意とするニエナ先輩の組み合わせだが、相性はややニエナ先輩に軍配が上がると思う。ただ遠距離攻撃出来る拳ってだけじゃなく、ニエナ先輩の拳はほぼタイムラグなしに相手へ当たる程の速度を持ってるからな。それにどうやって対応するかが肝となるかもしれない。


 ……そう考えると爆撃の方は全て対処し切ったリンカナ先輩はやっぱり凄いと思う。


 さっきもそうだが実際に戦うとなってみて分かる先輩の強さ。……ただ、それでも勝てなかっただけで。


「始め!」


『さあ始まりました決勝第二試合! 第一試合は――まあ最後は変な感じになっちゃいましたけど、まさかの黒鬼で形勢逆転! まあ反則負けになっちゃいましたが、それでも見事な試合を見せてくれました! さあ次はどんな戦いが見られるのでしょうか!』


 レフェリーの合図と同時、実況が言った。俺はオリガをジト目で睨むが、何故か俺が全員からジト目で睨まれていた。……俺?


「……ルクス、あっちの人に謝ってた」


 隣に座るフィナが理由を説明してくるが、何でそれが変な感じになるのか。だって反則負けになる程のことをしたオリガがいけない訳で、エリアーナ先輩に悪いとこがある訳じゃない。悪いことをした、謝る。これ世界の常識だぞ?


「……戦いの中で起きたことに対して、何かを敵側に謝るのはあり得ないからな。普通はしない」


「……だってこれ、ただの試合だぞ? だから開始の合図があって、命が保障される。それを危ぶませたんだから謝るのは当然だろ。明らかに倒せてたんだから」


 アリエス教師の物言いに、俺は何だと呆れて告げる。さすがにそう言われると反論出来ないアリエス教師だった。


「……さっさと終わらせて、勝たせてもらうぜ。はぁ!」


 ニエナ先輩は言って、拳を振るう。その直後、リーフィスのいる近くで爆発が起こった。だが、リーフィスに直撃した訳じゃない。こっちからだとよく見えるが、リーフィスはニエナ先輩の拳、その直線上に氷の盾を展開して防いだのだった。


「……へぇ? まさか初見であたしの拳を見切るとはな。けどよ、これならどうだ!」


 ニエナ先輩は面白いという風に笑い、連続で拳を振るう。見えない爆撃がリーフィスに向かっていくが、リーフィスはそれらの全てを連続で展開した氷の盾で防いだ。


「……ったく。マジかよ。魔方陣もなく氷をそんだけ形成出来るってことは、てめえ――何か飼ってやがんな?」


 ニエナ先輩は言って、スッと目を細める。リーフィスはその言葉にも無反応に、右手を上げて氷の刃を無数に出現させると、ニエナ先輩を指差して腕を伸ばし、氷の刃を発射する。


「……チッ。ガン無視かよ。おら、ニルヴァーナ!」


 ニエナ先輩はそれらを跳躍して避け、右足の前に三つの魔方陣を展開すると空中で回し蹴りをするように蹴りを繰り出し、高密度エネルギーを持つ波動を放った。


「……甘いわよ」


 リーフィスは冷たく告げて、分厚い氷の殻を出現させ、波動を受け切る。


「……それは、どうだろうな!」


 だがニエナ先輩はニヤリと笑って告げ、ニルヴァーナでの波動を両脚に三つの魔方陣を展開し、旋回するように連続で蹴りを放って波動を無数にリーフィスへ向けて放った。


「……だから、甘いって言ってるでしょ」


 だがそれすらも、リーフィスは分厚い氷の塊を自分の前に出現させて、防いでしまう。


「……おらぁ!」


 着地を決めて、一発の蹴りと同時に波動を放つ。それは今までのモノより二回り以上小さかったが、魔力切れなどではなく凝縮しただけ。


「……っ」


 リーフィスは少し顔を顰めながら、しかし分厚い氷塊を出現させて相殺する。


「……ニルヴァーナ!」


 ニエナ先輩はリーフィスが対処出来ないと踏んだ速度で、魔力を増強させフィジカルバーストを唱えて身体能力を強化し、高速の連打を拳と脚を織り交ぜて放つ。極限まで圧縮した爆撃と波動はリーフィスを滅茶苦茶に襲い、次第に氷で防げなくなってくる。


「……くっ!」


 一つの爆撃が氷の壁を通り抜けてリーフィスの左腕を掠め、爆発してダメージを与える。たった一発だが、一発当たってしまったことにより、集中力が僅かにでも乱され、氷の防壁を越えてリーフィスに直撃する爆撃の数が多くなっていき、


「……あぁ!」


 凝縮された波動を受けて吹っ飛んでしまう。


「……リーフィス!」


 俺は思わず叫んでリーフィスを呼ぶ。打たれ弱いリーフィスに、あの攻撃はヤバいと思ったからだ。


「……大丈夫、よ」


 リーフィスは応えるように立ち上がり、フラフラながらもしっかりとニエナ先輩を見据えていた。


「……今のでも立てるか。聞いてたよりは頑丈みたいだな」


「……ただの意地よ。それよりいつまで寝てるのかしらね、主のピンチだっていうのに呑気なモノだわ」


 ニエナ先輩の苦笑に肩を竦めて答え、何かに向かって呟いた。


「……」


 リーフィスはチラリと俺を見て、何事かと思って首を傾げる前に視線を逸らした。


「……まあいいわ。起きないなら叩き起こすまでよ。私が呼んでるんだから顕現しなさい、ブリューナク」


 リーフィスは言って、右手を前に突き出し召喚を行う。


「「「……っ!?」」」


 リーフィスが告げたその名に、俺達は心当たりがあった。


 吹き荒れる吹雪。その影響がニエナ先輩にも向き、冷たい雪が舞う。


 リーフィスの後ろが一番吹雪の荒れた位置で、魔方陣が展開されて一層吹雪が強くなり、そいつが出現する。


 全身がクリスタルのような透き通った氷で構築された、ドラゴン。しかもその名前が正しければモンスターの最強種であるドラゴンの、さらに上位に君臨する神獣。


 その鱗はクリスタルのように硬く、住み着いた山は即座に雪山と化し、吐く息は吹雪となって人を襲う。世界にも数体しかいないと言われ数があまりいない神獣の一種にして唯一のドラゴン。


 氷を司る最強のモンスターにして神狼と呼ばれる最強の狼モンスター、フェンリルと並び称されるそいつ。


 瞳だけが赤く強大すぎる力を持ったその存在は、ブリューナク。


 縦に展開された水色の魔方陣から上半身だけを顕現させた最強のドラゴンの影響で、結界が悲鳴を上げて軋み、フィールドが一面凍り付いた。


 そして何故か、リーフィスの瞳も透き通った水色から赤に変わっていた。

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