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禁気の刃使い  作者: 星長晶人
第三章
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力の渇望

オリガ回です


よく言われますし自覚もありますが、クラスのヒロインとのエピソードが少ないです

ちょこちょこ入ってくると思います多分

「……へへっ。さすがに先輩は普通に戦っても強えな」


 血を流し、痣を作ってそれでも笑うオリガ。


「……それはどうも。でもそろそろ降参した方がいいわよ? もう立ってるだけで精一杯でしょうし」


「……そう言うなよ。あたしだって、やっと身体が温まってきたところだ」


 汗を流し、しかしまだ無傷のエリアーナ先輩の忠告を拒むオリガ。……明らかな虚勢に、エリアーナ先輩はため息をついた。


「……ならしょうがないわね。――ラフェイン式舞踊・第弐番、水舞踊。これで決めてあげるわ」


 エリアーナ先輩は舞いながら、炎に加えて水を操る。


「……まあでも、一応伸びてくるヤツは見切れたから後は、炎とか水だけなんだけどな」


 オリガはそう言って、駆け出す。前へ、ではなく、左へ。


「……? どっちに行っても同じよ」


 エリアーナ先輩は怪訝に思いつつもオリガに告げて、裾を伸ばし攻撃を仕掛ける。エリアーナ先輩はフィールドの中央を陣取っているため、どこまで伸ばせるかは兎も角当てられない範囲なんてなかった。だが充分身体が温まって調子のいいオリガは、エリアーナ先輩の振るってきた裾を難なく回避した。エリアーナ先輩は驚きつつも攻撃の手を休めないが、オリガには当たらない。


「……回転か」


 俺は何故急にオリガがかわせるようになったか思い当たり、呟く。


「……なるほどな。つまりどっちかでも回転すれば、片方から来る裾が追いつかなくなり、突き出すような裾も精度が落ちる。向かってくる裾もタイミングを合わせて突き出す裾も、時々緩急をつけたりすれば回避出来るって訳か」


 チェイグが俺の理解を広めてくれる。……便利アイテムみたいだった。自動翻訳機的な感じの。


 まさにチェイグが言った通りのことを、ただこうしてみたらこうだった、という風にそこまで深い考えじゃなくても実行している。回避し続けられるエリアーナ先輩に焦りが募るのは、回転しながらオリガは徐々に近付いているため。短気なオリガにしては珍しい作戦だった。


「……ラフェイン式舞踊・第参番、風舞踊! ラフェイン式舞踊・第肆番、地舞踊! ラフェイン式舞踊・第伍番、木舞踊!」


 まさかの白鬼を使ったエンアラ先輩よりも多くの舞踊を発動させるエリアーナ先輩。……それはいくら焦ったとしてもやりすぎじゃ……。


 と俺が若干引いてると、オリガは六属性の攻撃を使って吹き飛び、裾による追撃を受けて壁にめり込んだ。


「……はぁ……はぁ」


 エリアーナ先輩はさすがに疲れたのか舞を止めて肩で息をする。そんな姿も妙に色っぽかったりするんだが、それは兎も角。


「……さすがに、ヤベえな」


 瓦礫を押し退けて出てきたオリガだったが、フラフラのヨロヨロだった。おそらくボロボロになった身体に鞭打って駆けまわってたんだから、そりゃ身体に限界が来てもおかしくはない。


「……なら、もう降参したらどう?」


「……でも先輩だって体力と魔力が切れそうで疲れてるんだろ? あたしはまだやれるから降参しねえけど、先輩こそ降参したらどうだ?」


「……残念だけど、別に体力と魔力が切れそうだから舞を中止した訳じゃないのよ?」


 互いに挑発し合って笑うオリガとエリアーナ先輩。……二人共限界が近いってのに、負けず嫌いなんだろうか。


「……じゃあもっとヤろうぜ!」


「……漆番まで見せてあげるわ!」


 十分後、炎、水、風、地、木、氷、雷の七属性を周囲に展開したエリアーナ先輩が舞い、オリガがズタボロで地に伏しているという状況になっていた。


「……だ、大丈夫か?」


 さすがにレフェリーがオリガ本人に確認する。


「……当たり前だろうが。止めんなよ」


 ギロリ、と頭から血を流すオリガに睨まれて、レフェリーはおずおずと引き下がった。


「……もう降参しなさい。これ以上は命の保証が出来ないわ」


「……なあ、先輩。あんたは弱かったことがあるか?」


 エリアーナ先輩のキツい忠告を無視し、オリガはゆっくりと立ち上がりながらそんなことを聞いた。


「? あるわよ、弱かった時ぐらい。私だって最初から強かった訳じゃないもの」


「……じゃあ分かんねえか? あたしが自分のこと、結構不甲斐ないって思ってることがよ。あたしは“怪力兵姫”なんて呼ばれてるし、オーガの突然変異だから力も強い。けどスロースターターだから準決勝ん時みてえに先手を打たれたら負けちまう」


「……」


「……だからあたしは強くなりてえんだよ。それこそ黒気なんてのが使えるルクスと同等に殴り合えるくらいにな」


 ……何故そこで俺?


「……ルクスはあたしまでとは言わねえが、戦闘狂だからな。本気で殴り合えるヤツがいると、嬉しそうに笑うんだよ。あたしもその気持ちは分かる。あたしだって今までは本気で殴り合って生きてるヤツなんざいなかったしな」


 ……まさかオリガに共感されてるとは……。


「……ってか俺ってそんなに嬉しそうにしてるのか?」


 ちょっと不安になってきた。……ベンチにいるヤツはフィナでさえも気まずそうに視線を逸らすばかりだったが。


「……だからあたしは強くなりてえんだよ。今回クラスの足を引っ張っちまったってのは大きいが、本気で殴り合えないヤツがいるのはもっと嫌だ。あたしがそうだからだ。実技ん時にルクスと殴り合って、気を使ってたらあたしがすぐ負けてたことが分かった。でもな、本気で殴り合えるヤツは手加減なんてなしにヤりたいもんなんだよ。まああたしがそう思ってるだけだから、ルクスにはセフィア先輩っていう好敵手が出来た訳だしよ」


 オリガはそう締め括り、


「……だからあたしは、もっともっともっと! 強くなりてえ!」


 心の底からの願望を叫ぶ。


「……その気持ち、分からないでもないわ。私だって力になりたい人との実力が隔絶されすぎてて、自分が嫌になる時があるもの」


 エリアーナ先輩は意外にも、同意して唇を噛み締めた。……それってつまり、会長のことなのか?


「……悪いけど、あたしの方が何倍もずっと、強くなりてえ! こうして先輩に負けてる訳だからな! あたしはもっと強くなる! 絶対だ!」


 宣言のような、オリガの一言。眩しいくらいに真っ直ぐな理由と思い。……復讐に身を置く俺とは違って、強くなりたい理由が綺麗だった。


 すると突然、オリガの全身から黒い奔流のようなオーラを噴き出した。


「「「……っ!?」」」


 それには、見覚えがあった。


 鬼人族の奥義であり、準決勝でエンアラ先輩が見せた身体能力を超絶的に上昇させるだけの、力。


 色鬼だ。

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