合格と入学準備
「「……」」
クラスごとに分けられた合格者が書かれた紙が正面の門から入って真っ直ぐのボードに貼られ、何故か一部が赤で書かれている。
「……あったわ。SSSクラスよ」
赤で書かれたアイリア・ヴェースタン・ディ・ライノア。それはSSSの欄に書かれていた。
「おっ? 俺もSSSだな」
SSSをざっと見ると、ルクス・ヴァールニアと赤で、一番下に書かれていた。
「赤って何の意味があるんだ?」
少し気になってアイリアに聞いてみる。
「……おそらく、冒険者筆頭と騎士団長のどちらかを倒した人よ。……Gに一人いる他、全員がSSSだし」
アイリアの言う通り、Gクラスの一人を除けば、他六人がSSSだ。それに、俺とアイリアが赤なのもその可能性が高い。
「……俺とアイリアの他に四人もか。どんなヤツか楽しみだな」
「……ええ、そうね。二人は知ってるけど、他二人が気になるわ」
アイリアは有名人らしいから、他の有名人も知っているんだろう。俺はアイリアのことさえ知らなかったけどな。
「……ま、結果も分かったし、帰るか」
「……はぁ。SSSクラスの合格者はアリエス教師の所へ制服を貰うためと寮の部屋割りを聞くために行くのよ」
アイリアが呆れて言った。……そうなのか。知らなかった。
ーーと言う訳で、学校内の職員室に着ていた。
「サイズは?」
座っているとさらに小さいアリエス教師が言った。
「LLだな」
少し大きいかもしれないが、まあそれくらいだろう。
「ん。アイリアはこれだな」
俺には段ボールに入っていたビニールで包装された黒のズボンと上とシャツが渡されるが、アイリアには事前に注文されていたらしい名前の書かれた紙が貼ってあるモノが渡される。
「……女子は全員事前にサイズ注文したのよ。その中で合格者だけを作っているの」
俺の顔がそう言ってたのか、アイリアが答える。
「……ああ、スリーサイズもあるしな」
人前だと見栄を張って後悔しそうだ。
「そう言うこと。アリエス教師、私の部屋はどこですか?」
アイリアは頷くとアリエス教師に向き直って聞く。
「……C棟の777号室だな。三人部屋だが、構わないな?」
ラッキーセブンかよ。いいな、それ。
「はい」
アイリアは頷いてアリエス教師から差し出されたルームキーを受け取る。
「俺はどこなんだ?」
「ん? さっき言っただろう?」
聞くと、怪訝な顔で言われた。
「いや、言われてねえけど」
「……いい加減敬語使え」
アリエス教師は今更になって言う。……敬語? ナニソレ美味しいの?
「……まあ気にせず」
俺は敬語は使わない。例え相手が王であろうとも。
「……はぁ。お前はC棟の777号室だ」
ん?
「「……はあ?」」
俺とアイリアはハモって聞き返した。
「だから、お前達は同じ部屋だと言ったんだ」
アリエス教師は俺にもルームキーを渡す。
「アリエス教師! 何で同室が男子なんですか! 男子と同じ部屋だなんて、獣と同じ檻にいるようなものです!」
まず、アイリアが食って掛かる。……酷い例えだが、否定出来ないのは合っているからなんだろうか。
「……大丈夫だ。こいつはヘタレだからそんな度胸はないし、もう一人が押さえてくれる筈だ」
誰がヘタレだ。
「……俺は別にヘタレじゃない。時と場所と相手を選ぶだけだ」
「……その言い方だと、私相手だと不満みたいね。名誉棄損で訴えるわよ」
誰にだよ。別に名誉棄損でも怒られるだけだからな。
「……別に。まあアイリアを気にしなきゃどうってことはない」
「それに、寮の部屋割りはもう決まっていて、お前達が最後だ。変更は出来ん」
アリエス教師がさらに追撃する。
「……ですが……」
アイリアはまだ不満そうだ。
「そのもう一人ってのは誰なんだ?」
「“神童”と呼ばれている、フィナだ」
……そういや、赤字で書かれていたな。名字がないってことは平民だろう。それで新入生最強って、大出世だよな。
「……お前が妙な真似をしようとしたら、一瞬で消し飛ばせる程の実力はあるぞ」
……確かに、俺は妙な気を起こす気がなくなった。まだ死ぬ訳にはいかない。
「……相手の許可がない限り、妙な真似はしないと誓おう」
俺はキリッと真剣な表情で真っ直ぐアイリアを見つめて言った。
「……まあ、そこまで言うならいいわ」
数秒の間があって、アイリアは諦めて受け入れた。……これで寮の部屋割りはいいな。
「入学式までは寮が使えないからな。タンスなどは設置してあるが、服は各自、入学式当日に運べ。入学式前に運ぶこと。あと、それまではこちらで用意した宿でもいいが、一旦家に帰ってもいい。入学式は明日の七時からだ。遅れるなよ」
アリエス教師は何故か俺を見て言う。……別に俺は寝坊の常習犯じゃないから。寧ろ早いくらいだから。
「寮生活での規則ってあるのか?」
俺は寮生活でも早朝の素振りが出来るかどうかが知りたい。
「……そうだな。午後十時までには各部屋に戻ること。朝は三時から出ていい」
「何時に学校に行けばいいんだ?」
「七時半だ」
……ふむ。隠れて鍛練するなら三時間ぐらいか。まあいいか。
「これを」
アリエス教師は何かの鉱石で出来た龍を象るバッチを渡してくる。
「……これ、オリハルコンですか?」
アイリアが呆然と聞く。
「ああ。オリハルコンの龍。それがSSSクラスのバッチだ。なくしたら自腹だからな」
……オリハルコンって世界最高峰の鉱石じゃなかった? そんなもんをバッチに加工する値段を払えって言われたら堪ったもんじゃねえ。絶対なくさねえぞ。
「……じゃあ、俺は行くな」
アイリアに言って、とりあえず神風裂脚に向かう。
合格の報告と、まだ今日一泊はすることを伝えないと。あと、服も少し買わないとな。最低限の二着しか持ってきてないし。
俺は今後の予定をざっと決めて、のんびりと歩いた。