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第一話 標的は総理大臣 その6

 警備員を荷電粒子砲で打ち倒しながら、始さんはどんどんと進んでいきます。

 実は彼は射撃の名手で、その実力は折り紙つきです。当たった人間は即、空飛ぶスパゲッティモンスター教に目覚め、奇怪な姿をした、あの生命体に絶対の信仰を誓っていきました。


 突然の侵入者に、官僚や機動隊の方々は慌てふためいています。中には銃を向けるものも居ましたが、その視線を即座に察知した始さんに気づかれ、どんどんスパ教信者になっていきます。


 また、粒子砲の当たった壁や天井は崩落し、障害物が無くなったため、周囲にいる人間は、余計狙われやすくなってしまいました。


 二人で突き進んでいくと、床に倒れていた男性を発見しました。すかさず、始さんは駆け寄って、彼を詰問しました。 

 

「ねえ、総理大臣は何処さ?」

 

 訊かれた官邸職員は怯えながら答えます。


「ご、最上階……五階の執務室だとお思います……」


「ご苦労」


 用は済んだ、とばかりに彼は撃たれ、また信仰者が一人増えました。


「カルラ! 執務室は最上階らしい。急ごう!」


 階段を駆け上がり、遂に最上階へたどり着きました。


「執務室は何処でしょうか?」


「面倒だからまた全部ぶっ壊すよ。最上階だから遠慮なく吹き飛ばせるね」


 始さんの手に光が集まっていきます。


 ちゅどーん、と爆音が鳴り響いた後、官邸の天井には大きな穴が開き、綺麗な青空が見えました。


 上を向いていた頭を下げ、周りを見回すと、周囲の壁は全て吹き飛び、閣僚たちが大声を上げて逃げていきます。


「白神総理~、どこにいるんですかぁ~」


 大声で叫びながら数十メートル先を見ると、黒服のSPに囲まれた、聡明そうな女性が厳しい顔をして立っていました。


「総理、こちらへ!」


「遅い!」


 周りにいた黒服を即座に撃ち倒し、邪悪な笑みを浮かべながら、始さんは彼らへと近づいていきます。


「信者の皆さん、創造主を讃える場所は官邸前で行われているそうですよ」


「FSM万歳!!」


 SPは両手を上げて咆えながら階下へ下っていきました。



 

 黒服や閣僚、職員たちが去った今、この場に残るのはただ一人……。



「ようやく会えましたね。日本国内閣総理大臣、白神亜梨沙閣下」


 灰色のスーツに身を包み、長く茶色い髪をたなびかせた若い女性がそこに立っていました。






「これは……全て君達が行ったことか?」


 自分を守る者が誰も居ないにも関わらず、その鋭い眼光はしっかりと、わたし達を見据えています。


「そうです。僕と彼女が全てやったことです」


 やはりそうなのか、と呟いて、わたしの方を見ました。


「私も色々と常識の外れた連中に会ってきたが、"範疇外(カテゴライズエラー)"に出会うのは初めてだ」


 何やら聞き慣れぬ単語を口にしました。


「"範疇外"?」


「この星の住人ではない存在――我々は、それを宇宙人と呼んでいる」


 そんな! こんな簡単にバレるなんて!!


「ど、どうしてそれを!?」


「なに、他の知り合いとは纏う雰囲気が違うのでね」


 その言葉を聞いた始さんは、怪訝な顔をして尋ねます。


「他の知り合い? 一体何の話です?」


 白神総理は不敵な笑みを携えて言いました。







「君達の知らない秘密が、世界にはまだまだ存在するということさ」









 総理大臣官邸から道を隔てた場所に存在する建造物、内閣府庁舎。その中には、内閣の補助組織である内閣府。そして、全ての中央省庁より上位に位置する行政機関、内閣官房が置かれている。


「一刻を争うとは言え、こんなに早くに出撃して大丈夫なのか?」

 

 内閣官房の中に存在する極秘のセクション。その組織が保有している庁舎の地下で、機械をいじりながら男が尋ねる。


「ええ。到着に時間が掛かり、申し訳ありません」


 中学生ぐらいの一人の少年が頭を下げる。眼光は鋭く、とても年相応には見えない。男は、自分達を従えている人物の頂点である、あの女性総理の目つきを思い出した。年齢など関係ない。彼らはそれだけの

経験を潜り抜けてきたということだ。


「遅れたって……。宮内庁の庁舎からここまで十分も掛かってないぞ……」


 少年は地下鉄も、車両も、ましてやヘリコプターも使っていない。脚力だけを使って道という道を走り、永田町の周囲にあるビル郡の屋上から屋上へと飛び越えてここまで来たのだ。もはや人間技では無い。

 いや、彼は人間では無い。何故なら、彼はこの年で政府の極秘組織に身を置く、生粋の戦闘員なのだから。


「硬度プロテクター着用完了。マテリアルスーツ、感度良好。装備、全てオールクリア!!」


「行けるか? つるぎ?」


 官邸からの避難に成功していた官房長官が問いかける。


「問題ありません。これより、迎撃態勢に移ります」


 少年は腰に日本刀を携えながら言った。


「よし。総理を任せた」


「了解。那岐(なぎ)剣、出撃します」



 



「!?」


「どうしたんだ、カルラ?」 


 異様な気配を察知しました。何か、とても強い、力の塊のようなものを……。


「来たか」


 腕を組みながら、白神総理は目を瞑って執務室の机に寄りかかっています。


 なんとも言えない感覚に気持ち悪さを覚えながら、手近にあった窓に近づきました。


「ひっ!?」


 道路の向こう側から、日本刀を持った、中学生ぐらいの少年が全力疾走で官邸(こちら)の方へと向かってきました!


「な、何だ!?」


 わたし達が驚いたのもつかの間。少年は跳躍し、真下の三階の窓に容易く侵入し、窓から出していたわたし達の顔を見上げます。



「そこか」



 ほんの十数秒も経たぬ内に、少年剣士は、破壊された執務室の扉の前に立っていました。


「お前達が国賊だな」


 日本刀を向けて、こちらに問いかけます。



「何者だっ!?」


 粒子砲を構え、始さんが問いかけます。


 白神総理は扉の前へと歩いていき、


「紹介しよう。彼は日本政府が持つ最後の切り札。君達のような超常識的存在に対抗するために創設された、内閣官房の極秘外局にあたる戦闘組織、"護国機関"のエース。宮内庁より出向して来た最強の剣士であり……」


 



 言葉を溜めて、


 





「記録には残らなかった最強の剣神の末裔――魔人だ」











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